身辺整理 (森永卓郎)の書評

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身辺整理
森永卓郎
興陽館

身辺整理 (森永卓郎)の要約

死を身近に捉えることで、生の輝きが増します。自分にとって本当に必要なものだけを残す身辺整理を行うことは、より本質的な生き方への第一歩となります。森永卓郎氏のアドバイスは、現代を生きる私たちに、新たな生き方を示しています。私たちは物質的な豊かさではなく、本当にやりたいことに時間とお金を使うべきです。

身辺整理が今すぐ必要な理由

身辺整理に早過ぎることも遅過ぎることもない。(森永卓郎)

経済アナリストの森永卓郎氏は、がん闘病という経験を通じて、今の時代に必要な「身辺整理」を提案しています。これは単なる物理的な整理整頓の域を超え、人生の本質を問い直す深遠なメッセージを含んでいます。

人は往々にして物質的な豊かさを追い求め、膨大な時間とエネルギーを費やして不要なモノを抱え込みます。しかし、死という避けられない事実に向き合った時、その価値観は大きく揺さぶられることになります。森永氏の経験は、まさにこの価値観の転換を鮮明に映し出しています。

モノへの執着を手放すことは、決して物質的な貧困を意味するものではありません。むしろ、本当に必要なものを見極める目を養い、より自由で豊かな生活への扉を開くことにつながります。「必要であれば、また手に入れることができる」という発想を持つことで、モノを必要以上に増やさずにすみます。

森永氏は「人生で一番大事なモノは教養、つまり自由に生きるための技術」と語っています。これは単なる知識やスキルにとどまらず、自分らしい生き方を支える内なる羅針盤でもあります。この考え方は、現代に生きる私たちに「豊かさ」についての再考を促してくれます。

モノを所有することが豊かさの象徴とされがちな今、その維持や管理に時間やエネルギーを割くことで、私たちは本来の自由を失っています。森永氏が言うように、死を意識することで、物質的な所有への執着は自然と薄れ、本当に大切なものややりたいことが見えてくるのです。

身辺整理は死後のためだけでなく、生きている間に人生を見直す大切な作業だといえます。少ないもので暮らし、内面の充実を追求することが、結果として本当の自由をもたらし、死という避けられない事実にも堂々と向き合う覚悟を育んでくれるのです。 

ただ人はいつ死ぬとも限らない。だとすれば元気なうちに自分の後始末は自分でと考えて、今すぐ身辺整理を始めたほうがいいだろう。自分が死んだあとに家族がどんな困難に直面するのか、何が起こるのかと想像してみてほしい。

また、森永氏の「自分の後始末は自分で」という考えは、家族への思いやりにも通じます。残された家族が、遺品整理や財産の手続きに追われることなく、故人を静かに偲んでもらうために、いまから身辺整理を始めることをすすめています。

すべての問いは「本当に大事なモノは何か?」に集約されます。物にとらわれず、精神的な豊かさを大切にする生き方が、限りある時間の中で充実した人生を送るための指針を示してくれます。

死を意識することは逆説的ですが、より豊かな生を見出すきっかけとなります。日々の暮らしの中で、本当に大切なものとは何かを見極める眼差しが養われ、それは必然的に、物質的な所有への執着から解放されることにつながっていきます。

著書が投げかける問いは、現代社会を生きる私たちに、深い示唆を与えています。果たして真の豊かさとは何か?限りある時間の中で、いかに充実した人生を送るべきか?それは、モノに囚われない自由な精神と、内面の充実を追求する姿勢によってのみ、見出すことができるのかもしれません。

資本主義がなくなる未来の身辺整理

資本主義の本質を鋭く指摘したカール・マルクスが予見した世界は、現代において痛烈な形で現実化しています。格差社会の深刻化、環境破壊の加速、少子化の進行、そして意味を見出せない仕事の増加。これらの問題は、私たちの生活の根幹を揺るがす重大な課題となっています。

特に現代社会において、ブルシット・ジョブと呼ばれる、本質的な価値を見出しにくい仕事の増加は、人々の生きがいや自己実現の機会を奪う深刻な問題となっています。単にお金を稼ぐことだけを目的とした生活は、心の満足や本当の幸せとは程遠いものかもしれません。

このような状況下で、身辺整理という行為は単なる物理的な整理整頓以上の意味を持ちます。それは、物質的な豊かさと精神的な充実のバランスを見直す機会となります。お金を稼ぐことは生活の基盤として確かに重要ですが、それをどのように使い、何に価値を見出すかという視点も同様に重要です。

身辺整理は、私たちに「本当に必要なもの」への気づきをもたらします。それは同時に、お金の使い方を考え直す機会にもなります。必要以上にモノを溜め込まず、真に価値のあるものやコトのみに投資する。このような意識の転換は、自分らしく生きるための重要な指針となります。

さらに、身辺整理は環境問題への意識も高めます。必要以上の消費を控え、モノを大切に使う習慣は、環境への負荷を減らすことにもつながります。これは、マルクスが警鐘を鳴らした環境破壊の問題に対する、個人レベルでの具体的なアプローチとなります。

身辺整理は、このように現代社会の課題に対する一つの解決策を見せてくれます。モノを減らし、本当に必要なものを見極めることは、資本主義の行き過ぎた影響から自身を解放する第一歩となります。それは同時に、より持続可能な社会の実現に向けた、個人レベルでの具体的な行動にもなります。また、身辺整理は本当にやりたいことを見つけるきっかけになります。

お金を稼ぎ、そして適切に使い切る。この両輪のバランスを取ることが、現代社会を豊かに生きるための知恵となるのです。身辺整理は、そのための重要な気づきと実践の機会を私たちに提供してくれます。

著者は「資本主義が消滅した未来では株式投資に意味がなくなる」と述べていますが、私はそうではないと考えます。資本主義がなくなるとイノベーションが停滞し、社会全体が進展しなくなると思うからです。また、応援したい企業に投資することも重要な意味があると感じています。そのため、この森永氏の意見には異論がありますが、それ以外の本書の主張には共感できる部分が多いです。

死を見つめることで、生の輝きが増します。そして、自分にとって本当に必要なものだけを残す身辺整理は、より本質的な生き方への第一歩となります。森永氏のアドバイスは、現代を生きる私たちに、新たな生き方を示しています。私たちは物質的な豊かさではなく、本当にやりたいことに時間とお金を使うべきです。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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