茶谷公之氏の『プレイステーションの舞台裏: 元CTOが語る創造の16年』の書評

書籍:プレイステーションの舞台裏: 元CTOが語る創造の16年
著者:茶谷公之
出版社:オフィスちゃたにパブリッシング
ASIN ‏ : ‎ B0D4957KYL
プレイステーションの舞台裏: 元CTOが語る創造の16年の書評

『プレイステーションの舞台裏』の書評:元CTOの茶谷公之氏が明かす、大企業から世界的事業を創る軌跡とイノベーションの真髄

1994年12月に日本で発売されたプレイステーションは、2024年に30周年を迎えました。世界中のゲームファンから熱烈な支持を受け、発売後わずか7年で売り上げ1兆円を超え、2019年にはギネス記録となる5億台を達成した初の据え置き型ゲーム機となりました。日本の産業史に燦然と輝くこの大成功の裏側には、どのような戦略と意思決定、そして苦悩があったのでしょうか。

以前、本ブログで茶谷公之氏の書籍『創造する人の時代』を取り上げたことがありました。その後、エグゼクティブ・コーチの新堀進氏の出版イベントで偶然お会いする機会に恵まれ、最近になってFacebookの投稿をきっかけにランチをご一緒しました。その際、光栄なことに本書『プレイステーションの舞台裏:元CTOが語る創造の16年』をご恵贈いただき、さらに私の顧問先のサポートも引き受けていただくことになりました。

書評という一つの発信からリアルな出会いが生まれ、ビジネスが実際に動き出すダイナミズムを、私自身深く実感しています。今回は、そんなご縁からいただいた本書の魅力を紹介したいと思います。

著者の茶谷公之氏は、初代プレイステーションの事業立ち上げに加わり、のちにSCE(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)のCTOを務めました。その後は楽天のAI担当執行役員、KPMG Ignition Tokyo CEO、そしてマッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを歴任するなど、テクノロジーと経営の双方を高い次元で熟知する稀有な人物です。

本書は、茶谷氏がプレイステーション事業で過ごした16年、5767日の軌跡を振り返る回顧録であると同時に、巨大なプラットフォーム事業がいかに「創造」され、変化に適応してきたかを記した極めて実践的な経営書です。

初代PSから北米展開、PS2、PSX、PSP、CELLプロセッサ、PS3、そしてPlayStation Networkまでを章立てで追う構成であり、完成された成功の「結果」ではなく、そこに至る血の通った「試行錯誤」を扱っている点に圧倒的な価値があります。

昨今、多くの企業が「イノベーションのジレンマからの脱却」や「DXの推進」に苦心しています。ゼロからイチを生み出し、それをグローバル規模のプラットフォームへ成長させ、世代交代の波を乗り越えるプロセスは決して平坦ではありません。

本書の魅力は、プレイステーションを単なる高性能ゲーム機として描かないことにあります。技術、UI(ユーザーインターフェース)、ネットワーク、ソフトウェア開発環境、海外市場、そして組織の世代交代――これらが複雑に絡み合い、統合されて初めて一つのエコシステムが成立するという視座が全編を貫いています。 AIの台頭やテクノロジーの進化により、ビジネス環境はかつてないスピードで変化しています。

既存の強みにしがみつく企業はたちまち淘汰される時代です。構想を市場で機能する事業へと変えるための条件とは何か。過去の成功体験をどのように「守り、破り、離れる」べきか。ゲーム好きだけでなく、新規事業、プロダクト開発、組織づくりに携わるすべてのビジネスパーソンにとって、本書は判断の質を上げ、構造で考えるための羅針盤となるはずです。

この記事でわかること

・プレイステーションが世界的成功を収め、持続できた組織的・技術的な真の要因
・過去の成功体験(レガシー)から脱却するための「守破離」のビジネスへの応用プロセス
・技術を目的とせず、顧客体験(UX)と利用文脈を再定義するプロダクト開発の視座
・クラウドゲーミング時代を見据えたPS4の先見性と、AMD採用に至る緻密な経営判断
・「道楽を産みだすにはもっとみんな遊ぼう」という、イノベーションを生む根源的な組織文化

