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ハーバード あなたを成長させるフィードバックの授業
著者:ダグラス・ストーン、シーラ・ヒーン
出版社:東洋経済新報社
本書の要約
フィードバックをもらって強い感情にとらわれると、過去、現在、未来を歪めて捉えてしまうことがあります。公正な目を取り戻し、もらったフィードバックを正確に評価できるようにするためには、自分の思考を巻き戻して、歪みを正すことから始める必要があります。
フィードバックに対する3つの反応
心配性になるか楽天家になるか、人見知りになるか社交的になるか、神経質になるか大らかになるか、といったことをはじめ、フィードバック(肯定的、否定的の両方を含む)の影響を受ける度合いにも関係している。また、テンションの上がり方や下がり方、落ち込んだ状態から立ち直るスピードにも影響する(ダグラス・ストーン、シーラ・ヒーン)
フィードバックをもらったときに、生まれる感情は人によって異なります。同じフィードバックを受けても、脳の配線や人それぞれの感情によって、受け取り方が変わるのです。
自分自身の脳の配線やさまざまな傾向を理解すれば、ネガティブなフィードバックに対処する力が上がり、窮地から抜けだせるようになるとハーバード あなたを成長させるフィードバックの授業のなかで、ダグラス・ストーンとシーラ・ヒーンは指摘します。
脳は生存を第1に機能する。その機能の一つが、接近行動と撤退行動の管理だ。人には、心地よいと感じるものに近づき、苦痛に感じるものから遠ざかろうとする傾向がある。
私たちの脳は過去、現在、未来のコントロールが苦手です。例えば、将来的な成功のために短期的に苦労する、という状況に直面すると、脳は混乱し、その苦労を避けようとします。あるいは、短期的には心地よいこと、将来的には苦痛を生むこと(快楽目的のドラッグや不倫など)を目の前にしたときも、脳は接近するべきか撤退するべきかで悩みます。この脳の認知と現実の不一致によって、良いことが起こることがあれば、苦悩が生まれることもあるのです。
ネガティブなフィードバックを人からもらわずにすむ方法を私たちが見つけたとします。それ自体は心地よいと感じますが、長い目で見れば自分に不利益(周囲から取り残される、解雇される、単純に伸び悩む、といったこと)をもたらすかもしれません。また、自分のためになるフィードバックを理解し、それを実行に移せば、今後の自分のためになりますが、現時点ではそれにより苦痛を感じるかもしれません。
フィードバックをもらって気分の変化を経験するとき、脳や身体のなかで実にさまざまなことが起こります。フィードバックに対する反応には次の3つの状態が含まれます。
1、基準
「基準」はいわゆる普通の状態で、良いことまたは悪いことが起きて、良い方向または悪い方向のどちらかに気分が動くときの基準となります。
2、起伏
「起伏」は、フィードバックをもらったときに、基準からどの程度気分が上がった(下がった)かを表します。フィードバックに対して大げさな反応を示す人は、起伏が激しいということになります。反対に、穏やかでない知らせを聞いて平然としている人もいます。
3、維持と回復
「維持と回復」は、起伏が続いた期間を表します。ポジティブなフィードバックをもらって高揚した気分はできるだけ長く続くようにします。逆に、ネガティブなフィードバックをもらって落ち込んだ気分は、できるだけ早く回復させるようにしましょう。
自分が語るストーリーを変えよう!
フィードバックの受け取る際に、基準はどう関係するのでしょうか?まず、幸福度の基準が高めの人は、低めの人に比べてポジティブなフィードバックに肯定的な反応を示す傾向が強いことがわかっています。そして、幸福度の基準が低めの人は、ネガティブな情報のほうに強い反応を示します。
基準の位置に関係なく、感情の起伏が激しい人もいれば、穏やかな人もいます。 感情の波にすぐに飲み込まれる人も、ほとんど波立たない人も、必ず直面する問題があります。それは、脳の配線が、良いことより悪いことのほうを強調するという問題です。
扁桃体は、戦うか逃げるかを選択する脳幹に直接つながっている。だから、過去に恐怖と感じた出来事と重なる部分を扁桃体が見つけたら、体内に赤信号を警告する。脳には”青信号”に相当する警告がない。脅威が現れたことを直ちに知らせるパニックボタンはあるが、良い知らせを直ちに通達する機能は存在しないのだ。悪い知らせは良い知らせよりも感情に大きな声で伝わるため、必然的に影響力も大きくなる。(ジョナサン・ハイト)
人は危険(現実のもの、想定のものを含む)を探知すると、じっくりと考える役割を担う経路を回避して、瞬時に反応します。小さなアーモンド型を成すニューロンの集まりである扁桃体は、感情を司る辺縁系と呼ばれる部分の中心にあります。これが必要以上に悪いニュースに反応し、私たちを不安にさせます。
感情の起伏が激しい人も穏やかな人も、いずれ必ず自らの基準に戻ります。それにかかる時間もまた、人によって異なります。 研究者のリチャード・デヴィッドソンによると、ポジティブな感情が持続する時間、もしくは、ネガティブな感情から立ち直るのにかかる時間は、最大で3000パーセントの個人差が見られると言います。
ネガティブなフィードバックとポジティブなフィードバックでは、脳の処理に使用される部位が異なります。右脳と左脳では、得意とする働きも異なります。
