エンベデッド・インシュランスでもテスラが勝ち組になる理由


エンベデッド・ファイナンスの衝撃―すべての企業は金融サービス企業になる
城田真琴
東洋経済新報社

本書の要約

米国では自動車のオンライン販売サイトでも組み込み型保険(エンベデッド・インシュアランス)の実装が始まっています。テスラは顧客体験を高めることで顧客から圧倒的な支持を得ていますが、エンベデッド・インシュアランスの分野でも優位性を発揮し、勝ち組としてのポジションを確固たるものにしそうです。

自動車業界で進むエンベデッド・インシュアランスとは?

組み込み型保険とECサイトの相性のよさから、米国では自動車のオンライン販売サイトでも組み込み型保険の実装が始まっている。(城田真琴)

城田真琴氏のエンベデッド・ファイナンスの衝撃―すべての企業は金融サービス企業になる書評を続けます。金融以外の事業を展開する非金融企業が、既存サービスに金融サービスを組み込んで提供することが増えています。「金融以外のサービス提供企業(非金融企業)が、既存サービスに金融サービスを組み込んで金融サービスを提供する」ことを「エンベデッド・ファイナンス(Embedded Finance)」と言います。

エンベデッド・ファイナンスでは、以下の5つの領域が主要マーケットになります。
■エンベデッド・ペイメント(決済)
■エンベデッド・レンディング(貸付)
■エンベデッド・インシュアランス(保険)
■エンベデッド・インベストメント(投資)
■エンベデッド・バンキング(銀行)

今日は自動車業界のエンベデッド・ファイナンスを考えてみます。保険の組み込み型サービスを提供しているソルティSaltyを使えば、自動車購入時にスムーズに保険に保険加入できます。購入する車両が決定した消費者は、まず氏名、電話番号、郵便番号、VIN(車両識別番号)などの情報を入力します。

ソルティはAI(人工知能)によって、最適な保険会社と最適な補償内容を瞬時に算出し、見積りと共に消費者に提示します。契約内容が良ければ、このままソルティのオンラインサイトで契約できます。車の購入を決めた消費者は保険会社のウェブサイトを別途訪問し、補償内容などの検討に頭を悩ませることなく、購入~保険加入までをシームレスに行えるようになるのです。

テスラが変えるエンベデッド・ファイナンスの未来とは?

将来的に保険事業は収益の30~40%を占める可能性がある。(イーロン・マスク)

テスラのイーロン・マスクもこの組み込み型保険の可能性を示唆しています。 同社は2019年8月からカリフォルニア州のテスラ車ユーザーを対象に、Tesla Insuranceをの提供を開始しています(保険の引き受けはState National Insurance)。最近ではイリノイやテキサスも対象エリアになっています。

”Get competitive rates in California, Illinois, and Texas in as little as one minute. Insurance based on real-time driving behavior now available in Illinois and Texas.”

顧客は同社の保険申し込みページからわずか1分で見積りを取得しています。テスラ車両に標準装備されている「アクティブセーフティ(衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱防止など)」機能と先進運転支援機能を背景として(事故が発生しにくい)、保険料は従来の保険会社よりも最大で20~30%も安くなります。

同社の保険の特徴はメーカーの利点を生かし、車に追加のデバイスを取り付けることなく、車から直接、運転行動に関するデータを収集・分析することによって料金を決定していることです。

すでに多くの自動車保険会社は、ドライバーの運転の仕方によって料金が変動する「運転行動連動型」のテレマティクス保険を提供しています、しかし、データ収集のためにサードパーティ製のデバイスを後付けで装着する必要がありましたが、テスラでは追加のデバイスを購入する必要がないのです。

カリフォルニァ州で展開している自動車保険では、個人のデータではなく、全テスラ車両から匿名化して収集したデータを統計処理し、料金を設定しています。2021年10月からテキサス州で提供を開始した自動車保険では、契約者の住所や車種、走行距離、補償内容などのほか、運転行動をリアルタイムで評価する 「セーフティスコア」をベースに料金が毎月変動するというように大幅にバージョンアップしました。

セーフティスコアは、前方衝突警告の回数、急ブレーキ、急旋回、前走車との車間距離、オートパイロット使用時にハンドルから手を離していないか、といった5つの要素によって決まり、走行距離や走行時間は影響しないと言います。

従来の保険商品とは異なり、年齢や性別、配偶者の有無、事故歴、違反歴といった要素をすべて排除するという点がテスラの新しさです。テスラの保険では、保険に加入する前か後かにかかわらず、事故によって保険料が上がることはないのです。

インターネットから簡単に中し込める保険も増えていますが、車両の購入プロセスとは一体化していないため、車両情報を入力するのは手間がかかります。私もオンライン自動車保険加入する際に、このペインを感じていました。テスラでは車の購入と同時に保険の中し込みが可能で、さらにデバイスの取り付けも不要なため、消費者の負担は大幅に軽減されます。しかも料金も他社に比べて安価であれば、消費者には魅力的に映ります。

テスラは顧客体験を高めることで顧客から圧倒的な支持を得ていますが、エンベデッド・インシュアランスの分野でも優位性を発揮し、勝ち組としてのポジションを確固たるものにしそうです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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