疑う力
真山仁
文藝春秋
疑う力(真山仁)の書評
多様な情報が溢れる現代社会において、真実を見極める力の重要性が増しています。誰かが強く主張する「正しさ」に違和感を覚えたとき、それを見過ごさない勇気が必要です。面倒がらずに情報を精査し、自らの見識を磨く。この繰り返しによって、私たちは「疑う力」を身につけていくのです。
自分らしく生きるために質問を重ねよう!
大切なのは、納得するために質問を続ける姿勢です。(真山仁)
「ハゲタカ」などで有名なベストセラー作家の真山仁氏の疑う力は、現代社会において極めて重要な能力を読者に提示します。本書は、私たちが日常的に接する情報や、長年にわたって社会に定着してきた常識に対して、批判的な目を向けることの重要性を説いています。
著者は、単に与えられた情報や前提を受け入れるのではなく、「本当にそれは正しいのか」と問いかける姿勢を読者に促します。さらに、真山氏は「大切なのは、納得するために質問を続ける姿勢です」と強調しています。
自分の中のモヤモヤや疑問を解決し、深い理解に至らなければ、物事を判断できません。 この「納得するまで質問を続ける」という姿勢は、本書全体を通じて一貫したテーマとなっています。
真山氏は、表面的な理解や他者の意見の鵜呑みではなく、自分自身が納得できるまで考え抜くことの価値を読者に伝えています。この過程こそが、真の知識の習得と新たなアイデアを生み出す源泉になります。
多くの場合、議論は自己の意見を押し通すか、あるいは相手の提案の欠点を指摘し、論破することに終始しがちです。しかし、真の議論とは、このような対立的なアプローチとは本質的に異なります。 真山氏の考える効果的な議論とは、各参加者の意見や提案を丁寧に傾聴することから始まります。
そして、質問を通じて各意見の背景にある論理や懸念事項を深く理解し、最終的には多様な視点を統合して組織全体にとって最適な解決策を共同で創出するプロセスを指します。
このアプローチは、特に複雑な意思決定や部門横断的なプロジェクトにおいて、大きな価値を発揮します。異なる専門性や利害関係を持つステークホルダー間の建設的な対話を促進し、イノベーティブな解決策の創出につながる可能性があります。
また、多様性を受け入れることも重要です。異なるバックグラウンドや専門性を持つ同僚の意見に積極的に耳を傾け、「そういう見方もあるのか」という姿勢で新しい視点を吸収することを意味します。多様な意見をイノベーションの源泉として捉えることが重要です。
一方で、批判的思考の適用も欠かせません。受け入れた多様な意見に対して「本当にそうだろうか?」と再考し、従来の常識や慣行に対してもその妥当性を検証することが重要です。
最近では、企業や政府がウェルビーイングを提唱していますが、それを鵜呑みにすれば、幸せになれるのでしょうか?
企業、特に大手企業がどんどんアメリカナイズされていきました。そのくせ、資本主義でやっていこうと言いながらも、従業員の給料を上げようとはしない。上げなくても文句を言われないからです。
1990年代以降、日本経済はバブル崩壊を経験し、同時にグローバル化の波に直面しました。この結果、日本の企業文化にも大きな変化が起こりました。投資家や資本家の声が強くなり、株主重視の経営が主流となっていきました。短期的な利益追求が重視されるようになり、長期的な従業員の育成や福利厚生よりも、四半期ごとの業績が重視されるようになりました。 グローバル競争の中で、人件費を含むコスト削減が常態化しました。
企業は生き残りをかけて、様々な面でコストカットを行いましたが、その矛先は往々にして従業員の給与や福利厚生に向けられました。同時に、雇用形態の多様化が進み、非正規雇用が増加しました。この柔軟な雇用形態は、企業にとってはコスト管理の手段となりましたが、労働者にとっては雇用の安定性の低下を意味しました。
これらの変化により、多くの日本企業で従業員の給与は長年据え置かれ、または減少する傾向にありました。その結果、日本人の実質所得は停滞し、幸福度の低下につながっていったのです。経済的な不安定さは、人々の生活に大きな影響を与え、将来への不安を増大させました。
