信頼と共感を生む語り方のメソッド パーフェクト・ストーリー (カレン・エバー)の書評

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信頼と共感を生む語り方のメソッド パーフェクト・ストーリー
カレン・エバー
日本能率協会マネジメントセンター

信頼と共感を生む語り方のメソッド パーフェクト・ストーリーの要約

カレン・エバーは、脳科学に基づいたストーリーテリングの実践的手法を本書で提供しています。「文脈設定、葛藤、結果、収穫」というフレームワークを活用しながら、聴衆の視点を中心に据えた効果的なストーリーの構築方法を詳しく解説しています。彼女は、人間の脳の特性を理解した上で、信頼と共感を生み出すストーリーテリングの具体的な手順やテクニックを、豊富な実例とともに紹介しています。

ストーリーテリングがもたらす5つのメリット

コミュニケーションとストーリーテリングは、インスピレーションと影響力にあふれるリーダーシップの核となるものなのだ。 (カレン・エバー)

カレン・エバーは、ビジネスの世界で独自のストーリーテリング手法を確立し、多くの企業や個人に影響を与えているリーダーシップの専門家です。現在、エバー・リーダーシップ・グループのCEOとして活躍する彼女は、GE、Microsoft、Metaといった世界的企業との豊富なコンサルティング経験を持っています。

著者のアプローチの特徴は、脳科学の知見に基づいたストーリーテリング・モデルを開発し、それを実践的なビジネスコミュニケーションに応用している点です。本書には彼女が開発したこのメソッドが詳しく解説されています。

エバーは、ストーリーテリングの能力は生まれつきのものではなく、適切な訓練によって育成できるスキルだと説きます。著者は、その上でストーリーテリングの持つ5つの重要な力を紹介しています。

まず、ストーリーテリングには、人々の間に共通の理解を生み出す力があります。語り手は、聴衆に特定の知識や考え、行動、感情を伝えたいという意図を持ってストーリーを語ります。たとえ聴衆全員が直接的な経験を持っていなくても、ストーリーを通じて共感と理解を築くことができます。このように、ストーリーテリングは、異なる背景や価値観を持つ人々の間の架け橋となり、分断を超えて人々をつなぐ力を持っています。

さらに、優れたストーリーには人を変える力があります。効果的なストーリーは、語り手への信頼を醸成し、深い共感を引き起出すことで、聴衆の思考パターンや感情、そして具体的な行動に影響を与えることができます。これは、ビジネスの現場でもリーダーシップの実践においても、非常に重要な要素となっています。

ストーリーの3つ目の特徴は、その強力な記憶定着性です。ストーリーは脳内の神経ネットワークを活性化させ、五感を刺激することで、より深い記憶の形成を促します。五感と感情の関与が強ければ強いほど、その内容は記憶により強く定着していきます。

心理学者のジェローム・ブルーナーの研究によれば、ストーリーの形で巧みに組み込まれた事実は、その後の想起確率が22%も高まるとされています。これは、人間が感情的な体験を通じて記憶を形成する傾向を持っているためです。

4つ目の重要な特徴として、ストーリーには価値観を強化する力があります。リーダーにとって、ストーリーテリングは単なるコミュニケーションツールではありません。それは、重要なアイデアを共有し、チームや組織のメンバーを共通の理解へと導くための強力な手段となります。適切に構築されたストーリーは、組織の価値観や目標をより深く、より持続的に浸透させることができるのです。

最後に、ストーリーには相互作用を生み出す力があります。語り手と聴き手の間に生まれる共鳴は、新たな対話や理解を促進し、さらなるストーリーの創造へとつながっていきます。このような相互作用の連鎖は、組織の文化や価値観をより豊かなものへと発展させていく原動力となります。

これらの特徴は互いに密接に関連し合い、相乗効果を生み出します。効果的なストーリーテリングは、単に情報を伝達するだけでなく、人々の心に深く響き、持続的な変化を生み出す力を持っているのです。エバー氏の著書は、これらのストーリーテリングの力を、実践的な手法とともに解き明かしています。豊富な事例と具体的なテクニックを通じて、読者はこれらの力を自らのコミュニケーションに活かす方法を学ぶことができます。

このように、ストーリーテリングは現代のビジネスやリーダーシップにおいて、欠かすことのできない重要なスキルとなっています。それは単なる技術ではなく、人々をつなぎ、組織を変革し、より良い未来を創造するための本質的なツールなのです。

ストーリーテリングモデルとは?

