ネットワーク効果の重要性をペイパルの歴史から学ぼう!創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説の書評

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創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説
ジミー・ソニ
ダイヤモンド社

本書の要約

X.comとコンフィニティの合併は、ネットワークの力と競争の中での戦略的な判断が重要であることを示しています。ビジネスにおいて、ネットワーク効果を最大限に活用することは成功の鍵となる場合があります。ピーター・ティール、マイク・レブチン、ビル・ハリスが主導したペイパルの合併は、その典型的な例と言えます。

ネットワーク効果で成長をはかろう!ペイパルから私たちが学べること。

ネットワーク効果がすべてに勝るからだ。(ケン・ハウリー)

コンフィニティの共同創業者のケン・ハウリーはネットワーク効果のメリットをこう表現します。戦略家のピーター・ティールが率いるペイパル(コンフィニティ)はこのネットワーク効果で成長を加速させたのです。

ネットワーク効果は、1900年代初めに電話の普及を説明するために生まれた経済原理です。この原理によれば、電話網に新たな電話が追加されるごとに、既存の電話全体の価値が上昇し、電話を持っていない人々が電話を購入するインセンティブが高まります。

イーベイのオークションでペイパルでの支払いを受け入れる出品者が増えると、ペイパルに登録する購入者も増え、また、ペイパルで支払いをする購入者が増えると、さらに多くの出品者がペイパルを受け入れるようになります。

このようなネットワーク効果の例は、インターネットの時代でもよく見られます。新たな参加者が増えることで、既存の参加者の価値や利益が向上し、それがますます多くの人々を引き寄せるという好循環が生まれます。ネットワーク効果は、ネットワークを形成する要素が相互に関連し合い、その規模が大きくなることでより強力になるという経済原理です。

コンフィニティは、戦略的な動きによって、イーベイという強力なネットワークを利用して自身のネットワークを拡大することを目指しました。彼らはイーベイのサイトから無断でデータを収集し、それを活用してオークションの購入者や出品者が彼らのオークションページで利用できる便利な機能やパーツ(ウィジェット)を作りました。

例えば、彼らはロゴのサイズ変更ツールや、イーベイの決済ページでのオートコンプリート機能(ペイパルが事前に選択される機能)などを開発しました。また、イーベイの出品者が一度ペイパルを受け入れると、その後の決済方法が自動的にペイパルにリンクされる「自動リンク」という機能も提供しました。

これらの取り組みにより、「自動リンク」機能を通じて登録数が驚異的な速度で増加しました。ユー・パンは「自動リンクのおかげで、登録数がとんでもない勢いで増えていった」と述べています。

コンフィニティの戦略は、イーベイのネットワークを活用しながら、新たな機能や便利さを提供することで自身のネットワークを成長させるというものでした。彼らの取り組みは、ユーザー数を増やし、ネットワークの規模を拡大する上で大きな成果をもたらしました。

ペイパルの合併でもネットワーク効果が鍵を握った??

ライバルは彼らしかいなかった。(イーロン・マスク)

競合のイーロン・マスクのX.comもイーベイのネットワークを利用することを考えます。マスクはコンフィニティの戦略を調べるうちに、その独創性に一目置き始めました。

X.comは何が何でもイーベイ上での競争に勝つ、とマスクは決断したのです。イーベイ上でコンフィニティを倒せば、それ以外の領域でもコンフィニティを無力化できる可能性が高まると考えたマスクは、勝つために行動を開始します。イーロンにはコンフィニティにはない強み=資金があったのです。

ティールはX.comがコンフィニティを脅かす存在になる可能性を早くから察知していました。彼はX.comが資金力を利用してコンフィニティを打ち破ることができると判断しました。

X.comはバックにセコイアがついていた。うちのノキア・ベンチャーズとはわけが違う。ずっと懐が深くて、破壊力も大きい。(ジャック・セルビー)

コンフィニティはユーザー数は増えていましたが、その成長を支えるための獲得コストや人件費などの費用が増加していました。このまま競争を続けると、どちらも自滅する可能性があるとティールは考えました。

ネットワークは本来、独占的な存在であり、同じ市場で競争する2つの決済ネットワークが同時に拡大することはできません。 コンフィニティの経営陣はX.comとの合併を検討し始めました。この交渉を有利に進めるために、イーベイでの新規会員獲得にアクセルを踏みました。

日に日に両社の資金が次第に枯渇し、合意に向けたプレッシャーが高まっていきました。合併比率で不利な条件を提示されたコンフィニティは、会員の増加により徐々に条件が有利になっていきました。ペイパルのユーザー数が増えるにつれて、X.comが提示する比率も上昇していったのです。 当初、合併比率は92対8でしたが、ついに55対45に変更され、合併の実現が目前に迫っていました。しかし、土壇場でイーロン・マスクが合併を破談させてしまいます。

この状況に対して、X.comのCEOであるビル・ハリスが行動を起こしました。彼はコンフィニティの経営者のマーク・レヴチンの自宅を訪れ、50対50の条件を提示しました。 ハリスにとって、合併は単なる防御的な手段ではありませんでした。それは攻撃的な戦略の一部でした。ハリスはネットワークの価値が端末の数の2乗に比例して増加すること(ネットワーク効果)を理解していました。

ハリスはメトカーフの法則=ネットワークの規模が成功の鍵であると信じ、交渉を成功させます。支払いを行う相手がいない決済システムは誰も利用せず、お金を受け取る相手がいないシステムでは誰も支払いを受け取りません。規模を達成しなければ、成功することは難しいとハリスは考えました。 ハリスは自らの手腕と交渉力を駆使し、マスクを説得して合併を実現させたのです。

合併後、ビル・ハリスはCEOの座を手放すことになりましたが、彼の存在がなければ、ペイパルの成功もありませんでしたし、イーロン・マスクやピーター・ティールなどのペイパルマフィアも同じような活躍を見せることはなかったでしょう。

ビル・ハリスの決断と行動は、彼がネットワーク効果の力と合併の重要性を理解していた証拠です。彼はリスクを冒し、未来の成長と成功を目指して合併を推進しました。その結果、ペイパルは急速に成長し、オンライン決済業界での地位を確立しました。

この合併は、ネットワークの力と競争の中での戦略的な判断が重要であることを示しています。ビジネスにおいて、ネットワーク効果を最大限に活用することは成功の鍵となる場合があります。ピーター・ティール、マイク・レブチン、ビル・ハリスが主導したペイパルの合併は、その典型的な例と言えるでしょう。

結果として、X.comとコンフィニティの合併は成功し、ペイパルはその後、世界的な決済プラットフォームとして大きな成果を上げました。ネットワーク効果を理解し、戦略的に活用することは、ビジネスの発展と成功において重要な要素となることを示しています。


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