資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター (名和高司)の書評

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資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター
名和高司
日経BP

本書の要約

イノベーションを起こすためには、要素と要素を組み合わせる新結合が欠かせません。起業家はアイデアを夢想するだけでなく、積極的に行動することで、顧客からのフィードバックを得られます。未来に向けて大きく踏み出していく志(パーパス)と熱意(パッション)があるから、アントレプレナーは行動を起こせるのです。

シュンペーターのイノベーション理論とは?

シュンペーターは、「アイディアなんてただのゴミ」だといいます。それより、「すでにあるものを組み合わせること」こそが大切だとしています。その方が、ケタちがいに大きなものを生み出せるからです。(名和高司)

イノベーターやアントレプレナーにとっての最高の経済学者は、ヨゼフ・シュンペーターかもしれません。あのドラッカーもシュンペーターから大きな影響を受けています。ドラッカーはシュンペーターのイノベーション理論を発展させ、「ソーシャル・イノベーション」を提唱します。イノベーションの力で社会課題の解決をはかることで、世の中のペインを減らすことができます。

そのシュンペーターを元マッキンゼーのディレクターで京都先端科学大学ビジネススクール教授として活躍する名和高司氏が、さまざまな角度から深掘りしてくれたのが本書になります。

シュンペーターによるとイノベーションを生み出すためには5つの切り口があると言います。
・商品
・プロセス
・市場
・サプライチェーン
・組織の5つです。
これら5つの切り口で、これまでとは非連続な発想を持ち込むことによって、イノベーションが生み出されます。

シュンペーターは新結合という考えを示しましたが、これまで融合できなかったもの同士を融合させることでイノベーションが起こります。この新結合がデジタル時代に活性化し、フィン(金融)テック、アグリ(農業)テック、フード(食品)テック、ヘルス(医療)テック、リテール(小売)テックなどの領域で、創造的破壊が起こっています。

保険と医療を組み合わせた「インシュアヘルス」、農業と食を組み合わせた「アグリフード」など。「スマートシティ」にいたっては、衣食住や社会インフラなど、多様な産業を結合することで、新たな価値を創造しています。

シュンペーターは、アントレプレナーの特徴を「行動する人」と表現しています。新結合の機会は、ふんだんに存在しています。しかし、それを夢想するだけでは、何も生まれません。「行動」には、未来に向けて大きく踏み出していく志(パーパス)と熱意(パッション)が求められているのです。

スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾスなどのGAFA創業者やイーロン・マスクなどが、MTP(MTP=Massive Transformative Purpose)」の下、従業員やパートナー、顧客を虜にしています。アントレプレナーのパワーの源泉は、自らの志(パーパス)と情熱(パッション)なのです。

1→100を作れる人が真のイノベーター

自分の身の回りにこそ、実は貴重なイノベーションの機会が転がっています。それに気づいて行動を起こせる人が、アントレプレナーとなって、いずれ世界を変えるまでにイノベーションの翼を広げていくことができるのです。

イノベーションとは「自らの手で未来を創ること」ですが、その本質とは社会実装し、さらにスケールさせることになります。多くのベンチャーは、「0→1」にこだわりますが、真のイノベーターは「1→100」を目指すべきです。

社会実装するためには、顧客が新しい価値を高く評価することが大切になります。しっかりマネタイズし、それを再投資し、新たな価値を顧客に提供し続けることが重要になります。テックベンチャーは技術力で勝負しますが、スケールするためには、マーケティング、サプライチェーン、ビジネスモデルの構築が不可欠になります。企業を成長させるためには、マーケティングやマネジメントが必要になります。

その利潤を事業に再投資することでスケールさせることによって初めて、イノベーションは社会を大きく変革するパワーとなると説いたのです。イノベーションの本質は、「創業」ではなく、「社会実装」と「スケール化」させることにあるのです。このシュンペーターの教えを、私たちはしっかり肝に銘じる必要があります。

経営においては、世の中の変化は当たり前で常態化するものだと考えましょう。ディスラプターがマーケットを虎視眈々と狙う現代では、リスクを避けて現状を維持することが、最大のリスクになります。逆に、変化は今ある企業の資産を組み換えて、現状打破を仕掛ける絶好の機会だと捉えるのです。

シュンペーターはイノベーションを下記の5つに分類しました。技術革新のみがイノベーションではないのです。
・新しい財(商品)の提供
・新しい生産方式の導入
・新しい販路の開拓
・原料の新しい供給源の獲得
・新しい組織の実現

シュンペーターは、「顧客がまだ気づいていないことを、供給側が先回りして提示することによって初めて新しい需要が生まれる」と考えていました。

著者はプロダクトアウトやマーケットインの考え方を進化させ、CX3.0を目指すべきだと言います。CX3.0はCustomer Transformationとは、顧客を未来のあるべき方向に誘う、というものです。単に顧客の欲望に寄り添うのではなく、顧客が夢想だにしない世界へと啓蒙していく活動です。これこそがマーケットアウトであり、真のイノベーションなのです。

イノベーションを起こすためには、4つのことが欠かせません。
①自らの「志」を高く掲げ、それを軸とすること。  
シュンペーターは、「ロマンを見つけ出す目」を持つことが重要だと言います。自らの内側からこみあげてくる思い(志=パーパス)に突き動かされて、これまでにないものを生み出しましょう。

②あらゆる可能性を視野に入れること。
「今までなさたことがないという事実は、行動をためらわせる理由とはならない」と、シュンペーターは語ります。常識や慣行にとらわれずに、新たなことにチャレンジしましょう。

③仮説を設定したら、あれこれと考えるのではなく、行動に移すこと。
あれこれ考えるだけでなく、行動することで、顧客がフィードバックをくれます。

④自らの思いを顧客にしっかり伝えること。
シュンペーターは「重要なことは、それを使うよう人々を説得し、によっては強制すること」と語っています。顧客の欲望におもねるのではなく、顧客を啓蒙することこそ、イノベーターの役割なのです。

企業の中に眠る無形資産を有形資産に変えることで、世界の社会課題を解決しつつ、自社の将来価値を向上させることができるようになります。自社の資産を広くコミュニケーションすることができれば、企業価値が高まり、やがて顧客やパートナー、投資家がアクションを起こします。

起業家は、技術開発に力を注ぐだけでなく、知財、人材、ブラント、ネットワーク、開発力などの無形資産をストーリーテリングの力で見える化し、企業価値を高めるようにしましょう。マーケティングやブランディングを経営の中心に据えることを私も顧問先にアドバイスしますが、起業家がシュンペーターやドラッカーの教えを実践することの重要性を本書から改めて学べました。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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