脅威を警告するシステムは重要な機能ですが、 誤報も多いので、警報を切る方法を知っておく必要があります。この警告システムのカギとなるのは扁桃体ですが、システムの主導権は実は前頭皮質が握っています。ここで、フィードバックの内容に抱いた感情が統合されていきます。
前頭皮質は、扁桃体が起こす暴走を抑止したり、増大させたりすることができます。おでこのすぐ内側には前頭前皮質があります。ここでは、高次の条件づけ、判断、意思決定が行われます。前頭前皮質も脳のほかの部位と同様に、右半分と左半分に分かれています。
■恐怖、不安、苛立ちといったネガティブな感情→脳の右半分の活動が活発。
■楽しさ、希望、愛情といったポジティブな感情→脳の左半分の活動が活発。
脳の右半分(右半球皮質)の活動のほうが活発な人は、落ち込みや不安を感じやすく、左半分のほうが活発に動く人は幸せを感じやすいという仮説が生まれています。
テクノロジーの進化で、ネガティブな感情から立ち直る過程も明らかになりつつあります。扁桃体が恐怖や不安を強めている間に、脳の左側はその影響を抑えようと奮闘しています。つまり、左側が活発に活動できるかどうかが、落ち込みから立ち直るスピードに関係しています。
立ち直りが早い人は、左側の活動のほうが活発です。それに加えて、前頭前皮質の左側と扁桃体のあいだを走る配線(脳と別の身体の部位をつなげる神経系)の数も多い傾向があります。ポジティブな情報が、扁桃体に伝わる経路が多いということが明らかになりました。回復に有効な配線の数が多い人は、元気になれる信号を伝える専用高速道路を持っていますが、回復が遅い人は、狭い田舎道しか持っていないのです。
「維持と回復」の「回復」は、ネガティブなフィードバックをもらってどん底になった気分から立ち直る速さを意味します。
側坐核は「報酬の配線」 「快感の中枢」などとも呼ばれますが、ここはドーパミンを分泌する役割を担っています。ドーパミンが分泌されると、楽しい、欲しい、したいといった気分を促します。側坐核は前頭前皮質の左側上部につながっていて、ポジティブな経験によってドーパミンが分泌され、それによってポジティブな気分が高まり、さらにまたドーパミンが分泌されます。ドーパミンの分泌が続くことで、私たちは高揚した気分を維持できます。
嫌なフィードバックのことを思いだしたら、嫌な気分がよみがえってくることがあるように、 ポジティブなフィードバックを思いだせば、ポジティブな気分を長続きさせることができます。ポジティブな気分を維持しやすいと感じているときは、大きな幸せ(「顧客を獲得した!」)でも、小さな幸せ(「コーヒーが美味しい!」)でも、その瞬間に生まれる高揚の波に乗ることができます。
ポジティブなフィードバックは心に残るので、心の均衡を取り戻す一助となってくれる。 自分の心の状態を自分でコントロールできるという感覚は、人生で何が起きても自分の力で対処できるという自信を生む。そうすると、未来は明るいと楽観的に思えるようになり、何が起きてもうまく対処できると思えるようになる。
脳の配線が人の気質に関係すると言うと、脳の配線は固定されているから、自分の気質は運命として受けいれるしかないと考えがちです。しかし、脳の配線は固定されてもいませんし、気質も絶対に変えられないものではありません。
瞑想、奉仕活動、エクササイズなどを継続して行えば、自分の「基準」を上げることができます。また、トラウマになる出来事や落ち込むような出来事が、気質に大きく影響することもあります。
脳の配線は環境や経験に呼応し、時間をかけて変化するというる事実が明らかにされましたた。幸福感は50:40:10の割合で構成されています。幸福感の50パーセントは脳の配線によるもので、40パーセントは起きたことの解釈とそれに対する自分の反応、そして残りの10パーセントは、自分が置かれている境遇(どこに住んでいるのか、誰と住んでいるのか、どこで働いているのか、どんな人が周りにいるのか、健康状態など)になります。
幸福感を構成する40パーセントを私たちはコントロールすることで、私たちは幸せになれます。ペンシルベニア大学心理学部のマーティン・セリグマン教授は、自分自身の解釈や反応によって、心的外傷を負って抱えたストレスを成長の糧とする人もいると言います。
自分の身に起きたことや、誰かからもらったフィードバックをどう解釈し、どう対応するかで、腹立たしいフィードバックや失敗を、学びの機会に変えることは可能なのだ。しかし、そこには落とし穴もある。起きたことの解釈やその語り方には、感情が大きく影響する。腹立たしいフィードバックを もらうと、腹立たしいという感情がフィードバックの解釈を歪めてしまうのだ。
思考+感情=ストーリーという公式を信じるのなら、私たちは思考と感情の両方をコントロールすればよいのです。自分で自分に語るストーリーが感情と思考の産物ならば、感情か思考のどちらかを変えるように働きかければ、自分のストーリーを変えられます。起きたことの解釈をよりよく変えることで、幸せになれるのですから、相手からのフィードバックを上手に受け止めましょう。
フィードバックをもらって強い感情にとらわれると、過去、現在、未来を歪めて捉えてしまうことがあります。公正な目を取り戻し、もらったフィードバックを正確に評価できるようになるためには、自分の思考を巻き戻して、歪みを正すことから始める必要があります。相手からのフィードバックを現実的な目で受けとめることができたら、ようやくそこから学ぶことができるのです。
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