GTM(Go-To-Market)戦略の教科書 マーケティング・営業・CSを成長エンジンとして完全仕組み化する
丸井達郎 廣崎依久
翔泳社

30秒で学ぶ本書のポイント
結論: GTM戦略とは単なる計画ではなく、マーケ・営業・CSを一つの収益装置として統合する「組織の設計図」です。
原因: 各部門が個別のKPI(リード数、受注数など)を追うことで、部門間で顧客体験が分断され、売上・利益に寄与しずらい。
対策: ICP(理想の顧客像)を起点に、バリュープロポジションと提供手法(モーション)を一貫させ、RevOpsによって戦略とオペレーションを同期させる。
本書の3行要約
GTM戦略は、ICP・価値提案・届け方(モーション)を統合し、レベニュー組織を一つの成長モデルとして設計し直します。 RevOpsは、その設計をデータとテクノロジーで支え、戦略→プロセス→測定→ツールの順序で現場に落とし込みます。 結果として、CAC回収、LTV、業務効率、CX一貫性という経営アジェンダを同時に前進させやすくなります。
おすすめの人
・各部門は目標達成しているのに、会社全体の売上が伸び悩んでいる経営者・事業責任者
・マーケ、営業、CSの連携がうまくいかず、バケツから水が漏れるような失注・解約に悩むリーダー
・「とりあえずSFA/CRMを導入した」が、データが活用されず形骸化している組織の担当者
読者が得られるメリット
・組織の「ギア」が噛み合う: 部門間の摩擦が消え、全員が同じ方向を向いて動けるようになる。
・投資効率の劇的な向上: 無駄なリード獲得や無理な営業が減り、CAC(顧客獲得コスト)の回収が早まる。
・顧客満足度の自然な上昇: 一貫したメッセージと体験により、顧客がスムーズに「価値」を実感できる。
なぜ「優秀な組織」の売上や利益が伸びないのか?部分最適の罠を突破するGTM戦略の設計図
GTM(Go-To-Market)戦略とは、新たな製品やサービスを市場に投入し、数多くの選択肢の中から顧客に選ばれ、継続的な関係を築いていくための、体系的な実行計画です。(丸井達郎 廣崎依久)
マーケティング、セールス、カスタマーサクセス(CS)。各部門がそれぞれのKPIを達成し、現場には優秀な人材が揃っている。それにもかかわらず、会社全体の売上や利益が思うように上がらない——。こうした事態は、多くの成長企業が直面するパラドックスです。
これは例えるなら、「各ポジションに世界トップクラスの選手を揃えたのに、一向に試合に勝てないサッカーチーム」のようなものです。フォワードは得点王を狙ってシュートを乱発し、ミッドフィルダーはパス成功率を上げるために安全な横パスばかりを回す。ディフェンダーは失点を防ぐためにゴール前に張り付き、前線との連携を怠ります。個々の指標は完璧でも、チームとしての「勝利(売上・利益)」という目的への連動性が欠如している状態です。
多くの企業で起きているのは、怠慢ではなく「行き過ぎた真面目さ」が生む悲劇です。各部門が自らの正しさを証明しようとするほど、組織全体の歯車は噛み合わなくなります。
・マーケティング
リード件数を追うあまり、受注に繋がらない「質の低いリード」を量産する。
・セールス
受注件数を稼ぐために、自社製品に適合しない顧客にまで無理な約束をして売る。
・カスタマーサクセス
現場の無理な受注が原因で、導入直後から不満を持つ顧客の火消しに追われ、解約阻止に疲弊する。
このように、顧客への価値提供という一本の線が、部門の壁(サイロ)によって寸断されています。これを解消するのが、GTM(Go-To-Market)戦略の教科書が提唱する「共通基盤としてのGTM」です。
著者の丸井達郎氏は、ゼロワングロース株式会社の代表取締役CEOであり、グローバル標準のフレームワークと実践知を統合し、GTM戦略とRevOpsの構築を通じて企業の持続的成長を支援しています。
廣崎依久氏は同社の取締役COOとして、GTM戦略の推進に加え、クライアント向けコンサルティングや教育サービス開発をリードしています。
GTMは、単なる新製品の発売計画ではありません。マーケティング・営業・カスタマーサクセスを「別々の部署の仕事」として見るのではなく、顧客体験を一貫して高めながら収益を生み出すひとつの仕組みとして捉え直し、その流れをつくり出すための設計図です。
一般的にプロダクトの初期の成功はPMF(プロダクト・マーケット・フィット)で測られますが、PMFは突き詰めれば「顧客が価値を実感しているか」を示す指標にとどまります。さらなるスケーリングを実現するには、採算性と再現性を伴う「GTMF(GTMフィット)」、すなわち顧客獲得と顧客定着を拡大する仕組みが必要になります。
GTMの設計図には、以下の3つのシンプルな問いへの答えが書き込まれていなければなりません。
①誰に届けるのか(ICP deal Customer Profile 理想の顧客像)
②何を価値として提供するのか(バリュープロポジション)
③どのように届けるのか(GTMモーション)
特に「誰に届けるのか」が曖昧な組織では、どんなに高価なCRM(顧客管理システム)を導入しても、現場の入力負荷が増えるだけで、経営判断に役立つデータは蓄積されません。ツールが問題なのではなく、ツールを載せるべき「設計図」が不在なのです。
現代のビジネス、特にPLG(プロダクト主導型成長)のモデルにおいて、最も重要視すべき指標の一つがTTV(Time to Value)です。これは、顧客が製品を手にしてから「これは価値がある!」と実感するまでにかかる時間を指します。
なぜ、TTVが重要なのでしょうか?それは、顧客が「説明」ではなく「顧客体験」によって意思決定をする時代になったからです。以前は営業担当者の説得が効果的でしたたが、今は情報収集を行い、プロダクトを触って価値を確信してから購入(あるいは継続)を決める流れが主流です。
