High Conflict よい対立 悪い対立 世界を二極化させないために
アマンダ・リプリー
ディスカヴァー・トゥエンティワン
High Conflict(アマンダ・リプリー)の要約
不健全な対立は、物事を進展させず停滞させることが目的です。これに対し、健全な対立には前向きな動きがあります。お互いに質問し合い、相手の考えに関心を示します。健全な対立では、理解を深め合い、新たな視点を得ることができます。こうした対話を通じて、問題解決や成長につながる可能性が広がります。
ハイコンフリクト(不健全な対立)がもたらすもの
対立には「健全な対立」と「不健全な対立」がある。 (アマンダ・リプリー)
アマンダ・リプリーは、米国の著名なジャーナリストであり、ベストセラー作家として知られています。教育や紛争解決に関する著作で高い評価を受け、ニューヨーク・タイムズやタイム誌などで執筆活動を行っています。彼女の特徴は、複雑な社会問題を深く掘り下げ、読者に新たな視点を提供する能力にあります。
リプリーは、本書で「不健全な対立(ハイ・コンフリクト)」という概念を提示し、その本質と解決策を探求しています。 近年のアメリカ社会では、トランプ現象や英国のEC離脱、難問問題に見られるような二極化が顕著になっています。西欧社会は分断が進み、寛容さがなくなってきているのが実態です。
対立には健全なものと不健全なものがあります。健全な対立は私たちの成長を促す重要な要素です。それは許すこととも屈服することとも異なります。時にストレスや激しい議論を伴いますが、人としての尊厳を損なうことはありません。健全な対立は社会に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
また、相手の真似をするのではなく、現実を受け入れながら進むことを教えてくれます。完璧な人間などいないこと、そして私たちは皆つながっているという事実を認識させてくれるのです。自己防衛、相互理解、そして成長のために、健全な対立は不可欠です。現代社会では、その重要性がますます高まっています。
一方、不健全な対立は「善と悪」「私たちと彼ら」という二項対立が明確になったときに発生します。ここには公平なルールは存在せず、現実であるかどうかに関わらず、両者は敵対し、感情的になっていきます。脳の働き方も通常とは異なり、自分の優位性を過度に信じ、相手の理解が困難になります。相手の不適切な言動に胸が苦しくなり、怒りと恐れが入り混じった感情を抱くかもしれません。
これこそ、現代の見えざる手だ。対立がエスカレートすると、ある時点から対立そのものが主導権を握るようになってくる。紛争をもたらしたもともとの事情や力の存在感は薄れ、敵対する相手との力関係が幅を利かせてくる。
不健全な対立、すなわちハイ・コンフリクトは、リプリーが「現代の見えざる手」と呼ぶものです。この対立は、単なる意見の相違を超えた、より深刻で破壊的な力を持っています。対立がエスカレートすると、ある時点から対立そのものが主導権を握るようになります。当初の争点や背景は薄れ、敵対する相手との力関係が全てを支配するようになるのです。
例えば、医療政策や難民問題に関する実際の意見の相違は、もはや重要ではなくなります。代わりに、対立そのものが現実となり、人々の思考と行動を支配するようになるのです。この状態では、論点と関係のない揚げ足取り、思い込みによる偽りの正義、政党同士の足の引っ張り合いなどの現象が顕著に見られます。
これらの行動は非生産的で、しばしば暴力的な結果をもたらすことがあります。 不健全な対立の特徴的な点は、それが自己増殖的な性質を持つことです。
対立が激化するにつれ、人々は「善と悪」「私たちと彼ら」という二項対立的な思考に陥りやすくなります。この状態では、脳の働き方も通常とは異なってきます。自分の優位性を過度に信じ、相手の理解が困難になり、相手の言動に過剰に反応するようになります。
さらに深刻なのは、この不健全な対立が個人の存在そのものを脅かすように感じられることです。実際にはそうでなくても、対立が自身の生存を脅かすものに思えてくるのです。このような認識は、さらなる対立を生み出し、悪循環を引き起こします。
一方で、リプリーは健全な対立の重要性も強調しています。健全な対立は個人と社会の発展に不可欠です。それは私たちの成長を促し、社会に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。健全な対立においては、ストレスや激しい議論があっても、人としての尊厳は損なわれません。また、相手の真似をするのではなく、現実を受け入れながら進むことを学びます。
リプリーは、現代社会においてこの健全な対立の必要性がますます高まっていると指摘します。自己防衛、相互理解、そして成長のために、健全な対立は欠かせないものなのです。 しかし、健全な対立と不健全な対立を見分けることは容易ではありません。
著者は、この二つの対立の性質を理解し、日々の生活の中で健全な対立を育み、不健全な対立を避けるための指針を提供しています。 現代社会において、特にSNSの普及により意見の対立が可視化されやすくなった今日、この識別能力はますます重要になっています。私たちは、対立そのものに引き込まれないよう注意を払いつつ、建設的な対話と相互理解を追求する必要があります。
不健全な対立と健全の対立の違いとは?