30秒でわかる本書のポイント

【結論】
・プレイステーションの持続的な成功は、単なるスペック競争ではなく、技術、UI、ネットワーク、組織の統合による「体験の再定義」の賜物である。
・創業世代の成功モデルに固執せず、組織全体で危機感を共有し、自らの手でアーキテクチャを刷新し続ける勇気が不可欠である。
【原因】
・PS3の時代、巨大なOSアップデートによる待ち時間が発生し、ユーザーの貴重な時間を奪うという顧客体験の致命的な毀損が起きていた。
・2006年度には2323億円もの営業損失を計上し、独自のCellプロセッサへの莫大な投資と既存の開発アプローチが限界を迎えつつあった。
【対策】
・「守破離」の概念を経営陣で共有し、PS4では本体がスリープ状態でもダウンロード可能なアーキテクチャへ進化させ、UXの摩擦を解消した。
・後方互換性を失うリスクを負ってでもPC向けのAMD製プロセッサを採用し、次世代(PS5)へと続く連続進化型プラットフォームの基盤を築き上げた。

本書の要約

本書は、元ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のCTOである茶谷公之氏が、初代プレイステーションからPS4の基本構想に至る16年間の軌跡を振り返った実録です。1994年の発売以来、圧倒的な成功を収めた事業ですが、その裏には創業世代からのバトンタッチの重圧や、PS3時代の巨額の営業損失など、数々の困難がありました。

著者は経営陣と「守破離」の精神を共有し、PS4の開発においては、ユーザーの待ち時間をなくすためのバックグラウンドダウンロード機能の実現や、将来のクラウドゲーミングを見据えたアーキテクチャの刷新を断行します。社内の反対や後方互換性の喪失というリスクを背負いながらもAMD製プロセッサを採用し、プラットフォームを新たな次元へと進化させたプロセスが克明に描かれています。

単なるハードウェア開発史ではなく、技術的野心と事業上の制約が衝突する局面をどう乗り越えたかを示す経営戦略書です。

こんな人におすすめ

・大企業内で新規事業の立ち上げや、社内ベンチャーに携わっているプロジェクトリーダー
・過去の成功体験やレガシーシステムからの脱却に課題を感じている経営者・マネージャー
・顧客体験(UX)を向上させるためのプロダクト開発やUI設計に関わるエンジニア・デザイナー
・自社プロダクトの枠を超え、新たな利用文脈や社会価値(パーパス)を模索している事業責任者
・未来の技術トレンド(AI、クラウド、5G)を見据えた事業ポートフォリオを構想したい戦略担当者

本書から得られるメリット

・偉大な成功を収めた事業の「次」をどう創るか、バトンタッチのフェーズにおけるリアルな葛藤と解決策を学べる
・顧客の不満(フリクション)を、いかにしてハードウェアの根本的な設計変更へ繋げるか、その突破力を習得できる
・技術をスペックとしてではなく「体験と市場を変える手段」として捉える思考法が身につく
・リスク(互換性の喪失やパートナー企業の株価低迷)を許容し、大局的な視点で技術選定を行う経営判断の極意を知ることができる
・エンターテインメント事業における「遊び」の重要性と、それを支える組織文化のあり方を理解できる

プラットフォーム創造の真実:単なるゲーム機開発を超えた16年の軌跡

僕は、幸運にして初代プレイステーションの事業立ち上げに加わる事ができた。そして、その後プレイステーション4の基本システム構想に至る各世代のプレイステーションの構想・開発・導入・運営に関わった。その経験をした数少ない一人として、この偉業の一部を残しておこうと思い、僕が関わったプレイステーションの立ち上げ期から始まる16年の物語を皆さんと共有したい。(茶谷公之)

