見えない未来を変える「いま」――〈長期主義〉倫理学のフレームワーク
ウィリアム・マッカスキル
みすず書房
見えない未来を変える「いま」(ウィリアム・マッカスキル)の要約
これまでの人類の進歩から、未来の人々がより良い人生を送る可能性は十分にありますが、その実現には人類の存続が不可欠です。気候変動やAIのリスクなど存続を脅かす課題に取り組むことは、未来を守る基盤を築くだけでなく、現在の生活も豊かにします。未来を守る行動は義務であり希望であり、今この瞬間から利他的に取り組むことが私たちの責務です。
未来をより良くする長期主義とはなにか?
長期主義は「長期的に考え、今すぐ行動する」ことを重視している。(ウィリアム・マッカスキル)
ウィリアム・マッカスキルは、哲学者として効果的利他主義の分野で注目され、オックスフォード大学の最年少准教授として着任しました。彼が提唱する「ロングターミズム(長期主義)」という考え方は、将来世代の利益を守ることが、現代の私たちにとって最も重要な道徳的課題であると説いています。
この考え方は、今を生きる私たちだけでなく、未来の無数の人々に良い影響を与える選択をすることの重要性を強調しています。 人類の広大な未来を見据えたとき、私たちが今日どのような行動を取るかは決定的な意味を持ちます。
気候変動、パンデミック、人工知能の進化など、現代が直面している課題は、単に今を生きる人々の問題ではなく、未来世代に大きな影響を及ぼすものです。これらの課題に取り組むためには、長期的な視点に基づいた行動が求められます。それが、マッカスキルの提唱する「長期主義」の核心です。
長期主義の特長は、未来世代への責任を果たすと同時に、現在の私たちにも直接的な恩恵をもたらす点にあります。人工的なパンデミックや第三次世界大戦といったリスクへの備えは、未来にわたる人類の安全を守るだけでなく、現在の私たちをも救います。同様に、人工知能が引き起こしうる未曾有の危機を防ぐことは、未来のための備えであると同時に、現在の安心と平和の基盤を築くことにつながります。
つまり、長期主義は未来への投資でありながら、現在の人々の生活をも豊かにするものなのです。 マッカスキルは、未来の命運が私たちの選択にかかっていると信じています。
世界の長期的な命運の一部は、私たちが生きているあいだに下す選択にかかっている、と信じている。未来はすばらしいものにもなりうる。誰もが現代最高の人生よりもさらにすばらしい人生を送るような、長期的に繁栄する社会を築くことは可能だ。逆に、未来はひどいものにもなりうる。
未来における道徳的、技術的、環境的な選択を誤れば、地球は住むのにふさわしくない場所となり、無数の命が失われる事態にもなりかねません。未来がどのような姿になるかは、私たちが今下す決定に大きく左右されるのです。 未来を明るいものにするためには、現代の私たちが正しい行動を取ることが不可欠です。
気候変動を食い止めるための取り組み、パンデミックへの効果的な備え、人工知能の安全性を確保する技術的・倫理的ガイドラインの策定、そして文明の復元力を高めるインフラの整備など、長期主義に基づく具体的な行動は、未来を守るだけでなく、現在の私たちが直面する多くの問題をも解決します。
マッカスキルは、私たち一人ひとりが未来への責任を自覚し、行動を起こすことの重要性を説いています。未来は私たちの手の中にあり、その可能性を最大限に引き出すことができるのは、今を生きる私たちだけです。彼が提唱する長期主義は、現代と未来をつなぐ強力な理念であり、明るい未来を築くための具体的な行動指針を示してくれます。私たちは、この膨大な未来をより良いものにするための鍵を握っているのです。
未来について考える際、著者は「重大性」「持続性」「偶発性」という3つの視点を用いるアプローチを提案しています。これらを組み合わせることで、ある行動や状況が長期的にどれだけの価値を持つのかを計算し、直感的に選択肢を比較することができます。
この方法により、未来への影響を明確に評価し、優先順位を立てることが可能になります。 未来が数百万年、数十億年、あるいはそれ以上続く可能性を考えれば、まず注目すべきは「持続性」が高い選択肢です。長期にわたって安定を保つ取り組みは、未来の人類の繁栄にとって大きな意味を持ちます。
その次に、課題の「重大性」を考え、その影響の大きさを評価します。また、「偶発性」によってその価値がどの程度変化する可能性があるかを考慮することで、より効果的な判断ができるようになります。
例えば、パンデミックの防止や人工知能のリスク管理など、未来世代に深刻な影響を与えうる課題は、このフレームワークを用いることで優先順位をつけることができます。これらの問題に対応することは、未来を守るだけでなく、現代の私たちにも大きな恩恵をもたらします。
このようなアプローチに基づく選択は、未来の可能性を最大限に引き出すために欠かせません。 さらに、「期待値」という概念を取り入れると、このフレームワークはさらに実用的になります。たとえば、ある変化が80%の確率で10年後に消失するものの、20%の確率で100万年にわたる影響を及ぼす場合、その持続性の期待値は約20万年となります。
このように、将来の影響を数値的に評価することで、その変化の価値をより正確に理解することができます。 また、たとえその影響が起こる可能性が低くても、非常に大きな効果を持つ場合には、その期待値が巨大になるため、取り組む価値が十分にあると言えます。
この考え方を応用すれば、限られた資源や時間をどこに投じるべきか、より的確に判断できるようになります。 このフレームワークを活用することで、私たちは長期的な影響を見逃すことなく、未来にとって最も有益な行動を選ぶことができます。未来への選択肢を慎重に評価し、行動に移すことで、私たちの選択が未来をどれほど良い方向に導くかを確信を持って判断できるのです。
GDP1%の投資で未来を変えられる?
