集まる場所が必要だ――孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学
エリック・クリネンバーグ
英治出版
本書の要約
図書館や公園のような強力な社会的インフラが存在すると、友達や近隣住民の接触や助けあいや協力が増えます。逆に社会インフラが衰えると、社会活動が妨げられ、家族や個人は自助努力を余儀なくされます。健全な社会的インフラがある場所では、人間どうしの絆が強化できます。
社会的インフラが世の中をよくできる理由
健全な社会的インフラがある場所では、人間どうしの絆が生まれる (エリック・クリネンバーグ)
自宅でガーデニングをし始めてから、ご近所さんや散歩をしている見知らぬ人から話しかけられるようになりました。自宅の庭という小さな場が社会的インフラになることで、他者とのコミュニケーションが促進されます。
ニューヨーク大学の社会学教授のエリック・クリネンバーグは、図書館や公園、遊び場、学校、運動運動場、市民農園、教会などの人が集まる場所を「社会的インフラ」と呼んでいます。その社会的インフラをきちんとデザインして、構築し、維持し、投資すれば、私たちはコミュニティーとしても、個人としても、幅広い恩恵を受けられるようになるのです。
強力な社会的インフラが存在すると、友達や近隣住民の接触や助けあいや協力が増えますし、逆にそれが衰えると、社会活動が妨げられ、家族や個人は自助努力を余儀なくされます。図書館や公園のような健全な社会的インフラがある場所では、人間どうしの絆が生まれます。
子どもや高齢者など、住んでいる地区に縛られてしまう弱者にとっては、社会的インフラがとくに重要な意味を持ちます。また、低所得者にとって、私たちがサードプレイスと位置付けるスターバックスを利用することも厳しいのです。その際、公共スペースである図書館や学校が彼らを救う場になるのです。
図書館やYMCAや学校は、反復的な交流を提供して、長期にわたる人間関係を築けます。これに対して、遊び場や市場は、もっとゆるい人間関係をサポートします。
子どもたちが遊ぶ遊具の周りには、母親たちの親しい友人関係や、家族ぐるみのつきあいが無数に生まれます。近所のバスケットボールコートで、定期的にゲームに参加する住民は、支持政党や人種や宗教や社会的階級が異なる人と友達になり、多様性を学べます。
社会的インフラから得られるメリットとは?
強力な社会的インフラは、経済成長にも寄与する。
廃線や使われなくなった船のドックなど古くなったハードインフラを、歩行者が利用できる活気ある社会的インフラに転換することで、経済成長につながる事例が増えています。
ニューヨークの廃線の高架部分につくられた公園「ハイライン」は、ロウワーマンハッタンの不動産や商業開発に投資が殺到するきっかけになるとともに、社会活動を爆発的に増やしました。私も数年前にこの場所を訪れましたが、ここにはかつての危険なニューヨークのイメージはなく、街が豊かになっていることを実感しました。
老朽化したハードインフラを、社会的インフラと結びつけて復活させ、住民や観光客や商店や企業を呼びこんでいるプロジェクトもあります。ジョージア州アトランタの「ベルトライン」は、廃線となった全長35キロの環状線路に多目的トレイルをつくっています。
ニューオーリンズでは、自転車と歩行者向けのトレイル「ラフィット・グリーンウェー」が、それまで交流のなかった住民や地区を結びつけています。物理的インフラと社会的インフラを同時に強化することで、経済成長を生み出すだけでなく、社会的弱者を救うことも可能になります。
シカゴのスラム街にできた市民農園は、世代内および世代間の交流を促すことにより、住民の社会的孤立を低下させ、地域の結束と市民参加を推進し、近隣への愛着を育みました。市民農園を訪れたり、頻繁に通りかかったりする人のストレスレベルを低下させる効果もあります。
子どもたちは自然に対して肯定的な感情を抱き、科学にも関心を持てるようになります。市民農園はジャンクフードばかり食べている貧困層に健康的な食べ物をもたらしてくれます。
世界中で都市化と格差拡大が進むなか、より健全な環境づくりが早急に必要になっています。コロンビア大学のチャールズ・ブラナスのチームがフィラデルフィアで行った研究によると、都市貧困地区に小さな緑地をつくると、人々の健康状態を改善できると言います。 危険な空き地を手入れの行き届いた緑地に変えることで、ストレスを低下させ、健康を増進できるのです。
現代社会には、孤立や疎外感、不信感、恐怖を生む原因がたくさんあるかもしれないが、人口動態も、政治と同じくらい大きな困難を社会に突きつけている。ひとり暮らしをする人の数は史上最大となっており、アメリカでは65歳以上の人口の4分の1以上を占める。ひとり暮らしの高齢者は社会的に孤立するリスクがとくに高い。そして多くの研究によると、社会的孤立と孤独は、肥満や喫煙と同じくらい健康に影響を与える。
社会インフラを活用することで、人々を孤立させずに幸福度を高められます。著者は図書館などの社会的インフラは、地域を活性化するためだけでなく、人々が抱えるさまざまな問題を和らげる上でも必要不可欠であると指摘します。
フィンランドでは3世代が遊べる公園を作ることで、高齢者の孤独を防げるようになります。彼らがバランス遊具で体を動かすことで、転倒リスクが低減したと言います。体力が増強することで、外出機会も増え、心と体の健康を維持できるメリットも得られます。
また、現代人はインターネットやソーシャルメディアの恩恵を受けてきましたが、仮想空間の友達やインスタグラムのフォロワーは、社会生活の代わりではなく、それを補うものにすぎません。オンラインで生まれた友情は有意義かもしれませんがが、リアルの交流につながらない場合には不満を感じます。
著者はオンライン大学で長期的に学ぶことには限界があると言います。大学生活を非常に豊かにしてくれるキャンパスライフがないことで、人間関係やキャリアネットワークが構築できないという課題が明らかになりました。
今回のコロナ禍で、会社に出社し、仲間とコミュニケーションすることの重要性に気づいた人も多いと思います。
他者との真のつながりをつくるためには、物理的環境を共有できる場所である社会的インフラが必要なのです。
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