クオンタムマーケティング 「プライスレス」で世界的ブランドを育てたCMOが教える最新マーケティング論
ラジャ・ラジャマナー
日経BP
本書の要約
クオンタム・マーケティングでは、AIやIoTなどのさまざまなテクノロジーを活用し、五感のすべてを活用する必要があります。五感すべてにアプローチできれば、そのインパクトはとてつもなく大きくなります。複雑になったマーケティング課題を解決するためには、著者が提案する「クオンタム・マーケティング」が効果を発揮しそうです。
クオンタム・マーケティングの時代が到来
次々と現れる新テクノロジーが組み合わさって、新しいエコシステムが誕生するだろう。マーケターは、それぞれについてしっかりと掌握し、進化のさらに先を行く必要がある。(ラジャ・ラジャマナー)
「プライスレス」というメッセージによって、マスターカードは自社のブランド価値を高めることに成功します。マスターカードは、クオンタムマーケティング戦略によって、「選ばれるカード会社」になったのです。マスターカードグローバルCMO兼CCOのラジャ・ラジャマナーは、その秘訣を惜しげもなく本書で紹介しています。
世界は、過去に例を見ないほどのスピードと規模で変化していますが、旧来型ののマーケティング理論、戦略、施策では対応が難しくなっています。テクノロジーが進化し、顧客とのタッチポイントが広がる中で、スピーディかつきめ細かく施策を実施する必要があるのです。複雑になったマーケティング課題を解決するためには、著者が提案する「クオンタム・マーケティング」が効果を発揮しそうです。
人工知能(AI)、拡張現実(AR)、5G接続、IoT、スマートスピーカー、ウェアラブル端末、ブロックチェーンといった新しいテクノロジーが消費者の生活を一変させ、マーケティングの影響力を新たな次元に連れて行こうとしています。
クオンタム・マーケティングでは、さまざまなテクノロジーを活用し、五感のすべてを活用する必要があります。生活者とのコミュニケーションが五感で行えるようになると、顧客体験がアップし、売上へのインパクトがとてつもなく大きくなります。
現在起こっているマーケティングの第5パラダイムは、マーケティングの仕事に驚くほどの変化をもたらします。伝統的なマーケティングの基準は急速に変化し、広告はその存在意義が問われ続けています。私が教えている大学の学生たち(Z世代)は広告をスルーし始めています。彼らは広告ブロッカーでスクリーンから広告を遮断して、広告が表示されない視聴環境をつくるためにお金さえ払っています。
第5パラダイムにおいて、ブランドや事業は、新しいテクノロジー、新しいメディア、新しい枠組み、新しいインサイトを活用しながら、商品やサービスに対する感動、エンゲージメント、インスピレーションをつくり出す。
第5パラダイムにおいてはマーケターの役割が大きく変わります。 マーケターがさまざまなデータを活用したり、新しいテクノロジーを使いこなすためには、「偏見をもたずに広い心をもつこと」と「テクノロジーへの精通」が求められます。
第5パラダイムでクオンタム・マーケターが担うべき役割は、以下の4本の柱で構成されると著者は指摘します。
①ブランド構築
ブランドは差別化、価値の理解、競争優位性のために大切というだけでなく、不可欠なもになります。強力なブランドの構築は、企業の短期的、中期的、長期的な健全性を維持するうえできわめて重要になります。マーケターは将来を見据えてブランド構築を進める必要があります。
②レピュテーションマネジメント
先進的な企業の多くが、マーケティングとコミュニケーションやPRを一体的に扱っています。マーケターはブランドとその評判を守り、消費者の信頼を損ねないための計画を策定すべきです。ブランド構築も、ブランドの評価を守る活動も、ブランドマネジメントであり、 クオンタム・マーケターにとっての中核的任務になります。
③事業の成長促進
マーケティングとはマーケティングのために行うべきものではなく、あくまでも事業から利益を上げて、成長を促進するための活動であるべきです。それがマーケティングの担う非常に重要な責務となる。
ビジネスを活性化し、企業を成長させることがマーケターに求められています。
④競争優位性を維持するためのプラットフォーム構築
マーケターは自社のブランドを差別化し、その差異を長期にわたって持続させるために、マーケティング上の資産や特性を活用したプラットフォームを構築することによって、強力な競争優位性を確保できます。それは、強力かつ深遠で幅の広い堀を、企業やその商品、サービスの周囲に巡らせるということです。
クオンタム・マーケターに求められること
CEOやCMOは、以下の4種のマーケターを組み合わせることで、結果を出せるようになります。
・古典的なマーケター
・現代のマーケター
・パフォーマンス・マーケター
・マーケティング・イノベーター
異なる能力をもったメンバー同士が互いに影響を与え合い、教え合うことによって、定性的マーケティング、定量的マーケティング、パフォーマンス・マーケティング、マーケティングのプロセスマネジメント、マーケティングで起こるイノベーションといった複数の領域を横断した業務の遂行が可能になり、マーケティングの課題を解決できるようになります。
マーケティングにおける第5パラダイムでは、膨大な数の新テクノロジーが出現するため、テクノロジーを理解しているマーケターの存在が何より重要になります。企業には古典的マーケターとデジタルマーケターの両方のマーケターが欠かせなくなっています。
クオンタム・マーケターには、データ、デジタルテクノロジー、コミュニケーション、PR、販売、ビジネスの動向、企業財務、成長の推進力、その他さまざまな領域に関する十分な理解が求められる。事業は、これらや、さらに多くの要素が絡み合って動くものだからだ。
現代のマーケターはもはやマーケティングだけのスペシャリストではなく、経営についての知識や経験が求められています。
クオンタム・マーケターはマーケティングの専門家として優れた能力を発揮するというよりも、マーケティングに関する深い知識をもち、かつ多様な領域に対応できるゼネラルマネジャーであるべきです。ビジネスマネジャーとしての思考をもちながら、マーケティングのあらゆる側面に対して深い理解と強い興味を持つ必要があるのです。
AI、VR、ARなどの新テクノロジーが組み合わさることで、新しいエコシステムが誕生します。マーケターは、それらの技術をしっかりと学び、進化のさらに先を行く必要があります。 高度にカスタマイズされ、一人ひとりの状況に適した内容で、パーソナライズされ、魅力的で、インタラクティブな没入型のソリューションや体験が、新しいテクノロジーによってもたらされます。クオンタム・マーケティングによって、マーケターは消費者に感動体験を与えられるようになるのです。
今日は本書の前半部を紹介しましたが、次回はマスターカードの成功の秘訣である「多感覚ブランディング」について考えてみたいと思います。
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