世界の富裕国は、GDPの最低1パーセントを、パンデミック対策、AIの安全性、予測活動、大惨事を生き抜くための復興インフラなど、まちがいなく未来の世代のためになる活動に拠出すること。
マッカスキルの提案は、未来の世代だけでなく、現在生きている私たちの利益にもつながる可能性を秘めています。彼が提唱するのは、世界の富裕国がGDPの最低1パーセントを未来のための重要な取り組みに充てるという大胆なビジョンです。
この提案が実現すれば、パンデミック対策、AIの安全性の確保、長期的な予測活動、大惨事を乗り越えるための復興インフラといった、未来にわたる人類の安定と繁栄を支える取り組みが可能になります。 GDPの1パーセントという数字は、一見すると大きな割合に思えるかもしれません。
しかし、世界の多くの国々が現在の軍事費に費やしている予算と比較すると、それは驚くほど小さな割合です。にもかかわらず、その効果は計り知れないほど大きいものになるでしょう。
パンデミックやAIの暴走によるリスクを未然に防ぐ取り組みは、数えきれない命を救うだけでなく、社会や経済に及ぼす被害も最小限に抑えることができるのです。また、予測活動や復興インフラへの投資は、未曾有の危機が発生した際の備えを強化し、人類が柔軟に対応できる力をもたらします。
この目標を達成することは、不可能な夢ではありません。適切な意思決定と行動によって、未来を守るための持続可能な仕組みを作ることができます。世界各国が協力してこの取り組みを進めることで、地球規模のリスクに対する備えを大きく前進させることができるのです。それは、将来の世代のためだけでなく、今を生きる私たちが直面している課題をも軽減するものです。
さらに、現在の世代が行動を起こすことで、未来世代にポジティブな影響を与えるのはもちろん、現在の人々の幸福度や生活の質を向上させることも可能です。長期主義が目指すのは、単に「未来を犠牲にしない現在」ではなく、「現在も未来も共により良くする」ことです。
そのためには、効率的かつ倫理的な優先順位の選択が求められます。長期主義は、その選択を支える指針として機能するのです。 現在の私たちが直面している課題は複雑で深刻ですが、それらを解決するための行動は、未来だけでなく今を生きる私たちにも確かな利益をもたらします。
私たちが未来をよりよい方向へといざなうためにできることは色々とある。社会を導く価値観を改善し、AIの開発を慎重に操ることで、すばらしい未来が実現する確率を向上させる。新たな大量破壊兵器の開発や使用を抑止し、世界の大国間の平和を維持することで、未来の消滅そのものを防ぐ。簡単な問題ではないが、私たちの行動が大きな差を生むことだけは確かなのだ。
未来の人々が幸福で充実した人生を送る可能性を考えると、もしその未来が失われれば、それは大きな道徳的損失となります。未来に生まれるはずだった多くの人々が人生の機会を奪われることになるからです。私たちは、未来世代がその可能性を実現できるよう、その基盤を守る責任があります。
歴史を振り返ると、教育の普及や健康水準の向上、貧困の減少など、着実な進歩が多くの分野で見られました。この傾向が続くなら、未来の人々が現在よりも豊かで幸福な生活を送る可能性は非常に高いといえます。そのため、人類の存続を確保することは、未来をさらに良い方向へ導く取り組みと同じくらい重要です。
しかし、未来がどれほど明るい可能性を秘めていても、その前提は未来が存在することです。気候変動、核戦争、人工的なパンデミック、AIのリスクといった課題に取り組むことは、人類の存続と未来の可能性を守るために欠かせません。
これらの取り組みは、単に危機を回避するだけでなく、未来の幸福を築く基盤を整える行動です。それは未来の人々のためであるだけでなく、現在生きる私たちの生活をも安定させ、豊かにするものです。このような視点を持つことで、未来を守ることは義務であると同時に、希望を持って取り組むべき課題となります。
