最高の健康と幸せは「利他」がもたらす
石原結實
青春出版社
最高の健康と幸せは「利他」がもたらす(石原結實)の要約
本書は「利他」「感謝」「謙虚」の心が、健康や幸福、人間関係の質にどのような影響を与えるかを、医学博士の石原結實氏の医学的知見と実例を交えて解説しています。人体の機能にも利他的な仕組みがあることを示しながら、他者への配慮や感謝の実践が心身のパフォーマンスを高めると説きます。感謝日記など具体的な習慣の提案もあり、日常にすぐ取り入れられる内容です。内面の姿勢が周囲と自身に良い循環を生むことを実感できる一冊です。
利他の心が重要な理由
人体内の細胞、臓器、器官は、すべて他者のために働いている。つまり、「利他」の行動で、人体は成り立っているわけだ。(石原結實)
私はこれまで多くの経営者から、「利他の心」を持つことの大切さを学んできました。ビジネスの現場に限らず、人生全体において「自分のため」ではなく「誰かのために何ができるか」という視点こそが、長期的な成功と幸福の確かな土台になる——そのことを、何度も実感しています。
人間の身体に目を向けてみると、そこには驚くべき「利他」の仕組みが存在していると医学博士の石原結實氏は、最高の健康と幸せは「利他」がもたらすの中で述べています。細胞、臓器、器官といった一つひとつの構成要素は、それぞれが独立しているようでありながら、実はすべてが他の部分のために働いているのです。
脳は全身をコントロールし、心臓は絶えず血液を送る。肝臓は有害物質を解毒し、腸は栄養を吸収して全身に届けます。どの部分も「自分のため」ではなく、「体全体のため」に機能しているのです。 つまり、人体という極めて精密な生命システムは、「利他」という行動原理によって見事なバランスを保っているのです。
この人体という最小単位が集まって家族を形成し、さらにその家族が集まってコミュニティや社会、国家という大きな構造が形づくられていきます。人体の構造と機能が「利他」であるならば、人と人との関係もまた、利他的であることが本来の姿と言えるのではないでしょうか。
著者はこの「利他」の思想が、利他的な行動が「最高の健康法であり長寿法」であると位置づけています 。自然医学の世界的権威として長年臨床や研究を重ねてきた経験から、人体が内部での互助・協力の上に成り立っていることを踏まえると、外部への「与える行動」こそが健康と長寿につながると断言します。医学的にその効能を検証し、多くの事例を交えて実践方法を指南している点にも、本書の価値が見て取れます。
実際のところ、他者を助ける行動が私たち自身の心身にポジティブな影響を及ぼす現象として、「ヘルパーズ・ハイ(Helper’s High)」という概念が知られています。これは、親切な行動や無償の奉仕を通じて、幸福感や充実感が高まる心理的・生理的な状態を指します。
米国の心理学者アラン・ルークス氏が行った調査では、3296人の参加者のうち実に95%が「誰かを助けたあとに気分が良くなった」と回答しています。さらにそのうちの80%が、そのポジティブな感情が数時間にわたって持続したと述べています。つまり、他者への利他的行動が、自分自身の精神的な満足感にも直結しているということがわかります。 このような行動の結果として得られるのは、単なる「良い気分」だけではありません。
自己肯定感の向上、内面から温かさがこみ上げる感覚、エネルギーが満ちてくるような感覚まで、広範な健康効果が報告されています。まさに、他者のために何かをすることで、自分自身の心も豊かに潤うという構造です。
注目すべきは、これが「見返りを求めない行為」であるという点です。従来の「Give&Take」、すなわち与えた分だけ何かを得るという等価交換の発想ではなく、見返りを期待せずにただ与え続けるという姿勢——いわば「Give & Give & Give & Given」という生き方のなかにこそ、私たちの深層的な満足感の源泉があるのです。
自発的に、かつ繰り返し他者に貢献する行動は、周囲との信頼関係を強め、人間関係をより豊かに成熟させてくれます。そして不思議なことに、そうした「与える」行動は、結果として自分自身にも思いがけない形での恩恵となって返ってくることがあります。
たとえば、良好な人間関係、予期せぬ支援、新たなつながりといった形で、自分の人生を豊かに彩る種となるのです。 この「与えることで与えられる」という循環の中にこそ、現代における持続可能な幸福や心身の健康の本質があるといえます。
利他的で寛容な行動は、私たちの中にある本能的な充足欲求を満たし、同時に社会全体にポジティブな影響を広げていきます。 だからこそ、与えることを恐れず、期待せず、ただ純粋に行動する。この姿勢が、私たちの生活をより温かく、より力強いものへと変えていくのです。
感謝日記が重要な理由
「感」には「深く心を動かす」という意味があり、「謝」は「言」(ことば)と「射」(赦)よりよしなり、「射」には「ゆるめる」の意味がある由。つまり「感謝」とは「深く心を動かされたことに対して、お礼の気持ちを述べて、心をゆったりさせる」との意味なのだそうだ。
