ビジネススキルとしての「マーケ脳」のつくりかた 相手のニーズを的確に読み取り、数字に基づく「最適な解」を導く仕事術 (理央周)の書評

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書籍:ビジネススキルとしての「マーケ脳」のつくりかた 相手のニーズを的確に読み取り、数字に基づく「最適な解」を導く仕事術
著者:理央周
出版社:翔泳社
ビジネススキルとしての「マーケ脳」のつくりかた 相手のニーズを的確に読み取り、数字に基づく「最適な解」を導く仕事術の書影

 【書評】『ビジネススキルとしてのマーケ脳のつくりかた』AI時代に人を動かす「点・線・面」の企画術と実行力

仕事でどれほど努力を重ね、徹夜で精緻なデータ分析や見栄えの良い資料を作り上げても、なぜか相手の反応が鈍く、企画が前に進まない。あるいは、リーダーとして素晴らしい戦略を描いたはずなのに、現場が反発して実行に移されない。そんなもどかしい経験をしたことはないでしょうか。

「この商品はこれほど高機能です」「この施策は極めて合理的で、コスト削減に直結します」——こうした説明は、論理的には決して間違っていません。

しかし、多くの場合、こちらが語る内容の「主語」が自分や自社のままになっていることに、問題の根本があります。 理央周氏の著書『ビジネススキルとしてのマーケ脳のつくりかた』(翔泳社)は、マーケティングを「一部の専門職がモノを売るための知識」から解放し、あらゆるビジネスパーソンが身につけるべき「相手を自然に動かすための汎用的な仕事術」として再定義した一冊です。

特に生成AIの進化によって、情報を収集し、整理し、一般的な企画書を作る「作業」のコモディティ化が急速に進む現代において、「正しい情報」を提示するだけの価値は暴落しつつあります。

これからの時代に問われるのは、相手の文脈を深く理解し、相手自身も気づいていない課題を「問い」によって引き出し、現場が迷わず動ける「面(実行)」へと落とし込む泥臭い思考力です。

さらには、個人のスキルにとどまらず、チーム全体の「心の戦闘服」を脱がせ、結果ではなく関係性からアプローチする「成功循環モデル」を回すリーダーシップが求められます。

本記事では、これまでに解説した「構造化」や「ロジカル・ラテラルの融合」の基本に加え、本書のさらなる核心である「SPIN話法による真のニーズの引き出し方」、戦略を絵に描いた餅で終わらせない「点・線・面の実行プロセス」、そしてMITのダニエル・キム教授が提唱する「成功循環モデル」を用いた組織変革の極意を徹底的に紐解きます。

私たちの仕事や人生の質をいかに高めてくれるのか、すべての要素を統合し、圧倒的な解像度でその全貌に迫りましょう。

この記事でわかること

・AI時代において「作業」と「思考」の価値がどう変わるのか 相手の真の欲求を引き出す
・「SPIN営業術」の4つの質問プロセス
・複雑な課題をカオスから秩序に変える「構造化」と「ロジカル3点セット」 戦略(線)を現場の実行(面)へと落とし込む「点・線・面」の設計
・ゴールデンサークルに「So What(想定結果)」を加えて組織の反発を乗り越える手法 心理的安全性の真の目的「心の戦闘服を脱ぐ」とは何か
・ダニエル・キム教授の「成功循環モデル」による学習する組織の作り方

30秒でわかる本書のポイント

【結論】
・ビジネスのあらゆる場面で成果を出すには、相手の心に火をつけ、行動を促す「マーケ脳」が必須である。
・戦略を立てるだけでなく、現場が動ける「面(実行基盤)」を作り上げることがマーケティングの最終地点である。
・組織を変革するには「結果」を追い求めるプレッシャーを捨て、「関係性の質」から始める成功循環を回す必要がある。
【原因】
・企画が通らない最大の理由は、自分が「伝えたいこと」に終始し、相手の「知りたいこと」にフォーカスしていないからである。
・組織が機能しないのは、いきなり「結果の質」を求め、メンバーの思考と行動を停止させる「悪循環」に陥っているからである。
【対策】
・SPIN話法(状況・問題・示唆・解決)を用いて、顧客自身に「このままではまずい」と気づかせる。
・施策を提案する際は、Why→How→What→So Whatの順で語り、組織を味方につける。
・チーム内で「対話」を重ね、心理的安全性を高めることで「関係性→思考→行動→結果」のグッドサイクルを構築する。
・主語を「相手」に転換し、SPIN話法で心の奥底の課題を引き出す

