ストレスによる疾患の治療と予防には、運動が目覚ましい効果をもたらすことが、研究によって立証されている。(アンダース・ハンセン)
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扁桃体と海馬の重要な役割を理解しよう!
アンダース・ハンセンの一流の頭脳の書評を続けます。コルチゾールがストレスの原因であることがわかっています。仕事でプレッシャーがかかったり、事故に遭遇しそうになるとコルチゾールの血中濃度が上がります。脳も身体も厳戒態勢に入り、自分の身を守ろうとします。この時に筋肉がたくさんの血液を必要とすることで、動悸が激しくなるのです。ストレスには、神経を研ぎ澄ませ、集中力を高めるという役割もありますが、反応が過剰になると思考が混乱してしまいます。その結果、自制心が失われ、パニックを起こし、嫌な感情にとらわれてしまうのです。
コルチゾールは扁桃体が活性化することによって生じます。扁桃体は、側頭葉の奥深くにあるアーモンド形の部位で、脳の左右に一つずつ備わっています。扁桃体は原始時代の祖先から受け継いだ種の生存に欠かせない警報システムです。私たちが危険な状況に出くわしたときに、ただちに逃走を促してくれます。扁桃体の働きによって、虎や蛇の危険を察知し、命を守ってきたのです。
扁桃体はストレス反応を引き起こすだけでなく、そのストレス反応によっても刺激を受けます。扁桃体が危険を知らせるとコルチゾールの血中濃度が上がり、さらに扁桃体が興奮します。ストレスがストレスを呼ぶ悪循環が起こると真っ当な生活を送れなくなります。その際、役に立つのが海馬です。
体内には、ストレス反応を緩和して、興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルがいくつか備わっている。その一つが「海馬」だ。海馬は記憶の中枢といわれるが、それ以外にも、感情を暴走させないためのブレーキとして働いている。海馬はストレス反応を抑制することで、ストレス反応を引き起こす扁桃体の働きを相殺しているのである。この状態は、ストレスが生じる状況以外でもずっと続いている。扁桃体と海馬は常にバランスを保ちながら、互いに綱引きをしているのだ。要するに、扁桃体がアクセルを、海馬がブレーキを踏んでいる状態である。
海馬と扁桃体を上手にコントロールしなければ、ストレス過多になり、自分の脳を傷つけてしまうため、注意を払う必要があります。
一流の頭脳 [ アンダース・ハンセン ] |
海馬を死なせないために運動をしよう!
海馬の細胞は過度のコルチゾールにさらされると死んでしまう。そのため、慢性的にコルチゾールが分泌されるとそれが何か月も、あるいは何年も続くと、海馬は萎縮してしまうのだ。控えめにいっても、これはあまりよい知らせではない。記憶に直結する問題だからだ。扁桃体が長期にわたってストレス反応を引き起こしつづけると、海馬のブレーキはすり減ってしまう。そして、アクセルである扁桃体は、海馬が萎縮してブレーキが利かなくなると暴走を始める。こうして、ストレスがストレスを生むという悪循環に入る。これが、ストレスが長引いたり慢性化したりするメ力ニズムである。長期的なストレスによって脳が損傷を受けるのは、この悪循環によるものだ。
ストレスの悪循環にはまるとなかなかそこを抜け出せません。その状態を放っておくと脳の機能が失われてしまいます。コルチゾールが増加することで大事な海馬の細胞が死んでしまうのです。記憶に直結する海馬を守るためにストレスを慢性化させないようにしましょう。
そのために定期的に運動すべきだとアンダース・ハンセンは指摘します。ランニングやサイクリングなどの負荷がかかる運動によって、私たちの身体はストレスを感じ、コルチゾールの分泌量を増やします。運動が終われば、身体はもうストレス反応を必要としないので、コルチゾールの分泌量は減り、運動を始める前のレベルにまで下がります。ランニングやサイクリングを習慣にすると、走っているときのコルチゾールの分泌量は次第に増えにくくなり、走り終えたときに下がる量は逆に増えていくことがわかっています。運動によって、コルチゾールをコントロールでき、ストレスに強くなれるのです。
定期的に運動を続けていると、運動以外のことが原因のストレスを抱えているときでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなっていく。運動によるものでも仕事に関わるものでも、ストレスに対する反応は、身体が運動によって鍛えられるにしたがって徐々に抑えられていくのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないように身体をしつけるのである。単に運動をしたために「全般的にいくらか気分がよくなっている」だけでなく、身体を活発に動かしたことでストレスに対する抵抗力が高まるのである。
ストレスによって、影響を受けるのは海馬だけではありません。前頭葉もストレスによって萎縮します。極度の心配性の人は前頭葉の各部位が小さいことがわかっています。ストレスが長引けば長引くほど脳はみずからを蝕み、歯止めはさらに利かなくなってしまうのです。ストレスを抑える海馬と前頭葉が機能しなくなり、ほんの些細なことにも大げさに反応するようになります。余計な心配が増えると日常生活に支障をきたしてしまいます。逆に前頭葉が活発化すると、気持ちが穏やかになり、ストレスを減らせます。前頭葉が扁桃体がつくり出した不安をはねのけ、ストレス反応を抑え込んでくれるのです。
要するに、ストレスを抑えたければ脳の「思考」領域、つまり前頭葉の機能を促せばよいのである。
この前頭葉も運動によって強化できます。まず身体を活発に動かすと脳の血流が増え、前頭葉にも大量に血液が流れ、機能が促進されます。運動を長期に渡って続けると、やがて前頭葉に新しい血管がつくられ、血液や酸素の供給量が増え、それによって老廃物がしっかり取り除かます。定期的に運動をすれば、前頭葉と扁桃体の連携も強化されることがわかっています。そうなると、前頭葉はさらに効率よく扁桃体を制御でき、ストレスを効果的に減らせます。
歩くと前頭葉が大きくなる!
歩くことを習慣にするだけで前頭葉が発達することもわかっています。
定期的に運動を続ければ、期間は長くかかるものの、前頭葉は物理的に成長までする。この発見は、この分野の多くの研究者を驚かせたが、単なる仮説ではなく、正真正銘の事実だ。1時間程度の散歩を習慣にしている健康な成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していたという。歩くと前頭葉が大きくなるる。
運動によって、筋肉だけでなく、脳も強化できます。脳を大きくするためにはある程度の時間が必要です。途中であきらめずに続けることが重要です。何か月かはかかる かもしれませんが、1時間程度歩くことで、ストレスを緩和できるのです。私は散歩を習慣化して、1日に15000歩程度のウォーキングを心がけています。実際歩き始めてから、数年が経過していますが、脳の働きがよくなり、ストレスをあまり感じなくなりました。運動によって、ストレスを緩和できるという著者の主張に共感を覚えました。
まとめ
ストレスは脳に悪い影響を及ぼします。海馬と前頭葉を活性化し、脳がダメージを受けるのを防ぎましょう。そのために定期的な運動を心がけるべきです。1日1時間程度のウォーキングを数ヶ月続けるだけで、脳を大きくできることがわかっています。ストレスを余計に感じなくなることで、無駄に悩まなくなり、より幸せな人生を送れるようになります。
今日もお読みいただき、ありがとうございました。
参考図書 アンダース・ハンセンの一流の頭脳
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