ユルゲン・メフェルトのデジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略の書評

様々なデバイスが相互に結びつくIoT(インターネット・オブ・シングス)を見てみよう。現在の接続デバイス数は49億台に過ぎないが、これが2020年までに10倍以上の500億台になることが予想されている。A I分野においては、データ量の増加によるディープラーニングの進展によって、2030年までにコンピューターの演算能力が人間の脳と同等レベルになるとされている。現在、企業が行なっている業務の70%は自動化され、AIやロボットが担うことになるだろう。(アンドレ・アンドニアン)


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デジタル化しない企業は死滅する?

ユルゲン・メフェルトデジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略の冒頭にマッキンゼーのアンドレ・アンドニアンの言葉が紹介されています。もはやデジタル化の動きは止められず、Iot、AI、ロボティクスが世の中を激変させるはずです。私たちが行なっている業務はほぼ機械に置き換えられ、会社が真剣にデジタル化に取り組まなければ、その組織の未来は暗澹たるものになります。

デジタル化は全企業で取り組む必要があり、経営者が変わると決め、組織を巻き込まなければ、変化した顧客を満足させられません。新しいビジネスモデルでは、企業の根幹(コア)部分も変える必要があります。どのように開発、製造、購買、メンテナンスなどを行なうのか(オペレーショナルプロセス)、どのように顧客や消費者にアプローチし、商品・サービス・付加価値を提供していくのか(コマーシャルプロセス)、それを支える業務部門はどうあるべきか(バックオフィスプロセス)といった全てを再構築しなければなりません。

アンドレ・アンドニアンはすべての企業はデジタル戦略を持たなければ生き残れないと述べています。経営者は以下の言葉を忘れずに、すぐに行動すべきです。

まず、全ての企業はデジタル戦略を持たなければならない。そのなかで、自分たちがどの市場のどこでディスラプションを起こすのかを明確にすべきだ。また、バリューチェーンのどこに脅威があり、どこにチャンスがあるのかを探し出す。そして、自分たちが保有するデータを明確 にして、そこからどのような競争優位性を引き出せるのかを考える。どのようなデータアセットがあり、どのようなユースケースがあり、どのようなエコシステムが形成できるのか?こういったことをデジタル戦略に書き込むことによって、あなたの会社が IoTとデジタル化の競争のなかで、勝ち組として生き残る方法を考えなければならない。 

テクノロジーの破壊的な力と変化に対し、今までのビジネスモデルが無力であることはこの数十年で明らかになりました。業界そのものがデジタル化の波に晒され、コダックや、力夕ログ通販事業者、旅行代理店、新聞社などいくつもの事業存続ができなくなりました。経営者には傍観することは許されず、今すぐアクションを起こすことを求められています。

著者のユルゲン・メフェルトはアマゾンとの戦いに勝ち残ったドイツ企業の事例を紹介しています。書籍販売のビッグカンパニーになったアマゾンのKindleへの対抗策を読むことで、私たちはヒントをもらえます。ドイツチェーン書店のタリア、ヒューゲンドゥーベル、ヴエルトビルトと、出版・ブッククラブ事業を傘下に持つメディア・コングロマリットのベルテルスマンのグループの主要企業のCEO(最高経営責任者)たちは、アマゾンに対して共同戦線を張ったのです。

タリア、ヒューゲンドゥーベル、ヴエルトビルトは過去に独自の電子書籍端末を販売したものの不調に終わっていました。今回は主要企業が団結したうえでドイツ・テレコムとの技術提携を進め、バリューチェーンを作ったのです。結果として、Kindleの対抗馬となる電子書籍端末「トリノ」と、PC・スマートフォン向けのアプリを開発し、インターネットを中心として共同プロモーションを大々的に開始しました。 「今、デジタル化に立ち向かわなければ、自分たちの拠って立つ事業の未来はない」と考えた経営者たちは「恐怖に駆り立てられて」一気に動きました。

