CEOエクセレンス 一流経営者の要件
キャロリン・デュワー, スコット・ケラー他
早川書房
本書の要約
リーダーは企業文化を変えることで、従業員の職場環境を徹底的につくり変え、進捗状況を規律をもって測ることができるようになります。ベストなCEOは、自分自身も変われることを言葉や行動を通じて示すことで、変革への取り組みをより一層強化できるようになるのです。
企業文化をシンプルなメッセージにし、社員とともに行動しよう!
生み出す要因を深く考えて、それをいつも思い起こせるような簡潔な言葉や文に込めるのだ。(キャロリン・デュワー, スコット・ケラー)
キャロリン・デュワー, スコット・ケラーのCEOエクセレンス 一流経営者の要件の書評を続けます。今日は優れたCEOには企業文化を高めるという共通点があるという著者らの考え方を懲戒します。成長する企業のCEOは、自社の企業文化をシンプルなメッセージにすることで、積極的に社員に行動させていたのです。
スペインのサンタンデール銀行のCEOアナ・ボティンは、同行の企業文化の精神を、「簡潔に、人を大事に、公平に」という短い言葉で日常的に示しています。この3つのシンプルなルールを使うことで、顧客体験を高めているのです。顧客が銀行で困っているときに、規則通りに動くのではなく、顧客のために公正でかつ親身になって行動することが求められます。
たとえば、自分の口座にうまくアクセスできない 92歳のお客様がいたとします。規則どおりではありませんが、その方の自宅に直接伺って手伝うべきだとアナ・ボティンは述べています。
エスケルのCEOのマージョリー・ヤンは、「e企業文化(5つのe)」というメッセージを使うことで、従業員の成長を目指しています。
・倫理(ethics)
・環境(environment)
・探査(exploration)
・卓越(excellence)
・教育(education)
KBCのCEOのヨハン・タイスが熱心に広めているのは、「PEARL」という同社の企業文化になります。
・実行力(Performance)
・権限移譲(Empowerment)
・説明責任(Accountability)
・対応の速さ(Responsiveness)
・地域定着度(Local embeddedness)
ソニーの前CEOの平井一夫氏が力を注いでいたのは、人々の心を揺り動かすことを意味する日本語「KANDO(感動)」を、会社全体に浸透させることでした。11万人の従業員たちに、あと10パーセント努力をするやる気を起こしてもらうための激励の気持ちを、短いメッセージに込めたといいます。
エンターテインメント、エレクトロニクス、金融をはじめ、グループのどこで働いていようと、みなさんの仕事はお客様である世界中の取引先や消費者に、心を揺り動かされるあのKANDOの気持ちを届けることです。(平井一夫)
文化を望む方向へ変化させるうえで、ベストなCEOたちは以下の4つのことを実践していることが明らかになりました。
①職場環境をつくり変える
②率先して自ら変化する
③意義を具体的に示す
④大事なことは測れるようにする
文化を望む方向へ変化させる4つの方法
①職場環境をつくり変える
文化を築くためには、まず職場の環境をつくり変える必要があります。ベストなCEOは、企業文化を変える取り組みが、職場環境を形づくる以下の4つの要因を押さえられているかどうかを重視しています。
・そこでどんなストーリーが語られ、どんな疑問が投げかけられているか?
・仕事のやり方を管理するための仕組み(体制、プロセス、システム、インセンティブ)。
・従業員たちが見習う手本(CEO、トップチームをはじめ、従業員にとって影響力が大きい人々)。
・自分が求められるよう振る舞える能力に対する自信の度合い。
エーオン・ユナイテッドのCEOのグレッグ・ケースは、企業文化を確立するために、四半期ごとの決算発表でエーオン・ユナイテッドのストーリーを語って、それが同社の競争上の強みの一つであると強調しつづけています。ケースはサッカーチームのマンチェスター・ユナイテッドのスポンサーになることで、チームワークを通じ て卓越性を実現することの重要性を印象づけました。
さらに同社が定めた仕組みも大幅に変更しました。それまでは各グループ会社のリーダーに任されていた顧客サービスモデルを統一したのです。グループ会社間で相乗効果が得られるよう、オペレーションを統合しました。かつては60ものサブブランドの連合体だった同社は、今や「エーオン」という一つのグローバルなブランドになったのです。
リーダーたちはさらなる成果を出すために、週に一日は、自分とは異なる分野の社員の仕事を手伝うよう明確に指示されている。自分が手本にならなければならないことをよくわかっているケースは、「私は」「私に」「私の」という言い方はまずしない。代わりに「私たちは」「私たちに」「私たちの」と言い、しかも良い結果が出たときはすぐさま他の人に花を持たせる。
同社は各自のスキルと自信を高めるため、同社はこれまで5000人以上の社員に対して、「エーオン・ユナイテッドを率いること」について学ぶ数日間のワークショップを開催してきました。それと同時に、各社員が会社全体を把握するために利用できるオンライン資料庫を作成し、この企業文化に関連するスキルの習得をすべての管理職養成プログラムに取り入れています。
②率先して自ら変化する
