強い組織ほど正解を捨てる 10000人の経営者と対話してたどり着いた「きれいごと経営」(西坂勇人)の書評

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強い組織ほど正解を捨てる 10000人の経営者と対話してたどり着いた「きれいごと経営」
西坂勇人
ダイヤモンド社

本書の要約

継続的な「俯瞰」と「内省」を通じて自己の見識を自覚し、拡げていくプロセスが組織に欠かせなくなっています。そして、単一のコミュニティに留まらずに「越境」することによって、視野を拡げることができます。異なる視点を持つ人々との対話は、自己の見識の範囲を広げ、組織全体の成長と発展を促進する洞察を提供するのです。

自律分散型組織が激変の時代に強い理由

この激変の20年で、会社のあり方は変化しつづけています。 「資本主義の権化で、夜中まで働くようなブラック企業」から、 「日本型の理念を大切にした理念経営」、 そして「階層構造も会議もない、自律分散型の組織」へ。(西坂勇人)

GCストーリー株式会社は、「ホワイト企業大賞」において2019年の大賞を受賞し、「働きがいのある会社ランキング」では2015年から2019年まで5年連続でベストカンパニーに選ばれるなど、働きがいを重視した経営で知られています。この功績の背後には、同社の代表取締役社長である西坂勇人氏の哲学とリーダーシップがあります。

その西坂氏も最初からビジネスがうまくいったわけではありません。起業当時は苦労の連続で、1万人の経営者との対話を重ねましたが、正解は見つからなかったと言います。その彼を変えたのは、稲盛和夫氏の著作との出会いでした。稲盛哲学に触れることで、大きな転機を迎えまたのです。

西坂氏は、経営をただの利益追求から社会への貢献へとシフトする利他型経営の理念に目覚め、自らの会社を「GC(Growth for Contribution・グロース フォー コントリビューション)」と名付け、この理念を事業の核として据えました。

西坂氏は人生の羅針盤とも言えるこの指針を会社の存在理由として位置付け、理念経営の実践により自律分散型組織へと進化していく中で、根本的な気づきに至ります。それは、「どこかに正解があるという前提から自由になること」と、「絶対に変えてはならない本質は何か?」という根源的な問いに答えを見出すことの大切さでした。これらの認識は、経営のみならず、人生における重要な指標となり得るものです。

著者によれば、企業の究極の存在目的は「利他」、すなわち従業員の幸福にあるとされています。その観点から、従業員それぞれが内発的動機に基づいて自由に創造性を発揮できる柔軟な組織構造が望ましいとされています。

現代のようなVUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代では、従業員個人の創造性やイノベーションが企業に活力をもたらすと指摘されており、特に若い世代が多様性や個性を重んじる傾向にあることから、企業文化もそれに応じた変化が求められています。

この新しい時代の流れを受けて、著者は2017年、従業員の内発的動機を促すため、自らの行動から変革を始めます。経営者としての従来の役割に疑問を呈し、「会社に行かない」と宣言し、役職を廃止し、トップダウンの会議体制を完全に取り止めました。

その結果、従業員一人ひとりが自らの人生を主体的に生き、その内発性を最大限に発揮することができる「自律分散型組織」への変革へと舵を切ったのです。この大胆なステップは、個々の従業員が自分自身の仕事に対する責任を持ち、創造的かつ主体的に業務に取り組む新しい組織運営のあり方を提示しました。

俯瞰・内省・越境の3つが組織を強くする理由

個人の幸福を深く追求していくことは個人の成長、成熟につながり、最後は「組織のため」に行き着きます。

時代は、経営者やリーダーが強い信念や志をもって他者を牽引するスタイルから、個々人の持つ信念(美学)を尊重し合い、その多様性を価値として認める方向へと移行しています。この変化は、組織内での個人の自主性を重んじるとともに、それぞれが自己実現を追求することを奨励する社会的傾向を反映しています。こうした時代の流れは、企業文化やリーダーシップのあり方にも変革を促しており、一人ひとりが自分の美学に従って行動することを支持する環境が重視されつつあります。

経営者も従業員も、お互いの価値観を認め合い、協働することで多様な個性が融合し、組織に新たな価値をもたらす基盤が築かれます。現代は、異なる価値観を持つ多世代が共存する時代であり、経営者にとってはそれを調和させることが挑戦であると言えるでしょう。

個々人が自己の幸福を追求する世界では、画一的な「正解」は存在せず、人それぞれに「正解」がある「正解のない世界」であるとも考えられます。大切なのは、自分自身と他者の価値観を尊重し合うことです。

組織とは、その中で働く人々にとってのやりがいを設計する場です。経営の真髄は、外部から見れば変化に適応しやすいように映るかもしれませんが、実は企業の本質的な「WILL(核心価値)」を見極め、これを保持することにあるのです。

経営者にとって重要なのは、従業員が自身の「Will」に従って活動できるように、組織の全体像を「俯瞰」し、自らと組織の深い理解を「内省」によって促し、「越境」を通じて新しい挑戦への支援を行うことです。

経営者の使命は、俯瞰・内省・越境という3つの行動原則を活性化させることにより、組織を「やらされること(Must)」から「実現したいこと(Will)」へとシフトさせ、社員が自主的に経営へ参加する文化を築くことにあります。

継続的な「俯瞰」と「内省」を通じて自己の見識を自覚し、拡げていくプロセスが組織に欠かせなくなっています。そして、単一のコミュニティに留まらずに「越境」することによって、視野を拡げることができます。異なる視点を持つ人々との対話は、自己の見識の範囲を広げ、組織全体の成長と発展を促進する洞察を提供するのです。


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