アート・オブ・スペンディングマネー: 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?
モーガン・ハウセル
ダイヤモンド社
アート・オブ・スペンディングマネー: 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか? (モーガン・ハウセル)の要約
『アート・オブ・スペンディングマネー』は、モーガン・ハウゼルが「お金をどう使うか」という問いに真正面から向き合った一冊です。本書は、お金の量ではなく、その使い方が人生の満足度や幸福に直結することを明快に示してくれます。他人の価値観ではなく、自分自身の基準に沿ってお金を使うことが大切であり、経験や自律性、家族との時間などへの投資こそが、人生を彩る「豊かさ」につながるのです。
お金と幸せの関係とは?
お金を使うことは、サイエンス(科学)というより、アート(芸術)である。(モーガン・ハウセル)
お金持ちになることで多くの人は幸せになれると考えていますが、本当にそうなのでしょうか? 私たちは成長の過程で、「お金は成功の象徴」であり「持てば持つほど人生が豊かになる」と教えられてきました。しかし実際には、お金を持つことが必ずしも幸福や満足感に直結するわけではないという現実に、多くの人が気づきはじめています。
モーガン・ハウゼルのアート・オブ・スペンディングマネー: 1度きりの人生で「お金」をどう使うべきか?(The Art of Spending Money)は、このテーマに真正面から切り込み、「お金の使い方」という一見当たり前で見過ごされがちな問題を、私たちの人生にとって本当に重要な問いへと昇華させています。
前作サイコロジー・オブ・マネーが「お金をどう付き合い、どう貯めるか」にフォーカスしていたのに対し、本書は「そのお金をどう使うか」、つまり自由と幸福を最大限に引き出すための支出のあり方に光を当てています。(サイコロジー・オブ・マネーの関連記事)
お金の使い方には、唯一の正解や公式といったものは存在しません。人の生き方がそれぞれ違うように、どこにお金を使うかという判断も人によって異なるのが自然です。だからこそ、著者は「お金を成功の指標として見るのではなく、人生を豊かにするための道具として捉え直すことが大切だ」と繰り返し語りかけています。
私たちが本当の意味で幸福を感じられるのは、他人の価値観に振り回されるのではなく、自分自身の考えに基づいて選択ができたときです。そして、お金の使い方は、その価値観を最もはっきりと映し出す行為のひとつです。
ハウゼルは本書を通じて、「他人の金の使い方を笑うな」という姿勢を貫いています。それは、支出の背景にはその人自身の人生観や信念があるからです。誰かの期待に応えるためではなく、自分が本当に大切にしたいもののためにお金を使う——その選択が、心の豊かさや満足感へとつながっていくのです。
この考え方は、「経験」や「自律性」に価値を見出す支出が、もっとも高い幸福度をもたらすという本書の中心的なメッセージとも深く結びついています。旅行や学び、趣味といった体験は、形として残るモノとは異なり、時間が経つほど記憶として心に積み重なり、人生をより鮮やかにしてくれます。
また、自分の時間や行動の自由を守るための支出は、生活のゆとりや内面的な充足感を育ててくれます。 他人の目ではなく、自分の価値観に従って生きる。その姿勢が、お金を通じて本当の幸福をつくり出す鍵なのです。
私は昔から貯蓄に励んできた。しかし、貯蓄したお金を「使われていない資産」だと考えたことは一度もない。将来の買い物のためにお金を貯めているという意識すらない。すべての貯蓄を、自分の本当の目標である経済的自立に向かうためのチケットだと考えている。
貯蓄に対する考え方も、本書を通じて大きく変わっていきます。単に老後のために備えるのではなく、経済的な自立を手に入れるための「投資」として捉えることで、自分らしい生き方を選べる土台が築かれるのです。
お金があるということは、それだけで選択肢を持てるということです。そして、その選択肢の存在こそが、漠然とした不安をやわらげ、日々の安心感につながっていきます。
やりたいことを自分の意思で選び、実現できる人生を送るには、やはりお金の力が必要不可欠です。 これは、「目的がなければ貯金には意味がない」と感じている人にこそ響く考え方かもしれません。貯金とは、未来の自分に自由をプレゼントする行為でもあるのです。
現代の私たちは、SNSを通じて他人の生活が簡単に目に入る時代に生きています。その結果、他人との比較によって自分の満足感を見失いやすくなっています。しかし、本当に大切なのは「どれだけ持っているか」ではなく、「今、自分が持っているものにどれだけ満足しているか」ということです。
誰もが、本当は周囲の目を気にせず、好きなことを、好きなときに、好きな人と一緒にできる人生を望んでいます。それこそが、お金を得ること、使うことの最も本質的な目的だと言えるのではないでしょうか。 シンプルな生活に満足していると、ときどきの贅沢が魔法のように感じられるものです。
銀行口座に多くの残高があって好きな物を買える人が「金持ち」だとするならば、「豊かな人」とは、お金に振り回されず、その力を自分の意思でコントロールできる人のことだと思います。
その違いは、性格や自由、願望、友情、心の健康といった、数値化できない部分に現れます。もし私たちが「お金さえあれば、あらゆるものが良くなる」と信じてしまったとき、その考えこそが人生を支配し始めてしまう危険性があるのです。
良い人生を送るためには、「どれだけお金を持っているか」ではなく、自分の「道徳観」や「価値観」「人格」「友情」、そして「誰に称賛を求めているか」など、自分自身の内面をしっかりとコントロールすることが必要です。すでに自分の人生に満足できている人は、お金を「さらに良くするための道具」として使うことができるようになります。そのときこそ、私たちは「真に豊かな人」となれるのだと思います。
ステータスの追求は他人の視線を基準にした消費であり、自分の価値観とは異なる方向にお金や時間を使ってしまうリスクがあります。それに対して、実用性を重視した支出は、自分自身と大切な人の生活をより良くすることに集中しているため、無理がありません。そして何より、自分にとって本当に意味のある使い方ができているという実感が、人生の満足度を大きく高めてくれるのです。
人生を豊かにするお金の方針とは?