本書の最大の魅力は、プレイステーションという巨大ビジネスを、単なる「高性能なゲーム機を作った物語」として描いていない点にあります。

タイトルの「創造」とは、ある日突然ひらめいた天才的な発明を意味しません。本書『プレイステーションの舞台裏: 元CTOが語る創造の16年』で著者の茶谷公之氏が私たちに提示しているのは、壮大な構想を持ち、未完成な技術と変わりゆく市場に向き合い、多くの社内外の人材を巻き込み、数々の失敗や難産を経ながら形にしていく「長期戦としての創造」のプロセスです。

初代PS、北米展開、PS2、HDDを搭載したPSX、携帯機であるPSP、莫大な投資が行われたCELLプロセッサ、そしてPS3からPlayStation Networkの構築へ。これらの歴史を章立てで追う中で見えてくるのは、プラットフォームとは「ハードウェアのスペック」だけで成立するものではないという事実です。

技術、洗練されたUI、それを支えるネットワーク基盤、世界中のクリエイターを引き付けるソフトウェア開発環境、各国の文化に合わせた海外市場戦略、そして創業世代からのバトンタッチという組織の世代交代。これらすべての要素が高度に統合されて初めて、グローバルなプラットフォームは機能します。

特に現代は、生成AIやクラウド技術がビジネスの前提を根底から覆す時代です。一社単独の技術力だけでは生き残れません。エコシステム全体を俯瞰し、複雑な要素を束ねていく統合力こそが求められます。

読後に残るのは、華やかなエンタメの裏話ではなく、私たちが日々の実務において「構想をいかにして市場で機能する事業へと変えていくか」という、生々しくも実践的な条件なのです。思い込みに騙されず、システム全体を構造で考える思考法が、本書には詰まっています。

PlayStationの進化を支えたのは、技術を性能で終わらせず、ユーザー体験へ翻訳する発想でした。 著者の茶谷氏は、手書き文字認識、ユーザーインターフェース(UI)、コンピューターグラフィックスの研究からキャリアをスタートさせました。私は、この幅広い技術的なバックグラウンドが、PlayStationを単なるハードウェア性能の競争にとどめなかった大きな要因だと考えています。

茶谷氏が重視したのは、技術そのものの高度化だけではありません。ユーザーがどのように機器に触れ、コンテンツを体験し、楽しむのかという視点です。

技術を人間の体験から捉えていたからこそ、PlayStationは一台のゲーム機から、新しいエンターテインメント体験を継続的に生み出すプラットフォームへと進化できたのでしょう。 初代PlayStationから、PlayStation 2、PlayStation Portable(PSP)、PlayStation 3、PlayStation 4、PlayStation 5へと続く歴史は、処理性能の向上だけを追求したものではありません。新しい光ディスク規格の採用によってコンテンツ容量を拡大し、ゲームの映像や音楽、物語の表現力を高めてきました。

それは、「エンターテインメントプラットフォームとは何か」を繰り返し問い直し、利用される文脈を広げてきた歴史でもあります。

その姿勢は、個々の製品や機能にも表れています。録画機能とゲームを融合したPSXは、商業的な成果だけで評価すべき製品ではありません。PSXで採用された直感的なユーザーインターフェース「クロスメディアバー(XMB)」は、その後のPlayStation製品にも受け継がれました。

また、PSPはゲームを家庭のテレビから解放し、音楽や映像も楽しめる携帯型メディアとして新たな利用場面を生み出しました。

さらに、ネットワークサービスの拡充によって、PlayStationはソフトを購入して遊ぶ機器から、ユーザーやコンテンツが継続的につながるサービスへと変化していきます。 こうした製品や機能が本書の目次に並んでいることからも、開発陣が常に「どれほど高性能か」だけではなく、「ユーザーにどのような体験を提供できるか」を起点に発想していたことが分かります。 テクノロジーは、顧客の生活や行動を変え、新しい市場を生み出して初めて事業価値を持ちます。