ストーリーを聴いているときは、脳が語り手と同じパターンで活性化する。この「ニューラル・カップリング」という現象により、自分がストーリーの中に入り込んだように感じられ、脳が人工的現実感を経験することになる。

著者が提唱するストーリーテリング・モデルは、効果的なストーリーを構築するための包括的なプロセスを示しています。このモデルは、ストーリーのアイデア収集から始まり、聴衆分析、構築、洗練化、そしてテストに至るまでの一連の段階を体系化しています。

このモデルの基盤となっているのが、「脳の5つの初期設定」という概念です。第1の設定は、脳の怠惰性に関するものです。私たちの脳は生存のためにエネルギーを節約しようとする性質を持っていますが、優れたストーリーは五感を刺激し、緊張を生み出すことで、脳を活性化させます。

第2の設定は、脳の予測傾向に関するものです。脳は過去の経験に基づいて常に予測と仮定を行っていますが、効果的なストーリーは意外性や葛藤を含むことで、この自動的な予測プロセスを意図的に中断させることができます。これにより、聴衆の注意をより深く引きつけることが可能になります。

第3の設定は、脳の情報処理システムに関するものです。脳は34ギガバイトもの膨大な情報を、経験、記憶、感情のライブラリとして分類・保存しています。優れたストーリーは、具体的な細部描写やメタファーを通じて、このライブラリに格納された既存の知識と新しい情報を結びつけることができます。

第4の設定は、人間の社会的帰属意識に関するものです。ストーリーには、聴衆に内集団または外集団の一員としての感覚を生み出す力があります。内集団との同一化は親近感や所属意識を育み、外集団との対比は個人や経験の違いを浮き彫りにします。

第5の設定は、脳の報酬系に関するものです。脳内の神経化学物質は快感を求め、不快感を避けるよう私たちを動機づけます。効果的なストーリーは、この仕組みを活用して聴衆の感情を巧みに操作することができます。 特に興味深いのは、「ニューラル・カップリング」と呼ばれる現象です。ストーリーを聴いているとき、聴き手の脳は語り手の脳と同様のパターンで活性化します。

これにより、聴衆はストーリーの世界に没入し、あたかも実際の経験をしているかのような感覚を得ることができます。 このモデルの実践においては、各要素に適切な配置を与え、全体の流れを整えることが重要です。

さらに、ストーリーの効果を最大化するために、実際の聴衆を対象としたテストを行うことも推奨されています。 エバーのモデルの特徴は、脳科学の知見を実践的なストーリーテリングの手法に落とし込んでいる点です。このアプローチにより、誰でも効果的なストーリーを構築し、聴衆の心に深く響くコミュニケーションを実現することができます。

優れたストーリーの3つの要素と4つの構造

優れたストーリーには3つの要素がある。登場人物、葛藤、そしてつながりだ。

エバーは、優れたストーリーを構成する3つの核となる要素として、登場人物、葛藤、そしてつながりを挙げています。効果的なストーリーには、聴衆が共感できる親近感のある登場人物が必要です。この登場人物は、必ずしも聴衆の賛同や好意を得る必要はありませんが、その行動や判断の背景が理解できるものでなければなりません。

ストーリーの展開において不可欠なのが葛藤と緊張の要素です。問題意識が徐々に高まり、やがて解消されていく過程は、聴衆の注意を引きつけ、最終的な目標達成への期待を醸成します。このような展開は、聴衆を物語の世界に没入させる重要な仕掛けとなります。

つながりの要素は、五感と感情を通じて聴衆をストーリーに引き込む役割を果たします。具体的な描写やメタファーを用いることで、聴衆の既存の知識や経験と新しい情報を結びつけ、より深い理解を促進します。また、意外性のある展開や細部の描写は、聴衆の興味を維持し、記憶に残るストーリーを作り出します。

