なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる
ロバート・キーガン, リサ・ラスコウ・レイヒー
英治出版
なぜ弱さを見せあえる組織が強いのかの要約
発達指向型組織(DDO)は、メンバーが自らの弱さや課題をオープンに共有し、お互いに助け合いながら成長していきます。この組織文化では、個々のメンバーが自分自身と組織全体の成長と発達に焦点を当て、他者と共に学び合うことが重要視されています。彼らは弱さや課題を隠すのではなく、表に出すことをよしとしています。
なぜ弱さを見せるの組織(DDO)が成長するのか?
みんなが自分の弱さをさらけ出せる、安全であると同時に要求の厳しい組織文化によって生み出される。本書では、このような組織を「発達指向型組織(DDO=Deliberately Developmental Organization)」、略して「DDO」と呼ぶことにしたい。(ロバート・キーガン, リサ・ラスコウ・レイヒー)
本書では、組織全体が個々のメンバーが自己変革に向き合う「発達指向型組織(DDO)」を構築することの重要性が述べられています。このような組織では、メンバーは自らの弱さや課題をオープンに共有し、お互いに助け合いながら成長していく仕組みが築かれています。
DDOになるためには、組織全体が成長を促進する文化を醸成することが重要です。個人が自己の成長を優先し、失敗や弱点を受け入れ、それを学びと成長の機会に変える姿勢が求められます。
さらに、リーダーシップ層が積極的に個人の発達を支援し、フィードバックを提供することも欠かせません。DDOの実現には、組織全体がオープンでコミュニケーションを大切にし、自己開示や学びの文化を築くことが必要です。このような取り組みによって、個人と組織が共に成長し、持続的な成功を達成することが可能となります。
例えば、リーダーシップの視点から見ると、リーダーが率先して自らの弱さを認め、他のメンバーにも同じようにオープンにすることで、組織全体がより強固な結束力を持つことができるという具体的な事例が紹介されています。
また、自己変革を促すための具体的な方法やツールについても詳細に解説されており、実践的な視点からも読者に示唆を与えています。 一方で、組織における弱さを認め合うことへの抵抗や課題についても言及されています。メンバー間の信頼関係やコミュニケーションの質を高めることが必要であり、そのためには組織文化の変革やリーダーシップの変化が不可欠であるという観点も示されています。
VUCA時代の企業は、単なる技術的な問題だけでなく、変化への適応を求められる課題にも直面しています。技術的な問題は複雑であっても、考え方や組織の仕組みを見直すことで解決が可能です。しかし、適応を必要とする問題は、単に技術や知識の問題を超え、自己の限界を超えていく必要があります。
DDOは、このような時代の挑戦に応える効果的な方法と見なされています。DDOのアプローチでは、学習と自己改善を継続し、組織が柔軟に進化し、自らを組織化することを重視します。VUCA時代では、企業はこの適応力を育て、常に変化に柔軟に対応できる体制を築く必要があります。
これを実現するには、従来の考え方に囚われず、新しいアイデアやアプローチに開かれた態度が求められます。企業が持続可能な変革を達成するためには、リーダーシップの変革と従業員の意識改革が欠かせません。変化への適応性と柔軟な対応能力を高めることが、VUCA時代における企業の成功の鍵です。
発達指向型組織(DDO)というコンセプトの構造を論じるうえでは、深さ、広さ、高さという三つの軸から考えるのが有効だと、私たちは考えている。人の発達を後押しするコミュニティ(「ホーム」)、発達を実現するための慣行(「グルーヴ」)、そして発達への強い欲求(「エッジ」)──この三つの軸を一望し、その相互作用を見れば、DDOが一つの動的なシステムであることが見えてくる。
DDOでは、失敗を恐れず、むしろ成長と学びのための機会として捉える文化が確立されています。メンバーだけでなく、リーダーが弱さを見せることは、成長につながると考えているのです。
ここでは、組織の目標達成とメンバーの成長が密接に連携し、相互に依存していると考えられています。つまり、DDOでは人的成長を通じた利益追求と、利益追求を通じた人的成長への重点を同等に置いています。 例えば、ネクストジャンプでは、従業員の給与査定において、売上への貢献と発達指向の企業文化への貢献を等しく評価しています。
デキュリオンのクリストファー・フォアマン社長は、「私たちの企業では、利益の追求と個人の成長は共存します。両方がトレードオフの関係にあるとは考えておらず、一方を犠牲にしてもう一方を優先することはありません。一方に焦点を当て過ぎれば、実際には両方を損なうことになる」と述べています。
