AI 2041 人工知能が変える20年後の未来
カイフー・リー, チェン・チウファン
文藝春秋
本書の要約
AIの進化が未来を変えることは間違いありません。私たちはAIがもたらす莫大な富の恩恵を受ける最初の世代になります。AIにより生産性が高まることで、多くの商品やサービスの価格は低下し、豊かな生活を送れるようになります。AIは私たちを単純作業から解放し、自由に生きられるようにしてくれます。
AIが変える未来。2041年の未来予測とは?
AIは汎用技術であり、ほとんどあらゆる産業に浸透する。その影響は四つの波となってあらわれる。まずインターネット上のアプリケーション。そのあとはビジネスむけ(金融サービスなど)、知覚分野(スマートシティなど)、自律分野(自動運転車など)となる。(カイフー・リー, チェン・チウファン)
AIが私たちの生活に侵食しています。やがてあらゆる産業でAIが使われるようになり、未来の働き方は激変すると言われています。本書では2041年のAIの未来とその実像を様々な視点で予測しています。今から20年後に80%の確率で実現しているテクノロジーが紹介されているため、現実的なシナリオが描かれています。著者たちが描く10の短編を読むことで、2041年の世界をリアルにイメージできます。
2041年の未来は捉え方によりポジティブにもなりますし、ネガティブにもなります。今後、ディープフェイク技術が進化することで、フェイク動画が蔓延することは間違いありません。 ディープフェイク検出ソフトは2041年までに、現在のウイルス対策ソフトとおなじ標準装備になっていると著者は指摘します。政府や報道系のような情報の質を重視するウェブサイトに偽物のコンテンツが混入することは許されません。
強力なコンピユータで訓練されたGAN(Generative Adversarial Network=敵対的生成ネットワーク)による高解像度ディープフエイクでも発見できるように、高性能のディープフェイク検出ツールを組みこむことで、偽情報を発見、排除します。
大量の画像や動画をあつかうFacebookやYouTubeは、アップロードされるコンテンツすべてに強力なディープフエイク検出をかけるのは困難だと著者たちは言います。メディアコンテンツ全体には低水準の検出をかけておき、トレンドに上がってきた動画や画像を高水準の検出ツールで確認するという運用になるため、私たちは偽情報に注意を払う必要があります。
ディープフェイクを100パーセント検出することは難しいですが、別のアプローチで解決できるかもしれません。すべてのカメラやスマートフォンで撮影される写真や動画に、ブロックチェーン技術をもちいた証明書を一つずつつけるのです。この技術を使えばそれがオリジナルで、かつ改変されていないことを証明できます。ウエブサイトにアップロードするときはかならずブロックチェーン証明書を提示させることで、ディープフェイクを排除できるようになります。ただしこの方法も2041年の導入は難しいため、対応策を練る必要があります。
悪意あるディープフェイク作成には法律で厳罰に処す必要があります。実際、カリフォルニアはディープフェイクによるポルノ作成や、選挙が近い時期に候補者の動画や画像を改変することを禁止する法律を2019年に成立させています。
GANには以下のような建設的な利用法があります。
・写真の人物の老化や若返り加工
・白黒映画や写真のカラー化
・動く絵画(モナリザなど)の作成
・解像度の向上
・緑内障の発見
・気候変動による影響の予測
・新薬開発
AIには当然ポジティブな面もあります。人間が日常的に使っている自然言語をコンピュータに処理させるテクノロジーである自然言語処理(NLP)が未来の教育を変えていきます。あたかも人間のようなAI教師やAIコンパニオンを教育に導入することで、創造力、コミュニケーションカ、情緒を育てられます。AI教師やAIコンパニオンは人間のように話し、聞き、理解できるの で、子どもの成長に劇的な効果をもたらしてくれます。AIは人間の教師を大きく補完し、教育の未来を広げてくれます。
AIの導入で劇的に教育コストは下がり、より多くの子どもたちが平等に学ぶ機会を得られるようになります。トップクラスの教師や教育コンテンツが開放され、コストがゼロに近いAI教師が世界中で導入されることで、教育機会が広がり、生徒一人一人の能力を引き出せます。
AIやロボティクスが変える2041の働き方
自動化が進むのは、歴史的に見て経済の変調と技術の成熟がかさなったときだ。会社が従業員をロボットにおきかえ、その効率性を経験したら、もうあともどりはしないだろう。ロボットは病気にならず、発作を起こさず、危険手当も求めない。
自動運転が普及することで、アメリカ人は運転に使っていた時間を余暇に使えるようになります。テクノロジーが進化すれば、死亡事故をなくせるというメリットを得られる一方で、ドライバーは確実に仕事を奪われます。AIはブルーカラーだけでなく、ホワイトカラーの仕事も変えていきます。
AIは今後、新たな力ースト制度を生み出します。AI時代のカースト制度は、一握りのAIエリート、比較的少数の特別な労働者、大多数の無力で苦しむ大衆の3回層に分かれると著者たちは指摘します。
多くの人たちが仕事を失うことで、人生の意義が失われます。人間が人生をかけて習得してきた技能を、アルゴリズムとロボットに代替されることで、人々は喪失感と無力感を抱くようになり、アルコールや薬物に依存します。うつを患ったり、自殺をする人たちも増加します。
しかし、AIがもたらす未来はネガティブなものだけではありません。私たちはAIができない業務にシフトすることで、自分らしさを発揮できます。創造性、共感、器用さなどは2041年でも人間の能力が、AIを上回ると著者たちは指摘します。私たちはAIやロボティクスに奪われない新しい働き方を探求すべきですし、ベーシックインカムや働き方の再教育のプログラムを用意することも求められます。
私たちはAIがもたらす莫大な富の恩恵を受ける最初の世代になります。AIにより生産性が高まることで、多くの商品やサービスの価格は低下し、豊かな生活を送れるようになります。AIは私たちを単純作業から解放し、自由に生きられるようにしてくれます。
未来の時間をどう生きるかは、私たち一人ひとりの選択にかかっています。単純作業からの解放や飢えや貧困が消滅する中で、私たちはAIと共存しながら、自分らしく生きられるようになるのです。私は著者たちが最終章で描くポジティブな未来を信じ、インプットとアウトプットを重ねたいと思います。
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