さらに、優れたストーリーは聴衆に内集団または外集団の一員としての感覚を与えることができます。これにより、所属意識や一体感を醸成したり、あるいは違いを認識させたりすることが可能になります。

著者は、ストーリーテリングの実践において、アイデア収集の重要性を強調しています。優れたストーリーテラーは、具体的な語りの機会を待ってからアイデアを探し始めるのではなく、日常的にひらめきを収集し、必要なときにそれらを活用できるよう準備しています。

このアプローチでは、アイデアの使用時期や方法を事前に決定する必要はありません。重要なのは、心が惹かれたものごとに注意を向け、それらを記録していくことです。このような継続的なアイデア収集の習慣は、より豊かで効果的なストーリーテリングの基盤となります。

優れたストーリーテリングは、綿密に計画された要素の組み合わせと、日常的な観察や気づきの蓄積によって実現されます。ストーリーテリングの秘訣は、ストーリーではなく、まずは聴衆からはじめることにある。その点を心得ていれば、ストーリーの中心に聴衆を据え、彼らにとって有意義なものを意図して盛り込むことができる。そうすれば、聴衆はストーリーテラーに直接話しかけられている気分になる

ストーリーテリングの効果は、聴衆に何を感じてもらいたいのか、何を考えてもらいたいのか、そして最終的にどのような行動を取ってもらいたいのかを明確に理解することから生まれます。これは単なる技術的なスキルではなく、聴衆との真摯な対話を通じて築かれる関係性に基づいています。 このアプローチでは、ストーリーを通じて伝えたいメッセージを、聴衆の文脈に合わせて適切に調整することが重要です。

聴衆の経験や価値観を理解し、それらと共鳴するような要素をストーリーに織り込むことで、より深い理解と共感を生み出すことができます。 また、聴衆との相互作用を意識することで、ストーリーはより生き生きとしたものになります。聴衆の反応を観察し、それに応じてストーリーの展開を微調整することで、より効果的なコミュニケーションが可能になります。これは、一方的な情報伝達ではなく、双方向の対話を生み出す手法といえます。

このように、効果的なストーリーテリングは、聴衆との深い理解と共感に基づく総合的なアプローチです。それは単に魅力的な話を語ることだけでなく、聴衆の心に響き、具体的な変化を生み出すための戦略的なコミュニケーション手法なのです。

ストーリーを効果的に伝えるためには、明確な構造が必要です。そのために役立つのが、「文脈設定、葛藤、結果、収穫」という4つの要素です。このフレームワークは、会議の5分前でもすぐに活用できるシンプルなツールでありながら、聴衆に伝えたいメッセージを整理し、分かりやすく伝える強力な手助けをしてくれます。

この構造を意識することで、話に一貫性が生まれ、聴衆はスムーズにストーリーを追うことができるようになります。 まず、最初に考えるべきなのは「文脈設定」です。誰が関わっているのか、その出来事に人が関心を抱く理由は何かを明確にします。ここで大切なのは、聴衆にとっての関心を引く要素を意識することです。話の背景が明確であればあるほど、聴衆はスムーズに話に入り込むことができます。

例えば、ビジネスの場面では、特定の課題に直面している人物やチームを設定することで、聴き手が状況を具体的にイメージしやすくなります。聞き手が感情移入する登場人物によって、話に引き込まれやすくなります。

次に「葛藤」を示します。ここで重要なのは、何が起こり、どのような問題が発生したのかをはっきりと伝えることです。ストーリーにおいて葛藤は不可欠な要素であり、話を展開させる原動力となります。問題や課題が明確であればあるほど、聴衆は関心を持ち、先の展開に注意を向けるようになります。どのような障害が立ちはだかり、どのような決断が求められたのかを具体的に描くことで、話に深みが生まれます。

続いて「結果」を伝えます。物語の結末として、どのような結果がもたらされたのかを示すことで、聴衆はストーリーの全体像を理解しやすくなります。成功であれ失敗であれ、どのような展開を迎えたのかを明確に伝えることが重要です。ここでポイントとなるのは、結果が聴衆にとって意味のあるものであることです。単に事実を並べるのではなく、その結果がどのようなインパクトを与えたのかを強調することで、より印象的なストーリーになります。

