三戸政和氏の営業はいらないの書評


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営業はいらない
著者:三戸政和
出版社:SBクリエイティブ

本書の要約

セールステックを最大限に活用する会社やエクスペリエンス型の正しい「戦略」を用いる会社が増える中で、営業マンが不要になると著者は指摘します。今後テスラのような戦略に秀でた会社が増えることを予測し、営業マンは自分の未来を再考すべきです。

エクスペリエンス優先型の発想法を行う先進企業では、営業が不要になる?

セールステックが普及しているアメリカでは、かなり精緻にプロセスの管理がなされている。ターゲットリストの作成、電話やメール、アポイント、提案、交渉、受注などにプロセスを分け、それぞれのプロセスごとに対応するスタッフが代わる。簡単に言えば、MA、SFA、CRMといったツールは、営業の各プロセスにおいて、人の関わりを極力排除し、自動化するものである。だから、自動化された部門の営業マンから先に職を失っていくことになる。(三戸政和)

三戸政和氏はテクノロジーが進化する中で、営業はやがて不要になると指摘します。米経済誌『フォーブス』が行った調査(2017 Sales Trend Research)によると、欧米では「セールステックを最大限に活用することで、このフィールドセールス(外回りの営業マン)の数を如実に減らす動きが出ている」といいます。欧米の企業では、テクノロジーの活用によって営業活動を効率化することで、営業マンの数を減らし、コスト削減を行っています。 アメリカで起こっている波は、今後、必ず日本にもくるというルールを信じれば、日本の営業マンは不要になります。 また、エクスペリエンス型の正しい「戦略」を用いる会社は、営業マン自体を必要とせずにモノを売る体制を確立しています。今後、営業業マンがテクノロジーに代替されるだけでなく、企業の戦略が強化されることで、営業マン自体が不要な存在になっていくのです。

著者は「営業」の位置づけを整理するために、全体のプロセスを「戦略」「作戦」「戦術」という3つのフェーズに分類します。
1、戦略
企業で「戦略」と言うときは、経営陣の設定する「どんなサービス・商品を提供するか、どんな会社にするか?」といった、進むべき方向性を表します。
2、作戦
現場の指揮官が立てるもので、企業で言えば、「マーケティング」に相当します。
3、戦術
「どんな方法・手段で営業を仕掛けていくか」を考えることで、この戦術が営業マンの仕事になります。

企業の経営者が立てた戦略が正しければ、戦わずして勝てあすから、営業は不要になります。例えば、テスラは企業の戦略が秀でているため、営業ゼロでモノを売る仕組みの構築に成功しつつありまあす。

2020年1月現在、テスラ社は、たった6種類の車しか販売していません。一方、テスラ社と企業規模が近い日産自動車は、型遅れの車種まで含めれば50種類を超えています。テスラの時価総額は世界の自動車業界でトヨタ自動車に次ぐ第2位になっています。長らく「大量生産・大量消費」の戦略を採り続けてきた日本の大規模メーカーが、軒並み苦境に追いやられている一方で、戦略を明確にしたテスラは投資家から評価されています。

テスラが営業を必要としない理由

「プロダクトアウト型」とは、作り手が作りたいもの、作ることができるものを優先して製品やサービスを生み出す発想法です。一方「マーケットイン型」は、顧客の意見やニーズを取り入れる形で製品やサービスを生み出す発想法ですが、もはやこの2つの思考法は古いものになっています。

今もっとも新しい考え方は、「エクスペリエンス優先型の発想法」で、エクスペリエンス、すなわちユーザーが得られる「体験」や「感動」を想像しながら製品やサービスの開発に当たることが求められています。

テスラ社が他の追随を許さない確固たるポジションを築いているのは、次の2つの機能を持っているからだと著者は指摘します。
1、永遠に進化し続けるソフトウェア
2、他の追随を許さないビッグデータの蓄積

テスラ社のすべての電気自動車には、ソフトウェアが搭載されていて、これは定期的にアップデートされています。この戦略によってテスラ社の車は、旧型のモデルであっても、常に最新のシステムを使うことができるようになっています。

直近のアップデートではこれまで機能として有していなかった、駐車場や私道において車から200フィート(約61メートル)以内にいる場合に、スマートフォンのアプリ操作によって、自動運転で車を呼び寄せられる機能が追加されました。このアップデートにより、近い将来、運転手が完全に不要になる未来がくることが予測されます。テスラは絶えず顧客に圧倒的な感動体験をもたらしているのです

