アレルギー―私たちの体は世界の激変についていけない(テリーサ・マクフェイル)の書評

a person holding a pack of pills in their hand

アレルギー―私たちの体は世界の激変についていけない
テリーサ・マクフェイル
東洋経済新報社

アレルギー(テリーサ・マクフェイル)の要約

アレルギーは現代社会の重要課題となっています。この「警告」は、私たちの生活と環境の急激な変化を示しています。しかし、この問題に真摯に向き合い、社会全体で協力して取り組むことで、解決への道を見出せるはずです。AIやバイオテクノロジーや環境対策を通じて、アレルギー問題に人類は対処できるはずです。

アレルギーが人類の大きな課題に!

現在、世界中で数十億人の人々、推計で地球全体の人口の30%から40%が何らかのアレルギー疾患を有しており、そのうち数百万人の疾患は生命を危険にさらすほど重篤だ。(テリーサ・マクフェイル)

医療人類学者テリーサ・マクフェイルによる新著アレルギー―私たちの体は世界の激変についていけないは、現代社会において急増するアレルギーの問題に、科学的、個人的、そして政治的な視点から迫る意欲的な一冊です。スティーヴンス工科大学准教授であるマクフェイルは、公衆衛生や疫学の分野で幅広い研究を行っており、本書でその専門知識を存分に発揮しています。 

医療人類学者であるマクフェイルは、自身のアレルギー体験と父親の蜂刺されによる死という個人的な経験を出発点に、この複雑な現象の解明に挑んでいます。 本書は、アレルギーの定義や起源から始まり、その科学的背景、そして人類の未来への影響まで幅広いテーマを扱っていて、読み応えがあります。

マクフェイルは、世界人口の30〜40パーセントがアレルギーを持つという衝撃的な事実を提示し、過去10年間でのアレルギー診断数の増加が個人、家族、そして医療システム全体に及ぼす影響を指摘しています。 実際、どの程度の人がアレルギーで苦しんでいるかという正しい数字は、未だ明らかになっていません。ただ、年を追うごとに、アレルギー疾患で苦しむ人が増えていることが、様々なデータから明らかになっています。

アレルギー性免疫反応を抱える人々の日常は、一般的に想像されるよりもはるかに複雑で困難に満ちています。彼らは自身の健康状態を管理するために、莫大な時間と金銭、そして精神的なエネルギーを費やすことを余儀なくされています。アレルギーは、たとえ生命を直接的に脅かすものでなくとも、個人の生活に重大な影響を及ぼす重荷となりうるのです。

しかしながら、社会全体としてはアレルギーの深刻さを軽視する傾向が見られます。これは主に、アレルギーが通常直接的に人命を奪うことがないという認識に起因しています。その結果、私たちは往々にして他人のグルテン不耐症や花粉症について、その人が実際に経験している苦痛や不快感を十分に考慮することなく、安易に冗談の種にしてしまうことがあります。

実際のところ、アレルギーを発症している人々の生活の質(QOL)は、そうでない人々と比較して一般的に低いことが知られています。彼らは日常的により高いレベルの不安とストレスにさらされており、頻繁に倦怠感に悩まされています。さらに、集中力の低下やエネルギーレベルの減少といった問題にも直面しているのです。

初期の免疫学者たちの危険な実験から、最新の生物学的製剤や免疫療法の発展まで、アレルギー医学の歴史と現在を丹念に追っています。さらに、花粉を数える大気品質管理者、食物アレルギーの子を持つ母親、世界トップクラスのアレルギー専門医など、多様な人々へのインタビューを通じて、アレルギーが個人と社会に与える影響を生々しく描き出しています。

環境変化がアレルギーを増加させている??

アレルギー性の病気を抱える人々は、環境変化という炭鉱におけるカナリアなのだ。

本書の特筆すべき点は、アレルギーを単なる遺伝や医学的問題としてではなく、気候変動や環境汚染といった現代社会の課題と密接に関連する現象として捉えていることです。季節性アレルギーの研究者たちとの対話を通じて、著者は環境の変化がアレルギーの増加にどのように影響しているかを探っています。

例えば、花粉に関しては、2040年までにその量が全体として現在の2倍にまで増加すると見込まれています。しかし、単に量が増えるだけではなく、花粉の質的な変化も懸念されています。 

これは、花粉中のペプチド含有量が増加することで、私たちの免疫系がより強く、そしてより悪化した形で反応する可能性が高まることを意味します。つまり、アレルギー症状がより重症化する恐れがあるのです。 近年の研究は、この問題の深刻さを裏付けています。花粉の飛散時期が延長されることで、アレルギー性喘息による救急救命室への搬送が増加する可能性が高まっています。

特にオークの花粉に着目した研究では、すでに米国内だけで毎年約2万人もの人々がこの花粉が原因で救急救命室に運ばれているという驚くべき事実が明らかになっています。 この状況は、単に不快な症状を引き起こすだけでなく、医療システムにも大きな負担をかけることになります。

救急搬送の増加は、医療資源の逼迫や医療費の上昇にもつながる可能性があり、社会全体に影響を及ぼす問題となりかねません。 さらに、気候変動の影響は花粉だけにとどまりません。

花粉の量と質の変化、飛散期間の延長、そしてカビの増殖加速など、複数の要因が重なり合って、アレルギー患者の生活に大きな影響を与えることが予想されます。

アレルギー性疾患の発症メカニズムは、遺伝、環境、生活習慣の3つの要素が複雑に絡み合う現象です。遺伝的要因は重要ですが、それだけでは説明できません。一卵性双生児でも必ずしも同じアレルギー症状を示さないことがその証拠です。

