作家で食っていく方法 (今村翔吾)の書評

A person sitting at a table with a book and a cup of coffee

作家で食っていく方法
今村翔吾
SBクリエイティブ

作家で食っていく方法 (今村翔吾)の書評

今村翔吾氏の『作家で食っていく方法』は、作家を“職業”ではなく“生き方”と定義し、夢を現実にするための戦略を徹底的に言語化した一冊です。創作論に加え、ビジネス視点・時間管理・行動力・自己投資の重要性までを網羅。作家志望者はもちろん、何かを始めたいすべての挑戦者に向けた、リアルで実践的な仕事論です。

作家とは職業ではなく、生き方である

作家とは、単なる職業ではなく、「生き方」です。私はそう確信しています。(今村翔吾)

小説家になりたい、作家になりたいという夢を抱く人は多いのではないでしょうか? 物語を生み出し、読者の心を動かす文章を書くことに憧れるのは、ごく自然なことです。けれど、その夢を「どうやって実現するのか?」という問いに明確な答えを持っている人は、案外少ないのかもしれません。

私自身、子供の頃から本を読むのが好きで、自分なりのストーリーを想像し、妄想の世界に浸る時間を何より楽しんでいました。読むことと書くことは、ごく自然に生活の中に組み込まれていて、それは誰に教えられるでもなく、自分の中にずっとあった衝動のようなものでした。

そして10代後半になると、「小説家になりたい」という夢をはっきりと意識するようになります。けれど、思いと行動の間には想像以上に深い溝がありました。20代は読書量こそ増えましたが、執筆よりアルコールを優先していました。

実際に書くことはなかなか習慣化できず、自分に言い訳をしながら時が過ぎていったのです。 ようやく書くことが日常に根づいたのは40代に入ってからでした。

今は主にビジネス書やこの書評ブログを通じて発信を続けていますが、「いつか小説を書きたい」という気持ちは、今も変わらず胸の内に灯り続けています。

そんな私が今回ご紹介するのが、直木賞作家今村翔吾氏の作家で食っていく方法という一冊です。 本書は、「小説家入門」ではなく、「小説で食べていくための実践的な仕事論・ビジネス書」です。小説家という職業に対するポジティブな幻想を打ち砕き、リアルな現場の厳しさと面白さを描き出しながら、それでも挑戦したい人へ向けて力強いメッセージが詰まっています。

今村氏は、「作家とは、単なる職業ではなく『生き方』である」と語っています。この言葉には、小説を生業とする人間にとっての覚悟と哲学が詰まっています。

書くことそのものが生きることと結びついている。その実感があってこそ、本物の作家と呼べるのだと私は思います。 多くの作家志望者が「良い作品を書けばいつか売れる」と信じていますが、著者はこう言い切ります。「作家は個人事業主であり、経営感覚を持つべきである」と。

自らが30歳でダンスインストラクターを辞め、退路を断ち、そこから直木賞受賞作家としてトップランナーに至るまでのプロセスを、誰もが再現可能な「戦略」として言語化している点に本書の大きな価値があります。小説の書き方はもちろん、「生き残るための戦術」に重きを置いた、まさに作家のための指南書に仕上がっています。

本書の核となるのは三つの視点です。まず一つ目が「覚悟」と「逆算」の思考法。著者は30歳からの3年間で芽が出なければ諦めると自らに期限を設けました。夢を漠然と追うのではなく、「いつまでに何をやるか」を明確にし、そこから逆算して「今日やるべきこと」を割り出す。

机に向かう時間を生活の中に確保し、「時間がない」「才能がない」といった言い訳を捨て去る姿勢が語られています。

二つ目は、「質は量からしか生まれない」という現実です。完璧な一作を目指して筆が止まるより、まずは最後まで書き上げることの方がはるかに重要です。どんなに荒削りでも、書き切らなければ作品とは言えません。

著者自身は、毎日決まった時間に決まった量を淡々と書き続けるという規律ある行動で大量の作品を生み出しています。年に3作と言うノルマを決め、デビュー前から活躍のイメージを作り、読書と執筆に時間をかけてきました。

三つ目は、「作家という職業のリアル」です。印税、原稿料、出版業界の仕組み、書店との関係など、通常は語られにくい「お金」の話にもしっかり触れています。理想だけで食べていけるわけではありません。どうやって収益を上げるのか、どうやってキャリアを継続するのか。業界全体を見渡しながら、自分の作品のポジショニングや売る戦略の重要性を指摘します。

作家と起業家の共通点とは?