この原則は、現代のAIビジネスにもそのまま当てはまります。 どれほど高性能なLLM(大規模言語モデル)を開発・導入しても、ユーザーの業務フローに自然に組み込まれず、使いやすいUIを通じて提供されなければ、現場には定着しません。技術的な精度の高さと、顧客が実感する価値は同じではないのです。 AIビジネスで問われるのは、「何ができるか」だけでなく、「誰のどの課題を、どのような体験によって解決するか」です。

技術を起点に機能を増やすのではなく、顧客の行動や感情を起点に、必要な機能と使い方を設計する必要があります。 技術至上主義に陥らず、高度なテクノロジーをユーザーにとって意味のある体験へと翻訳する。この能力こそ、PlayStationの歴史から学ぶべき重要な教訓であり、AI時代のプロダクトマネージャーに求められる必須要件です。

プレイステーションの舞台裏: 元CTOが語る創造の16年の書評

プラットフォームは完成しない:変化し続ける仕組みと「守破離」の哲学

僕は、当時のソニー・コンピュータエンタテインメントがまさしく「守破離」の教えの「守(keep)」のフェーズから移行して・「破(break)」のフェーズに来ていると感じていた.。そして、「離」(apart)へと向かうべきタイミングにあったと感いていた。

茶谷氏は、PlayStationが家庭用ゲーム機の枠を超えて成長できた背景に、海外企業との激しい競争と、従来の開発手法や成功モデルを絶えず見直す姿勢があったと指摘します。初代PlayStationの成功をそのまま踏襲するのではなく、市場環境や技術の変化に合わせて、製品の役割や開発体制を更新し続けたのです。 この変革を支えたのが、本書で紹介されている「守破離」の哲学です。

まず基本を学び、先人の教えを受け継ぐ「守」。次に、既存の常識や成功体験を疑い、従来の型を打ち破る「破」。そして、自ら新しい型を生み出し、次のステージへ進む「離」です。 その重要性が鮮明になったのが、PS3発売後の経営危機でした。

2006年度、PS3の発売に伴う費用増などにより、SCEを含むゲーム事業は2323億円の営業損失を計上します。創業メンバーの久夛良木健氏から経営を引き継いだ平井一夫氏率いる新体制は、強烈な危機感のもとで「守破離」の考え方を共有し、事業の再構築に取り組みました。

重要なのは、過去の成功を否定することではありません。その本質を守りながら、時代に合わなくなった前提や方法を捨てることです。

初期の強みを守るだけでは、プラットフォームは次第に競争力を失います。自社が築いた成功モデルを自ら見直し、顧客に新しい利用体験を提供できるかどうかが、企業の持続的な成長を左右します。 この教訓は、現代のSaaS、モビリティ、スマート家電など、あらゆるプラットフォーム型ビジネスに通じます。

過去の成功に固執せず、組織全体で変革の必要性を共有し、自社の事業や組織を再構築する。どれほど巨大な企業であっても、このダイナミズムを失えば、既存事業の成功が次の革新を妨げる「イノベーションのジレンマ」に陥るのです。

本書の中で、私が最も感銘を受けたのは、PS4における「ネットワークサービスフレンドリー」な設計と、そこに至るまでの凄絶な意思決定のプロセスです。

茶谷氏はPS4の構想を練る際、PS3での「反省」を強く意識していました。PS3では、OSやゲームのアップデートに長時間のダウンロードが必要でした。仕事から疲れて帰宅し、ゲームで遊ぼうと電源を入れたユーザーが、延々と続くダウンロード画面を見つめるうちに眠ってしまう。次に起動した時には、インストール作業から始めなければならない。これは、エンターテインメントにとって致命的な顧客体験(UX)の毀損です。

この痛みを解消するため、著者は「ゲームシステム部分がスリープ状態になっていても、ネットワークからコンテンツダウンロードが実行できる」というアーキテクチャへの進化を決断します。ハードウェアの根本的な改良が必要なため社内からの反対もありましたが、三浦和夫氏や伊藤雅康氏らの協力を得て推し進めました。