本書の要約

「マーケ脳」とは、相手の立場からニーズを読み取り、数字で仮説を検証し、相手が動きたくなる価値や企画へ組み替える思考法です。出発点は、話の主語を自分から相手へ移すことにあります。

本書は、ロジカルシンキングとラテラルシンキング、顧客理解、戦略、企画、チームづくりを流れとして整理します。SPIN話法で潜在的な課題を引き出し、「事実・根拠・証拠」で構造化したうえで、インサイトという「点」を戦略の「線」につなぎ、現場で動く「面」へ具体化します。

成果を急いで求めず、関係性、思考、行動、結果の順に組織の好循環を生み出す重要性も示します。AIによって調査や資料作成が効率化されるほど、人間に求められるのは、何を問い、誰の課題を優先し、どう伝えれば行動につながるかを判断する力です。

マーケティングを販売促進ではなく、あらゆる仕事に必要な「相手を理解し、意思決定と実行を促す仕事術」として捉え直せる一冊です。

この記事からわかること

・「マーケ脳」がマーケター以外にも必要な理由 SPIN話法で潜在ニーズを引き出す方法
・直感を「事実・根拠・証拠」で検証する方法
・企画を「点・線・面」で実行可能な形にする方法
・成功循環モデルで組織を動かす考え方
・生成AI時代に人間が磨くべき判断力

こんな人におすすめ

・論理的に説明しても企画が通らない人
・顧客の本音や潜在ニーズを引き出せない営業担当者
・データを具体的な施策に結びつけたいマーケター
・戦略を描いても現場が動かないことに悩む経営者
・部門間の対立や心理的安全性に課題を感じるリーダー
・生成AI時代に価値が残るビジネススキルを身につけたい人

相手起点の思考を、企画と組織の実行力に変える

「お客様」を「相手」に置き換えれば、あなたの仕事に直結する。(理央周)

仕事で成果が出ないとき、多くの人は説明の量を増やそうとします。商品の機能を詳しく伝え、精緻なデータを示し、企画書の完成度を高める。それでも相手が動かなければ、さらに情報を追加します。

しかし、問題は情報不足ではないかもしれません。企画する側が「伝えたいこと」と、相手が「知りたいこと」が食い違っている可能性があります。主語が自分や自社のままでは、論理的に正しい提案であっても、相手にとっては自分と関係のない話に聞こえてしまうのです。

理央周氏が本書で示す「マーケ脳」とは、この断絶を埋める思考回路です。相手の立場からニーズを読み取り、相手を中心に問いを立て、数字で仮説を検証する。そのうえで、相手が自然に動きたくなる価値や企画へと組み替えていきます。

マーケティングという言葉から、広告、販促、ブランディング、市場調査などを連想する人は多いでしょう。しかし、本書が扱う範囲はそれよりも広く、すべての仕事に応用できます。

人事にとっての相手は従業員や採用候補者です。経理であれば、数字を提出する現場や、投資判断を行う経営陣が相手になります。開発部門にとっては利用者だけでなく、営業やカスタマーサポートも重要な相手です。 誰かの理解、協力、意思決定、行動を必要とする仕事には、相手起点の発想が欠かせません。マーケ脳は、マーケターだけが使う販売技術ではなく、職種を問わず必要になる仕事の基本姿勢なのです。 本書は、人を意図どおりに操る小手先のテクニックを説いているわけではありません。

相手を動かそうとする前に、その人が置かれている状況や心理を、どこまで解像度高く理解できているかを問うています。

成果を生む思考法のマーケ脳は、主に次の5つの力によって構成されます。
・数字や事実を整理し、仮説を検証するロジカルシンキング
・既存の前提を疑い、新しい選択肢を生み出すラテラルシンキング
・相手の不安、期待、未充足の欲求を捉える顧客理解
・ゴールから逆算して打ち手を組み立てる戦略デザイン
・アイデアを人の心が動く形にする企画力

ロジカルシンキングは重要ですが、それだけでは人を動かせません。市場分析、競合比較、収益試算を揃えても、会議で意思決定が進まないことがあります。人は合理性だけで判断するのではなく、「失敗したくない」「現場の負担が増えるのではないか」「この人に任せてよいのか」といった感情や関係性も含めて意思を決めるからです。

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マーケ脳を鍛えるフレームワーク

質問力とはテクニックではなく、顧客理解への姿勢そのものです。

精緻な資料によって「納得」はつくれても、相手が行動を起こさなければ意味がありません論理と行動の間にある心理的な障壁を見落とすと、正しい施策ほど現場で空回りします。 そこで必要になるのが、相手の本音を引き出す問い=質問力です。