リーダーたちの多くは、企業文化を変えるために、自ら行動します。しかし、現実は厳しくリーダの行動は意外に評価されていませんでした。自分は望ましい行動変化の手本になれているかと尋ねられたCEOの86パーセントが「はい」と答えたのに対して、それに同意した部下は53パーセントに過ぎなかったのです。自身の振る舞いがいかに問題があったか、そしてそれが他の人にどれほど大きな影響を及ぼしているかをリーダーは自覚する必要があるのです。
自分が手本としていかに優れていようと(あるいは、そう思っていても)、自分には他の従業員たちに対して求めているように、自分自身も変えなければならないという責任がある、というものだ。
イントゥイットのブラッド・スミスは、デザイン思考と試行錯誤を企業文化の中心に置くことにしました。その際、自分のミスを認め、部下からのフィードバックを受け入れることで、互いにフィードバックして向上しつづけようとする企業文化が生まれたと言います。
相手を批判するものではなく、まだ満足できるレベルではないことに対して前向きな取り組みを促すフィードバックによって、リーダーと社員の行動が変わりました。失敗を恐れぬ文化により、さまざまな新しいことに取り組もうとする人が増えたのです。
③意義を具体的に示す
ベストなCEOたちは、たとえ猛反対されることが多くても、自分がいかに企業文化を真剣に変えようとしているかを示すための、意義ある行動をとろうとする。
資生堂の魚谷雅彦氏は、企業は多様であればあるほど、創造性をより発揮できると強く信じ、資生堂の企業文化を変えることにチャレンジします。コカ・コーラから資生堂に移った際に、彼が最初に気づいたのは、資生堂の極めて日本中心的な企業文化でした。
彼は長年培われてきた資生堂の日本的な伝統も大事にすると同時に、積極的な世界展開・成長を進めるためには、社内にもっとグローバルな考え方を広めることが必要だと感じました。東京本社の公用語を英語し、グローバルでの人事交流をはかり、コミュニケーションを変えたのです。
真のグローバルな組織をつくるために必要なのは、何も日本人には限りません。私はグローバルと日本の良さを合わせたある種の統合文化をつくりたかったのです。(魚谷雅彦)
魚谷氏は、変革の必要性を理解できなかった中間管理職たちからの抵抗に遭いましたが。彼らの理解を得るために、ダイバーシティを高めるという会社の使命と、それがいかにグローバルな成長につながるかを説明しつづけたと言います。
結果、2017年に、同社は2020年の目標であった年間売り上げ1兆円を3年早く達成し、9パーセントの年平均成長率を実現しました。CEOに就任してから6年の間に、魚谷氏は資生堂の日本的な伝統を生かしつつ、同社をグローバルな大手企業へと成長させることに成功します。
マイクロソフトのサティア・ナデラは、成長マインドセットの考え方を社内に浸透させるために、まず彼の補佐役たちにはキャロル・ドゥエックの著書『マインドセット』を必ず読むよう指示しました。(マインドセットの書評)
成長マインドセットの文化を社員に広げるため、ナデラは「『知ったかぶる人』から『何でも学ぼうとする人』になれ」という簡単かつ的確な言い回しを用いて、従業員たちに変化を求めました。このメッセージによって、リスクを避けようとする姿勢や、職場での駆け引きが急速に減りはじめ、マイクロソフトは再び成長軌道に乗ったのです。(サティア・ナデラの関連記事)
④大事なことは測れるようにする
業績という数字に表れる部分に対してと同じくらい厳密な判断基準を、数字に表れない部分にも適用するというマインドセットを見失わないよう、ベストなCEOたちは自社の企業文化の変化を測る方法を模索している。
マイクロソフトでは従業員たちのコンピューター画面に一問だけのアンケートが現れるようにして、社員への簡単な意識調査を毎日行っています。
企業文化を変える取り組みの初期段階には、サティア・ナデラが培おうとしている「成長マインドセット」を知っているかどうか尋ねられました。そして、その後は、従業員たちはリーダーたちがこのマインドセットをどれくらい実践していると思うかと尋ねられたのです。こうしたやり方には、企業文化を変えることを従業員たちの頭の真ん中に常に留めておけると同時に、成功や失敗は測ることも学ぶこともできて、しかも必要であれば改善できることを示せます。
キャタピラーの元CEOジム・オーウェンズは企業文化の変化を定期的に測定するために、従業員への意識調査を行っています。その際、調査の回答率を90%という高い目標に設定します。調査に参加する社員が高ければ高いほど、組織を一つにできるのです。従業員が会社へのフィードバックを与えることで、リーダーやマネージャーは自らの行動を変えられます。
社員の9割が、CEOとしての私がやりたいことや、それを達成するために彼ら自身がどんな役割を果たして協力すればいいかをわかっていて、そして雇い主である私を熱心に支持していなければ、偉大な会社になれるわけがありませんから。(ジム・オーウェンズ)
その結果、オーウェンズが退任するまでの7年の問、調査結果は毎年向上していきました。リーマンショックの不況後の2009年末、キャタピラーでは従業員の82パーセントが同社を支持していることが明らかになりました。社員はみな仕事に積極的に取り組むようになり、どうすれば自分がこの会社をより良くできるのかを考えられるようになったのです。
リーダーは企業文化を変えることで、従業員の職場環境を徹底的につくり変え、進捗状況を規律をもって測ることができるようになります。ベストなCEOは、自分自身も変われることを言葉や行動を通じて示すことで、変革への取り組みをより一層強化できるようになるのです。
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