育つ、育てる。対話力 話し下手が強みになるニクヨ式会話術 (肉乃小路ニクヨ)の書評

書籍:育つ、育てる。対話力 話し下手が強みになるニクヨ式会話術
著者:肉乃小路ニクヨ
出版社:KADOKAWA
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育つ、育てる。対話力 話し下手が強みになるニクヨ式会話術の書影

【書評】肉乃小路ニクヨ氏の『育つ、育てる。対話力』。なぜ今読むべきか?思い込みを打破し、意思決定の質を上げるメタ認知と自己対話の仕事術

ビジネスの最前線において、「どうすればこの複雑な状況を好転させられるのか」と頭を抱える瞬間は、経営者であれプロジェクトリーダーであれ、誰にでも必ず訪れます。その解決の糸口を探る際、戦略の策定やデータ分析に行き着くことも多いですが、最終的なボトルネックとなるのは常に「人」であり、組織内外における「対話」を含むコミュニケーションの質です。

しかし、多くのビジネスパーソンはコミュニケーションを「よどみなく流暢に話すテクニック」や「その場をうまく取り繕い、相手を説得するスキル」だと誤解したまま、根本的な解決に至っていないのが実情ではないでしょうか。

会話が苦手な人にとって、世にあふれるコミュニケーション本はしばしば残酷なものです。「相手の目を見よう」「笑顔で接しよう」「事前に質問を用意しておこう」といった助言は正論であっても、それを実行できないご本人にとっては「できない自分」を再確認させるだけのものになりかねません。

ラジオ番組や日経新聞のエッセイなどで独自の存在感を放つ肉乃小路ニクヨ氏の著書『育つ、育てる。対話力 話し下手が強みになるニクヨ式会話術』の最大の魅力は、その「苦手意識」や「人見知り」を克服すべき欠陥として扱っていない点にあります。

むしろ、話し下手で失敗を恐れる感覚を、鋭い観察力や慎重な言葉選びにつながる強力な資質として肯定してくれています。 本書が扱う最大のテーマは、他者との表面的な会話術ではありません。「自分自身との対話」、すなわちメタ認知を通じた自己理解と、言葉という「思考のOS」のアップデート、そして社会における自らの「役割」の再定義です。

なぜ今、私たちはこの本を読むべきなのでしょうか。その理由は、生成AIが驚異的なスピードで社会実装されつつある、現代の不確実なビジネス環境にあります。AIに適切なプロンプトを投げれば、膨大なデータから論理的な文章やもっともらしい解決策が瞬時に出力される時代となりました。

このような「情報処理」の分野において、人間がAIのスピードと処理量に勝つことはもはや不可能です。しかし、AIには絶対にできないことがあります。それは、情報に「自分なりの意味」を見出し、自らの文脈で「役割」を引き受け、現場の泥臭い現実と向き合いながら、他者と「共同作業としての対話(作品)」を創り上げることです。

本書は、日々の経験を「咀嚼」して血肉に変え、文章化を通じて内なる「演出家兼脚本家」を演じることで、自分自身の思い込みに騙されないための具体的なメソッドを教えてくれます。

さらに、時代や社会の変化を現場(フィールドワーク)や「旅」で検証し、自らの偏見や無知に気づきながら、他者との多様な対話を通じて新たなゴールを見つけるプロセスは、現代の経営戦略や組織マネジメントの真髄そのものです。

本記事では、AI時代において人間が磨くべき真の知的生産性とは何か、そして私たちの仕事や人生の「判断の質を上げる」ためにはどうすればよいのか、そのヒントを本書から深く抽出していきます。

この記事でわかること

・なぜ「他者と話す前の自己対話」がコミュニケーション能力の根本であり、最大の自己投資なのか
・経験を単なる情報で終わらせず、自らの血肉に変える「咀嚼」と「文章化」のメカニズム
・相手の言葉を自分の言葉で再構築する「翻訳」と、「定型文」を武器にするビジネス会話術
・日常の役割から解放される「旅」がもたらす、思い込みの破壊と時代に対する解像度の向上
・対話を「共同作業による作品作り」と捉え、AI時代に多様性から最適解を導くチームビルディング 