著者はニール・ラッカムのSPIN話法という質問プロセスのフレームワークを紹介しています。
・S(Situation/状況質問):現状と客観的な事実を整理する
・P(Problem/問題質問):困り事や不満を言葉にしてもらう
・I(Implication/示唆質問):放置した場合の影響を認識してもらう
・N(Need-payoff/解決質問):解決後の望ましい未来を想像してもらう

たとえば、最初に「今、どのような状況ですか」と確認し、次に「その状況で困っていることはありますか」と尋ねます。さらに「その問題を放置すると、どのような影響がありますか」と掘り下げ、最後に「解決したら、どのような良いことがありますか」と問いかけます。

重要なのは、いきなり解決策を提示しないことです。顧客が問題の重大さを十分に理解していない段階で、自社の商品やサービスを提案しても、自分事として受け止めてもらえません。

SとPで状況と問題を整理し、Iによって問題の影響を考えてもらう。この過程を経ることで、顧客は自ら課題の優先順位を認識します。相手を説得するのではなく、問いによって本人の気づきを促すことが、マーケ脳の重要な働きです。 潜在的な課題を引き出したら、次に必要になるのが情報の構造化です。

本書では、直感や印象を再現可能な判断へ変えるために、「事実・根拠・証拠」を揃えることを重視しています。 ・事実:客観的に確認できる現状
・根拠:その事実が生じている理由
・証拠:根拠を裏づける具体的なデータ

「来月は売上目標を達成できないかもしれない」という話だけでは、単なる不安にすぎません。「Web経由の問い合わせが月平均12件減少している」という根拠と、「直近の受注件数が50件、48件、44件と減少している」という証拠を加えることで、問題の構造が見えてきます。

ここまで整理できれば、「気合いで売る」ではなく、「Webからのリード獲得経路を改善する」という具体的な打ち手を検討できます。 分析では、「情報収集→比較→発見→気づき→行動」という流れを回します。数字を集めるだけで終わらせず、比較から変化を見つけ、その意味を考え、次の行動につなげることが重要です。 ただし、課題を発見して戦略を描いただけでは成果は生まれません。

本書は、企画を具現化するプロセスを「点・線・面」で説明しています。 「点」は、表面的な現象の奥にあるインサイトです。相手が本当に困っていることや、本人も言葉にできていない真因を発見します。

「線」は、その点を戦略や物語としてつなぐ段階です。なぜ取り組むのか、誰にどのような価値を届けるのか、どの手段で実現するのかを一貫した道筋として描きます。

「面」は、戦略を現場で実行できる状態へ落とし込む段階です。人、モノ、金、時間、場所といった条件まで具体化し、組織全体が迷わず動ける足場をつくります。

多くの企画が失敗するのは、「線」で止まってしまうからです。戦略は整っていても、担当者、予算、期限、業務フロー、想定外への対応が決まっていなければ、現場は動けません。

企画を成功させるには、注文が殺到した場合の対応、初期費用の抑え方、問い合わせへの回答方法など、細部まで想像する必要があります。

マーケ脳の真価は、美しい構想を描くことよりも、その構想を現実の行動へ変える「面」をつくる段階で問われます。 そして、面を実行する主体は組織です。個人が優れた企画を考えても、部門間に不信感があり、失敗を恐れて発言できない状態では、実行力は高まりません。

ビジネススキルとしての「マーケ脳」のつくりかた 相手のニーズを的確に読み取り、数字に基づく「最適な解」を導く仕事術の書影

マーケ脳のある組織になるために求められること

全員がマーケ脳を持てば、成果は掛け算で増えていく。

マーケ脳は、個人の思考スキルだけでは十分に機能しません。顧客から得た違和感やデータをチームで共有し、異なる視点から検討し、具体的な行動へ変える組織の土台が必要です。その土台となるのが、心理的安全性です。

ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授は、心理的安全性を、質問、提案、懸念の表明、失敗の報告といった「対人関係上のリスク」を取っても、拒絶されたり処罰されたりしないと信じられる状態として示しています。

心理的安全性は、互いに遠慮し、厳しい意見を避ける「居心地の良い職場」を意味するものではありません。反対意見や耳の痛い事実を率直に伝え、前提の誤りを指摘し合える状態です。

