信頼の経済学 人類の繁栄を支えるメカニズム(ベンジャミン・ホー)の書評

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信頼の経済学 人類の繁栄を支えるメカニズム
ベンジャミン・ホー
慶應義塾大学出版会

信頼の経済学 人類の繁栄を支えるメカニズム(ベンジャミン・ホー)の要約

信頼は人類の進化の原動力です。それは未来への投資であり、将来の利益のために現在のリスクや犠牲を受け入れることを意味します。自己理解を深め、長期的な視点を持ち、他社に貢献することが、社会全体の信頼度を高める鍵となります。この認識が、より強固な信頼関係と発展した社会の構築につながるのです。

信頼が人類に取って重要な理由

信頼の核心とは「この人物に頼るか、否か?」の選択を行うことである。人を信頼するということは、その人を信じるからこそ、リスクを伴う状況に敢えて足を踏み入れるということだ。誰かと協力するほうが単独で事に当たるよりもうまくいくような状況では、信頼が必要になる。(ベンジャミン・ホー)

現代社会において、信頼は目に見えない重要な要素として機能しています。ヴァッサー大学の准教授ベンジャミン・ホーは、本書で信頼の本質を探り、経済学的視点から分析を行っています。

ホーによれば、信頼の核心は「この人物に頼るか、否か」という選択にあります。誰かを信頼するということは、リスクを伴う状況に敢えて身を置くことを意味します。特に、協力することで単独行動よりも良い結果が得られる場面では、信頼が不可欠となります。

しかし、他者との協力には常にリスクが伴います。相手が期待に応えられなかったり、信頼に値しないと判明したりした場合、どのように対処すべきでしょうか。誰を頼るべきか、また誰かを信頼することでどのようなリスクを負うことになるのか、こうした判断が難しい場面で信頼の重要性が際立ちます。

人類の文明の歴史は、互いの信頼関係の発展と密接に結びついています。 最初、人間は小さな部族で生活していました。そこで人々は、協力することで単独行動よりも多くのことを達成できると学びました。集団で行動することで、大型の獲物を狩ったり、捕食者から身を守ったりすることがより容易になったのです。

しかし、協力には課題もありました。他者に頼る必要があるため、集団の規模が大きくなるほど信頼を築くことが難しくなったのです。 文明が発展し複雑化すると、人々は都市へ移り住み、同業組合や都市国家、国家を形成していきました。より大規模な共同体で生きていくには、新たな形の信頼が必要となったのです。

そこで、宗教や市場、法の支配といった制度が発展し、複雑化する社会や拡大するネットワークの調整を可能にしました。 現代の経済・社会は、こうした過程を経て形成されました。私たちは今でも部族的な性向を持ちながらも、より大規模で複雑な社会システムの中で生きています。

信頼は現代社会の様々な側面に影響を与えています。宗教や職場の構築、謝罪や笑顔の意味づけなど、多岐にわたります。ブランド企業も政治家も、私たちの信頼を得ようと努力しています。 日常生活の中で、私たちは常に信頼に関する判断を行っています。不確実な状況で他者と関わるとき、相手が信頼できるかを判断したり、自分が相手に信頼されようとしたりしています。

信頼は、人間社会の基盤を形成する重要な要素です。著者の研究によると、信頼には4つの段階があると考えられています。 まず、信頼は信頼者が相手の信頼性に対して抱く信念から始まります。この信念が十分に強ければ、実際に信頼するという行動につながります。

信頼者は、相手の信頼性を当てにすることでリスクを負い、自らを脆弱な立場に置きます。 次に、被信頼者の番が回ってきます。彼らは、多くの場合、コストや個人的な犠牲を伴う行動を通じて、その信頼に応えます。これにより、自らの信頼性を証明するのです。 最後に、被信頼者の行動は信頼者の評価に影響を与え、次の相互作用のための基盤を形成します。

この過程は、Amazonとそのユーザーのような関係性にも見られるものです。 経済学者はこのような二者間の関係を「信頼ゲーム」としてモデル化しています。このゲームは、リスク、共有する価値観、犠牲、評判など、信頼に関する重要な経済的特徴を観察することができます。

信頼は、繰り返される相互作用を伴う協力関係の中で発生します。現在の行動は、将来の協力にどのような影響を与えるかによって左右され、同時に過去の協力的行動によっても決定されます。

信頼できる人の特性には、能力、利他主義、共感、誠実さ、公平性の感覚、互恵性の感覚、敬意、相手の福利への関心、相手が価値を置くことについての知識と理解などがあります。これらの特性は、相手との関係性を深める上で重要な役割を果たします。

制度の研究は、信頼を理解する上で非常に重要です。その理由は2つあります。まず、人間の制度の大半が信頼の機能に依存しているからです。市場、裁判所、民主主義など、現代の制度はさまざまな点で信頼に頼っています。例えば、本を購入する際にも出版社や書店、顧客との信頼が必要となりますし、訴訟での判決や規制の適用にも信頼が不可欠です。

さらに根本的な理由として、人類の多くの制度が信頼の促進を中心に考案されているという点があります。人類の文明の歴史は、協力の規模を拡大させることで、より大規模で素晴らしいものを作り上げていく過程だと言えるでしょう。

このように、信頼は私たちの社会や経済活動の根幹を成す要素です。日常生活の中で、私たちは常に信頼に基づいた判断や行動を行っています。経済学的視点から信頼を分析することで、社会システムの仕組みをより深く理解し、より効果的な制度や関係性を構築することができるのです。

信頼は伝染し、未来を明るくする!

