〈効果的な利他主義〉宣言!――慈善活動への科学的アプローチ
ウィリアム・マッカスキル
みすず書房
〈効果的な利他主義〉宣言! (ウィリアム・マッカスキル)の要約
効果的な利他主義は、善意を最大限の成果につなげるために、データと合理的思考を活用する考え方です。限られた資源で最も大きな効果を生む方法を、科学的根拠に基づいて分析します。費用対効果の高い支援先を選択するために、優先順位をつける重要性を強調します。また、「稼いで寄付する」戦略や慎重な支援先選びなど、誰でも実践できるアプローチによって、世の中をよりよくできるのです。
効果的な利他主義で世界をより豊かにできる!
「心」と「頭」を組みあわせれば、つまり利他的な行為にデータや合理性を取り入れれば、私たちの善意を驚くような成果に変えることはできるのだ。(ウィリアム・マッカスキル)
オックスフォード大学哲学准教授のウィリアム・マッカスキルの〈効果的な利他主義〉宣言!(Doing Good Better より良く善を行う)は、「効果的利他主義(Effective Altruism、EA)」の理念を紹介する書籍です。効果的利他主義とは、経験的研究と期待効用推論を用いて、最大限の善を達成する方法を探る運動のことを指します。
本書では、私たちが善を行う際に考慮すべき意思決定の原則を体系的に提示しています。 マッカスキルは、善行を最大化するために以下の5つの重要な問いを提案しています。
①何人がどれくらいの利益を得るか?
②これはあなたにできる最も効果的な活動か?
③この分野は見過ごされているか?
④この行動を取らなければどうなるか?
⑤成功の確率は?成功した場合の見返りは?
これらの問いを考えることで、善意による落とし穴を避けることが可能になります。例えば、教育支援の一環としてケニアで教科書を配布したり、教師の数を増やす試みが行われましたが、顕著な効果は得られませんでした。しかし、実験を重ねた結果、駆虫プログラムが教育効果を大幅に高めることが判明しました。
ケニアでは子供たちの長期欠席が深刻な問題となっていましたが、駆虫により長期欠席が25%減少しました。さらに、駆虫治療を受けた子ども一人あたり、2週間の出席日数が増加しました。100ドルの資金で合計10年間分の出席日数を確保できるというデータも示されています。
2007年、経済学者のマイケル・クレマーとレイチェル・グレナスターは、この研究結果に基づき、発展途上国の政府に技術支援を提供する非営利組織「デウォーム・ザ・ワールド・イニシアティブ」を設立しました。この組織はすでに4,000万件以上の駆虫治療を実施しており、独立系慈善団体評価機関「ギブウェル(GiveWell)」から、費用対効果の高い慈善団体の一つとして評価されています。
クレマーとグレナスターの成功の要因は、既存の手法に固執せず、実証的なデータに基づいて行動を決定したことにあります。彼らは効果的利他主義の理念を体現し、客観的な証拠と論理的推論を用いて最適な施策を選択しました。
効果的利他主義の本質は、「どうすれば最大限の影響を及ぼせるか?」を問い続け、科学的アプローチを慈善活動に取り入れることにあります。「効果的(Effective)」と「利他主義(Altruism)」という2つの要素を組み合わせ、限られた資源で最大の善を生み出すことを目指します。
利他主義は自己犠牲を伴う必要はなく、自分の快適な生活を維持しつつ、他者に貢献できる方法を模索することも含まれます。
著者とオックスフォード大学のトビー・オードは、発展途上国の貧困削減に貢献する慈善団体の費用対効果を分析しました。その結果、最も優れた慈善団体は、一般的な慈善団体と比べて数百倍もの影響力を持つことが判明しました。
2009年に彼らは「ギビング・ワット・ウィー・キャン(Giving What We Can)」を創設し、収入の10%以上を費用対効果の高い慈善団体に寄付することを推奨しています。また、効果的な利他主義が人生のあらゆる分野に活かせると彼らは指摘します。
世の中を良くするための4つのアクション
私は「100倍乗数」という名前までつけた。富裕国で暮らす人々は、同じお金で、自分自身よりも発展途上国の人々に対して100倍以上も大きな便益をもたらすことができるからだ。
先進国に住む私たちには、自分の利益の何倍もの価値を、発展途上国の人々にもたらす機会があります。確かに、世界中の問題をすべて解決することは難しいかもしれません。しかし、意志さえあれば、何千、何万もの貧しい人々の生活を改善できるという事実は変わりません。