現代社会で成功するには、不健全な対立がいかにして起こるかを理解しなければならない。不健全な対立から一歩引いて、その輪郭を知り、畏れを感じなければならない。そうすれば、それがどれほどわたしたちの視野を歪めているかがわかる。そして、別の生き方を思い描くことができるようになる。
不健全な対立に陥った人々は、自らの正当性を強く信じています。彼らは敵意に満ちた態度をとっていても、それを自覚することはありません。このような状況下では、相手の理解を期待することは無意味であり、むしろ自らを傷つける結果となりかねません。
相手の欠点を批判し続けることや、次の選挙結果ばかりに注目することは、問題の根本的な解決にはつながりません。それどころか、対立をさらに深刻化させる可能性すらあります。また、単純に愛情を説くだけでは、この複雑な問題に対処することはできません。
憎しみは確かに強力な感情ですが、それは不健全な対立がもたらす表層的な症状にすぎません。真の問題は、その背後に潜む対立の構造にあります。この構造は感情ではなく、社会的、政治的、経済的な要因が複雑に絡み合って形成されています。
私たちに求められているのは、この不健全な対立の構造を認識し、その影響力を正しく評価することです。そうすることで初めて、対立を超えた新たな視点を獲得し、より建設的な対話や解決策を模索することが可能となります。
不健全な対立の目的は、停滞させることにある。一方、健全な対立には動きがある。質問も出れば、関心も寄せられる。
相手と対立した際には、自らの価値観や信念を再検討する勇気も必要となります。敵対主義を取ることをやめ、相手の立場に立って考え、多様な視点を受け入れる柔軟性を養うことが重要です。同時に、社会全体の利益を考慮に入れた連帯主義を意識し、長期的な視野を持つことで、相手との対立を防げます。
不健全な対立がもたらす影響は、一時的な感情の乱れにとどまりません。それは人生の質や充実感にまで及ぶ、長期的かつ深刻な問題となり得ます。この影響は単なる心理的なものではなく、私たちの身体にも明確な変化をもたらします。
夫婦喧嘩や支持する政党の候補者が選挙で落選したときには、ストレスホルモンの一種であるコルチゾールが体内で急激に増加します。コルチゾールの過剰分泌は、一時的なストレス反応を超えて、広範囲にわたる健康問題を引き起こす可能性があります。
免疫系の機能低下は、コルチゾール増加がもたらす最も深刻な影響の一つです。免疫力の低下は、様々な疾病に対する抵抗力を弱め、私たちの健康を脅かします。また、記憶力や集中力の低下も観察されており、これは日常生活や仕事のパフォーマンスに直接的な影響を与えかねません。
さらに懸念されるのは、コルチゾールの慢性的な過剰分泌が筋組織や骨の弱体化を引き起こす可能性です。これは特に高齢者において深刻な問題となり、骨折のリスク増加や日常生活動作の制限につながる恐れがあります。
このように、不健全な対立がもたらす影響は、個人の心身の健康に留まらず、社会全体の生産性や調和にも悪影響を及ぼす可能性があります。職場での対立が業務効率の低下や創造性の阻害につながったり、政治的対立が社会の分断を深めたりするケースは、その典型的な例と言えるでしょう。
対立を乗り越える方法とは?
