映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~(稲田豊史)の書評

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映画を早送りで観る人たち~ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形~
稲田豊史
光文社

本書の要約

インターネットが普及したことで、以前に比べて流通する情報は何百倍にもなっています。それをチェックするためには、お金と時間の投資が欠かせません。時間的にも、金銭的にも、精神的にも余裕のない若者は、コスパを重視し、倍速で情報を消費することを選択します。

なぜ、若者は倍速で映画やドラマを見るのか?

映画やドラマの倍速視聴には抵抗があっても、ニュースや情報番組の録画を倍速視聴することには抵抗がない、という人は少なくない。なぜ抵抗がないのかといえば、前者が「芸術鑑賞」、後者が「情報収集」だと分けて考えているからだ。 もし、ある種の映画やドラマも情報収集の対象だという認識ならば、効率的な摂取のために早送る行動には、なんの疑問もない。(稲田豊史)

私は大学で教えるようになってから、Z世代と過ごす時間が増えていますが、彼らは失敗を嫌がり、コスパやタイパ(かけた時間に対する満足度)を重視します。お金や時間を使ったなら、その満足度を高いことが評価基準になっているのです。

以前は映画館で見るものであった「作品」が、最近ではサブスクで気軽に視聴できるようになりました。低額な月額料金が自動的に引き落とされ、「一定範囲内の作品を1ヶ月間自由に観られる権利」によって、お金を払っているという感覚が希薄になります。

結果、作品を鑑賞するという感覚が、コンテンツ消費態度に変わり始めます。映画やドラマも鑑賞するのではなく、情報収集の一環として倍速で見ることが当たり前になってきたのです。

実際、Z世代にはネタバレ消費と呼ぶべき習慣が根付いています。彼らは失敗したくないために、事前に倍速で情報を得てから、改めて丁寧に映画やドラマを鑑賞すると言うのです。

コスパ(タイパ)重視の人たちは、とにかく無駄撃ちを嫌う。最小の労力で最大のリターンを得ることに無上の喜びを感じる。

私の周りの学生も「回り道」や「コスパの悪さ」を嫌います。ケーススタディの授業でもネットで先回りをして、答えを探そうとします。考えることに時間を費やすのではなく、結果を先に知り、そこからケースを議論しようとします。

インターネットが普及したことで、以前に比べて流通する情報は何百倍にもなっています。それをチェックするためには、お金と時間の投資が欠かせません。時間的にも、金銭的にも、精神的にも余裕のない若者は、倍速で情報を消費することを選択します。

忙しく日常に疲れを感じている彼らは、自分にとって快適な視聴方法で観ることを優先します。不快だったり、退屈なシーンはスルーし、次々にコンテンツを消費し、周りの若者とのコミュニケーションに乗り遅れないようにしているのです。

テクノロジーが変えた若者の視聴態度

つまるところ倍速視聴は、時代の必然とでも呼ぶべきものだった。人々の欲求がインターネットをはじめとした技術を進化させ、技術進化が人々の生活様式を変化させる。その途上で生まれた倍速視聴・10秒飛ばしという習慣は、「なるべく少ない原資で利潤を最大化する」ことが推奨される資本主義経済下において、ほぼ絶対正義たりうる条件を満たしていたからだ。

2017年、フルーラ・バーディとギアナ・エカートが「リキッド消費」という現代的な消費の概念を提唱しました。このリキッド消費が映画やドラマ鑑賞でも起こっているのです。

リキッド消費の3つの特長
①短命……短時間で次から次に「移る」ような消費。
②アクセス・ベース……ものを購入して所有するのではなく、一時的に使用や利用できる権利を購入するような消費。たとえばレンタルやシエアリングはその典型。
③脱物質的……同程度の機能を得るために、物質をより少なくしか使用しないような消費。

倍速視聴、10秒飛ばし、ネタバレ消費を実現したのは、テクノロジーが進化することで、コンテンツが速く手軽に手に入れられるようになったからです。最短時間・最小の労力で情報を入手でき、嫌になったらすぐ離脱できる感環境が、若者の視聴態度を変化させたのです。

実際、私もKindleの読み放題サービスのおかげで、ビジネス書を大量に速読しています。Amazonで自分が欲しい情報を探し、ビジネス書をkindleで速読することで、短時間で情報を得ることが可能になりました。私もZ世代と同じで態度で、タイパを重視していたのです。ただ、彼らと私が異なるのは、好きな著者が見つかった時には、その作品との対話に時間を使うことです。

大量のコンテンツが溢れる時代には、良い作品に出会うために倍速視聴をすることは否定できません。Z世代などの若者がマーケットの主役になる未来には、やがて倍速派が主流になるはずです。しかし、良い作品に出会えたなら、それを深掘りしてじっくり鑑賞することも大切です。このバランスを取ることが人生をより豊かなものにしてくれるのではないでしょうか?



 

 

 

この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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