山口周氏の自由になるための技術 リベラルアーツの書評


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自由になるための技術 リベラルアーツ
著者:山口周
出版社:講談社

本書の要約

神と同じ視点を持つアメリカ人は、未来のことが見えるから、「足りないものをつくろう」と考えられるのです。彼らは現在のニーズに応えるのでなはなく、未来から逆算しながら、イノベーションを起こしています。アメリカ人は神の視点を持つことで、未来から発想できるようになったのです。

リベラルアーツが現代のリーダーに必要な理由

日本語では「教養」と訳されることが多いのですが、本来意味するところは「”自由”になるための”手段”」に他なりません。己を縛り付ける固定観念や常識から解き放たれ、”自らに由って”考えながら、すなわち、自分自身の価値基準を持って動いていかなければ、新しい時代の価値は創り出せない。そんな時代を私たちは生きています。(山口周)

『リベラルアーツとは、「自由になるための手段」にほかならない』と山口周氏は言います。日本の大学では、長年リベラルアーツが軽視されてきましたが、今の欧米の大学では、ここに多くの時間が割かれるようになっています。あらゆる環境が目まぐるしく変化し、予測できない時代(VUCA)を生きる私たちには、今、リベラルアーツの力が必須になっています。

リベラルアーツとは、人間が何を愛好し、何に深く感銘を受けてきたかという「人類のコナトゥス」の膨大なリストなのだと著者は指摘します。スピノザは、人間の最も本質を指し示すものとして、「コナトゥス」という言葉を用いました。(コナトゥス=人間の喜怒哀楽や心・感情が強く動かされる部分について表現した言葉)

人々が深く心を動かされ、長く広く共鳴を受け続けてきたものが、絵画、音楽、文学、哲学といったコンテンツとして残されてきたわけです。そうした積み重ねから成る歴史は、過去の人間たちが何を欲し、どう行動し、その結果に対してどう反応してきたかという記録にほかなりません。リベラルアーツを学ぶということは、一見遠回りに見えますが、人間というものの普遍的な本性について皮膚感覚で知るとともに、人間理解を深める最も効率的なルートだといえます。

一見遠回りに見えるリベラルアーツが人間理解を最も深めてくれる学問であり、これが現代のリーダーに欠かせなくなっています。現代の経営リーダーにとって重要な役割が、「質的な意味を与える」ということです。そのためには自分の中に広い世界観を持つことが重要で、そういった意味でもリベラルアーツは有効です。

現代社会では「共感」も一つのキーワードになっています。目の前の相手の思考の枠組みを捉えたければ、自分の中に広い世界観を持つようにすべきです。

リベラルアーツを使い、自分の世界観を養うことで、いま自分たちの仕事が「世の中」のどういう意味につながっているのか、そこにどうやったら貢献できるのかを考えられるようになります。自分の中に広い世界観を持ち、高い視座から考えていくことで、世の中の課題を発見できるようになります。

本書で著者は、哲学・歴史・美術・宗教など知の達人たちと対談を行い、リベラルアーツの力を探っていますが、今日は社会学者の橋爪大三郎の考えを取り上げます。

アメリカ人がイノベーションを起こせる理由

ハーバード大学の場合、基本的に学部は一つです。新入生は皆FAS(Faculty of Arts and sciences)、直訳すると「文理学部」に入り、将来どの職業をめざすにせよ、まずはリベラルアーツを学ぶ。それが建物の1階から4階に相当するわけです。だから、MBAのような大学院ではリベラルアーツ教育は行ないません。当然備わっているものだからです。ところが日本の大学は、入ると同時に学部に分かれるでしょう。一般教養科目はあるけれど、形ばかりだからリベラルアーツが身についていない。リベラルアーツの一つである宗教についても、よくわからないままになっている。(橋爪大三郎)

社会学者の橋爪大三郎氏はハーバード大学の歴史を遡り、牧師養成を目指した学校であることを明らかにします。ハーバードでは牧師があらゆる信徒の心に届く説教をするために、リベラルアーツが重視されたのです。牧師は世の中のことをよく知っておく必要があり、ハーバードでは学生の役に立つことをなんでも教えたのです。

MBAは建物でいえば、5階部分に相当し、1階から4階はリベラルアーツによって構成されています。その基礎部分では宗教が重要な科目になっています。宗教は国民性とは深く関係し、海外でビジネスを行うために、必要な知識になっています。

橋爪氏は西洋の近代化にキリスト教が、大きな影響を及ぼしたと指摘します。

近代化というのはビジネスの世界だけでなく、社会全体で起きることなのです。経済や産業、政治とそれに付随する法律、家族や教育、そして自然科学、あるいは哲学、芸術、歴史学などの人文学。これらが一緒になって社会を構成しているわけですから、それぞれの近代化・合理化が連動しながら進んだわけです。その根幹にキリスト教があった。

例えば、自然科学は、キリスト教徒、特にプロテスタントが、ギリシャ哲学から人間の理性という概念を取り入れ、理性を通じて神と対話する手段の一つとして発展させました。西洋音楽は教会音楽が基になって確立されていったものです。絵画や彫刻も、宗教美術が西洋美術の本流で、そこから静物画や風景画が派生していきました。このようにビジネスだけでなく、社会のあらゆる領域の近代化にキリスト教は深く影響を与えたのです。 

アメリカ人がイノベーションを起こせるのは、神という存在があるからだと橋爪氏は言います。

現在だけ見ていたら、できることは限られるでしょう。でも、もし未来が見えるなら、現在と未来の差をとることで、何が足りないかがわかってくる。足りなければつくればいい。そういうふうに未来を見ることがアメリカ人は得意で、日本人は得意ではないということでしょう。それはなぜかと言えば、アメリカには「神」がいるからです。人間は死ぬ。自分が死んだ後のことは知りようがないから、考えなくていい。人間しかいなければ、そういう現世主義的、近視眼的な考え方でも構わない。これに対して、神は死にません。天地創造のときからずっと地上のことを見ていて、これからも見続けていく。この視点があれば、まず歴史が書ける。つまり過去を持つことができる。そして現在だけでなく、未来も考えることができる。人間は死んでも神は死なず、こういう世界をつくろうとか、こういう出来事を起こそうとか、「予定」しているわけですから。

神と同じ視点を持つアメリカ人は、未来のことが見えるから、「足りないものをつくろう」と考えられるのです。彼らは現在のニーズに応えるのでなはなく、未来から逆算しながら、イノベーションを起こしています。アメリカ人は神の視点を持つことで、未来から発想できるようになったのです。

アメリカ人は開拓以来、フロンティア精神を養ってきました。フロンティアをめざすことが、神の視点で未来を見ることと結びついたことで、失敗を恐れず、新たなことにチャレンジする力を築いていったのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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