30秒でわかる本書のポイント

【結論】
・コミュニケーションの真髄は、他者と話す前の「自分自身との良質な対話(メタ認知)」にあります。
・対話力とは会話のスピードではなく、自分と他者の間に「よりよい言葉」を置き続ける習慣です。
・対話とは自分がしゃべりたいことをしゃべる場ではなく、相手の面白さを引き出し「共同作業で作品を作る」ことです。
【原因】
・人間は「自分が聞きたいと思うことしか聞いていない」ため、客観性を欠き、偏見や思い込みに騙されやすくなります。
・「他人とうまく話そう」と力むあまり、自分が何を感じ、何を言いたいのかの言語化(咀嚼)がおろそかになっています。
・変化し続ける時代に対して、現場検証や旅(非日常)を怠ると、社会の解像度が下がり適切な役割を見失ってしまいます。
【対策】
・自分がしゃべりたいことは事前に「もう一人の自分」と対話してまとめ、日々の感情や思考を「文章化」してディベート感覚で「なぜ?」とツッコミを入れ合います。
・相手の話をただ聞くのではなく、自分の言葉で再構築する「翻訳」を行い、対話を意味のある形に定着させます。
・日常の役割から解放される「旅」に出て、異邦人となり、多様な価値観に触れて時代や社会の解像度を上げます。

本書の要約

本書『育つ、育てる。対話力』は、人見知りや話し下手といったコンプレックスを抱えるすべての人に向けて、対話を「生まれつきの社交性」ではなく、振り返りと練習によって育てられる技術として捉え直す実践的指南書です。

著者は、言葉を人間を動かす「OS(オペレーティングシステム)」と定義し、言葉が変われば世の中の見方や行動が劇的に変わると主張しています。

本書の中核をなすのが、対話力の順序の逆転です。「他人とうまく話す」前に、まずは「自分が何を感じ、何を考え、何を言いたいのか」を言語化できなければなりません。そのために、感情や思考を「文章化」して強制的に客観視し、内なる「演出家兼脚本家(もう一人の自分)」とディベートを行います。この「咀嚼」のプロセスを経ることで、経験は初めて血肉となり、直感や思い込みに騙されない確かな判断力が養われます。

さらに、社会という舞台で求められる「役割」を演じる重要性を説きつつ、時代は常に変化するため、現場でのフィールドワークや「旅」を通じて仮説を検証し、時代や社会への解像度を上げることの必要性を強調しています。

他者との対話を「共同作業で作品を作る」ことと再定義し、多様性を受け入れながら思いもよらないゴールを導き出す方法を提示しています。AI時代に人間らしさを保ち、知的に生き抜くための、優しくも骨太な生存戦略が描かれた一冊です。

こんな人におすすめ

・人見知りや話し下手を、克服すべき欠陥だと感じてコンプレックスを抱いている人
・目の前の業務に追われ、自分の頭でじっくり構造的に考える時間が取れていないビジネスパーソン
・会議や商談、1on1ミーティングにおいて、言葉がとっさに出てこない、または自分の意見を言語化することが苦手な人
・対話を経験則任せにせず、再現可能なスキルとして鍛えたい管理職・営業職・コンサルタント
・AIに代替されないよう、自分の頭で情報を咀嚼して「自分の言葉」にする知的生産力を鍛えたい人

本書から得られるメリット

・経験を「咀嚼」し、自分の血肉に変えるための具体的な内省・文章化のプロセスを習慣化できる
・メタ認知能力が高まり、思い込みやバイアスに騙されない客観的な視点と意思決定力を獲得できる
・「定型文」や「翻訳」の技術を学ぶことで、緊張する場面でも落ち着いて相手と意味のある対話ができるようになる
・現場(フィールドワーク)や旅を重視する思考が身につき、ビジネスにおける仮説検証と解像度が圧倒的に上がる
・対話を「作品作り」と捉えることで、多様な価値観を持つ他者から自分一人では思いつかない最適解を引き出せるようになる

