熱狂的なファンを作り出すOisixのサブスク戦略

サブスクで重要なのは「購入」を超えた価値を提供することです。オイシックスでは提供すべきポイントを商品の選択ではなく、「暮らしの選択」を目指しています。時短につながる、安心安全な野菜を食べられるという商品価値だけではなく、オイシックスを使っている自分を好きになる。そんな価値提供を目指しています。(西井敏恭)


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サブスクとECの最大の違いは?

 「Spotify」は音楽を発見することを価値としています。日々、Spotifyは利用データから趣味嗜好を分析して、新しい音楽をレコメンドしてくれるため、最近の音楽を知ることができます。単なる「月額制の音楽聴き放題」を超えた価値=新たな音楽との出会いをデザインすることで、Spotifyは顧客に価値を提供しています。

野菜の定期宅配サービス「Oisix」を提供するオイシックス・ラ・大地でも、購入を超えた価値の提供を目指しています。データで顧客を理解して、サービスを顧客にフィットさせ続けることが重要になると同社執行役員の西井敏恭氏は、サブスクリプション2.0 衣食住すべてを飲み込む最新ビジネスモデルの中で述べています。

サブスクとECの最大の違いは、顧客のデータを分析することで、好みを把握できる点です。

音楽は、物販のECだと購入のタイミングでしか(深い興味関心につながる)データを取れません。聴き放題サービスなら、常に聴いている音楽のデータを蓄積できます。オイシックスなら、(ユーザーが)定期ボックスの中身を配送前に入れ替えられるため、そのデータを分析することで、好みを把握できます。

プロダクトアウト的思想ではサブスクは成功しないと西井氏は言います。会員数が増えるほど、どうしてもサービスに合わない顧客が現れ始めて、継続率が減少する傾向にあるからです。そこで、新たに生まれたニーズに対してサービスをフィットさせていくことで、全体の継続率を上げていく必要があります。

同社では、データを蓄積して分析するだけではなく、利用者へのインタビュー(定性調査)も徹底して行います。社長(高島宏平氏)ですら、月に1回は必ず顧客の自宅を訪問し、顧客の声を聞いています。新サービスを作るときには、顧客に対して何度もインタビューをします。一部の顧客を対象に限定的にサービスを提供し、1年近く顧客の声を基に改善を加えながら、ようやく本格展開に至ります。顧客の声を徹底的に聞き、共にサービス開発することで、顧客をファンにしてしまうのです。

 

熱狂的なファンを作り出すOisixのサブスク戦略

子供の生まれ月を決めると、子供の月齢に合わせて母親が食べるべき食材を管理栄養士が提案する「プレママ&ママコース」というサービスは、2013年にサービスを開始していますが、その前に一部の顧客を対象にサービス提供して、サービス改善を繰り返したそうです。サービスレベルが上がり、やみつきになるサービスになって、初めて拡大の見込みが立ちます。

サービス開発のヒントとなるのは定量的なデータよりも、定性的な意見がきっかけとなることが多い。ポイントは「熱狂度」です。10人に1人でも、そのサービスがないと生きていけないというぐらい、熱狂的な顧客が作れるサービスであることがまず重要。そういう顧客がいれば、今度はその顧客と同じ属性の人が市場に何人ぐらいいるかをアンケートなどを実施して推測します。

同社は、定性調査を繰り返しながら、市場規模を算定して、そのサービスの成長性を見極めます。定性的な意見を重視する理由は、モノのサブスクはマスを狙うのではなく、社会課題の解決につながるサービス作りを心がけるべきだと考えているからです。

ミールキットの「Kit Oisix」は提供した当時は「安心安全な食材」に対する価値を感じる人がすごく多く、「時短」というニーズはそれほど高くなかったのですが、一部の顧客からはとても好評でした。そうした顧客と一緒に、より良い商品作りをすることで、利用者が9万人を超えるサービスに成長したのです。顧客の声を聞き、サービスを改善することで、熱狂的なファンを増やしていくのが同社の強みなのです。

西井氏はサブスク事業を展開するうえで、LTV(顧客生涯価値)と顧客数を最も重要な指標としています。チャーンさせないために、顧客の特性に応じて、施策を行うようにしています。例えば、届ける商品のカスタマイズを事前にしない利用者は、解約しやすくなるというデータがあります。定期ボックスの中身を変えるのを忘れた、そのまま出荷されそうな顧客にはアラートを出すなどして注意を促し、解約させないようにしているのです。

申し込みから最初の1カ月間の利用率がその後の継続に大きな影響を及ぼすこともわかっています。会員登録してから日が浅いビギナー会員の段階では、成功体験を早めに作ることを心がけています。成功の定義は顧客によっても異なりますが、夫においしいと言ってもらえたり、子供が野菜をおかわりしたりするなど、第三者から褒められることが大きなポイントになります。これにより、オイシックスを使うことで暮らしが変化していることを、実感してもらえるからです。

最初のセットを届けるときに生産者のメッセージと共に、ほうれん草なら生でオリーブオイルと塩だけで食べてください、といったように食べ方を指定します。使い慣れた顧客は自分で自由に料理を作ってくれますが、成功体験を生み出すまでは使い方を訴求することが継続率を高めるうえで、非常に重要になります。顧客へのきめ細かい対応がOisixの強みで、ここから熱狂的なファンが生まれていることがわかります。初期の段階でチャーンさせないことが、サブスクモデルの成功を左右するのですから、カスタマーサクセスは顧客に成功体験を与える

今年の6月から、同社はよりお得なサービスの「プライムパス」をスタートしました。月額1,280円を支払うことで、特定商品が毎週3品まで0円になるほか、野菜や果物が全品 20%OFFとなります。この「プライムパス」によって、同社の継続率はより高まりそうです。

まとめ

Oisixは熱狂的なファンを作り出すことで、成長を続けています。10人に1人でもそのサービスがないと生きていけないというぐらいの熱狂的な顧客がいるサービスを作り出し、顧客の声を絶えず聞きながら、サービスを改善することで、ヒット商品を生み出しているのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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