対立を乗り越える唯一の方法、それは対立としっかりと向き合うことだ。
本書の特筆すべき点は、「不健全な対立」の問題を指摘するだけでなく、その解決策を具体的に提示していることです。リプリーは、対立する双方がお互いの話をよく聞き、より良く理解しようと真摯に努力することの重要性を強調しています。
しかし同時に、この方法の限界や例外的な事態についても言及することで、自らの主張に対しても極めて誠実な姿勢を示しています。
著者は不健全な対立の特徴をまとめています。
・論点と関係のない揚げ足取り
不健全な対立の最も顕著な特徴の一つが、議論の本質から逸れた揚げ足取りです。この現象では、相手の主張の核心に触れることなく、些細な表現や言い回しにこだわり、批判を展開します。こうした態度は、建設的な対話を妨げ、問題解決を遠ざけてしまいます。
例えば、環境問題に関する議論で、具体的な政策提案の内容ではなく、提案者の過去の言動や個人的な事情を攻撃するケースが該当します。このような議論は、本質的な問題解決にはつながりません。
・思い込みによる偽りの正義
不健全な対立に陥った人々は、しばしば自らの正当性を強く信じ込んでいます。この「偽りの正義」は、自己の信念や価値観を絶対視し、他者の視点を完全に排除してしまう危険性があります。特定の政治的立場や信念を持つ人々が、異なる意見を持つ人々を一律に「敵」とみなし、対話の余地を認めないような状況が挙げられます。
こうした態度は、社会の分断をさらに深める結果となります。トランプ大統領登場以降、アメリカでは分断が進んでいます。
インドのナレンドラ・モディ、ポーランドのヤロスワフ・カチンスキ、アメリカのドナルド・トランプ、トルコのレジエップ・タイイップ・エルドアン。いずれも対立の火種を意のままに操ってきた面々だ。あえて敵対する相手のアイデンティティを煽り、敵に周囲から非難の目が向けられ、仲間割れするよう仕向け、そうやって自分たちの人気や力を高めていった。
・政党同士の足の引っ張り合い
政治の場においても、不健全な対立は顕著に見られます。政党間の競争が激化する中、建設的な政策議論よりも、相手党の失点を狙った批判や攻撃が目立つようになっています。 これは、国民の利益よりも党利党略を優先する姿勢の表れであり、結果として政治への信頼低下や社会全体の停滞を招きかねません。
これらの特徴を踏まえ、不健全な対立を克服するためには、以下のような取り組みが求められます。
・意識的に行動する
常に意識を高く保つことが重要です。油断せずに、自分の行動や考えに注意を払い続けることが大切です。 次に、自分の中に変化を感じたら立ち止まることも大切です。何か新しい刺激を受けて、自分の考え方や行動が変わりそうだと感じたら、一度立ち止まって考えてみるのです。
「この変化は誰のためになるのだろう?」という自問を通じて、その変化が本当に自分や周りの人にとって良いものなのかを見極めることができます。 このように意識的に行動することで、自分らしさを保ちながらも、必要な成長や変化を受け入れることができるのです。
・批判的思考力の養成
自他の意見を客観的に分析し、論理的に考える力を養うことが重要です。教育現場や社会人教育において、批判的思考のスキルを身につける機会を増やすことが求められます。
・多様性の尊重と対話の促進
異なる意見や背景を持つ人々との対話の機会を積極的に設けることが大切です。多様性を尊重し、相互理解を深めることで、不健全な対立を回避できる可能性が高まります。
・メディアリテラシーの向上
情報の真偽を見極め、多角的な視点で物事を捉える能力が必要です。フェイクニュースや偏向報道に惑わされない判断力を養うことが、不健全な対立の予防につながります。
・長期的視点の醸成
目先の利益や感情的な反応にとらわれず、社会全体の長期的な利益を考慮する姿勢が重要です。政策立案者や市民の双方が、将来を見据えた判断ができるよう、意識改革が求められます。
心理メカニズムから対立を考える!
