『世界は負債で回っている―「借金」だった!経済を本当に動かしていたのは』書評|負債のパラドックスを解き明かす

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書籍: 世界は負債で回っている―「借金」だった!経済を本当に動かしていたのは
著者: リチャード・ヴェイグ 
出版社: 東洋経済新報社
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30秒でわかる本書のポイント

【結論】:経済成長には「負債」が不可欠だが、過剰な「民間債務」の急増こそが金融危機の真の原因である。公的債務(国の借金)を悪者にするのではなく、民間債務の管理こそが経済安定の鍵となる。
【理由】:過去50年間の主要国(G7)のデータ分析から、GDPの成長には必ず負債の拡大が伴っていることが判明した。マネーとは銀行による貸出(借金)によって創造されるものであり、負債なしに現代資本主義は機能しないからだ。
【対策】:安易な緊縮財政や公的債務削減論に惑わされず、民間債務の対GDP比率を監視する。バブル崩壊後の危機においては、家計や企業の債務救済(借金の帳消しや再編)を迅速に行い、バランスシート不況からの脱却を図るべきである。

本書の要約

ペンシルバニア州銀行・証券局長官も務めたベンチャーキャピタリスト、リチャード・ヴェイグが「負債の経済学」という新分野を切り開いた野心作。過去50年間のデータを徹底分析。「借金が悪である」という常識を覆し、経済成長は負債の拡大によってのみ成し遂げられるという「パラドックス」を提示する。一方で、金融危機を引き起こすのは公的債務ではなく、暴走した民間債務であることを突き止め、次なる危機を防ぐための具体的な処方箋を提示する一冊。

おすすめの人

・「国の借金が大変だ」というニュースに不安を感じている人
・金融危機やバブルがなぜ繰り返されるのか、そのメカニズムを知りたい人 銀
・行の実務や信用創造の仕組みを、実データに基づいて理解したい金融関係者
・これまでの経済学の教科書に書かれていない、リアルな経済の実像を知りたいビジネスパーソン 

読者が得られるメリット

・「借金=悪」という単純な道徳観から脱却し、経済を動かすエンジンの正体がわかる
・公的債務(政府の借金)と民間債務(家計・企業の借金)の違いと、それぞれが経済に与える影響を明確に区別できるようになる
・金融危機の前兆をデータで見抜くための視点(民間債務対GDP比の急増)が手に入る
・「ジュビリー(債務帳消し)」という古代からの知恵が、現代経済再生の切り札になり得ることが理解できる
・これからの金利上昇局面において、自分や自社の資産をどう守るべきかのヒントが得られる

経済成長の正体は借金?

多くの経済学者や、最も有力な経済書を見ても、総債務にはほぼ目をとめていない…民間債務を知らずして政府債務を研究しようなど、循環系の臓器もろくに知らずに、心臓の働きを研究しようとするようなものだ。 (リチャード・ヴェイグ)

日本においては「借金は悪いものだ」と言われがちです。家計でも企業でも、借金はできるだけ避け、早く返すほどよいというのが、私たちの常識になっています。

しかし、国や経済全体(マクロ)でも同じ論理がそのまま通用するのでしょうか。 本書世界は負債で回っている―「借金」だった!経済を本当に動かしていたのはの著者リチャード・ヴェイグは、その考え方を否定します。債務は私たちの経済システムの中核であり、同時にその崩壊の引き金にもなりうると言うのです。

つまり「債務=悪」でも「債務=善」でもなく、債務を抜きにして成長も危機も語れないと著者は指摘します。 近年、経済学界は債務の扱いをめぐって批判にさらされています。

著者のヴェイグは、銀行や企業の経営に携わってきた実務家です。本書の特徴は、理論を誇示するのではなく、読者が現実の動きを理解するために必要な分だけ理屈を使う点にあります。

政府債務より「総債務」、フローより「バランスシート」 ヴェイグが提示する枠組みは、彼の言う「デット・エコノミクス(債務経済学)」です。ここにはいくつかの重要な原則があります。

第一に、経済にとって重要なのは政府債務より総債務だ、という原則です。メディアは政府債務(国債残高)を強調しがちですが、家計・企業・金融部門を含む「総債務」がどう動いているかを見ないと、景気の熱量や危機の芽はつかめません。政府債務だけを見て安心・不安を語るのは、診断範囲が狭すぎるのです。

第二に、債務は国の「損益計算書(フロー)」だけでなく、バランスシート(ストック)の文脈で捉えるべきだ、という原則です。GDPはフローの代表で、景気の“今年の稼ぎ”を表します。

一方で、債務はストックで、過去の借り入れの累積です。フローだけ見て「成長している/していない」を論じても、ストックが積み上がり過ぎていれば、どこかで返済・利払い・信用収縮が景気を押し戻します。危機が「突然起きた」ように見えるのは、フロー中心の視界の副作用です。

第三に、債務対GDP比の上昇は格差を拡大しやすい、という見立てです。債務が膨らむ局面では、資産価格が上がりやすく、資産を多く持つ側に有利な局面が生まれます。結果として、債務拡大が“成長”を演出しても、その果実は均等に分配されず、格差が拡大します。

