パーパスを実践する組織
サリー・ブラント, ポール・レインワンド
ダイヤモンド社
本書の要約
パーパス・ステートメントは以下2つの目的を果たすと言います。①戦略目標を余すことなく明確に描き出す。
②従業員の意欲をかき立てる。パーパスはモチベーションのカギであり、意欲的な従業員はパーパスを具現化するカギを握ります。この相乗作用をうまく利用すれば、企業は長期的に成長します。
パーパス経営が企業にもたらすもの
戦略を明確化し、従業員の意欲をかき立てるという、パーパスの2つの目的を果たすためには、まず「そのパーパスが自社ならではの価値を物語っているか」という本質的な問いに向き合い、そのうえで、従業員のパーパス実践を支援する体制、制度、リソースを整えることが必要になる。(サリー・ブラント, ポール・レインワンド)
パーパスは経営が日本でも話題になりつつあります。この書評ブログでも過去に何度もパーパス経営の重要性を指摘してきました。(パーパス経営の関連記事)最近になって、私の顧問先からパーパス経営に関する質問を受けることが多くなってきたので、今日は海外のケーススタディを紹介しながら、導入のハードルを下げるお手伝いをしたいと思います。
Brand Impact Report 2019は「Brands with purpose have grown 2x faster than others in the past eras」(存在意義のあるブランドは他者よりも2倍早く成長してきている)と報告しています。事業を通じて、誰かのためになることを実現していく企業や商品は、そうでない企業よりも多くの人々に感謝、応援されるようになるのです。パーパス経営を実践することで、熱狂的なファンを作れるようになり、結果、企業の成長も加速します。
ノースウェスタン大学 ケロッグスクール・オブ・マネジメント教授のサリー・ブラント, PwCの戦略コンサルティングを担うStrategy&のグローバル・マネージング・ディレクターのポール・レインワンドの2人は、パーパス・ステートメントによって、以下2つの目的を実現できると述べています。
①戦略目標を余すことなく明確に描き出す。
②従業員の意欲をかき立てる。
従業員が組織のパーパスを理解して受け入れると、よい仕事、さらには最高の仕事をしようと言う気持ちになるだけでなく、目標を達成しようという意欲も高まります。
戦略の明確化と従業員の動機付けをパーパスで実現するには、まず本質的な問いに向き合わなければならない。「そのパーパスは、自社ならではの価値を物語っているか」であり、その問いに対峙したうえで、従業員がパーパスに命を吹き込むご とを支援する体制、制度、リソースを整えることが必要になる。
パーパスを設定する際には、従業員、顧客、投資家に対して以下の3つを明らかにすべきです。
1、何のために存在しているのか?
・私たちは誰のニーズを満たすために存在しているのか?
・自社独自の方法でそのニーズを満たすためには、どうすればよいか?
・顧客にどんな価値提供をすれば、お金を支払ってもらえるようになるのか?
2、どのようなビジネスを行い、どんな理念に基づいて意思決定を下しているか?(従業員だけでなく、ステークホルダーも意識する)
どんな職場体験、顧客体験、対人関係を作り出そうとしているか?それがパーパスにどう結びつき、パーパスの実現に役立つかを従業員に理解してもらいます。
3、何年後かに目指したい場所はどこか?
自社の存在意義をパーパスに効果的に落とし込めているかを確認するために、次の3つの問いかけを行いましょう。
●自社のパーパス・ステートメントは、自社製品・サービスを購入してくれる顧客やユーザーにとって有意義か。自社が大なり小なり向上させようとしているのは、誰の生活やビジネスかが明確になっているか。
●自社のパーパスは自社ならではのものか。自社が撤退したとすれば、市場にはどんな穴が開くか。
●自社は、このパーパスを掲げるにふさわしい企業か。そのパーパスで成果を上げるケイパビリティが自社にあるか、もしくは構築できるか。競合他社よりも、効果的で効率的にパーパスを遂行できるか。
レゴとアップルのパーパス経営とは?
世界最大の玩具メーカーのレゴの元CEOヨアン・ヴィー・クヌッドストープは、数年前に経営に失敗した際に反省し、「何のために存在しているのかという根源的な問い」に向き合い、「自社ならではの優位性がある分野でのみ事業を展開する」方向に舵を切ったと言います。
レゴは「遊びと学習を通して、子どものクリエイティビティの育成」と言うパーパスをつくり、レゴ中心の経営にシフトしました。同社は大規模な事業再生プログラムに乗り出し、核となるパーパスにそぐわない事業を売却したり、打ち切ったりしました。その一環で、4つのテーマパークとテレビゲーム開発部門を売却しました。
彼らは顧客のために、無数の組み合わせが可能な魅力的なブロックを設計し、パーパスを実現します。さらに、あらゆる年代の熱心なファンが参加できるコミュニティを、オンラインとオフラインで構築しています。レゴ社がコミュニティを構築する目的は、継続的な対話、学習、クリエイティビティの発揮、イノベーションの促進を加速することです。
同社は以下のネットワークを構築し、顧客との絆を強くしています。
■アンバサダー・ネットワーク
大人のファンを対象とした、コミュニケーションとサポート提供のプラットフォーム
■レゴ・アイデアズ
ユーザーがレゴの新商品を提案するウエブサイト
■レゴ・コンテストギャラリー
ユーザーのレゴ作品を一覧できるギャラリー
■レゴ・ライフ
子ども向けのソーシャルメディアネットワーク
この20年間で、レゴのユーザーグループは確認できているだけで11から328に急増し、アクティブユーザーは合計で数十万人に増加しています。ユーザーが投稿したレゴ作品の写真やイラスト、作成方法は45万件を超えています。
ファン活動がレゴ制作のアイデアの原泉になり、交流の場を生み出しています。これらのコミュニティがレゴがパーパスを実践するうえで不可欠な要素になっているのです。
アップルもパーパスで変化した会社の一つです。「違う考え方に価値があると信じる人たちを勇気づける」がアップルのパーパスですが、これを実現するためにスティーブ・ジョブズはデザインチーム全体の地位を引き上げました。優れた人材を集めて、ハードやソフトウエアのユーザーインターフェース、店舗体験など、幅広い製品やサービスを生み出したのです。このデザインにこだわる姿勢が、アップルの圧倒的な強みになり、それに共感した熱狂的ファンが数多く生まれました。
ジョナサン・アイブを最高デザイン責任者に指名し、彼を経営陣にすることでデザインを重視する姿勢を明らかにしました。アイブを厚遇することで、デザインチームの業務が生み出す価値と、社内の各部署との密接な結び付きを全従業員に強く印象付けました。
アップルは世界屈指のプロダクトデザイナーだけでなく、ファッション業界や小売業界のトップデザイナーをも引き寄せ、彼らに素晴らしい仕事をさせることにします。
アップルは自社のパーパスを実践するためには、デザインが不可欠だと見抜き、周囲に知らしめることで、大きな成功を手にしたのです。
優れたリーダーは従業員に優先事項を伝えたり、従業員や顧客と接する姿を周囲に見せたりなど、日々の発言や行動を通じて自組織のパーパスを実践しています。
自社が製品やサービスを提供する相手は誰か、そうした顧客に自社ならではの価値をどのように提供するのかをしっかり理解し、その理解を拠り所として、自社の長期的な健全性を築くことが重要になります。
パーパスはモチベーションのカギであり、意欲的な従業員はパーパスを具現化するカギを握ります。この相乗作用をうまく利用すれば、企業は長期的に発展します。
コメント