真のイノベーションとは、派手な新機能の追加ではなく、「ユーザーのフリクション(摩擦)を取り除くための泥臭い構造改革」に宿るのです。 さらに驚くべきは、その先の未来を見据えた技術選定です。

著者は、将来的にゲームをクラウドサーバー上で稼働させる「クラウドゲーミング」の時代が来ると予測していました。しかし、通信には物理的な遅延(レイテンシ)が存在します。将来5Gや6Gが普及し、エッジコンピューティングが実現した際にその遅延を最小限に抑えるため、PS4ではPCで一般的なX86アーキテクチャの採用が必須だと考えました。

その結果、PS3で莫大な投資を行ったCellプロセッサを捨て、米国AMD社の1チップソリューションへの移行を決断します。これはPS3の資産に対する「後方互換性」を失うという、事業上極めて重い決断でした。しかも当時のAMDの株価は数ドルという危機的状況。それでも、「AMDが消滅すればインテルの独占となり経済界が許容しない。必ず救済される」という大局観に基づく読みで最終決定を下したのです。

既存のサンクコストを切り捨て、不連続な進化を受け入れたこの決断があったからこそ、プレイステーションはPS5という「連続進化型」への移行を可能にしました。判断の質を極限まで高めた経営者の凄みに触れる思いがします。

プラットフォームの可能性を広げるためには、「自社の製品を本来のカテゴリーに閉じ込めない」という視点が不可欠です。本書では、ゲーム以外の価値を見据えた「ノンゲーム」領域へのアプローチが紹介されています。

その代表例が、PS3専用地上デジタルレコーダーキット「torne(トルネ)」です。torneは、一般的な家電レコーダーの鈍重な操作性とは一線を画し、ゲームで培われた高速で滑らかなUIとコントローラー操作を組み合わせることで、全く新しい録画視聴体験を提供しました。

もしプレイステーションを「ゲーム専用機」と定義していれば、torneの発想は生まれません。しかし、ユーザーのリビングにおける画面との接点、高い処理能力、そして手元のコントローラー操作という「資産」を再定義したことで、新たな市場が開拓されたのです。 さらに視野を広げると、PS事業はエンターテインメントの枠すら超えて社会貢献に接続されていきます。

スタンフォード大学が行っていた、タンパク質の折りたたみ現象をシミュレーションして難病研究を支援する分散コンピューティングプロジェクト「Folding@home」への参加です。世界中のPS3ユーザーのCellプロセッサの余剰計算能力を結集し、スーパーコンピューターをも凌駕する処理能力を提供しました。

自社の持つ巨大な計算資源や顧客基盤を、単なる収益追求だけでなく、社会的な価値(パーパス)に接続する。このエコシステムの発想は、Web3やESG経営が叫ばれる現代において、プラットフォーマーが持つべき高次な視座を示しています。

著者は2010年2月末をもってSCEを離れ、ソニー本社の技術戦略部門長へと異動します。その際、日本青年館に集まった全社員に向けて、著者は「この16年で、小学校1年生だった自分が中学、高校を経て大学を卒業し、社会人1年生になる感じだ」と挨拶しました。

30歳で未経験のゲーム事業に飛び込み、無我夢中で駆け抜けた5767日は、まさに青春そのものだったのでしょう。 この集会で、元取締役会長の丸山茂雄氏が残した退任の言葉が印象的です。

ソニー・コンピュータエンタテインメントという社名は、文字通り、コンピュータを使った道楽を創る会社だ。道楽を産みだすにはもっとみんな遊ぼう。(丸山茂雄)

効率化、最適化、KPIの達成。現代のビジネスは常に数値で管理され、息苦しさを増しています。しかし、本当に世界を熱狂させるようなイノベーションや、人の心を動かすプロダクトは、緻密な計算だけからは生まれません。そこには、作り手自身の「遊び心」や、未知の技術に対する純粋な好奇心が不可欠です。アマチュアゲーム開発者コミュニティの運営など、通常の担当者がいない領域にあえて飛び込んでいった著者の姿勢も、この「遊び」の精神の発露と言えます。

