妄想力 答えのない世界を突き進むための最強仕事術
田中安人
日経BP
妄想力(田中安人)の要約
妄想力を育むことは、イノベーションの芽を育てる行為といえます。人々が妄想を持ち、それを実現しようとする力があるからこそ、社会は前進し、多様な変革が起きるのです。パーパス(目的)、ドリーム(夢)、ビリーフ(信念)のPDBモデルによって、妄想を現実に変えられるようになります。
妄想力が未来を変えてくれる理由
妄想力が人生をたくましくする。(田中安人)
妄想の持つ可能性と力を信じ、その価値を普及させるために日々情報を発信している私にとって、田中安人氏(グリッドCEO・吉野家CMO)の言葉は大きな励みになりました。
私が講義をしている情報経営イノベーション専門職大学では、妄想の重要性を認識し、それを体系的に学ぶ「妄想学」という新たな取り組みをおこなっています。実際、「妄想は未来に進む力」になると若い学生に伝えると目をキラキラさせて、モウトレの課題に取り組んでくれます。
妄想のいいところは、思考の限界を軽く飛び越えて行けるところだ。
まるで2次元の平面上にある問題を、3次元の立体的な視点で突破するかのように、妄想をすることで新たな可能性が開けるのです。 誰かの妄想が数年後に当たり前になることで、イノベーションが起こるのです。
例えば、マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツは、「すべての机の上とすべての家庭にコンピュータがある世界」という未来を夢見ました。同様に、グーグルの創業者セルゲイ・ブリンは、「どんな情報でも瞬時に手に入る」というビジョンを持っていました。
また、イーロン・マスクが立ち上げたX.comは、現在のペイパルの前身であり、彼は「全ての金融サービスをオンライン上で一元的に提供する」という未来像を描きました。彼のような先見の明を持った起業家たちの当初の妄想は、現在私たちの生活に根ざした現実となっています。現代においては、そのようなビジョンが実現するまでの時間も飛躍的に短縮し、変革のペースはさらに速くなっています。
妄想は実現してこそ意味がある。
ワクワクする未来(DREAM)から逆算して、「なぜその目標を達成したいのか(PURPOSE)」を明確にし、そのために「どのような方法を取るのか(HOW)」、「実際に何を行うのか(WHAT)」を洗い出すプロセスは、思い描く未来を現実化するための重要なステップです。
この「パーパスマップ」を作成し、具体的な行動を起こすことで、ただの妄想を現実のものに変え、世の中への貢献へとつながっていくのです。
パーパスが企業のDNAとして機能している組織は、その精神が一人ひとりの社員にまで深く根付いています。この理念は組織の隅々にまで浸透し、社員全員がそれを自らの信念として内面化し、日々の行動の指針としていることが特徴です。パーパスに基づいた行動が徐々に組織文化や社風を形成し、それは取引先や顧客にも伝播し、「この会社らしい」という強い印象を与えるようになります。
MVVからPDBの時代に!
妄想は身近なところからも生まれる。むしろ、日常の「だったらいいな」が、妄想の源といえるかもしれない。今の仕事の課題は何か、その課題を解決するための魔法、つまり「だったらいいな」を考える。
妄想によってワクワクが湧いてきたら、恥ずかしがることなくその妄想を人に共有してみましょう。SNSでつぶやくのも一つの方法です。他人に伝える過程で妄想を言葉にする必要がありますが、これは妄想を実現へと近づける上で非常に重要なステップです。この言語化する作業を通じて、妄想の核心を見つけ出し、伝わりやすく整理することが可能になります。
実際、私もサラリーマンの頃、著者になる、社外取締役して上場するという妄想を持ち、それを周りの人に伝えるうちに応援してもらえるようになり、どちらも数年後に実現します。アルコール依存で苦しんでいた私が妄想力を身につけることで、自分の人生を劇的に変えることができたのです。
妄想を共有することには、仲間を作るというメリットもあります。誰かを幸せにするような、ワクワクする妄想には、同じように感動してくれる仲間が現れるはずです。リスクが伴うアイデアであっても、予算がなくとも、ワクワクするようなエネルギーに惹かれて一緒に取り組みたいと思う人は必ずいます。その熱意が強ければ強いほど、多くの人を引き付ける力になります。
起業家にとってはこのワクワク感の伝染が重要で、私は多くのスタートアップにこのことを伝えています。妄想から新たなネットワークが生まれ、やがて強力なチームが形成され、イノベーションを起こせるようになります。
MVVとPDBのそれぞれの言葉を見ればわかるように、MVVからは冷静で客観的、外的な印象を受ける。宗教的な意味では、ミッションとは神から与えられるものであり、企業が実際にミッションを策定するときも、世界や社会、業界、市場などから何を求められているのかという外発的な視点で考えることが多い。 これに対してPDBのほうは、「パーパス」「夢」「信条」のいずれも内発的なワードだ。
従来の組織運営の指針であるミッション、ビジョン、バリュー(MVV)に代わる新たな概念として、田中氏はパーパス(目的)、ドリーム(夢)、ビリーフ(信念)のPDBモデルの重要性を説いています。彼はこれらを組織運営に取り入れることで、妄想を現実へと移行する際の指針となると語っています。
従来のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)は、「よそ行きのお仕着せ目標」のように感じられるものでしたが、PDB(パーパス、ドリーム、ビリーフ)は「組織や従業員の深い思いが集約されたもの」と捉えることができます。
田中氏は、PDBが従業員に向けた訴求力や影響力を強めるため、意識改革に繋がる可能性が高いと説いています。この新しい枠組みは、個々人の内に秘めた動機や夢、そして信念を組織全体のエネルギーに転換する力を持っているのです。
妄想力を育むことは、イノベーションの芽を育てる行為といえます。人々が妄想を持ち、それを実現しようとする力があるからこそ、社会は前進し、多様な変革が起きるのです。私自身も、妄想力を鍛える「妄想学」や「モウトレ(妄想トレーニング)」の普及に尽力することで、このイノベーションの波を一層加速させたいと考えています。
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