顧客体験はプロダクトに勝る(デイビッド・C・エデルマン、マーク・シンガー)の書評

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顧客体験はプロダクトに勝る
デイビッド・C・エデルマン、マーク・シンガー
ダイヤモンド社

本書の要約

顧客体験をアップさせることが企業の売上に大きな影響を及ぼしています。自動化、能動的なパーソナライゼーション、背景状況を踏まえたインタラクション、ジャーニーへのイノベーションの4つを組み合わせることで、顧客体験がアップし、競合優位性を発揮できます。

顧客体験が企業の競争優位性を高める!

製品やサービス自体の重要性は変わらないが、競争の主戦場は、それらのクオリティ以上に、顧客の検討から購買までの体験に移りつつある。これは「カスタマージャーニー」と呼ばれる一連のプロセスだ。興味を持った顧客がいかにスムーズに検討でき、かつ気持ちよく購入して使用するか。単なる使用体験以上に、いまや顧客の体験すべてが、購入の決め手になる時代である。(デイビッド・C・エデルマン、マーク・シンガー)

顧客体験のアップが企業の売上に大きな影響を及ぼしていますが、カスタマージャーニーの各プロセスで効果的なデジタルマーケティングを行うことで顧客体験を高められます。

マーケターはプロダクトやサービスを管理するだけでなく、カスタマージャーニーを把握し、各プロセスで効果的 な施策を用意しなければなりません。カスタマージャーニーが顧客体験の中核になり、競争優位性を発揮する武器になることを理解しましょう。

マッキンゼー・アンド・カンパニーのデイビッド・C・エデルマンマーク・シンガーは、意思決定のカスタマージャーニーを効率化すべきだと指摘します。
・従来型のジャーニー→消費者は長い時間を検討・評価フェーズに費やした後で、ロイヤルティループに入ったり次の検討・評価フェーズに進んだりします。その結果、最終的に別のブランドの購入を決めてしまうことがあります。

・新しいジャーニー→検討フェーズを圧縮し、評価フェーズは短縮するか完全に省略します。顧客を直接ロイヤルティループに引き込み、つなぎ止めるようにします。

成功している企業は受け身の対応から先を見越した能動的な対応をしています。小売り、銀行、旅行、住宅サービスなどさまざまな業界の企業が、買い手を引き付けてつなぎ止めるためのジャーニーの設計と改良に取り組み、一度その会社と付き合い始めると、その会社と関わり続けずにはいられなくなるような体験を提供しています。ジャーニーそのものにメリットがあるため、顧客が離れなくなり、LTVが長くなります。

著者たちはジャーニーの構成、インフラ、組織設計について50社以上に助言してきた経験や、世界各国の数十人の最高デジタル責任者および100以上のデジタル事業のリーダーと深く関わってきた実績、そして200社以上を対象にしたデジタル力構築のベストプラクティスに関する研究を通して、カスタマージャーニーを形成する能力が企業の競争優位を生み出す決定的なソースになるはずだと考えています。

顧客体験をアップする4つの能力

最大限に効果的なジャーニーを構築している企業は、相互に関連する以下の4つの能力を備えています。
1、自動化
手作業で行っていた自動化のステップのデジタル化と合理化を行います(自動化プラットフォームの構築)。

コネクテッドでインテリジェントなオーディオシステムを提供するソノスは、設定作業を自動化しました。従来は家中に配線をめぐらせ、PCにスピーカーを接続し、音楽サービスごとにオンラインアカウントをつくる必要がありましたが、ソノスは、ボタン一つで接続できるワイヤレススピーカーとアプリによって、設定作業を効率化しました。このアプリを使えば、数回のタップで音楽ストリーミングサービ スを追加できます。また曲を選択したり、音量を調節したり、部屋ごとに再生する曲を指定したりといった操作をすべてモバイル端末で行うことができるようになります。

2、能動的なパーソナライゼーション
能動的なパーソナライゼーション自動化を実現したら、顧客との過去のインタラクションや既存の情報源から情報を集めて、それをただちに顧客体験のカスタマイズに活かすようにします。

顧客からのアクション(メッセージへの返信、アプリの起動など)があった瞬間に、企業は顧客の行動を分析し、それに基づいて次のインタラクションを調整しなければなりません。ペガシステムズやクリックフオックスは、多数のチャネルをまたいで顧客を追跡するアプリを提供し、複数の情報源から取得したデータ(取引や閲覧の履歴、顧客サービスとのやり取り、商品の使用状況など)を融合して、顧客の現在の動きとその結果として起こることをまとめて把握できるようにしています。

結果、顧客の行動に関するリアルタイムの知見、つまり企業側がいつジャーニーに影響力を発揮できるかということが明らかになるため、顧客に合わせてカスタマイズしたメッセージや機能を用意できます。

ロレアルは「メイクアップジーニアス(Makeup Genius)」というアプリによって、バーチャルメイクからパーソナライズされたリアルタイムのレスポンスを得ています。メイクを試しながら、気に入った商品をそのままオンラインで購入できたり、店舗での受け取りを可能にしました。このアプリはすでに1400万人以上が利用し、ブランドが顧客に働きかけるチャネルと顧客側のアクションをつぶさに知らせる情報源として機能しています。

3、背景状況を踏まえたインタラクション
顧客がジャーニーを始める場所(現実世界ではホテルに入る、仮想世界では商品レビューを読む)などについての情報を活用し、企業側の期待通りに次のインタラクションが行われるように顧客を導くことも、重要な能力の一つになります。例えば、主要なステップに沿って画面表示を変えるとか、顧客の現在の状況に応じて関連度の高いメッセージを送るといった手法が考えられます。

スターウッドホテル・アンド・リゾートワールドワイドが提供するアプリは、顧客がホテルに到着すると部屋番号をメールで通知し、スマートフォンの指紋認証でチェックイン処理を行い、部屋の近くまで来ると顧客のスマートフォンをドアの仮想キーとして使えるようにしています。そして、顧客の嗜好に合わせたおすすめのエンタテインメントやディナーの情報をタイミングよく送信することで、売上アップに貢献します。

4、ジャーニーへのイノベーション
顧客との関係を深めるチャンスを見出すために顧客のニーズ、テクノロジー、サービスの実験を繰り返し、精力的に分析することによって実現します。最終的には、企業と消費者双方にとっての新たな価値の源を探り出すことが目標になります。

ベストプラクティスの実践者は、無制限の実験を可能にするジャーニーのソフトウェアを設計し、宣伝メッセージやインターフェース設計のさまざまなバージョンを比較して有効なものを判断するA/Bテストを継続的に実施しています。また、新たな サービスのプロトタイプを作成して、その結果も分析しています。その狙いは既存のカスタマージャーニーの改良だけでなく、有益なステップや機能を追加してジャーニーを発展させることにあります。

カスタマージャーニーを商品ととらえることによって、商品に対する投資を決定し、優先度を判断し、資金を調達し、成果を測定する方法が大きく変化しつつある。これからの企業は、単にその投資がいかに売上増加やコスト削減を導いたかではなく、その投資によって商品とジャーニーを顧客に届けるという経済活動がいかに改善したかエンゲージメントをいかに力強く促進したかという点を、ますます重視するようになるだろう。

自動化、能動的なパーソナライゼーション、背景状況を踏まえたインタラクション、ジャーニーへのイノベーションの4つを組み合わせることで、顧客体験がアップし、競合優位性を発揮できます。

経営者は販売する商品のクオリティや価値だけにこだわるのではなく、優れたカスタマージャーニーをつくり出すことを目指し、ジャーニープロダクトマネージャーを中心にしたチームを組成すべきです。

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