思考の「OS」をアップデートし、経験を血肉に変える「咀嚼」の技術

言葉が変わると、行動も人生の選択も変わる。(肉乃小路ニクヨ)

「自分の考えが、なぜか相手に伝わらない」「会議でうまく話せない」「雑談が続かず、気まずい沈黙が生まれる」――コミュニケーションに苦手意識を持つ人は少なくありません。

しかし、その原因を単純に「話し方が下手だから」と考えるのは早計です。伝えたい内容が自分の中で整理されていなかったり、相手の言葉を十分に受け取れていなかったりすることが、すれ違いを生んでいる場合もあります。

だからこそ必要なのは、流暢に話すテクニックを身につけることではありません。自分の感情や考えを言語化し、相手の意図を理解しながら、対話を通じて認識をすり合わせる力です。

人間が発明した道具の中で、最も偉大なものの一つが「言葉」です。言葉があるからこそ、私たちは複雑な出来事や曖昧な感情を分類・整理し、新しい意味へと再構成できます。言葉は単なる情報伝達の手段ではなく、自分と他者を理解し、関係性や未来を共につくるための基盤なのです。

育つ、育てる。対話力 話し下手が強みになるニクヨ式会話術』の著者肉乃小路ニクヨ氏は、「社会の中で人間が行動するにあたって、言葉はあらゆるプログラムを動かすパソコンのOS(オペレーティングシステム)のようなもの」と定義しています。

著者の価値観を大きく変えたのが、「オネエ言葉」との出会いでした。当初は弱々しい存在だと偏見を抱いていましたが、多様な人や本に触れ、その言葉が場を明るくするサービス精神と気遣いから生まれていると知ります。オネエ言葉を身につけたことで、自身の言葉だけでなく、世界の捉え方も根本から変わったのです。

この「言葉のOSが変われば、世界の見え方が変わる」という事実は、現代のビジネスパーソンにとって極めて重要な示唆に富んでいます。

私たちは日々、スマートフォンやニュースメディア、生成AIを通じて膨大な情報を得ています。しかし、情報をただ飲み込むだけでは消化不良を起こし、実務で使いこなすことはできません。 得た情報や経験に対して、自分の中で結論をつけ、分類し、保存する。この「咀嚼して消化していく」作業を行って初めて、経験や知識は自分の血肉に変わるのです。

現代は「インプット過多・咀嚼不足」の時代です。有益なビジネス書を読み、AIに最新トレンドを要約させても、それを自らの文脈に引き直して「これは自分の仕事にどう活かせるか?」「自分にとってどんな意味があるのか?」と問う時間を取らなければ、根本的な思考のOSは古いまま取り残されます。

AIが瞬時に答えを出す時代だからこそ、情報を集めるスキル以上に、集めた情報を自問自答によって深く咀嚼し、独自の意味合いを紡ぎ出す力が、プロフェッショナルとしての決定的な市場価値を生むのです。

本書が既存のコミュニケーション本と一線を画す最大のポイントは、「対話力の順序の逆転」を提唱している点にあります。多くの人は「他人とうまく話す」ためのテクニックを求めがちです。

しかし著者は、それよりも前に「自分が何を感じ、何を考え、何を言いたいのか」を言語化できなければ、会話はただ相手の顔色に合わせるだけの薄っぺらい作業になってしまうと警告しています。

自分がしゃべりたいこと、考えたいことは、一人の時に「もう一人の自分」としっかり話して、考えをまとめておくことが重要です。 自分が言いたいことを言語化し、客観視するための具体的な手段として、著者は「文章化」を強く推奨しています。

人間は本質的に「自分が聞きたいと思うことしか聞いていない」という強力な確証バイアスを持っています。人の話を直接聞いていても、無意識のうちに自分に都合の良いように情報を取捨選択し、勝手に解釈してしまうのです。