人類が存続し進化することで未来はより良いものになるという信念を持つことが、今を生きる私たちの責務です。この信念は、未来に向けた行動を後押しする強い原動力となります。未来を守り、より良い世界を築くために、今すぐ行動を始めることが求められています。それこそが、私たちにとって最も意義深い選択なのです。
未来のために私たちができる2つのこと
私たちが生きているあいだには、長期主義の最大の影響は表われないかもしれない。しかし、長期主義を広めていけば、次世代にバトンを継ぐことができる。次世代の人々は、私たち以上に速く走り、遠くを見据え、多くを実現できるかもしれない。長期主義に関する数十年間分の考察の恩恵を受けられるからだ。そして、文明の方向性が定まる重要な柔軟性の時代は、おそらく私たちの世代ではなく未来の世代にやってくるだろう。
著者は本書で、利他的な行動の重要性を繰り返し説いています。未来をより良いものにするためには、世界中の有能な若者を支援することが鍵となります。複雑で深刻な課題を解決するには、多様な才能と知識が必要です。そのためには、潜在能力を持つ人々を見つけ出し、彼らがその力を発揮できる環境を整えることが不可欠です。
特に低所得国の子どもたちは、教育機会の不足や経済的制約、偏見など、才能を伸ばす妨げとなる多くの障壁に直面しています。こうした子どもたちを支援することは、彼ら自身の未来を切り開くだけでなく、私たち全体の利益にもつながる投資です。
また、この支援は教育や資源への不平等といった世界的な格差を是正するうえでも重要です。格差は個々の未来を制限するだけでなく、社会全体の発展を阻む要因ともなるため、これを減らす取り組みは緊急性が高いと言えます。 さらに、未来に向けた計画や政策の質を向上させるには、有用な知識の創出が不可欠です。正確なデータに基づき、専門家の見解を取り入れた分析は、信頼できる政策の策定に役立ちます。
このような取り組みは、長期的視点を持ち、未来を見据えた行動を可能にします。 長期主義の視点を取り入れることで、限られた資源を最大限に活用し、持続可能な社会を築くための道筋を明確にできます。教育や知識への投資、未来を見据えた行動は、長く続く幸福と繁栄の時代を切り開く基盤となります。未来の可能性を信じ、行動を起こすことが、私たちに求められているのです。
未来の人々は重要。未来の人々の数は膨大。私たちは未来の人々の生活をよりよくすることができる。もう、ぐずぐずしている暇はない。
著者は、未来をより良いものにするために今すぐ始められる方法として、ふたつの具体的な行動を提案しています。ひとつ目は、寄付をすることです。著者が共同設立したGiving What We Can(ギビング・ワット・ウィー・キャン)では、未来を改善する活動を支援する基金を紹介しています。
10年間にわたるチャリティー研究の結果、驚くべき事実が明らかになりました。最も効果的なチャリティーに寄付することで、その影響を100倍にも高めることができるのです。 Giving What We Canでは、こうしたチャリティーを見つける方法をご紹介し、世界の喫緊の課題解決に貢献できるようサポートを行っています。
ふたつ目は、未来に関わる課題に対して、あなた自身が行動を起こすことです。気候変動の防止、人工知能のリスク管理、パンデミックへの備えなど、未来に大きな影響を与える分野で自分のスキルや時間を活かせる方法を見つけてください。これらの取り組みは、未来世代の幸福や繁栄に直結しており、小さな一歩であっても長い目で見れば大きな変化を生み出す可能性があります。
著者は、人類の未来の可能性を守ることの重要性を強調しています。気候変動や核戦争、人工的なパンデミックなどによる文明の崩壊は、今日の生命を脅かすだけでなく、未来の繁栄する生命の可能性そのものを失わせることにつながります。
その未来の可能性は、現在の私たちが想像する以上に大きな価値を持つものであり、こうしたリスクを軽減することが重要な道徳的責任であるとしています。未来のために、今私たちができる行動を始めることは、非常に意義深い選択なのです。
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