毎日をなんとか乗り切るだけで精一杯。そんなとき、ふと心がすり減っていることに気づく瞬間があります。私たちは、足りないものや満たされないことに意識が向きやすく、気づかないうちに「あるもの」への感度を失ってしまっているのです。
そして、忘れてはならないのが「感謝」という心のエネルギーです。 感謝は、決して礼儀やマナーだけではありません。それは、目の前にある日常、支えてくれる人々、自然や偶然の恵みに対して「私は今、ここで生かされている」という感覚を取り戻す行為です。
「感」という字は、深く心が動かされることを意味し、「謝」は、思いを言葉にして心をほどいていくという意味を含んでいます。つまり、感謝とは、心が揺さぶられた体験に対して、その感動を言葉で丁寧に表し、自分の内側にある緊張を解いていく行為なのです。
たとえば、誰かのさりげない優しさに「ありがとう」と言うこと。 食事の前に「いただきます」と手を合わせること。 ふと目にした青空に「ありがたいな」と感じること。 そんな一つひとつの小さな感謝が、心の奥にある余白を満たし、人生そのものの質を底上げしてくれるのです。
アメリカ・カリフォルニア大学デイビス校で「感謝」がもたらす心理的・生理的な恩恵を長年研究しているロバート・エモンズ博士は、感謝の実践によって幸福度が平均25%も向上することを明らかにしています。しかも、それは難しい取り組みではありません。
たとえば感謝日記を3週間つけるだけ。たった数時間の投資で、その効果は半年ほど持続するといわれています。 また、感謝を習慣化すると睡眠の質が上がったり、身体の不調が軽減されたりと、健康面への好影響も報告されています。つまり、感謝のある暮らしとは、単なる「気分がいい」というレベルを超えた、心身両面のパフォーマンスを底上げする生活習慣でもあるのです(感謝日記の関連記事)
私自身、感謝日記をもう10年以上続けていますが、それは習慣というより「心を整える儀式」に近い感覚です。辛い出来事があった日ほど、「その中にあったありがたいことは何だろう?」と視点を変えてみる。その問いかけ自体が、人生の意味を新たに照らしてくれることがあるのです。
この感謝日記はすぐに行動に移せます。手帳やiPhoneの日記アプリに、1日に幾つかの「ありがたかったこと」を書くだけでよいのです。ほんの数秒の行動が、確かに心の風向きを変えてくれます。感謝とは、小さくても確実に、あなたを前に進ませる「心のエンジン」なのです。
利己的な行動に偏った人──すなわち、自身の利益や快楽のみを追求し、家柄や学歴、財産などを誇示するような人々は、しばしば謙虚さを欠いています。そうした態度を持つ人は、他者から何か親切を受けたとしても、それを素直に喜んだり感謝したりする感情が湧きにくい傾向にあります。
その結果、周囲との関係性が希薄になり、情報や機会も届きにくくなっていきます。人々が距離を取り始めることで、本人が気づかぬうちに運や支援までもが離れていくのです。 一方で、謙虚さを持つ人には、まったく異なる現象が起こります。
謙虚とは、自分自身を過大評価せず、他者の意見や立場に敬意を持って接する姿勢を指します。辞書的には「自分の存在を低いものと客観的に見、相手の考えの中に取り入れるべきものがあれば、素直に受け入れる態度を失わないこと」と定義されています。
つまり、「自分一人の力で成り立っていることなど何一つなく、常に誰かの支えのもとに生きている」という前提に立った柔軟な心構えです。 このような謙虚な人のもとには、自然と人が集まり、言葉や情報、支援、さらには尊敬や共感といったかけがえのない無形の財産が集まってきます。高い場所から低い場所へ水が流れるように、人の善意もまた、受け入れる余地のある場所へと流れていくのです。
もし今、人生の進路や人間関係において悩みや迷いを感じているなら、「利他」「感謝」「謙虚」という3つの視点を意識することは、有効な手がかりとなり得ます。こうした内面的な姿勢の変化は、周囲との関係性や自身の精神状態に穏やかな影響をもたらします。 実践の第一歩としては、小さな「与える行動」から始めてみることが勧められます。
例えば、日常の挨拶、他者への配慮ある一言、ささやかな親切などは、特別な準備を必要とせず、すぐに始められる行動です。こうした振る舞いの積み重ねが、次第に周囲の空気を変化させ、結果的に自分自身の心にも安定と充足をもたらす可能性があります。
本書では、利他的な行動が私たちの健康や幸福にどのような影響を与えるのかについて、医学的な知見と数多くの実例を通して丁寧に解き明かされています。単なる理論ではなく、実際の変化を体験した人々の声が、ページの随所に散りばめられており、「人のため」が、めぐりめぐって「自分のため」になるという真理に、深く納得させられる内容です。
健康を維持したい人、人間関係をより良くしたい人、そして、これからの人生をより意味のあるものにしていきたい人。そんなすべての人にとって、本書は一つのヒント、そして新たな一歩への背中をそっと押してくれる一冊になるはずです。
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