彼らはドイツ語圏の電子書籍で市場リーダーになることを最終目標とし、トリノはアップル並みの顧客体験の提供を意識しました。顧客の直感に訴え、最初に目に(耳に)した時から購入までのどの接点でもワクワク感と所有感を満たすことを実現したのです。2013年の市場導入に際してはあらゆる媒体を通じて広告キャンペーンが投下され、特にテレビとソーシャルメディアで集中的なプロモーションを実施しました。ドイツの書籍販売企業グループがかつての国営通信企業と組んで、デジタル時代をリードしているグローバル・チャンピオンに立ち向かったのです。

その結果2015年には、トリノはドイツでアマゾンとほぼ同等の市場シェアを獲得しました。成功の要因のーつは、書店グループならではの強みである実店舗で、目抜き通りの店舗とオンラインストアを組み合わせて、毎年ドイツの6000万人の人々に書店を訪れてもらうという戦略で勝利したのです。

自分の出自や会社の大小など、まったく関係ない。豊かな想像力と強い意志さえあれば、シリコンバレーの巨人たちにひけをとらない成果をデジタル化で達成できる。(ミヒャエル・ブッシュ)

経営者の一人のミヒャエル・ブッシュの言葉を読めば、勇気をもらえます。彼のアドバイスを信じて、デジタル・トランスフォーメーションに取り組みましょう。

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デジタルは世界を急速に不可逆的に変えていく。

デルがPC業界でデジタル革命を起こして以来、多くの業界の基盤が揺さぶられた。ビデオレンタル、CD販売店、広告代理店、新聞社、地方銀行は「絶滅危惧種リスト」のごく一部に過ぎない。今や私たちは映画も音楽もネットプリックスとスポティファイのストリーミング配信で楽しみ、飛行機と宿の手配はエクスペディアとエアビーアンドビーなどのサイトを通じて行ない、銀行口座をオンラインで管理し、銀行からのローンではなくプロスパーのようなクラウドファンディングを通じて資金を調達できる世界に生きている。

自分たちのの業界はデジタル化とは無縁だと決め込んで従来通りのやり方を続けると会社を死滅させます。ある日突然競合や新興企業がデジタルで勝負を挑んできます。

デジタル化を契機として生まれてくるビジネスは、4つ程度に類型化できると著者は述べています
供給側主導
②需要側主導
③既存ビジネスモデルの拡張・改善
④今までにない新しいビジネスモデル

サービス供給側が主導する事業の例としてはカヤックがあります。同社は従来の旅行代理店の事業をデジタル化しています。ユーザーはオンラインでフライト、ホテル、レンタカーを検索・予約することができ、カヤックは提携先から手数料を受け取ります。カヤックはビジネスモデルとしてはこれまでのシステムを踏襲しています。

スポティファイはストリーミングで楽曲を配信しており、ユーザーは個々の楽曲を購入するのではなく、サブスクリプション方式でライブラリ全体にアクセスできるようになりました。同社のビジネスモデルは音楽業界を根本から変え、市場を一変させたアップルのiTunesミュージックストアさえも一気に古臭く感じさせてしまいました。

需要側主導の例としては、ダラーシェイブクラブが参考になります。同社は会員登録して会費を支払った男性に髭剃り用品を届けるというサービスを提供していますが、会員の元には替え刃とシェービングフォームが入った宅配便が毎月届くので、ドラッグストアに買いに行く手間が省けます。

NIKE iDはオンラインで自分だけのオリジナルスポーツシューズを作れるサービスです。形、素材、色を選び、文字や数字を入れることも可能になったので、ユーザーオリジナルのシューズを作ることで顧客を囲い込んでいます。

デジタル化で企業が劇的に変わることで、ユーザの行動も変化しています。ユーザーがわがままになる中で、あらゆる企業がデジタル化に対応することを求められています。スマートフォンやタブレットの普及でユーザーはいつでも、どこでも、あらゆるものを求めるようになったため、企業は即座に対応しなければならなくなりました。