著者は、人間の心理メカニズムを知ることで対立を防げると言います。
1. 魔の6秒
医療現場のコミュニケーション 医療現場における患者と医師のコミュニケーションに関する研究では、驚くべき事実が明らかになりました。患者が症状を説明し始めてから、医師がその話を遮るまでの平均時間はわずか11秒です。さらに興味深いのは、もし医師が遮らなければ、患者はその6秒後には話を終えていたという点です。このわずかな時間が対立を生み出します。
理解してもらえていると感じれば、それまでは見えなかった選択肢が見えてくる。そして、当事者意識のようなものを持って、解決策を探し出す。すると、たとえ思い通りにはならなかったとしても、解決のために力を尽くしたことで、その結果を前向きに受け入れられるようになります。
あなたの話を聞いていますよという態度で接すれば、対立は防げると著者は指摘します。しっかりと話を聞いてもらうことが信頼関係を築いてくれるのです。
2. カテゴリー分け
人間には、集団に分かれるとすぐに自分のグループをひいきしてしまう傾向があります。この現象は、社会心理学の分野で広く研究されています。 例えば、まったく知らない人々をランダムに2つのグループに分けただけでも、人々は自分のグループを優遇し、他のグループを差別する傾向を示します。
この本能的な反応は、私たちの社会に深く根付いている「内集団びいき」と呼ばれる現象の一例です。 この傾向は、スポーツチームの応援から政治的立場の選択まで、幅広い社会現象に影響を与えています。二項対立を避けること、多様性の尊重や偏見の解消に向けた取り組みがますます重要となっています。対立の罠に陥らないための正しい物語や心を落ち着ける瞑想が対立を防いでくれるのです。
3. サイバーボール
「サイバーボール」と呼ばれる実験は、社会的拒絶が人間に与える影響を明らかにしました。この実験では、参加者がコンピューター上で他の参加者とボール投げゲームを行いますが、ある時点から突然ボールが回ってこなくなります。
驚くべきことに、この社会的拒絶を経験した参加者の脳活動を観察すると、身体的な痛みを感じる時に活性化する脳の部位が発火することが分かりました。つまり、拒絶や無視は、文字通り「痛み」として脳に認識されるのです。 この研究結果は、いじめや社会的孤立が個人に与える深刻な影響を科学的に裏付けるものです。職場や学校でのコミュニケーションのあり方、インクルージョンの重要性を再考する契機となっています。
4. バカ運転手反射
交通場面で頻繁に観察される「バカ運転手反射」は、人間の認知バイアスを端的に表しています。この現象では、ルールを無視したとき、他人の行動は人格のせいにする一方で、自分の行動には言い訳を並べて正当化する傾向が見られます。
例えば、他のドライバーが信号無視をした場合、「あいつはバカな運転手だ」と人格を非難しますが、自分が同じことをした場合は「急いでいたから仕方なかった」と状況による説明を行います。 この傾向は、心理学で「基本的帰属の誤り」や「自己奉仕バイアス」として知られており、人間の判断や意思決定に大きな影響を与えています。この知見は、自己理解や他者理解を深める上で重要な示唆を与えています。
5. 魔法の比率
心理学者のジュリー・ゴットマンとジョン・ゴットマン夫妻は、長年にわたって約3000組の夫婦を研究しました。彼らは特に夫婦間の対立に注目しました。 研究の結果、健康的な対立を維持できる夫婦には共通点がありました。それは、日常的なコミュニケーションにおいて、肯定的なやりとりが否定的なやりとりの5倍あることでした。
つまり、肯定的な言葉や行動が5回あるごとに、否定的なものは1回程度という割合です。ゴットマン夫妻はこれを「魔法の比率」と呼んでいます。 この「5対1」という比率が、夫婦関係を良好に保つ秘訣だと彼らは考えています。
この研究は、夫婦関係や職場での人間関係など、様々な場面に適用可能です。例えば、批判や指摘をする際には、それ以上に肯定的なフィードバックや感謝の言葉を伝えることで、関係性の質を高められる可能性があります。 この「魔法の比率」の知見は、コミュニケーションスキルの向上や、職場環境の改善などに活用されています。
これらの研究や実験結果は、人間行動の複雑さと、その背後にある心理メカニズムの奥深さを示しています。これらの知見を日常生活に活かすことで、より良い人間関係や社会システムの構築につながる可能性があります。 同時に、これらの研究は、私たち自身の行動や思考パターンを客観的に見つめ直す機会を提供してくれます。
自己理解を深め、他者への共感力を高めることは、個人の成長だけでなく、社会全体の調和にも寄与します。人間行動の謎は尽きることがありません。今後も新たな研究や実験によって、私たちの理解はさらに深まっていくことでしょう。そして、その知見を活かし、より良い社会の実現に向けて歩みを進めていくことが、私たち一人ひとりに求められています。
