パーセプション 市場をつくる新発想
本田哲也
日経BP
本書の要約
人の行動を変えるには、まずパーセプションを変えることが重要にになります。興味から検索される時代には、認知を上げることだけでなく、パーセプションを変容させることを目指すべきです。新しい現実、新しい市場は人々の新しい行動がつくり、その行動を変えるものこそがバーセプションであることを理解し、自社のマーケティングに取り入れましょう。
新たな市場を創造するためのパーセプションの5段活用とは?
商品・ブランドに向けられる「世の中の認識を変える」ことが、新しい市場をつくる上では欠かせない。(本田哲也)
マーケティングにおける「パーセプション(第三者から見たモノゴトの見え方や捉え方)」を経営者やマーケターはもっと意識すべきです。顧客の認識を変えること(パーセプションの変容)によって、新たなマーケットを創造できます。顧客からどのように認識されるかによって、企業の成長が左右されるようになってきました。
トレンドの発生や移り変わり、そして衰退の裏には、常にパーセプションの変化が潜んでいます。パーセプションをコントロールすることで、トレンドを生み出すことができると著者の本田哲也氏(本田事務所代表/PRストラテジスト)は指摘します。SNSの普及により興味対象外の情報が排除される中で、認知を高める施策だけでは、顧客が動いてくれなくなっています。
生活者のパーセプションを変えるマーケティングを行うことで、売上アップやブランドイメージを高めることも可能になります。
■パーセプションの5段活用
1、パーセプションを「つくる」ー新たなる認識の創造
パーセプションを新たに「つくる」ことは、市場創造そのものです。世の中のどこに新しいパーセプションをつくる余地があるか?という問いから発想することで、新しい市場やビジネスを創出するチャンスを得られます。P&Gはアリエールのマーケットを拡大するために、除菌を訴求する戦略PRを行い、通常の洗濯では菌は残っているという新たなパーセプションを生み出し、顧客の行動を変容させました。
2、パーセプションを「かえる」──認識変容の実践
パーセプションチェンジとは、商品やサービスに対しての既存のパーセプションが、何らかの状況変化や仕掛けによって「かわる」ことです。
商品やブランドのパーセプションを自分たちが望むように変化させたいのであれば、世の中の「空気の変化」をよく読み、中長期的な視点でプロジェクトを策定し、遂行していく必要があります。この空気を読むことに、パーセプションチェンジの鍵があります。
3、パーセプションを「まもる」──好ましい認識の維持管理
バーセプションを守る場合、シチュエーションは2つに大別できます。
・対象に何らかの敵がいる、あるいは危機がある場合。好ましいバーセプションを文字通り「まもる」ことが求められます。
・敵が自分自身の場合。老舗の企業やロングセラーの商品の「のれんを守る」ためにパーセプションを守る必要があります。
4、パーセプションを「はかる」
パーセプションの貢献度を正しく測ることは、容易ではありません。パーセプションは消費者からの視点なので、把握する手段が限られます。また、パーセプションは、生き物のように限りなく変化するからため、把握が難しくなります。パーセプションの計測には独自のノウハウが必要になります。
5、パーセプションを「いかす」
コミュニケーションの対象は多種多様に広がっています。 現代がボーダーレスでグローバルな時代である以上、異なる国や文化、リテラシーへの対応も必要であることに加え、LGBTQ(性的少数者)や障害を持つ方々など、マイノリティーへの対応も大切になります。コミュニケーションの対象を広げるためには、多様なステークホルダーと多様な価値観に対応しなければならないのです。
パーセプション・チェンジを起こすためのPRミラミッド
信頼できる情報に十分に触れて、その結果ジワジワと自分のモノの見方が変わっていき、最後にはコップの水が溢れるかのように、具体的な行動に変化が現れる。それによって、商品が売れたり、サービスの会員が増えたりして、ビジネスや事業目的の達成につながる。
以下のPRのミラミッドを活用することで、ビジネスで結果を出せるようになります。
・パブリシティ(メディアへの露出)
客観的な情報としてメディアに露出されることで広告情報と差異化され、顧客のパーセプションを変えられます。
・パーセプション チェンジ(認識の変化)
人々に共通の見方を与えることで、顧客の行動を変えることにつながります。
・ビヘイビア チェンジ(行動の変化)
情報が世に出て、それに触れた人々のバーセプションが変化します。その結果、それまでの行動が変わったり、新たな習慣が始まります。
会社や製品の認知ばかり上がっても、それが世の中や自分に必要なモノだと認識されなければ、行動変容にはつながらない。大切なのは、どういうバーセプションを世の中に送り出すべきかを明確化し、つくることだ。そしてバーセプションの明確化は、消費者の行動変容のみならず、社員の行動にも影響を与える。
Sansanは営業活動、PR、TVCMを組み合わせることで、これまで個人が所有するものだった名刺と人脈を会社が管理するものに変えました。名刺は企業の資産であり、人脈は共有できるというバーセプションをつくり上げることに成功します。
これまでなかったサービスが、固有のパーセプションを世の中から獲得することで一気に浸透することをSansanが証明したのです。
バカルディジャパンはカレーメニューとの組み合わせ提案を行うとことで、ジントニックをカクテルの一種から、大衆的なアルコール飲料へと変化させることに成功します。ボンベイ・サファイアという製品ではなく、市場拡大を狙いジントニックというカテゴリー自体のバーセプションに変容を起こしました。
著者は以下の4つの視点のパーセプション発想を行うことで、顧客から支持されるだけでなく、イノベーションを起こせるようになると言います。
視点1、消費者を大義とするマーケティングへの回帰
視点2、コーポレートブランドとプロダクトブランドの区分けの消滅
視点3、市場創造の新たなアプローチ
視点4、ナラティブな時代における目的意識
人の行動を変えるにはまず認識を変えよ、ということだ。新しい現実、新しい市場は人々の新しい行動がつくり、その行動を変えるものこそがバーセプションなのだ。
まず、消費者から自社がどう思われているかを認識し、理想と現実のギャップを埋めるために、顧客のパーセプションを変容させ、購買行動に結びつけましょう。その際、戦略PRが効果を発揮します。
本書で紹介されているCuzen Matchaの塚田氏はアメリカでの抹茶のパーセプションを変えますが、CES後の彼の動きを何度か取材していたので、パーセプションの変容の起こし方を本書で再認識できました。また、インド進出のキッコーマンや女性を新たに顧客にするためのGoProの戦略PRの事例は面白く、アイデアづくりの参考になります。マーケッターにお勧めしたい一冊です。
コメント