近年、企業や政府が推進する「ウェルビーイング」や「働き方改革」の施策には、明確な限界が見られます。多くの取り組みが表面的な対応に留まり、本質的な問題解決には至っていないのが現状です。 従業員の真の幸福を実現するためには、会社のパーパスへの共感とやりがいが不可欠です。
残業時間の削減や有給休暇の取得促進といった施策は重要ですが、働く目的が欠如していては本質的な意味を持ちません。さらに、これらの施策は精神的な幸福を強調する一方で、経済的な幸福の重要性を軽視する傾向があります。ワーク・ライフ・バランスや職場環境の改善は確かに大切ですが、給与水準が低いままでは生活の質向上は望めません。
従業員の幸福度向上には、パーパスややりがいの醸成に加え、適切な評価制度の導入と給与アップの仕組みが必要になります。しかし、これらの対応は後手に回っているのが現状です。ここ数年で若手の給与水準は上昇傾向にありますが、欧米と比較すると依然として低い水準にありますし、従業員の労働意欲やエンゲージメントも時間できるものではありません。
著者が指摘するように、幸せは自ら求め、勝ち取るものです。企業や政府の施策に頼るだけでなく、個人が主体的に幸福を追求することが重要です。しかし同時に、組織もまた、従業員の幸福を支える環境整備と適切な待遇の提供に真摯に取り組む必要があります。
日本人の幸福度を高めるためには、企業努力とともに個人のマインドセットも変えていく必要がありそうです。
幸福になるために必要なこと
誰かから言われてやっているのではなく、相談はしたかもしれないけれど、最後は自分で決めて行動している。それに対していくばくかの結果が出せたら、それが幸せ。失敗したとしても、案外、それはそれで幸せなんです。これは、「自分らしさ」ともつながります。「らしさ」は、自分で決めたことをやり続けないと、生まれてきません。幸せというのは、自分らしく生きることなのですから。
私たちの人生は、日々の選択の積み重ねでできています。しかし、その選択が本当に自分自身のものであるかどうかが重要です。周囲の期待や社会の規範に流されるのではなく、自分の価値観に基づいて決断することが、真の自己決定につながります。
他人からのアドバイスを参考にすることは大切ですが、最終的な判断は自分で下すことで、その決定に対する責任感と主体性が生まれます。 自己決定には確かに責任が伴いますが、それこそが個人の成長につながる重要な要素です。失敗を恐れずに自分で決めることで、真の学びが得られます。この過程で、私たちは自分自身をより深く理解し、自信を培っていくのです。
自己決定の価値は、必ずしも結果の成功だけにあるのではありません。自分で決めた行動から得られるわずかな成果でも、大きな満足感をもたらします。それは、他人の基準ではなく、自分自身の成長や進歩を評価することの大切さを示しています。
さらに、思い通りにならなかった場合でも、そのプロセスから学ぶことには大きな価値があります。失敗経験が将来の成功につながる可能性を認識することで、私たちは挫折を恐れず、より積極的に挑戦することができるようになります。このように、結果だけでなくプロセスを重視することで、日々の小さな幸せを感じられるようになるのです。
「自分らしく」生きるとは、具体的にどういうことでしょうか。それは、自分の価値観、興味、強みを知るための継続的な内省と、様々な経験を通じて自分らしさを発見していくプロセスです。この自己探求の旅は、人生を通じて続くものであり、時間とともに変化する自分を受け入れつつ、核となる価値観を大切にする姿勢が重要です。
自分で決めたことを継続することで、徐々に「らしさ」が形成されていきます。この一貫性が、他者から見た「あなたらしさ」を作り出すと同時に、自分自身の内面にも強い自己認識をもたらします。ただし、この「らしさ」は固定的なものではなく、新たな経験や学びによって常に進化し続けるものだということを忘れてはいけません。
真の幸福とは 幸せの定義は人それぞれですが、自分らしく生きることが幸福の本質であると考えられます。それは、外的な評価や物質的な成功ではなく、自分の生き方に対する内的な満足感から生まれるものです。自分の行動と価値観の一致がもたらす心の安定が、幸福をもたらしてくれます。