この「思い込みに騙されない」ようにするためには、頭の中にあるモヤモヤとした感情や思考を、一旦「言葉や文章」という外部のフォーマットに落とし込む必要があります。

不思議なことに、目に見える文章にすることで、私たちは初めて自分自身を俯瞰的に見つめる「もう一人の自分(演出家兼脚本家)」を立ち上げることができるのです。見たものや感じたことを文章化していくと、国語力がアップし、言葉を自分の武器として使えるようになります。

この「もう一人の自分」を受け入れたら、次はディベート感覚での対話です。自分が書いた文章に対して「どうしてそう思ったのか?」「なぜその行動をとったのか?」と、ツッコミを入れます。少しラフに、ボケとツッコミのような感覚で自問自答を繰り返すのです。

そして最終的に「この経験で感じたことは、自分にとって結局なんなんだ」と結論を導き出します。 経営やマネジメントにおける意思決定の多くは、こうした構造で考えるプロセスを経ないまま、直感や好き嫌いで下されることが多いものです。

判断の質を高めるには、自分の思考を正しいと決めつけず、そのプロセスを客観視するメタ認知が欠かせません。「話し上手になろう」と意識しすぎるほど、会話はかえって不自然になります。大切なのは、対話の失敗や違和感を記録し、その原因を考え、次の会話で小さな改善を試すことです。

業務日報や日記など、形式は問いません。自分の感情や考えを文章にし、もう一人の自分と議論する習慣は、不確実なビジネス環境で判断力と対話力を磨く有効な知的トレーニングになります。

私自身も、毎日書評ブログを書き、自分の考えを言語化する時間を持つことで、思考が整理され、コミュニケーションの質が向上したと感じています。だからこそ、書くことを通じて自分と対話するという著者の助言に、強く共感しました。

育つ、育てる。対話力 話し下手が強みになるニクヨ式会話術の書影

「定型文」と「翻訳」の技術——ビジネス現場で活きる実践的会話術

コミュニケーションというのは役割に応じた定型文があって、それを状況によってセリフのように取捨選択をしながら、使い分けていけばよい。そう思うと一気に気持ちが楽になりました。

自己対話によって自らの思考を言語化するベースができたら、次はいよいよ「他者との対話」です。ここで著者が重視するのは、流暢なアドリブではなく、「適切なリアクション」と「翻訳」、そして「定型文」の活用です。

まず「翻訳」とは、相手の言った言葉をただオウム返しにするのではなく、「自分の言葉で再構築すること」を指します。これは特にビジネスの現場で強烈に効くスキルです。

会議や商談で、即座に気の利いた反論やアイデアを出す必要はありません。それよりも、相手の発言を自分の言葉で再構成し、「つまり、優先順位の問題は顧客価値よりも実行負荷にある、という理解でよいでしょうか」と確認できるほうが、議論ははるかに前に進みます。

意味を丁寧に受け取り、誤解の余地を減らしながら相手に返すこの行為は、単なる会話を「意味のある対話(共同作業)」へと昇華させます。

また、本書が「定型文」を肯定する姿勢も極めて実務的です。人見知りで話し下手な人は、緊張する場面において即興性を求められるほど言葉が詰まってしまいます。挨拶、依頼、断り、意見表明などに自分なりの「基本形(定型文)」を持っておき、そこから会話を始めればよいのです。定型文は不誠実さの証ではなく、考える時間をつくり、相手に雑な言葉を返さないための安全な「足場」となります。

会話の失敗を過度に恐れるのではなく、こうした型を持ち、対話した後に振り返りを行って自らの「データベース」を増やしていくことが、対話力アップの確実な近道です。

自分と対話し、他者と言葉を交わす中で、私たちは「社会という舞台」において何らかの「役割」を演じていることに気づきます。しかし、時代や社会は絶えず変化しており、それに合わせて各人に与えられた役割も変化していきます。 昨日まで正解だったビジネスモデルや組織体制が、今日には陳腐化するのが現代です。