マーケ脳のある組織では、次のような発言が歓迎されます。 「顧客の反応が、当初の仮説と一致していません」 「その数字だけでは、判断する根拠が不足しています」 「この企画は合理的ですが、現場が動かない可能性があります」 「顧客が求めている価値を、取り違えているかもしれません」 「小さく実験し、失敗から学び直してはどうでしょうか」 これらの言葉を否定や批判として受け取るのではなく、仮説の精度を高めるための情報として扱うことが重要です。発言した人の立場ではなく、提示された事実や論点に向き合う文化が、マーケ脳を組織の能力へ変えていきます。

ただし、心理的安全性が高いだけでは、成果につながるとは限りません。率直に話せても、判断基準が曖昧で、行動に責任を持たない組織では、議論が増えるだけで実行は進まないからです。 心理的安全性は、目標への責任と組み合わせる必要があります。高い目標を共有しながら、疑問、反対意見、失敗を安心して表明できる状態をつくる。この両立によって、率直な対話が学習と成果につながります。

ピーター・センゲが提唱した「学習する組織」とは、変化に適応するために、メンバーが対話を重ね、固定観念や思い込みを見直しながら、共通のビジョンに向けて学び続ける組織です。 個人が知識を増やすだけではなく、チームで互いの視点を持ち寄り、組織全体の思考と行動を更新していくことが重視されます。

センゲは、その実現に必要な要素として、次の5つを示しています。
・自己マスタリー:一人ひとりが自らの能力と志を高め続ける
・メンタルモデル:無意識の思い込みや固定観念を問い直す
・共有ビジョン:組織が目指す未来をメンバー間で共有する
・チーム学習:対話を通じて個人の知識を組織の知恵に変える
・システム思考:個別の問題ではなく、相互関係や構造から全体を捉える

マーケ脳のある組織にとって、特に重要なのがメンタルモデル、チーム学習、システム思考です。 顧客について「価格を下げれば売れる」「若者はこの商品を好む」といった前提を無意識に共有していると、都合のよいデータだけを集めるようになります。そこで、問いと対話によって思い込みを可視化し、顧客の声や行動データと照合する必要があります。

本書が重視するのも、メンバーが不毛な対立に陥ることなく、違和感や未完成のアイデアを率直に出し合える状態です。異論を避けるのではなく、より良い結論を得るために安心して意見を交わす。その対話を通じて個人の思い込みを問い直し、新たな気づきを組織の知恵へ変えていく関係性が、学習する組織の土台となります。

心理的安全性があれば、顧客から得た小さな違和感を共有できます。学習する組織の仕組みがあれば、その違和感を複数の視点から検討できます。そしてマーケ脳があれば、得られた気づきを、顧客が動きたくなる企画や価値へ変換できます。

この3つは、次のようにつながります。 心理的安全性によって、本音や異論が表に出る 対話によって、思い込みや前提が問い直される 顧客理解とデータによって、仮説が検証される 学習によって、思考と行動が更新される 実行によって、顧客価値と成果が生まれる その循環を成果へ結びつけるうえで参考になるのが、ダニエル・キムの成功循環モデルです。

組織が成果を出せないとき、多くのリーダーは「売上を上げろ」「目標を達成しろ」と、目に見える結果から働きかけます。しかし、結果への圧力だけを強めると、人間関係が悪化し、メンバーは失敗や問題を隠すようになります。 情報が共有されなければ思考の質が低下し、挑戦的な行動も減少します。その結果、さらに成果が悪化し、管理と圧力が強まるという悪循環に陥ります。

成功循環モデルでは、結果を直接追いかけるのではなく、関係性から組織を変えていきます。
・関係性の質が高まり、信頼と対話が生まれる
・思考の質が高まり、新しい発見や学びが生まれる
・行動の質が高まり、主体的な挑戦が増える
・結果の質が高まり、さらに信頼が深まる

関係性の改善とは、単に仲良くすることではありません。互いの役割や視点を理解し、目的のために率直な意見を交わせる関係をつくることです。 この循環を回すためには、指示や命令よりも対話が重要になります。「何かおかしい」と感じた人が率直に発言でき、失敗を責任追及の材料ではなく、仮説を修正するためのデータとして扱う。こうした文化があれば、組織は変化から継続的に学べます。

生成AIは、情報収集、要約、比較、資料作成、数値整理を大幅に効率化します。しかし、AIが出した情報のうち何を重視するかは、人間が判断しなければなりません。 「誰の、どの課題を優先するのか」「何を問い、どの数字で確かめるのか」「分析結果をどのように伝えれば、意思決定と行動につながるのか」。こうした問いには、あらゆる状況に共通する唯一の正解はありません。

