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コロナ後の世界
著者:リンダ・グラットン
出版社:文藝春秋
本書の要約
今回のコロナ・パンデミックは長期的には長寿社会に大きな影響を及ぼさないとリンダ・グラットンは言います。後半のをワクワクなものにするために、働きながら余暇を楽しみましょう。株や不動産などの有形資産だけでなく、無形資産を身につけることで、人生を楽しめます。
65歳はもはや老人ではない!
”healty aging”はポスト・コロナ時代において何よりも重要なテーマです。(リンダ・グラットン)
ロンドン・ビジネススクール教授で、LIFE SHIFTの著者のリンダ・グラットンは、今回のコロナ禍をどう捉えているのでしょうか?彼女が執筆に加わったコロナ後の世界を参考にしながら、ウイズ・コロナ時代の生き方、働き方を考えてみたいと思います。
結論からいうと、リンダ・グラットンとLIFE SHIFTの共著者のアンドリュー・スコットは、今回のコロナ禍は長期的には、長寿社会に大きな影響を及ばさないと述べています。ただ、短期的には、高齢者はウイルスに命を奪われる可能性が極めて高いので注意が必要です。さらに先進国では、80代以上の高齢者になると糖尿病や高血圧などの基礎疾患をもつ人が多くなり、病状が悪化する確率がさらに高まります。私たちは、健康を保ちつつ歳を重ねる”healthy aging”を目指すべきです。健康な70歳と、糖尿病や心臓病などを患っている70歳では、同年齢でも新型コロナによる致死率がまったく違います。
1850年以降のデータを見ると、人類の平均寿命は10年ごとに2年ずつ延び続けています。先進国においては、1987年生まれの半数は97歳まで、2007年生まれの半数は103まで生きるとの予測もあります。このように「人生100年時代」は、未来のものではなく、もうすでに始まっているのです。高齢化が続くと今までのライフプランが通用しなくなり、何歳まで働くかを考える必要があります。資産家以外の多くの人は貯蓄や年金に不安を抱えているでしょうから、今回のコロナ禍を契機にライフプランを見直すようにしましょう。
人生100年時代のビジネスパーソンには以下の2つの選択肢があります。
①65歳で引退する代わりに生活レベルを下げること
②引退の年齢を引き上げること
多くの人は生活レベルを下げたくないため、②を選択します。
つまり長寿社会とは、「より長く働く社会」でもあるのです。自分が高齢者になっても働いている姿が想像出来ず、不安になる方もいるのではないでしょうか。ここで強調しておきたいのは、私たちにまず必要なのは、年齢に対するステレオタイプな考のことです。枠にとらわれない自由な考え方をすれば、高齢者は活気に溢れ、社会に大いに貢献できる存在なのです。
リンダは現在65歳ですが、大学教授として働いています。57歳の私もまだまだ引退する気はありません。昔であれば、定年退職を考えていた年齢ですが、少なくともあと20年は働きたいと考えています。
年をとることはワクワクすること
健康であれば60歳になっても好きな仕事を見つけ、新しい人生を始めることが出来るわけです。年をとることは惨めなことではなく、ワクワクするものでなくてはいけません。まずは長寿をポジティブに捉える。それこそが高齢化社会の問題を打破する鍵です。
諸外国にくらべ、日本には「健康寿命」が非常に長いというアドバンテージがあります。私たちは要介護や寝たきりの状態になることなく、長く健康に生きることが出来るのです。
日本政府や企業は暗い未来ばかりを提示するのではなく、働きたいと感じている高齢者に、その機会を与えられるよう努力すべきだとグラットン教授は指摘します。高齢者が働き続けることで、組織やそこに所属する人々が恩恵を受けることも多々あります。長年積み上げてきた経験やスキルを持つ人が近くで働けば、若者にとって良い刺激を与えられます。
ある研究によると、年齢構成が偏っている組織よりも、ばらけている組織のほうがチームの仕事が上手くいくことが分かっています。異なる年齢の人間が一緒に仕事をすることで、お互いに触発され、有益で生産的な結果が生まれます。多様性が、イノベーションを生む土壌となることは間違いありません。実際、私は社外取締役やアドバイザリーとして、20代、30代の経営者と共に働いていますが、お互いの知恵を出し合うことで、新しいアイデアが生まれます。
特別なスキルを持たない高齢者も心配する必要はないとグラットン教授は言います。あるスキルについて、年上の人が年下の人に指導するのと同様に、年下の経験者が年上の人に教える”メンタリング”は、非常にポジティブな結果を生むという研究結果もあります。