時代や社会の変化に合わせて自分の役割を適正に把握するためには、「なぜこんなことが起こっているのか?」「どうして社会はこう動いているのか?」と問い続けなければなりません。デスクの上でAIの要約記事を眺めているだけでは、解像度は決して上がらないのです。

著者がここで強調するのが、「フィールドワーク(現場検証)」の重要性です。自分なりに推論を立てて分類し、それを実際の現場に足を運んで検証する。現場に身を置くことで初めて、情報の解像度が劇的に上がります。そして「実際に行ってみたら違っていた」「自分の仮説がいかに思い込みに過ぎなかったか」を痛感させられるのです。

時代の変化を捉え、自分の思い込みをリセットするための究極のフィールドワークとして、著者が提示するのが「旅」です。

「旅人」になると、世界と対話したくなる。

時代や社会といい対話をするために旅をするのです。多様性を知ること、世界で起こっている出来事の解像度を上げるのに大いに役立つのは旅だといいます。地域ごとの多様性を実感し、現地の空気感に触れる行為こそが、自らの思考の枠組みを広げてくれます。

日常の役割を俯瞰して知ることができるようになり、時代や社会についての解像度が高まるのです。偏見が少なく、高い解像度を持ち、自分の役割を理解できている人がいれば、誰もがその人と対話をしてみたいと思うはずです。 さらに、旅を勧めるのにはもう一つ本質的な理由があります。それは、旅をすると日頃の役割から解放され、「旅人」「エトランゼ(異邦人)」「ストレンジャー(見知らぬ人)」という役割を自分に与えられるからです。

普段の役(経営者、マネージャー、親など)を離れることによって、私たちは違う視点や考えを受け入れやすくなります。日常の固定化された役割に縛られていると、無意識のうちに思考は硬直します。物理的に移動し、見知らぬ土地で「透明な存在」になることで、思考のデトックスを行い、新たな「言葉のOS」をインストールする余白を作ることが不可欠なのです。

自分との対話を重ね、現場や旅を通じて仮説を検証する過程では、失敗や役割を果たせない経験も避けられません。著者は、人間の不完全さを前提に、失敗を受け入れながら自己理解を深め、少しずつ成長することの重要性を説きます。

また、対話は自分の偏見や無知を可視化し、多様性への理解を促します。唯一の正解が存在しない時代には、異なる意見を脅威として排除するのではなく、新たな選択肢やゴールを見つける材料として受け止める姿勢が不可欠です。対話とは、相互理解にとどまらず、異なる視点を結びつけ、変化に対応する知恵を共につくる営みなのです。

対話とは「共同作業で作品を作ること」だという視点が本書の終盤で提示されます。せっかく人間を相手に話をするなら、相手の面白さを引き出し、共同作業として対話を進めるべきだと著者は指摘します。

対話は、自分がしゃべりたいことをしゃべるという場ではなく、共同作業で作品を作るという感覚を持つことが大事なのです。 これはまさに、これからの組織マネジメントやリーダーシップの極意と言えるでしょう。
・相手を論破して自分の正しさを証明するのではなく、相手の文脈や役割の変化に気づき、共感しあう。
・多様な価値観を持った人が集まり、共同作業としての対話から、思いもよらない方法で現実に即したゴールを見つける。
・自らの無知を起点にして、チームで一つの「作品(最適解)」を創り上げる。

対話から生まれた作品が当事者双方の学びとなれば、その成果は周囲の人々にも新たな気づきや成長をもたらします。著者は、こうした価値の連鎖を生み出すファシリテーション能力こそ、AIでは代替しにくい、人間のリーダーに求められる重要なスキルだと指摘しています。

コンサルタント 徳本昌大のView

移動と読書、そして対話は、思い込みを壊し、判断の質を高めるための実践です。 私自身、ベンチャー企業の成長支援やコンサルティングのために全国を飛び回り、月の半分ほどを出張先で過ごしています。こうした移動の多い生活は、単なる出張の積み重ねではありません。日常の役割や人間関係から意識的に距離を置き、「エトランゼ(異邦人)」として物事を見つめ直すための時間でもあります。

