収益多様化の戦略―既存事業を変えるマネタイズの新しいロジック(川上昌直)の書評

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収益多様化の戦略―既存事業を変えるマネタイズの新しいロジック
川上昌直
東洋経済新報社

本書の要約

利益イノベーションは、企業を窮地から救い、新たなビジネスモデルを生み出します。価値創造だけでなく、利益イノベーションから顧客と向き合うことで、企業は成長を持続できるようになるのです。利益イノベーションと価値創造イノベーションの好循環を生み出すために、利益を上げることを経営者は考えるようにしましょう。

価値創造と価値獲得とは何か?

今、日本企業は、低利益で苦しんでいるところが多い。ROE(株主資本利益率)レベルで見ても、ROIC(投下資本利益率)レベルで見ても低すぎるのだ。川上昌直

安くていいものをつくり、顧客に支持されてきたのが日本企業のものづくりが、環境が変化する中でもたなくなっていると兵庫県立大学国際商経学部教授の川上昌直氏は指摘します。日本企業は今こそ、方向転換を行い、価値創造に価値獲得を掛け合わせ、利益を上げながらイノベーションを起こすことを考えるべきです。

企業は、「価値創造」と、「価値獲得」によって持続的な存在が可能になります。
価値創造
顧客に価値を提案することと、それを生み出す提供プロセスから成り立っています。(付加価値を生み出す活動)
■価値獲得
価値創造で生み出された価値から企業が利益を収穫する行為。  

企業は、価値を創造し、提供することで、顧客から利益を得ています。価値創造を続けるためには、先立つカネ、すなわち企業の活動原資となる利益が必要になります。適正利益を獲得するためには、いくらに価格を設定するのかという意思決定が重要になます。価格設定(プライシング)によって収益を生み出すこの行為は「収益化」と呼ばれます。

顧客の「支払意欲」(WTP: Willingness To Pay)とは、ある製品に顧客が支払ってもよいと思っている金額です。その製品に顧客が率直に感じ取った魅力を、金銭的に表現したものになります。一方、「コスト」は、プロダクトを生産し、販売するのにかかる費用を指します。顧客が喜ぶ製品を届けるための提供プロセスを最適化することで、全体的なコストを低下できます。

顧客の支払意欲を上げ、それをつくり出すためのコストを下げることができれば、生み出される価値は大きくなります。企業は、さまざまな努力を経て、今以上に価値を高める活動を継続することで、価値創造は循環していくのです。

日本のものづくり企業は、価値創造と価値獲得に特化したやり方で、他国のメーカーが提案した便益を上回るものを、他国よりも安くつくる方法を生み出して、価値創造につなげてきました。競合より比較的低価格を付けることで、顧客価値と利益の両方を上げる戦略で戦ってきました。

しかし、顧客価値を生み出すために価格を下げていけば、当たり前ですが利益は希薄します。現代のように、人々の価値観が劇的に変化すると、価値創造自体が難しくなり、日本企業は以前のように利益を上げられなくなっているのです。

価値創造では利益が出ない時代に突入し、その中でどう事業を変えるのかについて真正面から取り組まなければならなくなったのだ。ここで世界に目を転じると、この価値獲得の枠組みを抜け出して、全く新しい利益の取り方を実現した企業が見えてくる。それがGAFAをはじめとするデジタル企業だ。

デジタル企業の価値獲得は、プロダクトの適正な価格設定によって収益を確定することにとどまっておらずそれ以外のさまざまなやり方で利益そのものを生み出しています。

GAFAMなどはプロダクト販売で利益が出なくても、全く気にしません。フリーミアム、定額制サブスクリプション、従量制サブスクリプション、ロングテール、マッチメイキング、メンバーシップなどで、まずは顧客を囲い込み、プロダクト販売とは異なる場所で利益を獲得しています。

アマゾンはECで培った価値創造のべ一スを活かしながら、アマゾンウェブサービス(AWS)という別の収益源で利益を生んでいます。グーグルやフェイスブックは主要なプロダクトである検索サービスやアプリによる価値創造ではユーザーには無料で提供し、広告で利益を稼いでいます。

GAFAをはじめとするデジタル企業は、当たり前のように収益源を多様化して、ビジネスから多くの利益を生み出そうと常に挑戦しているのです。

利益イノベーションと価値創造イノベーションの好循環を作ろう!

テスラも価値獲得を駆使して利益を生み出しています。自動車業界は新参者が乗り込んでも、利益を出すことができるほど甘くはありません。生産台数が相当ない限り、赤字をもたらします。しかし、テスラは長年苦しんできた赤字を最小限に抑え、ついには黒字化に成功します。

テスラはEVセダンという革新的な価値創造だけでなく、価値獲得と独創的な価値創造で、2020年にはトヨタを抜いて、自動車企業では時価総額で世界1位となりました。環境規制に伴う排出枠販売益という枠組みで、テスラは利益を得ていたのです。

具体的には、他のガソリン車メーカーは、一定割合のエコカー販売を義務づけるカリフォルニア州や欧州の規制に適合するため、EV専業のテスラから余った温暖化ガス排出枠を購入せざるを得なかったのです。最近ではテスラの量産体制が軌道に乗り、EVカーでも稼げるようになっています。

価値創造にイノベーションがあるのと同じく、価値獲得にもイノベーションがあります。著者はこの価値獲得のイノベーションを「利益イノベーション」と呼びます。

利益イノベーションは、業界慣行ともいえる既存の価値獲得から脱して、新たな利益の生み方を導入し、その結果、超過的な利益を生み出す。それによって、既成の枠に収まりきらない革新的なビジネスをつくり出し、今まで以上に利益を取ることができる。

企業は最初から利益イノベーションをめざし(Y1)、さまざまな形で利益を取ることを想定し、そこから価値創造のイノベーションに取り組む(X2)べきです。今以上に利益を生み出すことを考え、そこから事業を組み立てていくようにすべきです。

利益イノベーションを先行することで、結果的に価値創造のイノベーションのきっかけが作れます。最初に利益から思考するという、通常とは異なるプロセスを経ることで、新たなアイデアが浮かぶことがあります。この利益イノベーションは、企業を窮地から救い、新たなビジネスモデルを生み出します。価値創造だけでなく、利益イノベーションから顧客と向き合うことで、企業は成長を持続できるようになるのです。

利益イノベーションと価値創造イノベーションの好循環を生み出すために、利益を上げることを経営者は考えるようにしましょう。 利益イノベーションからビジネスモデルを変えることが可能になることをアマゾン、テスラなどが示しています。利益イノベーションに着手し、価値創造のイノベーションを経て、最終的にビジネスのあり方そのものを変えていくことをリーダーは目指すべきです。

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