また、価値を感じるまでに時間がかかれば、顧客はすぐに離脱し、ワンクリックで競合他社へ流れてしまいます。オンボーディングは単なる「使い方の説明」ではなく、最短で成功体験を届けるものでなければなりません。
TTVを短縮するためには、カスタマーサクセス部門だけの努力では不十分です。マーケティングが適切な期待値を形成し、セールスが最適な初期設定を提案し、プロダクトが直感的な操作性を提供する必要があります。つまり、TTVの短縮は、組織全体のGTM戦略がどれだけ統合されているかを測るバロメーターなのです。
価値を早く届けられる組織は、それだけ意思決定のスピードも速く、無駄なプロセスがなく、顧客体験の向上にコミットしているのです。
GTM戦略で経営者が得られる4つのこと
GTM戦略がレベニュー組織の戦略の統合を、そしてRevOpsはGTM戦略を支えるテクノロジー・データの統合を目指します。
GTM戦略という「設計図」を描いただけでは、組織は変わりません。その設計図通りにデータと収益を得るための、社内のインフラを整える役割がRevOps(レベニュー・オペレーション)です。
GTMとRevOpsの関係は、以下のように整理できます。
・GTM戦略
データと収益を得るための「戦略・設計図」
・RevOps
収益プロセス全体の『縦割り』を解消し、一気通貫で最適化する仕組み
多くの失敗例では、この順番が逆転しています。戦略がないまま「とりあえずSalesforceを導入しよう」とツールが先行し、そのツールに合わせて業務プロセスを歪めてしまうのです。本来あるべき順序は、「戦略 → プロセス設計 → 測定モデル → データ・ツール」のトップダウンです。
この統合が実現すると、経営陣は以下の「4つのアジェンダ」をコントロールできるようになります。
①投資効果の最大化
CAC(顧客獲得コスト)の回収期間を短縮し、資金効率を高める。
②LTVの最大化
単なる継続ではなく、価値の拡張(アップセル・クロスセル)を必然にする。
③効率化の追求
同じ仕事を二度しない構造を作り、部門間の重複を排除する。
④CX(顧客体験)の一貫性
どの接点でも顧客が迷わない「一本の線」でつながった体験を提供する。
CXが一貫している会社では、顧客は迷子になりません。迷わない顧客は離脱せず、むしろ他者にその体験を推奨します。その結果、CACが下がり、収益性が向上するという正のスパイラルが生まれます。
結局のところ、GTM戦略の本質とは「いかに市場を攻略するか」という外向きの手法以前に、「いかに会社が一つになるか」という内向きの構造改革にあります。
マーケティング、営業、カスタマーサクセスといった部門名は、組織運営上の便宜的な「ラベル」にすぎません。本来、経営が注視すべきは、顧客に価値が届くまでの一気通貫したプロセス設計です。 顧客体験のボトルネックを特定し、解消することこそがGTMのゴールになり、結果、売上と利益がアップします、
たとえば、TTVを短縮しようと試みれば、それが単なる現場の「オンボーディング改善」では済まないことに気づくはずです。 ターゲット(ICP)、バリュープロポジション、選んだチャネル(モーション)、それらを支えるデータやツール、これらすべてが噛み合って初めて、TTVは劇的に短縮されます。
逆に言えば、顧客に価値を早く届けられる組織とは、すでにGTMとRevOpsの両方が機能し始めている組織なのです。価値提供のスピードは、そのまま組織の意思決定スピードの裏返しでもあります。
もし今、各部門の「優秀さ」が空回りし、摩擦ばかりを生んでいると感じるなら、それは努力不足ではなく正しい設計図の不在を疑うべきです。
製品部門、マーケティング部門、営業部門が、それぞれのKPI(機能開発数、MQL数、成約数など)を真面目に追いかければ追いかけるほど、部分最適に陥っていくと、著者らは繰り返します。
GTMという共通言語は、「部門をまたいで仲良くしよう」というエモーショナルな話ではありません。「顧客への価値提供」という一本の軸で、バラバラな方角を向いていた優秀な個人を、同じステージに立たせるための設計言語です。
顧客体験を高めるために、各セクションの役割が明確に定義されることで、部門の境界は薄れていきます。その結果、メンバーの会話の主語が「部門目標」から「顧客」へと切り替わります。
GTM戦略がきちんと実装されると、この設計が現場の運用に落ち、顧客体験の分断が減っていきます。すると、獲得の効率が上がり、チャーンが減り、口コミが増え、事業が伸びていきます。
売上は偶然ではなく再現性として積み上がり、利益は「無理に作り出すもの」ではなく、構造として残るようになります。つまりGTMは、売上と利益を同時に伸ばし、企業に持続的成長をもたらすための、かなり現実的な設計思想なのです。
本書のまとめ
もし自社で優秀な個人ほど空回りしている感覚があるなら、疑うべきは努力の総量ではなく、努力が同じ方向に伝わるための「共通の設計図」の不足が原因もしれません。部下を責める会議をいくら繰り返しても、意味はありません。結果が出ないのは、多くの場合、データ以前に定義とプロセスが揃っていないからです。
必要なのは、「どの数字が正しいか」を議論することではなく、「どうすれば正しい顧客に価値をより早く、より一貫して届けられるか」を設計ベースで対話する文化です。サイロでの分断をなくし、顧客体験を高めるGTM戦略が実行されることで、売上と利益がアップし、企業の持続的成長が始まります。















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