環境要因も大きな影響を与えており、大気汫染や気候変動などがアレルギーリスクを高めていますが、これも唯一の原因ではありません。生活習慣も重要で、食事や運動、睡眠、ストレス管理などが免疫系に影響を与えています。「衛生仮説」もこの文脈で理解されています。

結局のところ、現在のアレルギー問題は過去200年間の人類の生活様式の変化とその影響の総合的な結果です。産業革命以降の都市化、工業化、グローバル化が私たちの免疫系に大きな負荷をかけています。アレルギー性疾患の理解と対策には、これらの複雑な要因を総合的に考慮する必要があります。

最近の科学技術の急速な発展が、アレルギー治療に新たな希望をもたらしつつあります。特に注目されているのが、機械学習と新たな実験技術です。これらの技術は、今後数十年でアレルギー治療に革命的な変化をもたらす可能性を秘めています。

AIによる機械学習は、膨大な医療データを分析し、個々の患者に最適な治療法を提案することができます。例えば、患者の遺伝情報、生活環境、食習慣などの多様なデータを統合的に解析することで、アレルギー発症のリスクを高精度で予測したり、個人に合わせたオーダーメイドの治療プランを立案したりすることが可能になるでしょう。さらに、機械学習はアレルゲンの特定や新薬の開発にも活用されることが期待されています。

私の推測では、たとえ自分自身が食物アレルギーを抱えておらず、食品の勧告表示が患者に与える不安感を直接我が事のようには感じ取れないとしても、食品はそれを消費するあらゆる人にとって安全でなければならないという点には、私たち皆が同意できるのではないだろうか。

一部の人はピーナッツや牛乳などのアレルギーによって、深刻なリスクを抱えています。これらのアレルゲンに接触することで、軽度の症状から生命を脅かす重篤な反応まで、様々な健康上の問題が引き起こされる可能性があります。

アレルギー患者の安全を確保しつつ、食品産業の発展も両立させていくためには、今後も継続的な制度の見直しと改善が必要です。消費者、食品メーカー、外食産業、規制当局が協力して、より安全で信頼性の高いアレルゲン表示システムを構築していくことが求められています。

アレルギー問題を解決するために必要なこと

アレルギーは究極のところ、私たちのヒトとしての脆弱性の問題だ。

人体の免疫系は、まるで全身の天然キュレーターのような役割を果たしています。有益な細胞と有害な細胞のバランスを巧みに調整し、私たちの健康を維持しているのです。しかし、近年の研究により、この免疫系の働きを理解する上で、個人の微生物叢が極めて重要な鍵を握っていることが明らかになってきました。

微生物叢、すなわち私たちの体内に生息する細菌やウイルスの集合体は、単に健康増進に寄与するだけでなく、免疫系の根本的な機能メカニズムを解明する手がかりとなる可能性があります。免疫療法の部分的な成功は、この考えを裏付ける証拠の一つと言えます。

人間の細胞と、私たちの体内に共生する細菌やウイルスとの相互作用を詳細に研究することで、アレルギーという複雑な現象の全容を解明できるかもしれません。これは、単に医学的な問題解決にとどまらず、人間と微生物の共生関係という、より大きな生態学的な視点を提供してくれます。

アレルギーに対する真の「根治療法」を探るなら、私たちが一般に「バイキン」と呼ぶ微生物との複雑な関係性や依存性に注目する必要があります。というのも、これらの「バイキン」の中には、実は私たちの敵ではなく、むしろ重要な共生パートナーとして機能しているものが多数存在するからです。

適切なバランスの取れた微生物群を体内外に持つことが、私たちの心身の健康に不可欠だということが、徐々に明らかになってきています。言い換えれば、私たちは微生物なしでは健康に生きていくことができないのです。この認識は、これまでの「無菌」を理想とする考え方から大きく転換し、「共生」を重視する新たな健康観をもたらしています。

アレルギーの問題は、究極的には人間の脆弱性を示す指標だと言い換えられるかもしれません。それは生物学的な面だけでなく、社会的な面においても同様です。現代社会において、アレルギーの増加は環境の変化や生活様式の変容と密接に関連しています。

都市化、食生活の変化、過度の衛生管理など、私たちを取り巻く環境の急激な変化が、人間と微生物の共生バランスを崩し、アレルギー疾患の増加につながっています。 良くも悪くも、アレルギーの存在は、私たち全てが変化し続ける世界に共に生きているという事実を証明しています。環境の変化に対して、私たちの身体が敏感に反応した結果、アレルギー患者が増えているのです。

そしてこの状況は、個人の問題を超えて、社会全体で取り組むべき課題となっています。 アレルギーへの対応は、単に症状を抑制するだけでなく、私たちと微生物との関係性を再構築し、より健康的な共生関係を築くことを目指す必要があります。そのためには、医学、生態学、環境科学、社会学など、多岐にわたる分野の知見を総合的に活用することが求められます。 さらに、アレルギー対策は個人の努力だけでは限界があります。社会全体での取り組みが不可欠です。

アレルギーを抱える人々への偏見や差別をなくし、互いに支え合える社会を作ることが、アレルギー患者のQOL(生活の質)向上につながります。アレルギーの問題は、私たち人類が直面している大きな課題の一つだと認識したほうがよさそうです。

しかし同時に、この問題に取り組むことで、人間と自然、そして人間同士の関係性を見直し、より調和のとれた社会を築くチャンスでもあります。微生物との共生関係を理解し、尊重することで、私たちはより健康で持続可能な未来へと歩を進めることができるのです。アレルギーという「警告」を真摯に受け止め、私たち全員が力を合わせて取り組むことで、この課題を乗り越えていくことができるはずです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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