マーク・ジェフリーの データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標の書評

1981~1982年の不況期において広告宣伝費を維持あるいは増加させた企業群は、同期間に広告宣伝費を削った企業群と比べて、その不況期中そしてその後3年間に大きく売上を伸ばした。積極投資を行った企業群の1985年までの売上は、コストカットに回った企業群の売上より256%も高い水準に至っていた。


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不況期にマーケティング予算を減らしてはいけない理由

私が広告会社で働いている頃、景気後退が私たちのビジネスにおける最大のリスクでした。広告予算を減らさないために、クライアントにプレゼンをなんども行いましたが、多くの企業は横並び主義で、広告予算をカットしていました。しかし、この戦略が間違っていることがわかりました。

データ・ドリブン・マーケティング―――最低限知っておくべき15の指標の中で、マーク・ジェフリーは「不況期において適切な戦略は、マーケティング投資を増加させることだ」と述べています。マグロウヒル・リサーチ社が16業種600社の1980年から1985年の動向調査をしたところ、上位企業たちは、景気後退期においてマーケティング投資をむしろ積極的に行っていることが明らかになったのです。

ペントン・リサーチサービス社、クーパーズ・アンド・リブランド社、ビジネスサイエンス・インターナショナル社が共同で行った、1990~1991年の不況期に関する調査でも、好業績企業は不況期にもマーケティング活動に積極投資していました。マーケティング予算をしっかり確保し、的確に使うことで、顧客基盤を強化し、弱腰になっている競合からシェアを奪うことにも成功していたのです。その結果、これらの好業績企業は、景気回復期以降にさらに業績を上向かせることができたのです。

例えば、2001年のITバブル崩壊後の不況期において、インテルは、CPU製造設備建設に20億ドルを投じ、また新しいデュアルコア技術のマーケティングを積極展開することにより、ライバルのAMD社からシェアを奪うことに成功しました。1970年代に、米化粧品大手レブロン社やフィリップ・モリス社が広告出稿を増やすことで市場シェアを拡大しました。2009年の第1四半期には、リーマンショック後の金融危機のピークにも関わらず、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)社、ペプシコ社、ベライゾン社、ニューズ・コーポレーションといった有力企業が広告投資を増加させ、結果を残したのです。

マーケティング予算を増やしても、データをしっかりと把握し、それを活用しなければ意味はありません。データにもとづいたマーケティングの意思決定によって、業績を伸ばせると著者のマーク・ジェフリーは指摘します。あのアマゾンのジェフ・ベゾスも本書を愛読し、データ・ドリブン・マーケティングの精度を高めているとのことです。

 

自社を知ることから始めよう!

データドリブン・マーケティングの戦略立案のためのフレームワーク

マーケティングにしっかり投資し、データ・ドリブン・マーケティングの考え方を導入すれば、景気の善し悪しにかかわらず効果をあげられるようになるはずだ。

マーケティング投資によって業績を加速させることができるのは、もちろん不況期だけではありません。データ・ドリブン・マーケティングのフレームワークを活用し、的確な施策を実施し、PDCAを回すことで、顧客との関係を強化できます。

著者は、特に「自社を知る」プロセスを重視すべきだと言います。データウェアハウス構築プロジェクトにおいて、一番多い失敗理由は、収集したデータの活用方法について経営陣がしっかりした計画を立てていないことです。データを集めても、チームがそれをどう活用できなければ、宝の持ち腐れです。データベース構築が動き出す前に戦略プランを固め、経営陣、社員が認識を一つにすべきです。

大事なデータとは何かをチーム全員で自問し、80対20の法則をデータ分析にも取り入れるのです。

必要なデータの判断には、80対20の法則が有用だ。まずは8割の成果をもたらしそうな2割のデータとは何であるかを見極め、そして何とかしてそのデータを手に入れる方法を考えるのだ。大企業の場合、いくつかの部署やデータベースにまたがって存在していることが多い。小さな企業では、データ量が足りないかもしれない。壁にぶつかったら「手元にあるデータは何だ?追加で収集あるいは購入できそうなデータは何だ?その中のものを使って最大限の効果につなげるには何ができるか?」という発想に立ち戻って考えよう。

ゴードン・ベスーンは、1994年から2004年までコンチネンタル航空のCEOを務め、最悪の状態にあった同社を、最高の航空会社へと見事に立て直したことで有名です。まず彼は、評判が最悪だったコンチネンタルを清潔で安全で信頼できる航空会社に変貌させることに注力し、それに向けて、従業員の報酬制度を再設計しました。

従業員は、フライトを定刻通りに運行できた場合、月に100ドルのボーナスを受け取れるようになり、コンチネンタル航空は、運航スケジュールの正確性で第1位の航空会社に生まれ変わりました。べスーンは、消費者から最も愛される航空会社になるというビジョンを掲げ、データ・ドリブン・マーケティングを採用しました。担当のケリー・クックは、次のように述べています。