テスラ社の車を買えば、購入者は今後、より進化した機能を使える可能性が期待できるとともに、不具合の案内やメンテナンス情報も、車で直接テスラ社と通信すれば取得でいます。また、このソフトウェアはWebにつながっているため、テスラ社の車のすべての「運転状況・運行状況」がデータとして蓄積されます。

テスラ社の車は単なる道路の交通状況だけでなく、利用者の車の運行状況に関するすべてのデータを受け取れる。こうしたデータは、蓄積すればするほど利用価値が上がり、精度も上がっていく。そしてテスラ社はこれらデータの蓄積を元に、長年自動運転ソフトウェアの開発を続けているのだ。

創業からすでに17年を迎えたテスラ社は、もはや他の自動車会社が追いつけないほどの情報をストックし、これからもそれを続けていきます。この高度なユーザーデータの蓄積によってテスラ社は、圧倒的なエクスペリエンスを提供する自動車業界のプラットフォーマーとなり得たのです。

テスラはこの「エクスペリエンス戦略」によって、付加価値の陳腐化を防いでいます。

最高の「エクスペリエンス」を提供できる会社が行き着く先は、「営業をする必要すらない世界」である。

自動車産業は、保険や証券と並ぶ、「伝説の営業マン」が誕生するような業界です。今までは人脈と足で稼いだ営業マンが評価されていましたが、テスラはこのルールを変えてしまったのです。優れた戦略さえあれば、スーパー営業マンなどいらなくなることをテスラは証明しています。

テスラ社はディーラーを通さず、自社が運営する直営の販売会社を通した直販体制を採っています。既存の自動車会社はディーラーによるセールス活動、つまり営業が必要だと考えています。このディーラーシステムがメーカーが作った車をタイムロスなく買い取ってくれるため、メーカーはすぐに資金の回収ができ、在庫を抱えなくてすみます。しかし、このディーラーシステムは消費者に不利益を与えています。

メーカーと消費者の間にディーラーが入るということは中間マージンを取られることを意味します。中間マージンや販売奨励金が生まれることで、結果として車の販売価格は上がります。それを嫌ったテスラ社のイーロン・マスクは、ディーラーを通さず原則直営店のみで販売する直販システムを採用したのです。

2019年の3月からイーロン・マスクは直営販売店さえも一部の店舗を除いて廃止し、インターネット販売に全面的にシフトしました。

車を買いやすい価格で提供するためには、小売部門の社員数を減らす以上の策はない。(イーロン・マスク)

テスラ社は車の販売会社でありながら営業マンを必要としない会社に変化しています。テスラ社は「エクスペリエンス戦略」を採用することで、これまで顧客に「圧倒的な感動体験」を与え、熱心なファンを生み出してきました。

テスラ社の感動体験を経験した顧客は、押し売りされずとも、自らテスラ社の製品情報を取りにいきます。そしてこの顧客がロコミを拡散するおかげで、営業が不要になるのです。また、テスラは広告費も使っていないことが明らかになりました。

2019年5月の「フォーブスジャパン」の報道によれば、トヨタやBMW、ポルシェやフォードなどの競合は、莫大な金額をSNS広告に支払っているにも関わらず、テスラ社はSNSに広告費をまったくかけていないというのです。テスラ社の記事をSNS上で見かけますが、これは広告ではなく、独自配信しているものなのです。しかも1カ月の調査期間中にテスラ社は200万件以上、SNSで反応を獲得していました。

この数字は他の自動車メーカーが有料で実施した広告キャンペーンを超える数字になっています。つまりテスラ社は、他社が有料で行っている広告の効果を、無料の施策によって上回ることに成功したのです。テスラ社が、まったく営業マンを必要としない会社になるのは、そう遠くない未来の話になりそうです。

もし今、営業マンであるあなたの業務に無理が生じているなら、それは川上の戦略が間違っている可能性がある。もしかしたらあなたは必要のない戦いを強いられているのかもしれない。

SNSが発達した時代においては、ユーザーのエクスペリエンスを追求した商品を形にできれば、自分のメディアを持つ顧客が勝手に宣伝することで無駄な営業をする必要がなくなるのです。

テスラ社の今日の成功は、正しい戦略があれば、営業自体が必要なくなることを、見事なまでに体現しています。今後は、さまざまな業界において、エクスペリエンス戦略を駆使することで、営業などすることなく業績を上げる企業が増えていくはずです。ユーザーのエクスペリエンスにフォーカスした戦略的な企業が、今後勝者になる中で、営業マンは自分の未来を描かなければならなくなったのです。その一つが起業という選択肢ですが、これは次回紹介したいと思います。

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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