本をよく読み、プライドを捨て去る。これさえできれば、文章力はまだなくても、何歳からでも、作家になれます。

この今村氏の言葉には、夢を夢のままで終わらせないための覚悟が詰まっています。自分の世界に閉じこもり、自己流に固執していては道は開けません。学びを止めず、他者の声に耳を澄ませる。その柔軟さと吸収力こそが、プロとしての土台になります。

そして、実際に動けるかどうかがすべてを決めていくのです。 本書では「作家になる前に社会人経験を持つこと」が強く推奨されています。その理由も極めて実践的です。

一つ目は、専業作家になる前に、兼業で食っていける基盤を作れること。安定した収入と時間の捻出は、創作活動の継続性に直結します。

二つ目は、コミュニケーション能力。意外に思われるかもしれませんが、編集者とのやりとりやメディア対応を含め、作家にも高度な対話力が求められます。黙々と書いているだけでは、世に出すことはできません。

三つ目は、実社会での人間観察です。仕事を通して出会う多様な人間関係が、キャラクター造形の引き出しを豊かにしてくれます。大学の延長線では出会えない“リアルな人間”が、物語に血を通わせるのです。

そして四つ目は、ルーティンの感覚。決まった時間に働く経験は、日々の執筆に欠かせない自己管理力へと変わっていきます。どれだけ才能があっても、継続できなければ、プロの世界では生き残れません。 創作において、アイデアは早く形にしてこそ価値を持ちます。

どれだけ斬新な発想でも、発表が遅れれば意味がありません。似たコンセプトが先に世に出てしまえば、その瞬間に執筆の時間も労力もすべて“パー”になる。スピードは、小説家の武器になるのです。

才能やセンスといった曖昧なものではなく、「書く時間を確保すること」「とにかく量を書くこと」。これらは、誰でも今から始められる“確実な努力”です。

小説の三要素──構成、キャラクター、文章。どれも欠かせない要素ですが、それらを支える土台にあるのは、日々の積み重ねと、読者に誠実であろうとする姿勢です。 創作は孤独な営みですが、読者の存在を前提にしている限り、独りよがりでは届きません。そのうえで、構造の設計力やキャラクターの深みは、確かな読書量と経験に裏打ちされてこそ活きてきます。

エリン・M・プッシュマン創作者のための読書術でも、プロット構成やキャラクター造形の重要性が語られています。小説を書くためには、小説を読み、著者の意図を理解することがポイントになります。──このプッシュマンの視点は今村氏とも共通しています。

結局のところ、「読む」ことと「書く」ことは表裏一体です。読む習慣のない書き手が、読まれる文章を書けるはずがないのです。(創作者のための読書術の関連記事

現代はワークライフバランスが叫ばれる時代ですが、作家はその枠に当てはまらない存在です。いまだに昭和的価値観が色濃く残る出版業界では、根性や泥臭さが逆に求められています。そして今、「モーレツ」がダサいとされる時代だからこそ、本気で頑張る人間が目立ちやすくなっている。努力が可視化されやすい今は、実力が開花しやすいフェーズです。

怠惰で勝つことはできません。それはどんな世界でも同じです。 情熱を持ち、覚悟を決め、手を動かす。シンプルだけれど、それを貫ける人は多くない。今村翔吾氏は、その“実行する力”こそが最も大切だということを、自らの経験を通じて証明してくれています。読み終える頃には、きっと自分の中に小さな火が再び灯っているはずです。

そして本書を読み進める中で、 小説家と起業家は、一見まったく異なるようでいて、本質的には極めて近い存在だと気づきました。どちらも、まだ形のないものに名前を与え、価値を創り出す仕事。正解のないフィールドで、自分の意志とアイデアだけを頼りに、前に進み続けなければなりません。

「社会人経験を積んだ方がいい」というアドバイスは、私も起業を志す若者によく伝えています。組織で働くことは、現場感覚を得るだけでなく、人脈を広げ、自分の市場価値を確認できる貴重なフェーズです。独立した後、頼れる人がいるかどうか。それが、成否を分ける局面は確実にやってきます。

ただ、どれだけ学びや知識があっても、最終的には「動く人」が勝つ。小説家も起業家も、頭の中だけで考えている人は多い。けれど、実際に手を動かし、外に出している人は少ない。だからこそ、動いた者が抜きん出る。それだけの話です。

リスクを取り、自分の可能性に時間と情熱を投資すること。市場の声を聞きながら、最後は自分の直感を信じて意思決定すること。そして、未完成でも出す勇気を持つこと。完璧なタイミングなど来ません。「いつか書こう」「いつか起業しよう」と言っているうちに、チャンスは過ぎ去ってしまうのです。

未完成でも構わない。まずは世に出すことです。完璧なタイミングなんて、一生やってきません。自信がない、時間がない、経験が足りない──それは誰もが抱えている、スタートラインにすぎません。その中で、一歩を踏み出せるかどうか。すべてはそこにかかっています。

本書は、ただ文章力を磨くための指南書ではありません。「どう書くか」だけでなく、「どう生きるか」を問いかけてくる、覚悟と行動の書です。 そしてこれは、小説家を目指す人だけに向けられたものではありません。

これから何かを始めたい人、自らの力で道を切り拓こうとするすべての挑戦者──とくに、まだ見ぬ未来に飛び込もうとしている起業家にとっても、本書は力強い指針になるはずです。

最強Appleフレームワーク


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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