また、年齢を言い訳にして学ぶことをやめてはいけません。例えば長寿国の一つであるシンガポールは、2030年までに、定年を現在の62歳から65歳にまで引き上げるそうです。それに伴って人材開発省直轄の機関が、労働者のための新たな技術の習得を支援しているのです。高齢者であっても、補助金を受けてITなどの技術を学べます。
人生100年時代になると、大学で学んだ知識だけでは、仕事を長く続けるのに充分ではありません。人が長く生きるようになると、働く長さだけではなく、働き方にも変化が起こります。過去のノウハウが古くなる中で、テクノロジーの知識を得たり、新しい分野にチャレンジする勇気を持つ必要があります。
また、長く働くためには、好きな仕事を見つけた方がよいと思います。嫌な仕事を長く続けるのは、考えるだけでも辛いですから、好きなこと、得意なことにフォーカスしましょう。起業したり、副業を始めることで、自分の人生の可能性を広げられます。お金を稼ぐだけでなく、新しい仕事をスタートすることで、人とのつながりを強化できます。
コロナ禍は新しい働き方を身につけるチャンス
これまでの「教育・仕事・引退」という”3ステージ”の人生が過去のものになっています。しかし、今後、そのような画一的な生き方は時代遅れになるはずです。大学を卒業した若者がすぐに就職するとは限りませんし、一度退職してまた会社に戻ってくる人や、働いている途中で大学に戻る人も出てきます。従業員と企業の関係も変わります。企業は社員の働き方に柔軟性を持たせ、裁量権を与えていくべきです。
最近は副業を認める企業が多くなりましたが、実は副業制度はあまり生産的な方法ではないとグラットン教授は言います。それよりも、週休3日にするとか、大きなプロジェクトを終えた後は2週間ほどの大型休暇をとらせる方が効果があるのです。まとまった時間を与えられるほうが、社員はさらに多くの選択肢を持てるようになります。
人は長く生きればその分、様々なことにチャレンジしたくなります。今回のパンデミックを経験したことで、私たちは今までの働き方を問い直しています。テレワークやワーケーションなど、フレキシブルな働き方を知り、心理的な障害から解き放たれつつあります。実際、私も在宅勤務を行うことで、家族との団欒の時間を持てるようになりましたし、地元の魅力を再認識できました。当然、人生について真剣に考えるようになりました。やりたいことをやらずに、死を迎えることはとても勿体ないことです。
コロナ後の長寿社会で必要な3つの無形資産
コロナ後の長寿社会を幸せに生きるため、個人の備えとして何が出来るのでしょうか。一般的には、不動産や株式などの「有形資産」が重視されがちです。安定した引退生活を送るためには有形資産は欠かせませんが、それだけでは人生の後半戦をワクワクなものにできません。長く働くためには生産性資産、活力資産、返信資産の3つの無形資産が必要です。この無形資産はお金にはなりませんが、人生のあらゆる場面で大きな役割を果たすとグラットン教授は言います。
①生産性資産
価値ある高度なスキル、自分のキャリアにとってプラスとなる人間関係、会社や組織に頼らない自分自身の評判それらを得ることによって、社会から求められ続ける人材でいることが出来ます。
②活力資産
100歳まで幸せに生きるためには、肉体的・精神的な健康が不可欠です。運動や食生活を大事にすると同時に、適切なストレスマネジメントの実践も求められます。また、孤独な生活を送るより、家族や友人と楽しい時間を過ごす人のほうが長生きします。
③変身資産
長い人生を歩んでいく中で、ずっと同じ人間でいるわけにはいきません。勤務している会社が倒産するかもしれないし、時代も変化していきます。私たち自身も、年をとれば心身ともに変化します。様々な変化についていける力を鍛えるためには、自分と向き合いつつ、自分と違う年代、性別、仕事、国籍の人たちと関わっていくことが大事です。様々な人間と交わることで、「将来こうなりたい」というロールモデルを得るきっかけが生まれるからです。
無形資産を蓄えるためには、日々のアップデートが欠かせません。会社だけでなく、様々なコミュニティに参加し、人とのつながりを強化できます。私はこの無形資産を作るために、読書を起点にネットワークを広げています。多様な価値観を持つ著者や編集者と出会うことで、新たな学びを得られます。
特に、若者、女性、異なる職業、外国人の方々との出会いから、新たな情報をもらっています。自分の価値と彼らの価値を掛け合わせることで、日々自分をアップデートできます。有形資産だけでなく、3つの無形資産を身につけ、人生の後半戦を楽しみましょう。
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