AIが論理的で効率的な作業を代替していくこれからの時代において、人間にしか生み出せない価値は、まさにこの「道楽」や「遊び」の領域に集約されていくはずです。大企業という枠組みの中で、いかにしてこの遊び心を組織文化として維持し、仕組み化していくか。本書は、その難題に対する一つの確かなアンサーを提示してくれています。

コンサルタント 徳本昌大のView

書評ブログで発信を続け、イベントで直接言葉を交わし、Facebookのご縁からランチへ。そして本書をご恵贈いただき、顧問先としての新たなビジネスの扉が開く——。この一連の流れを経験し、私は「発信し続けること」と「人との縁を大切にすること」がもたらすセレンディピティの威力を痛感しています。

日々多くの経営者と対話を重ねるコンサルタントの視点から見ても、茶谷氏が本書で明かした数々の意思決定は、驚くほど現代的であり、本質的です。PS3の莫大なサンクコスト(Cellプロセッサ)を断ち切り、AMDとクラウドゲーミングという未来のインフラへ舵を切った決断。ユーザーの「ダウンロード待ちで寝てしまう」という小さな不満を、ハードウェアの基本設計レベルから変革して解決した執念。

これらは、現在の企業が取り組むべきDX戦略における究極のベストプラクティスです。 優れた戦略は、現場の泥臭い体験への共感から生まれ、既存の成功を否定するトップの勇気によって実行されます。「守破離」という学びと破壊のプロセスは、企業組織だけでなく、私たち個人のキャリアデザインやリスキリング(学び直し)においても最強の武器となります。

また、丸山氏の「道楽を産みだすにはもっとみんな遊ぼう」という言葉は、私たち自身の働き方への痛烈な問いかけです。私自身、毎日の読書やブログ執筆、多様なコミュニティでの交流を一つの「大人の遊び」として楽しんでいますが、そこからこそ新たなビジネスの種が芽吹きます。

過去の栄光を懐かしむ歴史書としてではなく、明日からの実務における「判断の質を上げる」ための実践書として、ぜひ多くのビジネスパーソンに読んでいただきたい一冊です。

FAQ

Q1: ゲーム業界とは無縁のIT企業や製造業に勤めていますが、実務の役に立ちますか?

A1: はい、極めて役立ちます。本書の核は「既存の成功モデル(独自プロセッサ等)からの脱却」「顧客体験(UX)を最優先したシステム設計」「将来のインフラ(クラウド/通信)を見越した大局的な技術選定」にあります。これらは業界を問わず、新規事業開発やDX推進を担うリーダーに共通する普遍的なビジネス課題であり、その解決プロセスは大きな学びとなります。

Q2: プレイステーションの歴史から、AI時代のビジネスに活かせる教訓はありますか?

A2: 大きく2つあります。1つ目は「技術は目的ではなく体験の手段である」こと。AIという技術自体ではなく、それをどうユーザーのワークフロー(利用文脈)に組み込むかが重要です。2つ目は「自らを破壊する勇気」です。変化の激しいAI時代においては、PS4で互換性を捨ててアーキテクチャを刷新したように、自社の強みをアンラーン(学習棄却)し、再構築するスピードが企業の生死を分けます。

Q3: 著者の茶谷公之氏は、ソニー退社後どのようなキャリアを歩まれていますか?

A3: 本書にもある通り、ソニー本社の技術戦略部門長を務めた後、楽天のAI担当執行役員としてデータとAIの活用を牽引されました。その後はKPMG Ignition TokyoのCEO、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーなど、最先端のテクノロジーとグローバル経営の交差点で活躍し続ける真のイノベーターであり、実務家です。

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本書は茶谷公之氏からご恵贈いただきました。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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