日々の小さな目標達成が、個人の成長と幸福度向上につながります。これを習慣化すると、充実した日々が送れるようになります。挑戦と失敗を重ねる過程で、新たな出会いが生まれます。 自分らしく生きることで、より深い人間関係を築けるようになります。
自己理解が深まると、他者理解も進み、お互いの個性を尊重し合える関係が生まれます。このような人とのつながりが、私たちの幸福度を高めてくれるのです。
「疑う力」を身に付ける方法
誰かが強く主張していること、つまり誰かの「正しい」に違和感を抱いたら、見過ごさない気構えです。面倒がらずに、情報を精査する。この繰り返しによって、見識が磨かれていきます。 つまり、「疑う力」が身につくようになります。
多様な情報が溢れる現代社会において、真実を見極める力の重要性が増しています。誰かが強く主張する「正しさ」に違和感を覚えたとき、それを見過ごさない勇気が必要です。面倒がらずに情報を精査し、自らの見識を磨く。この繰り返しによって、私たちは「疑う力」を身につけていくのです。
その一つがミステリーを読むことだと著者は述べています。ミステリー作家が事実を検証するように、違和感があるニュースに対して向き合い、質問することで、正しい答えに近づけるようになり、陰謀論にも惑わされなくなります。ミステリーを読み、疑う力を養うことで、先入観を持たずに、事実と向き合えるようになります。
現実の社会では「フェイクニュース」や「ウソ」が横行し、その根幹から崩壊の危機に瀕していると言っても過言ではありません。真実が軽んじられ、虚偽が当たり前となる環境では、人々の間の信頼関係が崩れ、社会の健全な発展は望めません。
この状況に絶望するのではなく、私たち一人ひとりが変革を促す主体となることが重要です。真実を尊び、誠実さを重んじる行動を日々の生活の中で実践することで、社会全体を正しい方向へ導くことができるのです。 この取り組みは決して容易なものではありません。
著者は決して、諦めてはいけないと主張します。日々の小さな行動から始め、真実を追求する姿勢を貫くことで、周囲に良い影響を与えることができます。誠実さを重んじる人々が増えれば、社会全体の雰囲気も少しずつ変わっていくでしょう。 未来に希望を持つためには、現状を正確に見つめ、改善に向けて行動することが不可欠です。
真実を大切にし、互いに励まし合いながら前進することで、より良い社会を築くことができるのです。 この過程は長く、時に困難を伴うかもしれません。しかし、真摯に取り組むことで、必ず明るい未来が開けるはずです。私たち一人ひとりが、この責任を自覚し、行動することが、社会を変える第一歩となるのです。
情報を鵜呑みにせず、常に批判的思考を持って接することで、私たちは「ウソ」に惑わされない強さを身につけることができます。 また、真実を追求する過程で、多様な意見や視点に触れることも重要です。自分とは異なる考えを持つ人々と対話し、理解を深めることで、より広い視野を獲得することができます。これは、社会の分断を防ぎ、相互理解を促進する上でも大切な姿勢です。
教育の場においても、「疑う力」を育むことの重要性を認識し、批判的思考力を養う機会を提供することが求められます。若い世代が真実を見極める力を身につけることで、将来的に「ウソ」に惑わされにくい社会の実現につながるでしょう。
メディアリテラシーの向上も、このコンテクストにおいて求められるスキルになります。情報源の信頼性を判断し、偏りのない情報を選別する能力は、現代社会を生きる上で不可欠な能力になっています。
最後に、真実を追求する姿勢は、個人の誠実さと深く結びついていることを忘れてはいけません。自らが誠実であることで、周囲の信頼を得、社会全体の信頼性向上に貢献することができるのです。
真実を尊び、誠実さを重んじる社会の実現は、一朝一夕には成し遂げられません。しかし、私たち一人ひとりが日々の生活の中でこの姿勢を貫くことで、確実に社会を変える力となります。真実を追求する勇気と忍耐を持ち続け、共に明るい未来を築いていきましょう。
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