このように、DDOは継続的な発展の意欲を保ちながら、その独特の強みを維持し続けています。組織としての成長と個人の発達を、互いに支え合い、促進することで、DDOは持続可能な進歩を達成しています。評価制度に文化への貢献を入れることで、組織が強くなるのです。
ブリッジウォーター、デキュリオン、ネクスト・ジャンプは、いずれも階層制を有しており、上司と部下の関係が存在する点で一般の組織と似ています。しかし、これらの組織には他とは異なる決定的な特徴があります。それは、社内の地位が高いからといってその人の意見が無条件に受け入れられるわけではないこと、そして、階層の下位にある人々からの異論やアドバイスが積極的に求められ、尊重される文化があることです。
また、すべてのメンバーは、個人として、そして組織の一員として成長し続けるための努力から免除されてはいません。これらの点において、これらの組織は一般的な組織とは大きく異なり、自己と組織両方の発展に注力するDDOの特性を体現しています。
通常の組織では、高い地位にある人物はしばしば、厳しい試練や批判から保護されます。彼らはしばしば、すでに成長を遂げた「完成品」と見なされ、悪い行動を除いては、あまり責任を問われない状況にあります。
しかし、DDOではこの慣習に異を唱えます。DDOでは、リーダーが自らを保護するために権力を使うことは、組織の成長を阻害すると捉えられています。そのため、DDOではリーダーを含む全員が、常に自己改善と成長を求められ、どの地位にある人も試練と責任から免れることはありません。これは、組織の革新と発展を促す上で、重要な原則となっています。
DDOでは社員全員が成長にコミットする文化が築かれている!
DDOでは、人を成長させることが全員の責任とされ、実際に日々それが実行されている。
DDOは、個人の成長とビジネスの発展を一体として考える組織です。人を育てることは、会社のメンバー全員の仕事で、ビジネスの成長の不可欠な部分です。この考えに基づき、組織全体が人材育成に対して共通の責任を持つことが重要だとされています。
リーダーはもちろん、組織全体が育成文化を築く必要があります。日々の業務を通じて、個人の成長を促し、それが組織全体のイノベーションと成長に貢献する体系を作ることが、DDOの成功の鍵です。「自分の成長+他者の成長=みんなの成長」という考えが、組織を成長させる原動力になるのです。
成長のためには自分の弱さを認め、それを乗り越えようとする姿勢が重要です。この過程において、DDOのようなコミュニティが大きな役割を果たします。ここでは、新入社員からCEOまで、全員が「クルー(僚友)」として相互に支援し合います。
クルーは、個人が自分では気付けない弱点や無意識の反応を指摘し、それらを克服する手助けをします。このようにして、個人は困難を乗り越え、成長を遂げることができるのです。
DDOでは、従業員全員が企業文化の築き上げと維持に関わることが期待されます。新入社員からCEOに至るまで、誰もが常に仕事の方法を見直し、改善に貢献することが求められます。このアプローチにより、全員が企業文化を実践し、さらに強化する責任を持つことになります。つまり、各個人が文化の担い手となり、組織全体の発展に積極的に関与するのです。
DDOは、仕事の進め方の共有をことのほか重んじているように見える。社内のどこかで問題があれば、誰もそれを他人事と考えることは許されない。それは、みんなの責任と考えられる。新しい事業がスタートしたときは、人々がコミュニティを形成し、仕事の実行とマネジメントの面で適切なプロセスを設計するために多くの時間を費やす。
DDOでは、問題が発生した場合、全員が積極的に解決策を求めることが期待されています。問題を見過ごすことなく、全員で対応することで、組織の信頼性と効率が高まります。新しいプロジェクトを開始する際には、チームワークと適切なプロセスの設計が重要です。
これにより、より良い成果につながる基盤が形成されます。DDOでは、協力と共有、責任の取り組みを通じて、チーム全体が一つの目標に向かって進むことが重視されています。
会社はコミュニティ内の協同作業から成り立っています。そのため、全員がプロセスの監視、評価、更新に参加することが求められます。組織の設計に失敗すると、ビジネスの成果が得られなくなるだけでなく、チームメンバーの成長機会も失われます。これは、長期的なビジネスの成功を支える原動力を損なうことにもつながります。従って、プロセスに対する全員の関与は、組織の健全な発展と成功の鍵になります。
弱さを成長の糧にするDDOという組織をつくることが、VUCAの時代には求められています。変化に適応するためにリーダーは自分の力を過信せず、メンバー全員の知見や体験を活用すべきです。
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