ハーマン・サイモンの隠れたコンピタンス経営―売上至上主義への警鐘の書評


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隠れたコンピタンス経営―売上至上主義への警鐘
著者:ハーマン・サイモン
出版社:トッパン

本書の要約

世の中には、グローバルで活躍する優良な無名企業が多数存在しますが、著者は彼らを「隠れたチャンピオン」と名付け、その共通点を明らかにしました。私たちは隠れたチャンピオンから、顧客との関係の作り方、イノベーション 、チームワークなど多くのことを学べます。

隠れたチャンピオンとは何か?

大成功を収めた企業は数え切れないくらいある。だが、そのほとんどの企業は、ビジネス誌、経営学者、経営コンサルタントに紹介されておらず、無名のままである。このような企業が、世界一流の中小企業、つまり「隠れたチャンピオン」の世界である。(ハーマン・サイモン)

経営思想家のハーマン・サイモンは、世の中には規模が小さいにも関わらず、専門分野の世界市場で第一人者として成功を収めている企業がたくさんあると言います。彼はそういった力のあるニッチ企業を「隠れたチャンピオン」と名付けました。

隠れたチャンピオンの3つの基準
①世界市場で1位または2位の位置を占めている。
②中規模または小規模の会社で、かつ知名度が低い会社。
③隠れたチャンピオンは知名度が低い。

隠れたチャンピオンになるためには、市場の第一人者になることが求められます。

まず第一に、市場の第一人者の地位を望み、目標を定め、トップの地位を獲得する意志をもつこと。大半の隠れたチャンピオンにとって、市場の第一人者(できれば世界市場の第一人者)になるという目標はその始まり、つまり成功の土台にすぎない。明確な目標、長期的なビジョン、強固な決意、数十年にわたって目標を追求する意志がなかったら、隠れたチャンピオンの現在の地位はなかった。

隠れたチャンピオンは市場の第一人者になるという目標を掲げて、長期戦略を立て、その目標を達成します。中小企業では異動が少ないため、同じ人間が計画と実行を担当します。目標やビジョンが、従業員にしっかりと伝達されることで、メンバー全員が成長を目指せます。

市場の第一人者になることで、隠れたチャンピオンは以下のメリットを得られます。
・市場の第一人者になることは最高またはナンバー1と呼ばれる資格を持つと言う心理的な効果を得られます。
・市場の第一人者はコスト、マーケティング、広告宣伝、購買動機づけの点で、他社よりも有利な立場になれます。
・市場の第一人者になるという目標は、隠れたチャンピオンが現在のトップの地位を築く土台となります。
・目標設定や戦略決定が共有されることで、スタートアップのように成長可能。

ナンバー1になると言う単純な目標の方が、社員に伝達しやすく、共感も得られます。シンプルな常識的な目標が従業員が働くモチベーションになるのです。

隠れたチャンピオンの共通点は?

隠れたチャンピオンは市場を小さく定義します。

隠れたチャンピオンはその市場を狭く定義し、集中的にそこに取り組みます。

隠れたチャンピオンの市場定義は、次のような特徴があると著者は指摘します。
・顧客のニーズと製品・技術の視点の両方に配慮します。
・このような市場の多くが断片的かつあいまいであるにもかかわらず、市場を特化し市場に密着しているので、市場の情報が比較的十分に得られます。
・市場の定義や境界を既定の事実として受け取らず、戦略の一部とみなして積極的に支配します。数多くマーケットの隠れたチャンピオンが超すきま市場を創出し、一部の市場占有者は自社が支配する市場を自ら定義して、ユニークな製品を創出するのです。
・市場定義や製品ラインは広く浅くではなく、狭く深くなります。それに応じて価値連鎖は狭く長くなります。その結果、対抗しがたい市場特化と完璧さが生まれます。
・隠れたチャンピオンがいったん市場を選択したら、その市場に固執し深く関与します。市場や基本的な技術を定義しなおすことはめったにありません。
・隠れたチャンピオンは、狭い市場定義と市場特化の結果である単一の製品に社運を賭けてそのリスクを負います。この市場リスクは競争力の増大によって克服されると信じているのです。過度に市場特化した会社の中には、生き残るには小さすぎるすきま市場に追い込まれる会社もああります。一方、大企業は市場を特化することはあまりありません。

