アリババのスマートビジネスとは何か?ミン・ゾンのアリババ 世界最強のスマートビジネスの書評


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アリババ 世界最強のスマートビジネス
著者:ミン・ゾン
出版社:文藝春秋

本書の要約

データインテリジェンスとネットワークコーディネーションを組み合わせることで、アリババは世界5位の経済圏を形成しようとしています。ユーザーとの対話から絶え間なく生成されるデータを機械学習アルゴリズムに与えることで、ビジネスをスマートに行えるようになります。

アリババのネットワークコーディネーションとデータインテリジェンス

機械学習アルゴリズムの能力が向上しているのは、コンピューティング能力の向上とデータ量の増大のおかげだ。ここで言うデータには、大規模なデータセットと、オンラインでの相互作用から絶え間なく生成されるデータフローの両方が含まれている。(ミン・ゾン)

アリババはデジタル・トランスフォーメーションによって、最も成功した会社です。著者のミン・ゾンはジャック・マーの右腕・”総参謀長”として、アリババを急成長させたことで有名です。

アリババは中国の強みである「ネットワーク」とアメリカの強みである「データ」を融合し、進化させ、洗練させることで、世界第5位の経済圏を目指しています。著者はこのネットワークとデータを活用した「スマートビジネス」こそが、アリババの強みだと言います。

アリババでは様々なプレーヤーを結集させるネットワーク・コーディネーションによって、強大なプラットフォームを形成しました。タオバオは自社では一切在庫を持たず、1000万社以上の出店者や何百万社ものパートナー企業が直接的につながり、オンライン販売、取引処理、配送までをスムーズに行っています。タオバオは以下のようにネットワーク・コーディネーションの進化させたのです。
■直接的つながりと相互作用
売り手と買い手を結ぶインスタントメッセンジャー「ワンワン」と、売り手と小規模なウェブサイトを結ぶアフィリエイト・マーケティング・プラットフォーム「タオバオケ」を設立。

役割の変化
経験を積んだ売り手がタオバオ大学の講師となり、オフラインのブランドがネットワークに加わると、タオバオ・パートナー(TP)が登場。

■インフラへの投資
アリペイによって信頼性という障壁が低くなった。タオバオのAPIによって独立系サービスベンダー(ISV)が出店者と協力しやすくなり、ビジネスを加速。

■事業活動のオンライン化
タオバオの商品データベースによって、ありとあらゆるSKU(最小の管理単位)が売買可能に。ウェブセレブはマーケティングと製造をオンラインで調整可能。

ネットワーク・コーディネーションが進展するほどより多くのデータが生成され、データインテリジェンスが高まっていきます。ネットワーク・コーディネーションとデータインテリジェンスは相互に補強しあい、未来型ビジネスのDNAを構成する二重らせんを形づくっているのです。

協調的ネットワークを実現するためには、データインテリジェンスという技術的ソリューションが必要なことにアリババは気づき、アルゴリズムや機械学習に投資したのです。ユーザーとの対話から絶え間なく生成されるデータを機械学習アルゴリズムに与えることで、ビジネスをスマートに行えるようになります。集めたデータをアルゴリズムにかけ、ひたすら修正を繰り返し、ユーザーとのやりとりに使います。ここには人の関与はほとんどないと著者は言います。

機械学習アルゴリズムは膨大なデータを処理しながら、自らトレーニングを重ね、洗練していきます。 サービスを構築する過程では途方もない人間の努力と創造力が求められますが、ひとたびそれが完成してしまえば、あとは自動的に事業が営まれていきます。

このモデルは驚くほどレバレッジが利き、一気にスケールしていきます。小売プロセスを自動化することで、アリババは3万人程度の従業員で、ウォルマートが200万人の従業員を使って達成するのと同等の売り上げをあげています。

アリババの壮大なビジョンは実現可能か?

2017年の独身の日のピーク時には、アリババのプラットフォームは毎秒32万5000件、1分当たり2000万件近い取引を処理しました。これほどの数字を達成できたのも、アリババがクラウドコンピューティングへの投資を怠らなかったからです。

アリババがクラウドコンピューティングに投資しているのは、アマゾンを模倣するためではありません。経営陣が2008年の段階で、シスコやオラクルのような企業に支払うIT経費が、まもなくeコマース事業のみならず、会社全体の収益を上回ってしまう可能性に気づいたためでした。

IT経費の負担で経営が行き詰まる事態を回避するため、アリババは自前のクラウドコンピューティング設備に投資することを決めたのです。今では、アリババクラウドは中国最大のクラウドコンピューティング事業者となり、同社の存在感は増しています。クラウドコンピューティングを他社にも提供することで、大規模なコンピューティング能力を誰にでも利用可能にしました。

タオバオがデータインテリジェンスをより広範な問題解決に活用するようになれば、その競争優位性は揺るぎないものとなる。

アリババは画像認識技術のOCRを集客の手段として活用しています。タオバオアプリはユーザーに、スマホで欲しい商品の写真を撮り、検索できるサービスを提供しています。写真がアップされると、アルゴリズムが商品を認識し、プラットフォーム上の商品のなかから同じものを探します。

このビジュアルサーチの正確性は向上していて、1日当たり1000万人以上のユニークユーザーを集めていると言います。データインテリジェンスは正のフィードバックループをテコに高まっていくため、先行者利益が非常に大きいと著者は言います。

関連性のあるデータを大量に集めるのは困難でコストも高くなりますが、使用するデータが多いほど、事業の価値は高まります。たとえばオートナビ(アリババの地図サービス)やグーグルマップの正確性が高まれば、より多くの人がそれを使い、土台となるアルゴリズムには材料となるデータがたくさん集まります。それによってアプリの正確性はさらに高まり、他社への乗り換えを防げます。一歩先んじたスマートビジネスと競争するのはきわめて困難で、一度強力なプラットフォーマーが登場すると、他社の勝ち目はなくなります。

ジャック・マーは本書の冒頭で以下のようにビジョンを語っています。

2036年までにアリババは20億人の顧客にサービスを提供し、1億人の雇用を創出し、1000万社がオンラインとオフラインの商取引を結びつけて収益力のある事業を営むのを支援し、世界第5位の経済圏になろうとしている。目標はeコマースをグローバル化し、世界中の小規模事業者や若者たちがグローバルに商取引をできるようにすることだ。(ジャック・マー)

中国やアメリカと並ぶ経済圏を一企業が作ろうというビジョンは壮大ですが、アリババの戦略やイノベーションを知ることで、ジャック・マーの言葉が大言壮語でないことがわかります。アリババが作り上げたデジタル・エコノミーから、私たちは多くのことを学べます。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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