債務は配分を変えながら経済を維持する

負債とはパラドクスである。創造し、破壊する。

本書の理解を容易にするのが、債務の二分類です。
・タイプ1債務
消費や新規投資など、生産活動や需要に結びつき、GDPを牽引しやすい債務

・タイプ2債務
既存資産(中古住宅・株式・M&Aなど)の購入に使われ、資産価格を膨張させやすい債務

タイプ2が増える局面では、資産価格が上がりやすくなります。資産購入者は一般に、レバレッジを高めて投資収益率の向上を狙います。負債を増やすほど自己資本は少なくて済み、定義上、自己資本利益率は上がりやすいからです。

この行動が広がると、タイプ2債務が増え、資産価格と信用が相互に強化されやすくなります。 ここで本書が示す重要な帰結は、総債務がGDP成長率と同等、あるいはそれ以上に増えるのは偶然ではないという点です。

タイプ1債務がGDP成長と連動しやすい一方、貸出総額の大部分を占めがちなタイプ2債務がタイプ1に上乗せされるため、総債務は長期的にGDPより速く膨らみやすくなります。

1990年代の日本の金融危機において、日本の民間債務は対GDP比で219%に達しました。 その後、約20年をかけて民間部門はデレバレッジ(債務削減)を進め、民間債務は対GDP比で153%まで削減されました。

一見するとこれは財務の健全化に見えますが、マクロ経済の視点では別の側面が浮かび上がります。 民間企業や家計が借金の返済とバランスシートの調整を最優先にすると、信用創造機能が弱まり、名目GDPが伸びにくくなるのです。

つまり、長期にわたる低成長の一因として「民間債務の削減」そのものが位置づけられるという整理です。 同時期に、日本の政府債務は対GDP比80%から230%へと急上昇しました。これをどう解釈すべきでしょうか。

民間の借り入れが縮小する局面で、もし政府支出と政府債務が拡大していなければ、需要不足がさらに深刻化し、経済の縮小幅はより大きくなっていた可能性があります。 

ここで本書が強調するのが、マクロ経済において債務は単に「消える」のではなく、民間部門と政府部門の間で配分が切り替わりやすいという点です。 一般に、公的債務比率が低下するときは、民間債務比率が上昇しやすくなります。 逆に、民間債務比率が低下するときは、公的債務比率が上昇します。 大規模な経済調整局面では、この切り替えが繰り返し観察されます。

著者の分析によれば、1950年以降の世界の上位10経済圏において、「5年以内に民間債務と公的債務が同時に、対GDP比で少なくとも10%減少した」例は見当たりませんでした。

対象を上位20経済圏に広げても例外はわずか3例のみで、いずれも巨大な純輸出超過や非常に高いインフレなど、特殊な条件を伴っていました。ここから導かれる結論は、「成長には債務の増大が必要であり、通常は総債務を同時に減らすことはできない」という原則です。 

債務比率の改善策として、インフレが提案されることがあります。インフレ率が実質金利を上回る局面では、物価や名目所得が債務元本よりも速く増えるため、所得に対する債務比率は改善し得ます。

しかし著者は、これが後発の開発途上国では起こり得る一方で、先進国において高インフレによって債務比率を大きく調整できた例は稀であると指摘します。インフレは一部の状況では効果を発揮しますが、制御が難しく、一般解としては扱いにくいという位置づけです。

本書が最終的に提示するのは、深刻な危機局面において「債務免除(ジュビリー)」こそが最も合理的かつ現実的な政策選択肢になりうるという、極めて大胆なパラダイムシフトです。 一見すれば、道義的・経済的観点から激しい賛否を巻き起こすテーマです。

しかし本書の真価は、これを単なる理想論や感情論として語るのではなく、膨大なデータを揺るぎない根拠として提示し、緻密な議論を積み上げている点にあります。このアプローチこそが、センシティブな議論に圧倒的な説得力を与えています。

コンサルタント 徳本昌大のView

マクロで重要なのは「借金があるか」ではなく、どの部門が、どのタイプの債務を、どの速度で増やしているかです。政府債務だけを切り出す議論は、総債務と配分の切り替えを見落としやすく、判断を誤らせます。

本書が提示する実務的なチェックポイントは明確です。
・政府債務ではなく、総債務を見ているか
・タイプ1(GDP牽引)とタイプ2(資産膨張)のどちらが増えているか
・レバレッジが債務の拡大を加速していないか
・民間債務の調整局面で、公的債務がどのように補完しているか
・債務の正の機能を活かしつつ、負の機能(危機・停滞・格差)を抑える設計があるか

債務は経済成長の前提になり得ますが、過剰になれば危機や停滞を招きます。したがって政策は、債務の量そのものを単純に否定するのではなく、債務の種類と増え方に着目し、必要なら調整策(再編・免除を含む)まで視野に入れて設計されるべきだ、というのが本書の問題提起です。

🖋 書評:徳本昌大 書評ブロガー・ビジネスプロデューサー

最強Appleフレームワーク

 

この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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