私は年を重ねるにつれ、10年前や20年前、30年前の出来事の思い出が、かけがえのない資産になっていくのを自覚するようになった。同じように感じているのは、私だけではないはずだ。こうした思い出は、金銭的な資産ではない。それでも、現実的に「資産」であるとたしかに感じられる。
私たちが向き合うべきなのは、「将来のためにどれだけ投資すべきか」と「今日のためにどれだけ使うべきか」のバランスを見つけることなのです。
私自身も年齢を重ね、60歳を過ぎた今、改めて実感しているのは「お金を何に使うか」という問いの大切さです。 私は移動することが好きで、自然と自分と家族との旅行にお金を使うようになりました。若い頃から家族旅行には価値を感じていましたが、時間が経つにつれ「思い出が人生をより鮮やかにしてくれる」ことに気づき、意識的に旅行に時間とお金を充てるようになりました。
何を買ったかではなく、誰とどんな時間を過ごしたかが、人生の豊かさを決めてくれる。お金を使うとは、そうしたかけがえのない瞬間に投資することでもあるのです。
著者は、私たちがさまざまなお金の使い方にチャレンジすべきだと語っています。食事でも、旅行でも、服やスポーツイベント、どんな体験でもかまいません。大切なのは、少しでも「やってみたい」と思ったことにお金を使ってみることです。実際にやってみなければ、それが自分にとって価値のあることかどうかは分かりません。
ただし、やってみて心が動かなかったとしたら、無理をする必要はありません。途中で読むのをやめた本のように、面白くないと感じたらすぐに手放していいのです。その判断に後ろめたさを感じる必要はありません。 この「試してはやめる」というプロセスを繰り返すことで、自分にとって本当に意味のある使い道が少しずつ見えてきます。
いろいろな選択肢を試していくうちに、「これは本当にお金をかけてよかった」と心から思えるものが、少しずつ見つかっていきます。お金の使い方に迷ったときこそ、立ち止まるのではなく、まずは行動してみることが大切です。自分の「好き」や「喜び」を探しに出かける。そのための小さな挑戦の積み重ねが、豊かさへとつながるのです。
私自身も、試行錯誤の中でようやく見えてきたものがあります。たくさんのチャレンジを重ねた結果、いまではお金を使う対象が自然と定まってきました。書籍と音楽、そして何より家族との旅行にお金を使うようになったのです。それらは、ただの消費ではなく、私の人生を鮮やかに彩り、心を満たしてくれる大切な時間となっています。
豊かさとは、他人の正解に従うことではありません。自分だけの正解を、自分の人生の中で見つけていくこと。お金は、そのプロセスを支えてくれる心強い味方なのです。
本書には多くの資産家たちの成功と失敗の事例が紹介されており、そのどれもが「お金をどう使うか」というテーマに深みを与えています。中でも特に心に残ったのは、Netflixの共同創業者であるマーク・ランドルフ氏の言葉でした。
彼はこう語っています。「実際、自分の人生で一番誇りに思っているのは、自分が立ち上げた会社そのものではなく、同じ女性と結婚生活を続けながら起業家として働き続けられたことだ。子どもたちと一緒に過ごす時間を持てたこと、子どもたちに好かれたこと(そう私は思っている)、仕事以外の趣味を楽しむ時間を持てたことだ。私はそれを誇りにしている」
この言葉が象徴しているのは、成功とは必ずしも地位や資産の大きさにあるのではなく、自分にとって本当に大切なものを犠牲にしない選択ができたかどうかだということです。お金を得ることがゴールではなく、それをどう使い、どのような人生を築いていくのか。その視点の大切さを、改めて教えてくれる一節でした。
最後に著者が見つけたお金に関する方針を最後に紹介します。
・収入以上のお金は使わない
・「静かな複利」を実践する
・お金は道具であり、支配されてはいけない
・人は、他人のことをたいして気にかけていない
・自立こそ富である
・健康こそ富である
・良い先祖になることを目指す
・家族を愛する
著者は、どこまでも誠実な語り口で、読者に「自分にとっての豊かさとは何か」を問いかけてきます。表面的な贅沢ではなく、自分の内側に響く幸せのかたちを見つけることこそが、人生における本当の「お金の使い道」である——そう背中を押してくれる一冊でした。















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