一族と会社の遺伝子にはイノベーションが組み込まれている、だから才能あふれるエンジニアだった曾祖父は独自のガラス加工のアイデアで他の追随を許さないリーダーとなったではないか(マーカス・ランゲス‐スワロフスキー)
デジタル化が企業の命運を左右する?
ユルゲン・メフェルトのデジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略の書評を続けます。著者のユルゲン・メフェルトはデジタル化を推進しない企業は生き残れないと述べています。デジタル・トランスフォーメーションなしには、老舗や大手企業も顧客から支持されず、衰退する運命にあるのです。
コダックは1888年、スワロフスキーもその7年後に創業した老舗でしたが、両者は全く異なる道を歩みました。コダックはデジタル化を怠ったために2012年に破綻に追いやられました。一方のスワロフスキーは経営者であるマーカス・ランゲス-スワロフスキーの力でデジタル化を推進し、現在も強いブランドとして顧客から評価されています。ランゲス-スワロフスキーは監査役会やパートナーとの会食の場、華やかなイベントで繰り返しデジタル化の重要性について語りました。彼のメッセージにパートナーたちは納得し、スワロフスキーはデジタル化に舵を切ったのです。
スワロフスキーはオンライン販売で顧客を獲得し、ロボティクスと3Dプリンターを駆使し、新製品を生み出しています。インバレーにスタートアップ・ラボを構え、革新的な製品を顧客に届けています。スワロフスキーはあらゆるタッチポイントで、親身かつプロフェッショナルなサポートを顧客に提供しています。小ロットでもコストパフォーマンスを高くできる強みを生かし、安い中国製品に優位性を保つことで、ブランド価値を維持しています。老舗も努力を重ねない限り、新興ベンチャーや中国企業の餌食になってしまいますが、スワロフスキーは経営者の早い決断で生き残れたのです。
暖房、冷房、エネルギーシステムを手掛けるヴィースマンもCEOの力でブランドを維持しています。同社のCEOのマルティン・ヴィースマンは、2014年にグーグルがスタートアップ企業ネストを買収したと知った時に変化を決断します。ネストは人工知能を搭載し自己学習する冷暖房用サーモスタットの会社ですが、同社がグーグルと組むことへの警戒感が彼を突き動かしたのです。
米国の巨大テクノロジー企業の下請けとして終わりたくなければ、プラットフォーム、ソフトウェア、データで競う戦いにも参加しなくては。(マルティン・ヴィースマン)
100年の歴史を誇るヴィースマンは設備の販売だけに集中するのではなく、ソフトウェアのサービスを積極的に推し進め、スマートフォンのアプリ経由で暖房と空調システムを遠隔制御するサービスから、メーターの自動読み取りと自動調節機能の提供まで行なうようになったのです。多くの経営者はマルティン・ヴィースマンの「デジタル化と真剣に向き合わなければ消滅というリスクに晒される」という言葉を信じ、デジタル化を推進すべきです。
デジタル・トランスフォーメーションに踏み切って成功するケースでは、スタート時にCEOが啓示を受けるだけでは足りない。CEOはそのひらめきの瞬間を具体的に表現し、わが社はデジタルの未来に向かって進んでいく必要があると、少なくとも経営の中核メンバーが直感的に理解できるように明確にしなくてはならない。(ユルゲン・メフェルト)
経営トップはベンチャーやGAFAの動きに敏感になり、自社の経営戦略にデジタルを取り入れるべきです。経営者はデジタル・トランスフォーメーションは急務であると率先して会社全体にメッセージを広め、全社員のやる気を奮い立たせる必要があります。デジタル化について前向きに受け入れるように働きかけることは、何よりも重要な第一歩になるのです。
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デジタル化は全社員を巻き込み、粘り強く実行する!
トップの経営者は社内組織の心理的な抵抗を粘り強く乗り越えていかねばならない。「私の部門にはあまり関係ない」、あるいは「検討したけれど上手くいかなかった」などという声があがっても、ビジョンと説得力のある事実を通じて、全ての利害関係者に情報を提供し、納得してもらい、彼らを鼓舞し、やる気にさせなければならない。抵抗したり、懸念を示す人は必ず出てくると覚悟しておく。
デジタル化を推進すれば、当然反対勢力が生まれます。成功を手にするためには、粘り強く彼らを説得する必要があります。デジタル化は全社員、関係者の協力がなければ、成し遂げられません。オーナーや主要株主、従業員、マネジャー、販売パートナー、サプライヤーの全てを巻き込むのです。
デジタル・トランスフォーメーションを成功させるためには、説得力のある論拠、ベストプラクティスの実例、新たなツールや手法、成功を収めた物語、席巻した(あるいは、席巻された)企業について語ることが必要です。自社を未来の優良企業として残したければ、CEOや経営者はデジタル化を推進するしかないのです。
著者のユルゲン・メフェルトは緊急度の目安を知るための10の問いを紹介しています。客観的な現状把握するために、経営陣は以下の質問に真摯に答え、解決策を検討すべきです。
①デジタル革命がビジネスモデルと収益にインパクトを与えることを期待しているか?
②デジタルの世界でも継続できるパートナー、顧客、サプライヤーとのエコシステムを積極的に作っているか?
③現在の収益を損なう可能性のあるデジタル戦略を受け入れるか?
④自分たちの強みと新しいビジネスモデルで現在のルール内でまったく新しい業態に進出する可能性を精査しているか?
⑤ポートフォリオのなかで現在価値ある領域を分離独立させる意志はあるか?
⑥現在の戦略は、デジタル時代の速いペースと不確実性を反映しているか?
⑦未来の技術の進歩が私たちのビジネスに与える可能性のある影響を考慮に入れているか?
⑧デジタル化のチームに最高の人材を投入しているか?
⑨デジタル戦略に沿って資金、人材、管理の優先順位をつけて割り当てているか?
⑩成功あるいは失敗を確実に計測するために、的確なタイミングと、有意義なKPI(重要業績評価指数)を設定しているか?
私はデジタル化を推進することを自分のクライアントに伝えていますが、その際自分の10代の娘たちの日頃の行動を話します。生まれた時からiPhoneやアマゾンのあるデジタルネーティブの行動は、旧世代のものとは全く異なります。TVやニュースサイトすら見ない未来の顧客を獲得するためには、マーケティングやブランディングの見直しが欠かせません。ソーシャルやリアルの口コミで行動を変える顧客と付き合うためには、データを分析できる人材やパートナーを的確に配置する必要があります。
顧客を喜ばすために、デジタル化のための最適なポートフォリオを組むことが経営陣の重要な仕事になったのです。老舗ブランドの経営者の方は、ぜひ本書を読み、デジタル化を推進してもらえればと思います。良いものを未来に残すためには、経営者の決断が求められています。
まとめ
どんなに強いブランドもデジタル化を推進しないと生き残れません。経営者は最適なポートフォリオを組みデジタル・トランスメーションを成功させる必要があります。老舗経営者は未来の顧客を喜ばすために、自社のデジタル化を推進すると今すぐ決め、社員や関係者全員を巻き込むべきです。
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