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身体知こそイノベーションの源泉である
野中郁次郎
ダイヤモンド社
本書の要約
新しいものをひらめくのは、我を忘れて、無心になる時です。全身全霊で相手に向き合い、徹底的に知的コンバットをして、自我を超えた状態になること。そこで初めてフローの状態になり、自己を超える瞬間が来ます。イノベーションを起こすためには、身体知を大切にし、直感力を鍛えるべきです。
ナレッジマネジメントのSECIモデルとは何か?
ホンダの創業者の本田宗一郎は全身全霊で相手に向き合い、ともに悩み苦しみ、「俺ならこうするよ」と言いながら、徹底的に議論をしていました。そこでは無意識のうちに相手の視点になっているので、相互主観性が成立しているのです。これをさらにみんなの主観、つまり客観に持っていくには、何とか言語化する必要があります。本田宗一郎はうまく言葉にできない時には、絵を描いて、暗黙知を形式知化していました。形式知になると、対象化して分析できるようになります。(野中郁次郎)
知識には「形式知」と「暗黙知」の2種類があります。組織の個々の暗黙知を形式知に変えることで、組織を強くできます。野中郁次郎氏はこれを「知識経営(ナレッジマネージメント)」という経営理論に昇華させます。
ナレッジマネジメントは、SECIモデルと呼ばれるフレームワークに沿って実践できます。暗黙知から形式知へと知識を転換し、さらにまた暗黙知へと変えるスパイラルな構造が考えられ、そのプロセスは4つのフェーズに分類できます。暗黙知を形式知に変換するプロセスでは、身体知を意識することが重要だと野中氏は指摘します。
■共同化プロセス(Socializaiton)
暗黙知を暗黙知として伝える段階。共同化とは、経験を共有することによって、メンタルモデル(認知的=精神的暗黙知)や技能(技術的=身体的暗黙知)などの暗黙知を創造するプロセスです。暗黙知を共有する鍵は“共体験”です。
■表出化プロセス(Externalization)
暗黙知から形式知へと変化する段階。暗黙知を対話(ダイアローグ)や共同思考によって引き起こし、それを言語や図式化していきます。帰納法や演繹法といった論理思考も形式化の有力な方法論です。
■結合化プロセス(Combination)
異なった形式知を組み合わせて新たな形式知を作り出します。この結合化のプロセスにより、新しい知識が形成されます。このフェーズにより、従業員のもつ潜在的な暗黙知が組織財産として活かされるようになります。
■内面化プロセス(Internalization)
形式知が従業員の知識として内面化され、新たな暗黙知へと変化します。内面化とは、形式知を暗黙知へ体化(身体化)するプロセスです。行動による学習と密接に関連したプロセスです。形式化されたナレッジが、新たな個人へと内面化されることで、その個人と所属する組織の知的資産となります。
パーパスとストーリーが戦略に重要な理由
過去・現在・未来が一心体になって、動きの中で何が本質であるかが見えてくる。それが現象学の「本質直観」という考え方です。最初から理論や分析ありきではない。動きの中で本質をつかむのです。 身体知は大切です。幅のある現在では、過去に経験したことが身体記憶となって「現在」につながっていきます。
たとえば、剣道では、相手と間合いを取りながら、全身全霊で向き合います。ある瞬間打ち込むのですが、その時、過去から練習して蓄積してきた記憶と、相手の顔を見ることで、先読みができるようになります。
自律分散型のチームであるアジャイル開発の手法の一つのスクラムにも、現在がうまく活かされています。スクラムでは毎日みんなで集まって、最初に必ず振り返りをします。要求を価値やリスクや必要性を基準にして並べ替えて、その順にプロダクトを作ることで成果を最大化します。トータルで5分という時間的な制約がある中、しっかりと考えて本質的なことを議論する真剣勝負が行われます。こうした知的コンバットを毎日続けていくうちに、誰かの発言を聞いた瞬間に、次はこんな問題が起こりそうだと、先が読めるようになるのです。
新しいものをひらめくのは、我を忘れて、無心になる時です。子どもと違って我々大人が無心になるためには条件があります。それは全身全霊で相手に向き合い、徹底的に知的コンバットをして、自我を超えた状態になること。そこで初めてフローの状態になり、自己を超える瞬間が来ます。
人間は、未来志向で価値や意味を創造する存在です。そのような人間観を経営の基盤に置くことが重要だと野中氏は指摘します。
ストーリーは一人ひとりの主観から始まり、思いを持って動いていきます。それぞれの意味づけ、価値づけを互いにぶつけ合い、ワイワイと徹底的に議論していくうちに、より普遍的なものが見えてきます。普遍的な意味をつくって初めてコンセプト、理論、物語になるのです。戦略には人の生き方が凝縮されています。
意味づけ、価値づけからつくり上げた筋書きをいかに実現するかということを明らかにするためには行動規範が必要です。こうした場合に何をするかという行動規範を示すことで、目指す生き方を集合的に実現できるようになります。実践知を集合的に生み出すためには、倫理、パーパス、共通善(コモングッド)が重要になります。人を動かす戦略を作るためには、パーパスが必要で、そこからストーリーを紡ぐことで、人から共感を受けられるようになります。よりよい社会を目指すという共通善(コモングッド)もストーリーに組み込むべきです。
経営や価値を生み出す主体は人間であるにもかかわらず、既存の戦略論のアプローチは人間の主観や主体性を軽視しています。新規参入の脅威やSWOT分析をしても、「それらを何のために行うのか」「どんな物語を作っていきたいのか」などを言語化しなければ、人は主体的に動けません。
人間を中心に据えた戦略論のSECIモデルでは、Empathy(共感)とSympathy(同感)の両方を使います。
■Empathy→無意識のうちに感情移入して、他者の視点になること。
■Sympathy→相手の立場を見て「自分だったらこうしよう」と意識的に捉えます。他人の感情や行為の適切性を第三者の視点で判断します。
人間の「共感」をベースにしたマネジメントを行うことで、個々のメンバーの能力を引き出せるようになります。最近はコロナ禍で、出社頻度が少なくなっていますが、会社に行くことにも意味があります。相手に会った瞬間にその人の気持ちがすぐにわかり、問題があれば一緒に行動できます。
日本人は総じて共感する能力は強いのですが、問題は、そこから付度に向かってしまうこと。この点は徹底的な対話によって越えなければなりません。いずれにせよ、相手の気持ちになって、何とかしてあげたいと本気で悩む。それがないと、人を動かすことはできません。
人は身体を通していろいろなことを感じ、異なる主観を持ち、ぶつけ合い、共感し、価値を創造していきます。豊かな知識創造のためには、「知識が創造・共有・活用される結節点」と言う「場」を作ることが重要になります。SECIモデルのそれぞれのフェーズで最適な場を作るようにしましょう。
SECIモデルを活用し、一つひとつ新しい未来を意味づけていくのが戦略であり、生き方そのものだと野中氏は言います。イノベーションを起こすために、自分自身や他者と真剣勝負で知的コンバットをする場をいかに持つかが問われています。
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