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ミッション・エコノミー:国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた
マリアナ・マッツカート
ニューズピックス
本書の要約
資本主義を変えるということは、政府のあり方、ビジネスのあり方、そして官と民の組織の関係性を変えることにほかなりません。政府自体をイノベーティブな組織に変え、パーパス志向の経済をうながすような力と能力を持たせることで、社会は再びパワーを取り戻せるのです。
ミッション・エコノミーとは何か?
コロナ対策として政府が引き起こした需要と供給の激減というダブルの打撃を受けて、サッチャー・レーガン型の経済社会モデルは崩壊し、世界経済は歴史上まれにみる大不況からやっとのことで浮上しつつある状況だ(イギリスのGDPは2020年に10%減少した。記録的な減少幅だった)。(マリアナ・マッツカート)
スウェーデン、ノルウェー、イタリア、南アフリカ、アルゼンチンなど各国首脳の経済政策顧問を務め、ビル・ゲイツ、ローマ教皇、トップCEOらに立場の違いを超えて支持され、ウィズコロナ世界で急速に注目を集める経済学者、マリアナ・マッツカートは、ミッション・エコノミーを採用することで、世界は再び力を取り戻すと述べています。
40年にわたる政府管理機能の弱体化のツケをアメリカとイギリスは、コロナ禍という最悪のタイミングで払わざるを得ませんでした。「政府は後ろに控えて、問題が発生したときにだけ介入すべきだ」という政治観が弱体化を招き、国民や企業を不幸にしたのです。
政府の力をバカにして民営化を推し進めてきたために、政府機能の多くが民間に委託され、間違った効率性が導入されました。マッキンゼーやデロイトなどのコンサル会社の力を高め、政府や官僚の力は弱体化し、コロナ禍を収束させるためのプランも作れず、右往左往することになったのです。アメリ力やイギリス政府では、マスクや人工呼吸器も確保できませんでした。
政府機能への投資が減ったことで、制度の記憶は失われる一方、コンサルティング会社への依存が高まり、莫大な金額がコンサルティング会社に流れ、国民に行き渡るお金が減ってしまったのです。日本でもパソナや電通に多額の金が支払われましたが、実際には中抜きが起こり、国民の不満が高まりました。
国に実行能力がなければ、危機において政府の介入は成功しないということだ。政府は生産、調達、公共の利益に資する官民協働、デジタルとデータの専門知識(プライバシーとセキュリティの保護も含めて)といった最重要領域で力をつけることに投資すべきである。市場の修正役に甘んじたり、外注に依存してはならないのだ。政府が力をつけなければ、パートナー企業と対等な立場に立てず、意のままに操られてしまいかねない。
世界が変化することで、資本主義が現代の課題を解決できなくなっています。私たちは以下の4つの大きな問題を抱えていますが、いずれの場合にも組織の構造や組織どうしの関係性が問題の一部にあります。
(1)内輪でお金を回しあう金融業界
(2)「株主価値の最大化」に奔走する民間企業
(3)気候変動危機
(4)「対処」するだけの政府
今こそ、私たちは資本主義を問い直す必要があります。
■資本主義を構築したいか?
■官民の関係をどう管理するか?
■すべての人々が生き生きと暮らしながら地球を守っていけるようなルールと関係性と投資の仕組みをどうつくるか?
そのためには、政府を内側から変革し、健康、教育、交通、環境などのシステムを強化し、経済に新たな方向性を与えなければなりません。官と民がリスクとリターンを分け合い、力を合わせてこの時代の喫緊の課題を解決いなければ、一部の勝ち組を除いた多くの人たちが今より不幸になるはずです。
政治と経済にパーパスとミッションが重要な理由
あくまで信念とビジョンに基づく計画だと思っています。この先にどんなメリットが待っているのか、今はわからないのですから。(ジョン・F・ケネディ)
ケネディは、アポロ計画というミッションを示すことで、ソ連との覇権争いに勝利するだけでなく、アメリカ経済にパワーをもたらしました。大胆なミッションが、あらかじめ予測できないテクノロジーや組織のイノベーションを生み出すことを予測していたのです。
すべての人が力を合わせ、ひとつの方向に向かっていく原動力になったのは、「自分たちは大きなミッションの一部だ」という気概でした。それは、政府が先頭に立ち、多くの人によって成し遂げられる壮大なミッションだったのです。
大規模で複雑な問題を小分けに分割する新しい組織管理手法もここから生ま、ボーイング社はこの手法をまねることで、世界初のジャンボジエット機747を開発できたのです。
感染症の世界的流行といった健康問題から、地球温暖化などの環境問題、またデジタル技術へのアクセスの不平等がもたらす学習機会と成果の格差といった教育問題などは、テクノロジーのイノベーションだけでなく、社会と組織と政治のイノベーションがなければ解決でません。これらの巨大な課題を解決するために、政治家は再び大胆なミッションを示すべきです。
1980年代以降、官僚は民間部門の補佐役以上の仕事を恐れ、リスクを避けるようになりました。しかし、技術革新の歴史を振り返ると、公共投資、とくに技術革新の初期に行われた投資によって、 民間投資家が二の足を踏むような長期リスクと不確実性を政府が引き受けてきたことがわかります。
多くの人が官僚主義が悪だという思い込みにとらわれて、官僚の手足を縛ると、人々のために価値を創造する能力への自信が官僚から失われていきます。政府の手足が縛られて、何がうまくいくのかを官僚が自由に探求できなければ、官僚は慎重になり、政府の志も萎んでしまいます。官僚には能力がないと考えることで、彼らの信念と創造性は押しつぶされてしまいます。
創造性を失った政府は、ますます人々のために価値を創造できなくなるのです。 ウォーレン・バフェットは「私が稼いだ金の大半は、社会のおかげだ」と述べていますが、市場と経済はまさしく、公共部門と民間部門と市民社会の関わり合いが生み出しました。
実際、アポロ計画には6つの際立った特徴がありました。
■強いパーパス意識を背景にしたビジョン
■リスクテイクとイノベーション
■柔軟で活発な組織
■複数の産業にまたがるコラボレーションと波及効果
■長期視点と結果重視の予算編成
■官民のダイナミックな協働体制
今こそアポロ計画のようなミッションという考えを取り入れるべきです。さまざまな問題の解決に必要な社会的・組織的・技術的なイノベーションを、できる限り多く、公共部門の調達政策によってうながすことが、政府、官僚、企業に求められています。
ミッション思考が、このところの資本主義を立て直すのに間違いなく役に立つ。大規模な改革の実現に必要なのは、これまでにない政治経済の筋書きであり、新しい共有言語だ。その土台になるのは、公共の「パーパス」が政策や企業活動を主導するという考え方である。そこには志が欠かせない。持続可能で公正な社会を担保できるように、官民の契約形態と関係性と広報を変えなければならない。
資本主義を変えるということは、政府のあり方、ビジネスのあり方、そして官と民の組織の関係性を変えることにほかなりません。「パーパス」という概念によって、組織の統治構造や組織間の関係を導くことが、ミッション志向アプローチの鍵になるのです。
政府にはまだやるべきことが数多くあると考え、今までの小さな政府という考えを再考すべきです。政府自体をイノベーティブな組織に変え、パーパス志向の経済をうながすような力と能力を持たせることで、社会は再びパワーを取り戻せるのです。
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