経営者との壁打ちや日々の意思決定から一時的に離れ、見知らぬ土地の空気に触れ、多様な価値観を持つ人々と出会う。そこで得られる違和感や発見が、凝り固まった思考を揺さぶり、新たなビジネスの機会を見つけるきっかけになります。移動距離は、思考の幅を広げる距離でもあるのです。

本書が説く「旅を通じて社会への解像度を上げ、よりよい対話を重ねる」というアプローチの有効性を、私は自らの経験を通じて実感しています。

また、私は17年以上にわたり、毎日ビジネス書を読み、その内容を書評として発信してきました。本から得た知識を、自分の実務や経験と照らし合わせ、言葉に置き換える。この作業は、本書が提示する「もう一人の自分とのディベート」そのものです。

知識は、読んだだけでは単なる情報にすぎません。自分なりに咀嚼し、文章として再構成する過程で、初めて思考の癖や前提が可視化されます。書評を書くことは、メタ認知を働かせ、自分の中にある偏見や思い込みを日々更新する知的トレーニングなのです。

経営層の意思決定において最も危険なのは、現場の一次情報を持たないまま、過去の成功体験だけを根拠に判断することです。生成AIは、膨大な情報を整理し、流暢な文章や論理的な選択肢を瞬時に提示してくれます。

しかし、現場を歩くことで生まれる小さな違和感を捉え、自らの弱さや迷いと向き合い、他者との対話を通じて想定外の答えを生み出すプロセスまでは代替できません。

『育つ、育てる。対話力』は、単なる会話術を学ぶ本ではありません。AI時代に人間がどのような価値を発揮し、社会の中で自分にしか果たせない役割をどう見いだすかを問う、実践的な一冊です。

判断の質を高め続けるためには、移動して視点を変え、書くことで自分を客観視し、他者との対話によって思考を更新する必要があります。本書を手に取り、自分の内側にいるもう一人の自分との対話を、今日から始めてみてはいかがでしょうか。

 FAQ

Q1: 頭の中のモヤモヤを「文章化」するのが苦手です。上手く書くコツはありますか?

A1: 綺麗に書こうとする必要は全くありません。著者が言うように「少しラフで、ボケとツッコミのような感覚」で構わないのです。まずは箇条書きで「今日あったこと」「イラッとしたこと」「疑問に思ったこと」を書き出してみてください。そこに「なぜ?」とツッコミを入れるだけで、自然ともう一人の自分とのディベートが始まり、客観視の素晴らしいトレーニングになります。

Q2: 現場(フィールドワーク)や旅に行く重要性はわかりますが、日々の業務が忙しくて時間が取れません。

A2: 遠方への旅ができなくても、日常の中で「エトランゼ(異邦人)」「ストレンジャー」の視点を持つことは可能です。「いつもと違う部署の人とランチに行く」「普段読まないジャンルの本を読む」「通勤経路を変えてみる」といった、日常の延長線上にある小さな行動も立派なフィールドワークです。大切なのは、デスク上の思い込み(仮説)を、一次情報に触れて壊しに行くという姿勢を持つことです。

Q3: 対話を「共同作業による作品作り」にするために、リーダーとして何を意識すべきですか?

A3: 自分が「しゃべりたいことをしゃべる」という欲求を手放すことです。言いたいことは事前に「もう一人の自分」と対話してまとめておきましょう。そして実際の会話では、相手の言葉の背景にある「役割の変化」や「現場の一次情報」に興味を持ち、問いを投げかけます。相手の面白さを引き出しながら、その対話を通じて「お互いにとっての新しい気づき(糧)」を生み出すことを目指してください。論破ではなく、共創のスタンスが重要です。

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この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

Ewilジャパン取締役COO
Quants株式会社社外取締役
Mamasan&Company 株式会社社外取締役
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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