相手との社会的類似性が増すほど、人はその人を信頼しやすくなる。

信頼関係の構築において、笑顔は非常に重要な役割を果たします。特に赤ちゃんや子どもたちは、笑顔を通じて周囲との信頼関係を築いていきます。大人の世界でも、笑顔は信頼の証として機能します。 新しい人と知り合ったとき、その人を信頼すべきかどうか迷う場合があります。

そんなときは、ジョークを言ってみるのが良い方法です。相手が自然に笑ってくれれば、それは共通のユーモア感覚を持っているサインかもしれません。ユーモアは多くの場合、社会規範を破ることから生まれます。つまり、同じものを面白いと感じるということは、同じ規範を共有している可能性が高いのです。この規範の共有は、信頼関係の強固な基盤となります。

また、相手との社会的類似性が高いほど、人は相手を信頼しやすくなる傾向があります。これは、共通点が多いほど相手の行動を予測しやすくなるためです。 信頼関係の構築には、忍耐も重要な要素です。

今日の行動が将来どのような結果をもたらすかを予測することで、相手の行動を律し、自分もリスクを冒す価値があると判断できます。特に一対一の関係では、自分の行動がいつか自分に返ってくることが理解しやすいですが、大規模なコミュニティでは、この忍耐にはより大きな負担がかかります。

歴史的に見ると、評判と市場経済は密接に結びついていました。売り手と買い手は、互いの評判を頼りに信頼関係を構築してきました。しかし、現代経済では、この信頼のシステムがデジタル化されています。例えば、オンラインマーケットプレイスのイーベイの販売者のスコアは、 デジタル形式の評判にすぎませんし、イェルプなどのレビューサイトは、噂話をするグループの現代版だと著者は指摘します。

ブランディングの本質的な目的は、信頼関係の構築にあります。この概念は、社会の変遷とともに進化してきました。かつての小さな村では、人々は地元の商人や職人と直接的な信頼関係を築いていました。市場でのやり取りは、主に個人的に知っている相手との間で行われていたのです。

しかし、産業革命以降、大量生産と効率化が進むにつれ、消費者の購買パターンは大きく変化しました。全国チェーンや国際的な企業からの購入が増加し、消費者は直接知らない相手から商品やサービスを購入するようになりました。この変化に伴い、誰を信頼すべきかを判断する新しい方法が必要となり、そこでブランドが誕生したのです。

現代の消費文化において、ブランドは単なる商品の識別以上の意味を持つようになっています。私たちが消費するブランドは、私たちのアイデンティティと密接に結びついています。何を買い、何を消費するかという決断は、私たちが自覚している以上に多くの情報を他者に伝えています。この現象は、ブランドが単に企業との信頼関係を構築するだけでなく、消費者同士の間でも信頼関係を築く媒介となっていることを示しています。

つまり、ブランドには以下の2つの重要な役割があるのです。
①組織に関わる個々人の評判を、一つの共有された集合的な評判に置き換えること
②消費者が自分のアイデンティティを表現し、それを通じて信頼できる他者を見つけられるようにすること

この点で、ブランドの機能は宗教の機能と類似しています。宗教が共通の価値観と慣行を持つ人々の集団に一つの評判を共有させることで信頼を高めるのと同様に、企業もブランドを通じてこの機能を果たしています。

実際、企業はブランドを維持するために、宗教が信者の評判を保つために用いる手法と似たような戦略を採用しています。例えば、共通のシンボルや儀式の使用、コミュニティの形成、物語や神話の創造などが挙げられます。

アップルの新製品の発表イベントは、まるで宗教的な儀式のような雰囲気を醸し出し、ファンの間に強い帰属意識を生み出しています。創業者のスティーブ・ジョブズは、カリスマ的な指導者としてブランドの「預言者」的な役割を果たしました。

このように、企業はブランドを通じて、単に商品やサービスを提供するだけでなく、価値観やライフスタイルを提案し、消費者との間に強い絆を形成しています。これは、宗教が信者との間に築く関係性と多くの点で類似しています。

ブランドは、現代社会において人々が自己を表現し、他者とつながる重要な手段となっています。消費者は特定のブランドを選択することで、自分の価値観や志向を表現し、同じブランドを好む他者との間に信頼関係を築いています。これは、宗教が信者間のつながりを促進するのと同じ機能を果たしているのです。

今日では、見知らぬ人を車に乗せたり(ライドシェア)、家に泊めたり(民泊)することが一般的になっています。これらのシェアリングエコノミーは、オンラインでの評判システムと、企業の役割の変化に基づいています。 最近では、ブロックチェーン技術が注目を集めています。これは基本的に、人間同士の信頼をアルゴリズムに置き換えることを目指しています。

人間は生まれつき信頼する能力を持っていますが、同時に少数の人しか信頼しない本能も持っています。しかし、長い歴史を経て、私たちは信頼の輪を何百万人にも広げることができるようになりました。今では、地球の裏側にいる見知らぬ人から商品を購入することも珍しくありません。

ソーシャルメディアの出現は、信頼のあり方に新たな課題を投げかけています。エコーチェンバー現象や情報の急速な拡散など、新たな問題も生まれています。しかしこの課題を解決できれば、ネットワークの参加者に適切な情報を届けられるようになります。

信頼できる行動は伝染する。私が信頼できる行動をとりたいと思うのは、信頼できる人々の社会に住みたいと思うからでもある。

信頼を築くことは、未来への投資です。将来の利益のために、現在リスクを負い、犠牲を払うのです。自己理解と将来への投資の重要性を認識することが、社会全体の信頼を高めるために重要です。

謝罪の仕方にも信頼の理論が応用できると著者は述べています。効果的な謝罪は、意図しない結果に対して行われ、タイミングも重要です。信頼が最も必要とされるときに、謝罪はより効果的になります。

このように、信頼は私たちの社会や経済活動の様々な側面に深く関わっています。信頼のメカニズムを理解し、適切に活用することで、より良い関係性や社会システムを構築することができるのです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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