だからこそ、AI時代にはマーケ脳の価値が高まります。AIに調査や整理を任せ、人間は相手の文脈を理解し、適切な問いを立て、現場で実行できる企画へ変換する。その過程で生じる異論や失敗を、心理的安全性のある対話を通じて組織の学習へ変えていくのです。

マーケ脳のある組織とは、全員がマーケティングの専門家である組織ではありません。顧客を主語にして考え、事実と数字で仮説を検証し、立場を越えて率直に対話し、得られた学びを行動へ移せる組織です。 本書はマーケ脳を、個人が企画を通すための技術にとどめていません。顧客理解を起点に、人と組織の意思決定を変え、戦略を実行へつなげる共通言語として提示しています。ここに、AI時代に本書を読む大きな価値があります。

コンサルタント 徳本昌大のView 

広告会社でマーケティングの基本を学び、独立後はこのマーケ脳を活用し、ベンチャー企業の経営支援やブランド戦略、新規事業開発に携わってきました。さまざまな経営者や事業責任者と議論を重ねるなかで実感しているのは、論理的に正しい戦略を描くだけでは、人も組織も動かないということです。

マーケ脳とは、数字や事実を整理し、仮説を立てて検証するロジカルシンキングだけではありません。既存の前提を疑って新しい選択肢を生み出すラテラルシンキング、顧客の不安や期待、満たされていない欲求を捉える理解力、ゴールから逆算して打ち手を組み立てる戦略設計、そして人の心を動かす企画力を統合した思考力です。

経営会議や新規事業の現場では、精緻なデータ、市場分析、競合比較、収益計画がそろっていても、意思決定が進まないことがあります。人は合理性だけで判断するわけではないからです。「失敗したくない」「現場の負担が増えるのではないか」「自分の立場はどうなるのか」「この人に任せても大丈夫か」といった感情や関係性も、決断を大きく左右します。

特にスタートアップでは、成長を焦るあまり、経営者が最初から結果だけを求めてしまいがちです。しかし、強いプレッシャーをかけるほど、メンバーは失敗や小さな違和感を報告しなくなります。率直な意見が出ない会議では、思考の質が下がり、行動も受け身になってしまいます。

だからこそ、成果を求める前に信頼関係を築くことが重要です。安心して意見を交わせる関係が多様な視点を引き出し、思考の質を高めます。そこから主体的な行動が生まれ、最終的な成果へとつながります。

関係性の質 → 思考の質 → 行動の質 → 結果の質

生成AIによって情報収集や分析、資料作成が効率化するほど、人間には別の価値が求められます。それは、顧客の言葉になっていない欲求を捉え、組織内の心理的な障壁を取り除き、人が動きたくなる戦略へ変換する力です。 マーケ脳は、単なるマーケティングの専門技能ではありません。

論理と感情、戦略と実行をつなぎ、周囲を巻き込みながら変化を生み出すための力です。マーケターに限らず、経営者や事業責任者、組織変革に関わるすべてのビジネスパーソンに必要な思考の基盤だと考えています。

FAQ

Q1: マーケの脳をチームで育てるために必要なことは?

A1: 「自分を優秀に見せようとする」「失敗を隠そうとする」「他者の意見を論破しようとする」といった自己防衛の姿勢を捨てることです。役職に関係なく「私はここが分からない」「この仮説は間違っていたかもしれない」と素直に開示し、互いの知恵をフラットにぶつけ合える状態を作ることが、心理的安全性の真の目的です。失敗を学びのチャンスと捉える文化を育むべきです。

Q2: チームの業績が悪く、どうしても「結果」から求めてしまいます。

A2: 短期的には結果を急ぐ気持ちもわかりますが、ダニエル・キム教授の「成功循環モデル」が示す通り、結果へのプレッシャーはメンバーの思考と行動を萎縮させ、長期的にはさらなる業績悪化(悪循環)を招きます。焦る時こそ、まずは1対1の「対話」の時間を増やし、メンバーの話を遮らずに聞くことで「関係性の質」を修復することから始めてください。

Q3: 組織の反発を乗り越え、新しいツールや制度を導入するには?

A3: サイモン・シネックの「ゴールデンサークル」を活用してください。相手は「仕事が増える」と警戒しています。まずは「私たちは現場がより輝く環境を作りたい(Why)」という目的から共有し、「だからこういう独自のサポートをします(How)」と安心させ、「これをやれば商談に集中でき成約率が上がります(So What)」とメリットを提示してから、具体的なタスク(What)を話すように順序を組み立てましょう。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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