田中道昭氏のソフトバンクで占う2025年の世界 全産業に大再編を巻き起こす「孫正義の大戦略」の書評

2社の経営統合により、ソフトバンクグループ全体としては、日本においてペイペイとLINEを基点とする「スーパーアプリ経済圏」が構築されていくというシナリオです。(田中道昭)


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日本は米中に次ぐ、第三極になれるのか?

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。さて、今日は孫正義氏とソフトバンクの未来について考えてみたいと思います。参考にしたのは、田中道昭氏の新刊ソフトバンクで占う2025年の世界 全産業に大再編を巻き起こす「孫正義の大戦略」です。

昨年のIT業界の最大の話題は、ヤフーとLINEの経営統合でした。田中道昭氏も本書の中で、この話題を大きく取り上げ、この統合から孫代表が描く未来を予測します。ヤフーとLINEの統合によるインパクトは大きく、ITだけでなく様々な業界に影響を及ぼします。両者の優れた顧客基盤と顧客接点が結びつくことで、スーパーアプリ経済圏が築かれ、winner takes allが起こるはずです。

ヤフーとLINEの統合によるスーパーアプリ経済圏

デジタルトランスフォーメーション時代の顧客基盤とは、スマホのなかで親密な顧客接点持つことですが、LINEというコミュニケーションアプリと各種サービスを展開するソフトバンク側の企業連合は、今回の統合によって、国内No1の顧客基盤をもつ連合になったのです。

その優れた顧客接点を活用することで、LINEペイやペイペイから、各種の金融サービス、EC小売り、さらには旅行・通信・電力・モビリティへと誘導する巨大なプラットフォームが形成されていきます。この巨大プラットフォームを作ることで、GAFAや BATHに対抗するスタートラインに、ソフトバンク連合がようやく立てたのです。

ヤフーとLINEの経営統合は様々な産業にインパクトを与え、多くの産業で再編が始まっていきます。

非常に強力な2社の連合ですから、競合他社が「とても1社では勝ち残れない」と危機感を強めることは間違いなく、スマホ決済やネット通販などで業種を超えたかたちでの連携や再編が起こることは大いに考えられます。さらに、金融産業にもスマホ決済サービスに多業種からの参入が相次いでいることから、今回の2社の経営統合が再編を巻き起こす業界は金融にも及ぶ可能性が高いでしょう。

コミュニケーション・アプリがフィンテックを変えたのは、テンセントの最近の動きを見ればよくわかります。LINEは間違いなくこのテンセントをベンチマークに置いています。私も旅行保険の加入、株の売買や積立投資を行う際に、LINEを活用することが増えています。面倒な操作なしに、簡単に金融取引ができ、とても重宝しています。多くの金融サービスがLINEとの提携を行なっているのも、コミュニケーションアプリの顧客接点を評価しているからです。

今後、ソフトバンクを中心に金融業界の再編が起こるはずです。LINEが野村証券とLINE証券を設立し、みずほ銀行とLINE銀行を設立してきた一方で、ヤフー側ではSBIと金融事業において連携を強めていこうとしているなかで、今回の経営統合のニュースが発表されました。この分野のこれらの企業だけでも戦略の練り直しや強化が求められ、さらなる業界再編が起こるはずです。著者は国内でECや金融事業を展開し、通信事業にも本格的に乗り出してくる楽天の動きが加速すると言います。楽天を中核として様々な分野における合従連衡が起き、ソフトバンクグループとの戦いが激化するはずです。

日本が「米中に次ぐ第三極」に成り得る再編の中核は、ソフトバンクグループとトヨタ自動車との企業連携にあると著者は指摘します。トヨタ側から見れば、同社の次世代自動車産業におけるレイヤー構造の下層にスーパーアプリとしてのペイペイやLINEペイが加われば、非常に強力なエコシステムを構築できます。自動車業界におけるEV化、自動化、サービス化と並ぶ四大潮流のーつであるコネクテッド化(スマート化)においても競争力を発揮できます。IoT、クラウド技術の進化、通信速度の向上・大容量化などを背景に、クルマがありとあらゆるものと「つながる」時代において、スーパーアプリを企業連合のレイヤー構造の一部にできれば、日本が「米中に次ぐ第三極」に成長していく基点になれます。

ソフトバンクグループはGAFAに比べ、研究開発費が劣っていますが、トヨタ自動車が加わることでその問題も解決できます。「クルマ×IT×電機・電子×金融×その他」がオーバーラップし、新たに生まれる巨大な自動車産業やその周辺の関連産業で、ソフトバンクとトヨタがタッグを組むことで、米中の巨大企業に対抗できるようになります。トヨタを中心にした製造業で、デジタルトランスフォーメーションが起こることで、日本が「米中に次ぐ第三極」となる可能性が高まるのです。

 

ソフトバンクは社会システム全般のプラットフォーマーになる!