極端な考え方から離れ、より柔軟な思考を持つことが重要な理由
二極化されたカテゴリーによって、複雑なものは見えなくなり、わたしたち対彼らという考えへと駆り立てられていく。拒絶や排除によってもたらされる社会的痛みは攻撃性を引き起こし、それが往々にしてさらなる社会的痛みへとつながっていく。そして、認知バイアス(直感やこれまでの経験に基づく先入観によって、物事を非合理的に判断してしまう心理現象)のせいで対立が続き、大事な細部が見えなくなってしまうことはすでに見てきた通りだ。そういった感情の渦にのみ込まれてしまうと、対立の背景、つまり自分たちが戦っている本当の理由からどんどん遠ざかっていく。
不健全な対立状態に陥ると、人間の脳の働き方が変化するとリプリーは述べています。自分たちの正当性を確信し、対立を終わらせようとするあらゆる行動が、逆効果を生み出してしまいます。最悪の場合、敵対者の行動を真似てしまい、自身が最も大切にしているものを傷つけかねない事態に陥ります。
本書の特筆すべき点は、不健全な対立の問題を指摘するだけでなく、その解決策を具体的に提示していることです。リプリーは世界中の事例を丹念に調査し、不健全な対立から抜け出すための方法を探っています。
著者は世界中の事例を丹念に調査し、「不健全な対立」から抜け出すための方法を探っています。カリフォルニアの対立専門家、シカゴのギャングのリーダー、コロンビアの大規模な紛争、そしてアメリカのリベラル派と保守派の交流プログラムなど、多様な事例が生き生きと描かれています。これらの事例を通じて、リプリーは「不健全な対立」の共通点を浮き彫りにすると同時に、それを乗り越える可能性を示しています。
リプリーが最終的に目指すのは、不健全な対立をより深く理解することです。この理解があれば、対立が起こりつつある状況を早期に認識できるようになります。さらに重要なのは、その認識を基に、自分自身や他者が対立の泥沼から抜け出すのを手助けできるということです。
著者の探求は、さらに興味深い謎へと読者を導きます。それは、人間が実際に不健全な対立から逃れることができるのか、という問いです。著者の研究によれば、個人レベルでもコミュニティ全体でも、対立がもたらす負の連鎖を断ち切る方法を見出すことは可能だといいます。
しかし、ここで注目すべき重要な点があります。対立から逃れることに、関係者全員がすぐに同意するわけではないのです。著者は、この事実こそが対立解消のプロセスにおいて極めて重要だと指摘します。 なぜなら、対立解消は決して自分の信念を投げ出すことや、極端に立場を変えることを意味しないからです。
むしろ、自身の信念は保ちつつ、思いやりの気持ちを持って、相手の言い分に耳を傾けることから始まるのです。 この一見小さな変化が、実は大きな転換点となります。相手の話に耳を傾けることで、お互いの人間性を再認識し、単純な二項対立では捉えきれない問題の複雑さに気づくきっかけになるのです。対立は人を消耗させるものから、自分に必要なものへと変わっていくのです。
同じ政治理念を持つ夫婦は、自分たちと異なる考えを持つ人々をより厳しく批判する傾向があります。このような家庭で育つ子どもたちは、異なる政治的立場の人々について、偏った見方しか知らないまま成長してしまうことがあります。
これは、家庭がソーシャルメディアと同じように、似た意見ばかりが共有される環境「エコーチェンバー」になってしまっているためです。
一方、政治的な考え方が異なる夫婦は、お互いの意見をより深く理解しようとする傾向があります。こうした家庭では、子どもたちが多様な視点に触れることができます。これは、社会全体の対立を和らげることにもつながる可能性があります。 世界的に見ても、自分とは異なる考えを持つ人々と交流することで、極端な考え方から離れ、より柔軟な思考ができるようになることがわかっています。
世界的に見ても、自分とは考えや見方が異なる人を知ることで、人は急進的な発想から脱却できるようだ。それによって不健全な対立に陥るリスクも減り、かかわるすべての人がより充実して豊かな人生を送れるようになっていく。そんな対立からの回復力に必要なのが、新たなインフラの構築だ。それはつまり、対立と切り離したものではなく、対立の中にありながら有意義な関係を生み出していける人間関係や組織を構築することを意味している。
敵対者を再び人間として捉え直すこと、カテゴリーを見直すこと、そして正しいと信じることのために戦い続けながらも、好奇心を持ち、お互いに敬意を払うことの重要性を強調しています。
リプリーのわかりやすいメッセージや事例は、読者に自身の経験を振り返り、日々の対立をより建設的に扱う方法を考えるよう促しています。不健全な対立が蔓延する時代に生きる私たちにとって、本書は対立を理解し、乗り越えるための貴重な指標となります。
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