最適な戦略はおそらく、極端でも中間でもなく、強力な市場特化なのです。これこそ、隠れたチャンピオンの大半が下した結論だと著者は指摘します。

適切な市場定義や市場特化を見つけるのは至難の業だ。隠れたチャンピオンの成功は、市場の集中化・特化、競争力に基づいた方法を示唆している、これはすべての市場に当てはまる正しい答えではないかもしれない。けれども、各社が市場特化戦略をまじめに検討し、自社の立場を時々見直す必要はある。過度の市場特化の危険よりも、才能や資源を流出する危険のほうが深刻だ。ゼネラリストがスペシャリストに負けることはよくある。

これ以外にも、隠れたチャンピオンには以下の共通点があります。
■グローバリゼーション
隠れたチャンピオンは、顧客が来るのを待つのではなく、自ら海外に攻めていきます。

■顧客との真筆な関係
隠れたチャンピオンは、取引先との親密な関係をつくり、相互依存しています。彼らは複雑な問題解決能力やシステムを提供しています。彼らの競争力は価格の安さにあるのではなく、高い価値にあるのです。

■イノベーション

イノベーションは、隠れたチャンピオンにとっては、世界の第一人者の地位を築く柱である。多くの会社が新製品のパイオニアであり、市場の創出者である。製品や市場を開拓した会社が、継続して優位性を確立することもある。彼らの業績から、多くの貴重な教訓が得られる。

・イノベーションの必要性は会社の基本精神にはっきりと示され、社員にたたきこまれています。隠れたチャンピオンは、革新主義にあふれています。
・イノベーションは製品の形だけに限りません。事業のあらゆる側面に発明の機会があるのです。特に顧客の要求はイノベーションの機会を与えてくれます。イノペーションは、スリルあふれる突破口であるだけではありません。隠れたチャンピオンのイノベーションは、できるところから少しずつという形で行われます。どの事業でも、改良を続けたいと思ったら、あらゆる機会を見逃してはなりません。
・市場の創出は、イノベーションのやり方としては、最も効果的なものの一つです。しかし、新しい市場を創出することは困難を伴います。場合によっては、顧客の馴れ親しんだやり方を変える必要もあります。
・技術はイノベーションの最も重要な要素です。そして、発明に有利な環境は、イノベーションに好都合だと言えます。
・可能性を全面的に活用するためには、技術的なイノベーションは国際市場を目指さなければなりません。
・隠れたチャンピオンは、会社が技術と市場のどちらにも偏り過ぎてはいけないと教えてくれます。技術と市場は相対する物ではなく、補い合うものであり、両者ともイノベーションの原動力として同じ価値を持っています。
・広い視野に立って考えると、会社は資源を基本にした戦略(中から外へ)と、競争を基本とした戦略(外から中へ)の間で、中庸の道を模索しなければなりません。内部の能力と外部の機会がちょうど一致した時だけ、会社はすべての可能性を開花させることができるようになります。
・顧客は、発明のアイディアの貴重な源です。この知識の宝庫を活用するには、研究開発スタッフが直接顧客と接触すること、職務間の情報の溝を組織的に埋めること、顧客と共同開発することが重要です。
・イノベーションの成功は、従業員の熱意、質、企業精神、実行しようとする意志の問題であり、組織や財政資源の問題ではないと捉えましょう。

■競争優位性
隠れたチャンピオンは、他者には真似のできない優れた社内の能力を確保し、優位性を確率しているので、優位性は持続可能です。

■パートナー
隠れたチャンピオンは、顧客や従業員だけでなく、サプライアを大切にしています。

■チーム
隠れたチャンピオンは、従業員のやる気を引き出す能力が高く、素晴らしいチームを組成し、顧客やパートナーとの良好な関係を生み出します。最高の人材を引きつけ、それを維持するようにしましょう。

強いリーダーシップ
リーダーは会社の戦略立案に集中し、具体的な細いことは現場に任せるべきです。

本書でハーマン・サイモンが指摘するように、隠れたチャンピオンは、大企業とは異なる常識で経営されています。隠れたコンピタンス経営―売上至上主義への警鐘は古い本ですが、多くの真実が書かれています。ベンチャー・スタートアップの参考になるアドバイスも多く、私も時々読み返しています。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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