新たな投資の検討に当たっては、3つの基準があります。第1に、注目した製品やサービスに大きな潜在市場がなければいけません。第2に、その事業にふさわしい起業家をみつけられるかどうかが重要です。良いアイデアを持っている人たちは大勢いますが、それを実行して成果を出せる人はほんのひと握りなのです。第3に、ビジネスモデルをチェックして、成功の可能性を見極めます。アイデアが時代の先を行き過ぎている場合もあります。あるいは、その特定の市場に適切なインフラがない、成長性がないという場合もあります。(ニケシュ・アローラ )

孫正義の跡を継ぐと噂されていた元Googleのニケシュ・アローラは、ソフトバンクの経営に大きな影響を及ぼしました。アローラのプロフェッショナルの投資手法とインド人人脈を活用することで、インドのテック企業への投資を成功させ、インドの巨大なマーケットも視野に入れることができました。また、ガンホーやアリババ株の売却をよって、アームの買収を現実のものとしただけでなく、その後のソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資戦略の道筋をつけました。アローラはグループを去ることになりましたが、彼のノウハウによって、今後もソフトバンクグループは投資会社としての強みを発揮するはずです。

孫社長は、Al群戦略という考えのもと、様々な産業の多種多様な企業に投資を行っています。その中でも特にモビリティ、通信、エネルギーの3つの産業への投資を加速しています。Al群戦略と、モビリティ、通信、エネルギーの3つを中核とした産業戦略は、大きなシナジーがあるというのがその理由です。

ソフトバンクが描く産業政策の未来

ソフトバンクグループが、通信プラットフォーマー、交通機関プラットフォーマー、エネルギープラットフォーマーという3つの産業のプラットフォーマーとなれば、それはソフトバンクグループが社会システム全般のプラットフォーマーと化すことにもなります。さらに、これら3つの産業は単独で進化していくわけではなく、相互に連携し ながら、つながりながらニューインダストリーとなっていくことが予想されます。(田中道昭)

「スマートフォン(スマホ)でつながり」→「ペイメントでつながり」→「情報でつながり」→「サービスでつながり」→「サブスクリプションでもつながる」ことで、ありとあらゆるものが、産業を超えてつながるようなります。

今後ライドシェア企業が交通機関プラットフォーマーとなる可能性が高いと考えられるからこそ、孫社長は、世界のマーケットシェアの8割とも9割とも言われるまで、ウーバーやクラブなどのライドシェア企業に積極的に投資を行ったのです。

5Gになることで「超高速」「大容量」「超低遅延」「多数同時接続」「高信頼」の世界が実現されます。こうした通信環境が整うことで「人間が運転するよりも安全な自動運転車」が初めて実用化できます。そして、自動運転車は、半導体消費が大きく、電力消費も膨大になりますから、クリーンエネルギーのエコシステムが求められるようになるのです。通信・交通・エネルギーを押さえることで、ソフトバンクグループは世界一の時価総額の会社になれるかもしれません。

(ソフトバンクグループの)ミッションは社会価値追求型であり、No1であることに強いこだわりをもっていること、Al群戦略においては、投資先へのマジョリティー出資にはこだわりをもっていないことなどが大きな特徴として指摘できるでしょう。企業の性格としては、定性的かつ定量的にも投資会社であることがわかりました。その一方で、子会社のソフトバンクは強力な営業力と実行力をもっており、タイムマシン経営により、海外投資先の事業を早期のうちに国内で事業化することに長けています。 また主には投資先を通じてとはいえ、テクノロジー会社としての側面ももっています。そして最も特徴的なのは、金融財務戦略に長けたファイナンス会社であるという側面です。

ソフトバンクグループは、「投資会社×事業会社×テクノロジー会社×ファイナンス会社」という4つの性格を有した企業で、GAFAやBATHなどの米中メガテックとも戦える企業群です。当然、財務や過剰なリスクテイキング、IR、後継者、コーポレートガバナンスなどソフトバンクグループにはいくつもの課題があります。しかし、孫社長は今までも多くの難題を乗り越え、企業を成長させてきました。日本という社会問題先進国で、孫社長が多くの課題を解決することで、ソフトバンクは新たな価値を生み出し、より強い会社になれるはずです。

まとめ

ソフトバンクグループはAI群戦略を推進し、通信・交通・エネルギーを押さえる社会的プラットフォーマになる可能性が高まっています。ソフトバンクグループとトヨタを中心にした製造業が、デジタルトランスフォーメーションでつながることで、日本が「米中に次ぐ第三極」のポジションを得られるのです。

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