消費者は移動中も店頭でも商品と価格を調べ、何か注文する時でも即座の対応を求める。スマートフォンとタブレットは、ユーザー1人ひとりの指令センターの機能を果たしている。モバイル端末を操るユーザーの「いつでも、どこでも」という気持ちに添ったサービスをオンライン上で提供できない企業はライバルに大きく後れを取る。

ヴイジュアル媒体がより重要になり、動画メディアが飛躍的に存在感を増しています。これまで文字主体でコミュニケーションを図っていた企業は、動画媒体を上手く活用しなければならないのです。広告予算の配分はテレビや印刷媒体からモバイル端末向け広告へと劇的にシフトしています。

この10年でリサーチカをつけ、購買行動が劇的に変わった消費者が、小売、サービス・プロバイダー、消費材メーカーなどに対して、提供する製品・サービスと業務プロセスのデジタル化を迫っています。

消費者はネット上のフォーラムを閲覧して回り、お目当ての商品の品質について調べ、比較サイトで価格が妥当であるかどうかをチェックし、ツイッター、インスタグラムなどを活用して自分の意見を投稿する。実店舗で買い物をする時でも、スマートフォンを使ってネットショップや地元の競合店で同じ品がもっと安く手に入るかどうかを手早く確認する。

デジタル化によって、同時多発的に様々なルールが変わり、企業は新しく取り組まなければならないことだらけです。過去の市場の定義は意味をなさなくなり、新たな思考を取り入れ、行動を起こす必要があります。オンライン上のデータソースに次々にデバイスが繋がってネットワークが形成されています。業界の垣根が消え、ビジネスのスタイルも変わり、どこが競合になるかもわかりません。多くの企業がアマゾンによって影響を受けている現状を見れば、経営者は変化を選択するしかないのです。

企業間取引(B2B)、企業対消費者間取引(B2C)という従来の分類すらもはや曖昧となり、いつの間にかB2B2Cという言葉が定着しています。デジタル化が進むにつれて販売経路も変わりますし、蓄積されたデータを分析するプロも必要になります。経営者はビジネスモデル、開発、マーケティング、人事のすべてでデジタル化を意識すべきです。

一時は最強の企業であったブロックバスターは変化を怠り、死滅しました。2007年ネットフリックスはオンデマンド・ビデオの提供を開始し、DVD自体を時代遅れなものにしたのです。魅力的なサービスを提供するネットフリックスを顧客は支持しましたが、その変化に乗り遅れたブロックバスターは戦いに破れます。ブロックバスターもオンデマンド・ビデオを視聴できる独自システムを開発しましたが、サービスやインターフェースの出来栄えなど全てにおいて、ネットフリックスに太刀打ちできませんでした。わずか数年のうちに、ネットフリックスとともに快適な夜を過ごすという楽しみ方が映画ファンに浸透した結果、ブロックバスターは2010年に破産せざるをえなかったのです。

今どれほど事業業績が好調で優位性を築いているとしても、デジタル化が現在のビジネスモデルにもたらす変化を経営者が過小評価すれば、会社は大変なリスクに晒されるということだ。たとえ変化の必要性に気づいても、現在の収益に安住して対応を先送りすれば、自滅への道を辿る。

どんなに優位な企業でも現状に安住してはいけないのです。デジタル化の波は今後も急速に不可逆的に世の中を変えていきます。自社を死滅させないためにデジタル化を進めましょう。

まとめ

デジタル化はもはや止められず、この波に乗らなければ、企業は生き残れません。今後デジタル化は急速に世の中を変えていきます。わがままな存在になったユーザーを満足させるために、経営者は組織、開発、マーケティングなどすべての分野でデジタルトランスメーションを起こさなければなりません。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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