コンチネンタル立て直しに不可欠な最初のステップは、お客様と対話することでした。低コストかつ比較的簡単に私たちのアイデアを検証する方法として、グループインタビューを行いました。インタビューは、当社がどう変わらなければいけないか、優先順位をどう付けるべきかといった点について、有用なフィードバックを得られる機会でもありました。予算の制約上、すべてのデータを統合することは不可能だったため、45種類にものぼるデータベースの中から、統合によって最大の効果が得られるであろう2種類のデータベースを扱うことに集中しました。(ケリー・クック)

マーケティング担当者たちは、コンチネンタル航空にとって重要な顧客が、荷物の紛失、あるいはフライトの大幅な遅延やキャンセルといった憂き目にあってしまった際に、手紙を送ることが失地回復につながると考えました。45もの独立したデータベースの中から、顧客別フライト収益性とトラブル事案という、2つの最重要データベースを選定し、トラブル回避策を実行したのです。

トラブルが発生した場合に、12時間以内に手紙を送付するというマーケティング・キャンペーンを実施し、手紙を受け取った人たちを対象にしたグループインタビューを行いました。手紙の内容はシンプルなお詫び状で、対照実験も同時に行い、この施策の効果を測定しました。

一部のユーザー宛の手紙にはボーナスマイルが付与され、その他のユーザー宛には、コンチネンタルが主要空港で運営するプレジデント・クラブというラウンジへの無料招待券が添付されたのです。グループインタビューの結果、手紙は全て等しく効果的であることがわかりました。

手紙を受け取らなかった人たちを集めたコントロール・グループでは、必ず誰かがフライトのキャンセルや荷物の紛失についての苦い経験を語りました。他の参加者もそれに加わり、罵署雑言の場になり収拾がつかなくなってしまったのです。一方、手紙を受け取った人たちのグループでは、状況がまったく異なり、手紙を評価していたのです。

このグループインタビューの結果、手紙を送付することで、消費者が抱くイメージを大きく変貌させられるということの定性的な証拠となりました。プレジデント・クラブへの無料招待券を受け取った消費者のうちのかなりの人数が、実際にプレジデント・クラブに入会してくれました。この施策のマーケティング投資収益率(ROMD)は非常に高くなったのです。

45のデータベースがすべて統合され、正確な収益性や顧客生涯価値(CLTV)を計算できるようになった際に、手紙を受け取った顧客のCLTVが平均して8%増加することがわかりました。 プレジデント・クラブに参加した顧客は優良顧客になりやすく、 その意味でも手紙は効果があったのです。

コンチネンタル航空のデータ・ドリブン・マーケティングは、小さなことから始まりました。グループインタビューや対照実験をうまく活用し、彼らは結果を残したのです。コンチネンタル航空のカスタマー・マネジメント部門幹部のマイク・ゴーマンの言葉を信じれば、この施策が効果があることがわかります。

データベースを構築するのは大変な作業でした。しかしながら、データベースの構築・連携がなされてからは、お客様との接点を強化して売上・収益を向上させるツールを次々と開発することができるようになりました。(マイク・ゴーマン)

データ・ドリブン・マーケティングによって、顧客との関係を強化でき、CLTVがアップできます。最近では、ネットフリックスが顧客データを徹底活用することで、業績を拡大しています。サブスクリプション時代には、データ・ドリブン・マーケティングを採用しない企業は生き残れなくなるはずです。データを活用し、顧客との関係を強化した企業がより強くなるのです。

本書の以下の15の指標を使い、経営者と社員が施策を実践することで、企業の業績は間違いなくアップします。
1、ブランド認知率
2、試乗(お試し)
3、解約(離反)率
4、 顧客満足度(CSAT: Customer Satisfaction)
5、 オファー応諾率
6、利益
7、正味現在価値(NPV: Net Present Value)
8、内部収益率(IRR: Internal Rate of Return)
9、投資回収期間
10、顧客生涯価値(CLTV: Customer Lifetime Value)
11、クリック単価(CPC: Cost Per Click)
12、トランザクションコンバージョン率(TCR: Transaction Conversion Rate)
13、広告費用対効果 (ROAS: Return on Ad Dollars Spent)
14、直帰率
15、口コミ増幅係数(WOM: Word of Mouth ソーシャルメディアリーチ)

まとめ

フォーチュン500社の業績上位20%の企業に共通する成功のカギは、データ解析にもとづくマーケティング(データドリブン・マーケティング)の意思決定であることがわかっています。本書の15の指標を活用し、顧客との関係を強化することで、企業の業績をアップできるのです。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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