慈善活動を行う際には、費用対効果を考慮することが重要です。限られた資金を最大限に活用し、最も大きなインパクトを生み出すためには、寄付の使い道を慎重に選ぶ必要があります。
例えば、学校に通う少女への現金給付プログラムでは、1000ドルあたりの就学年数の延びは0.2年にとどまりました。一方、小学校の制服を無償提供すると、その効果は10倍に達し、1000ドルあたり7.1年の就学延長が見られました。さらに、生徒の寄生虫駆除は最も高い効果を示し、1000ドルあたりの就学年数は139年も延びました。
また、災害救援や盲導犬の訓練など、多くの人が寄付を行っている分野では、すでに十分な資金が提供されていることが多いため、寄付の見直しが求められます。特に、支援が不足している分野へ寄付することは、より大きなインパクトを生み出す可能性があります。
マッカスキルは「稼いで寄付する(Earning to Give)」という戦略を提唱しています。これは、仕事そのものを通じて直接社会貢献をするのではなく、高収入の職業に就き、その収益の一部を費用対効果の高い慈善団体へ寄付するという考え方です。多くの人は「影響力のある仕事」を選ぶ際にこの選択肢を検討しませんが、時間とお金は交換可能であり、資金を提供することで他者の時間や労力を支援できます。
そのため、社会に貢献する方法は必ずしも直接的な支援活動に限定されるわけではありません。 本気で社会に貢献したいと考えるなら、「寄付するために稼ぐ」という道も有効な選択肢です。特に、見過ごされがちな社会課題への寄付は、より大きな影響を与える可能性があります。費用対効果を意識し、最もインパクトのある寄付の方法を選ぶことが、効果的な慈善活動につながるのです。
私たち1人ひとりに何十人、いや何百人という命を救う力があるし、何千人という人々の幸福度を大きく向上させる力がある。
小さな一歩からでも、私たちの行動は世界に大きな影響を与えます。著者はアクションを起こすための4つの方法を紹介しています。
① 定期的に寄付する習慣をつける
効果的な慈善団体のウェブサイトを訪れ、定期的な寄付を始めましょう。月額10ドルでも構いません。これは、今すぐ世の中に大きな影響を与えられる、最も簡単でわかりやすい方法です。 寄付をメインの手段にするつもりがないとしても、実際に寄付を始めることで、「自分は本気なのだ」と自覚し、意志を固める助けになります。
・アゲンスト・マラリア基金
・クール・アース ディベロップメント
・メディア・インターナショナル デ
・ウォーム・ザ・ワールド・イニシアティブ
・ギブダイレクトリー
・住血吸虫症対策イニシアティブ
これらの団体への寄付を習慣にし、少額でも毎月寄付を続けることで、大きな影響を与えることができます。
② 効果的な利他主義を生活に取り入れるための計画を立てる
ペンと紙を用意するか、コンピューターで文書を開き、あなたが取り入れようとしている変化について書き出してみましょう。具体的な計画を立てることが重要です。
・寄付を始める場合には収入の何割を、いつから寄付するのかを決めます。
・購買行動を変える場合には、いつまでに、どのような消費行動を改めるのかを決めます。
・世界に影響を与えるキャリアを目指す場合には次のステップに関する情報を、いつ収集するのかを決めます。
このように明確な計画を立てることで、実行しやすくなり、継続しやすくなります。
③ 効果的な利他主義のコミュニティに参加する
効果的な利他主義のウェブサイト effectivealtruism.org にアクセスし、メーリングリストに登録します。これにより、効果的な利他主義やコミュニティへの参加方法について詳しく知ることができます。
④ 効果的な利他主義を広める
Facebook、Twitter、Instagram、ブログなどで本書の感想を発信しましょう。本書の内容に説得力を感じたなら、友人や家族、同僚も同じように影響を受けるかもしれません。 あなたが一人でも多くの人にこの考えを広めることで、影響力は倍増します。今日私は記事を書くことで、このミッションを達成しました。また、毎月いくつかの団体にクレジットカードで寄付していますが、効果的利他主義の視点から新たな寄付先を検討します。
効果的な利他主義の実践は、単なる寄付行為にとどまらず、人生のあらゆる分野に適用可能です。私たちが最善の選択をし、より良い未来を築くためには、データと論理に基づく意思決定が不可欠です。本書を通じて、その理念を深く理解し、実生活に応用することが求められています。
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