最後に「収穫」を整理します。このストーリーを聴いたあとに、聴衆にどのような気づきを得てもらいたいのかを考えます。ここでは、単に結論を示すのではなく、聴衆が自ら考え、次の行動につなげられるようなメッセージを込めることが大切です。

例えば、プレゼンテーションやビジネスの場面であれば、聴き手がどのような行動を起こすべきかを示唆することで、ストーリーの影響力をより高めることができます。また、自分が設定したペルソナにとって、どのような結果が望ましいのかを意識し、それが収穫として適切であるかを確認することも重要です。

この4つの要素を組み合わせることで、ストーリーの構造が明確になり、聴衆にとって理解しやすいものとなります。また、話の一貫性が保たれることで、伝えたいメッセージがより効果的に届くようになります。時間と場所を具体的にして、ストーリーを語ることは、単に情報を伝えることではなく、相手の心に残る体験を提供することでもあります。このフレームワークを活用することで、より説得力のあるストーリーを作り上げることができるようになります。

ストーリーテリングで信頼を築く方法

ストーリーは共通の理解を生む。アイデア、視点、選択、データのための文脈を提供してくれる。ストーリーをスタート地点として、情報の共通理解を生み出そう。そのあと、異なる視点をシェアするよう呼びかけるのだ。

ストーリーは、人々の間に共通の理解を築く強力なツールです。それは、アイデアや視点、選択肢、データに対して重要な文脈を提供し、情報の共有基盤を作り出します。ストーリーを出発点として活用することで、まず共通の理解を形成し、その上で異なる視点や解釈を共有するよう促すことができます。

エバーが提唱するストーリーテリング・モデルの本質は、聴衆からの信頼を構築することにあります。語り手の意図を明確にし、望む結果について透明性を保つことで、自然と聴衆との間に信頼関係が醸成されていきます。このプロセスには、ストーリーの発掘から洗練、そして効果的な語り方まで、多岐にわたるステップが含まれています。

ストーリーを語ることは、自己を開示する行為でもあり、それ自体が信頼構築の重要な要素となります。 ストーリーには、異なる意見や立場を持つ人々の間にも、対話の場を創出する力があります。それは新たな突破口を見出し、共通の理解を深め、建設的な会話のきっかけを提供します。

たとえ完全な意見の一致に至らなくても、異なる視点を受け入れ、理解を深める機会を作り出すことができます。 しかし、このプロセスで最も重要なのは、ストーリーを通じて伝えたい意図と期待する結果を、誠実に明確に伝えることです。

現代の聴衆は、操作を目的としたストーリーテリングに対して極めて敏感です。もし聴衆が操作されているという印象を持てば、それまでに築いた信頼関係は一瞬にして崩壊してしまう可能性があります。 効果的なストーリーテリングは、透明性と誠実さを基盤として成り立っています。

聴衆の知的な判断力を尊重し、オープンな対話を促進することで、より深い理解と持続的な信頼関係を築くことができます。これは、単なる情報伝達の手法ではなく、人々の間に真の対話と相互理解を生み出すための重要なアプローチなのです。

このように、ストーリーテリングは、異なる背景や価値観を持つ人々をつなぎ、共通の理解と建設的な対話を促進する架け橋となります。それは、組織や社会における効果的なコミュニケーションの基盤を形成し、より豊かな相互理解を実現する手段となるのです。

著者のアプローチは、単なるコミュニケーション技術の枠を超え、信頼と共感を生み出すための包括的な方法論として注目を集めています。人とのつながりを深めたいと考えるすべての人に役立つツールが満載の本書は、彼女の豊富な専門知識と実践的な知見が随所に光る一冊となっており、すぐに実践可能です。

TEDスピーカーとしての活動や、国際的なリーダーシップコンサルタントとしての実績を通じて、300万人以上に影響を与えてきた彼女の知見は、現代のビジネスコミュニケーションに新たな視座を提供し続けています。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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