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真実をつかむ 調べて聞いて書く技術
著者:相澤冬樹
出版社:KADOKAWA
本書の要約
著者はNHKで森友事件の報道を続けたことで、閑職に左遷されてしまいます。その後、真実を明らかにするために、大阪のローカル新聞社に再就職し、スクープを連発しています。そのためには、しつこいぐらいの現場取材・裏どり・質問が欠かせませんが、事前に人間関係を構築していくで、それが可能になるのです。
人間関係を構築することが取材の肝
最初にコツを一つ明かしてしまうと、常に相手の立場になって考えるということだ。これはどんなビジネスでも言えることだと思う。取引先の身になって考えないと、営業はうまくいかないだろう。あるいは恋愛もそうだ。相手の身になって、相手のことを第一に考えないとうまくいかない。相手のことを考えない好意の押しつけは、ストーカーに過ぎない。実は取材の世界でも、一歩間違えるとストーカーと化してしまうことがある。そこに気づかないと、取材は単なる迷惑行為になってしまう。 人間関係をどうやって構築し、信頼関係を深めていくかは、すべての社会生活の基本だ。(相澤冬樹)
自民党の一党支配が続く中、メディアが権力に忖度する場が増えています。記者会見でも総理大臣に遠慮するメディアが増え、権力の暴走を許しています。貴社に対する不信感が高まる中、手にしたのが、元NHK記者の相澤冬樹氏の真実をつかむ 調べて聞いて書く技術です。
新米記者時代に相澤氏は上司から、自分で考えることを求められます。地方の警察周りを担当し、失敗を重ね、悪戦苦闘する中で、利己的な取材をやめ、相手との信頼関係を築くようになります。あらゆる人が情報源になり、普段からの蓄積が欠かせないことを学んでいきます。相澤記者は偶然の重なりから、ネタを見つけていきますが、仕事も実は偶然の積み重ねから生まれていきます。
記者がビジネスパーソンと決定的に異なるのは、その関係性です。記者は権力に近づきながら、飼い慣らさられずに、権力に不都合なネタを探り出すことが求められます。
本書には、昭和から平成にかけての様々な事故や事件が記者目線で紹介されています。私とほぼ同世代の相澤氏の体験から、その当時のことを記者目線で振り返ることができました。
新人には失敗がつきものですが、若い記者が先輩や取材先に愛されながら、成長していく様に共感を覚えました。上司たちの厳しい指導のもと、悩む相澤氏に若い頃の自分の姿を重ねました。今とは違い、上司は何も教えてくれず、新人は自分で考え、行動することが求められていました。
当時のビジネスパーソンは失敗を重ねながら、チャンスを見つける方法を学べたのです。ある意味、昭和の日本には余裕があり、若者の失敗を許容し、成長を後押しする文化が残っていたのです。
今、日本の記者に求められていること
夜回りや朝駆けは、それ一回ではほとんど成果を生まない。何度も繰り返し、失敗を重ね工夫をこらし、取材先との信頼関係を築いていく。無駄を承知で繰り返すうちに、自分の内側で取材力となって身についていく。これは例えば、格闘家がヒンズースクワットを繰り返すようなものではないかと思う。一回のスクワットは何も生まないが、百回千回と繰り返すと筋力体力となって身についていく。
取材先はどう思っているのか?何が大切なのか?取材先に配慮しながら報道するにはどうしたらいいのか?そういうことを真剣に考え抜いて取材することが大事だと相澤氏は言います。
取材先の本心を引き出すためには、人間関係の構築が欠かせません。未来のスクープのためには、苦手な取材先にぶつかり、厳しい質問をすることで、取材先から嫌われることもありますが、それを恐れてはいけないのです。
今、メディアは読者の存在を忘れ、政治家との馴れ合いに終始し、政治家から嫌われないことを優先しているように思えます。
他人に迷惑をかけない、嫌われないようにする、というのは美徳である。だけど記者の仕事、取材というのは、事実に迫ろうとすると、どうしても誰かに迷惑をかける、あるいは人の心に踏み込んで、悲しませたり嫌われたりする部分がある。そんな時「迷惑をかけるから」「嫌われるから」と言って取材をやめていたら、事実に迫れるだろうか?
「政治権力のメディアへの介入」が続く中、記者魂を失った多くの記者にこそ、本書を読んでもらいたいと思います。取材対象の政治家に嫌われることを今の記者たちは極端に恐れているように見えます。コロナ禍で政治が暴走し、間違った政策に歯止めがかかりません。
情報を隠蔽しながら、権力がやりたいことに邁進することで、弱者が増え、多くの日本人が不幸になっています。記者会見という儀式ではなく、政治家に対して疑問を呈し、それを報道することが、大手メディアに求められています。会見時にパソコンの画面に向かうのではなく、首相の目を凝視し、国民の疑問を真剣にぶつけてもらいたいものです。
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