欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア(ルーク・バージス)の書評

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欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア
ルーク・バージス
早川書房

欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア(ルーク・バージス)の要約

模倣の欲望は、負の影響を及ぼすこともあれば、人々を結びつけ、前向きな変化を促すこともあります。模倣のシステムを理解し、正しく適用することによって、これらの力をポジティブな方向へと導くことが可能です。自分の真に望むことを見つけ出し、それに時間を割くことで、幸福な人生を送れるようになります。

欲望とは他者の模倣である!

欲望には模倣が欠かせない。その人が欲していると言うだけの理由で、そのモノに価値を与える人である。(ルーク・バージス)

ルネ・ジラールは、フランスの現代思想家であり、彼が提唱した「模倣理論」は人間の本質について深く考察されています。この理論によると、人間の人間たるゆえんは他人を模倣することにあるとされています。つまり、人は他人を模倣することで自己を形成し、社会的な存在として成り立っているのです。

ジラールは、人間の欲望も模倣から生まれると主張しており、他者の欲望や行動を模倣することで、自らの欲望が形成されると考えています。 ジラールは、人々が他者を模倣することで競争や緊張が生まれ、それが暴力や紛争を引き起こす原因となると指摘しています。そのため、模倣のメカニズムを理解し、それをコントロールすることが重要だと説いています。

著者のルーク・バージスは、私たちの欲望は他人が持っている、手に入れにくいものに引き寄せらると指摘します。つまり、私たちが真に欲するものは、直接欲しいと思うよりも、他人(モデル)が持っているからこそ、より魅力的に見えるのです。障害が多く、手が届かないものほど、我々はそれを強く望みます。

この欲望は、人から人へと広がる社会的な力として機能します。私たちが模倣することで、欲望は文化全体に広がります。しかし、このプロセスは緊張や競争を引き起こし、しばしば人間関係を破壊します。これは、歴史を通じて見られる一般的なパターンですが、今日ではこの動きが特に加速しているようです。

模倣の欲望は、負の影響を及ぼすこともあれば、人々を結びつけ、前向きな変化を促すこともあります。模倣のシステムを理解し、正しく適用することによって、これらの力をポジティブな方向へと導くことが可能です。

模倣の欲望は、人々の行動を動かす重要な力で、基本的に2つのサイクルで動作します。
・サイクル1(ネガティブなサイクル)
模倣の欲望が対立や争いを引き起こします。これは、他人が自分が持っていないものを持っていると感じることから生じ、この感情は欠乏感、恐れ、怒りなどのネガティブな心理状態に基づいています。

・サイクル2(ポジティブなサイクル)
模倣の欲望が人々をつなぎ、共通の目的や利益を追求する原動力となります。このサイクルは、豊かさや相互扶助の精神から生まれ、協力と創造性を促進し、人々が新しい可能性を追求することを助けます。

著者は私たちが競争のサイクルを超え、共通の利益を追求することによって、より建設的で創造的な方法でエネルギーを使用する新しいサイクルを作り出すことができると信じています。このような変化によって、私たちは互いに協力し合い、より良い社会を築くことができるのです。

ピーター・ティールはスタンフォードでジラールから直接学び、彼の思想を実践することで、成功を手に入れます。ジラールの理論を基に、イーロン・マスクとのライバル関係に終止符を打ち、PayPalの成長を加速させました。この理論は、我々が生きる世界がどれほど他人の行動を模倣しているかを示しています。

流行に敏感であること、政治が極端に二極化していることなど、これらはすべて模倣行動が原因で、我々の崇高な目標を台無しにしています。模倣によって、我々は他者との競争に執着し、他人を基準に自己を評価するようになります。このようなアイデンティティの喪失は、自分の存在意義を疑うことにつながります。

均一性への圧力は、個人の独自性を脅かし、文化的な兄弟殺しの物語を現代に再現します。技術が世界を繋げるほど、模倣の欲望も強まり、衝突が頻繁に起こります。

模倣の欲望は人間性の一部ですが、無意識のうちに従うのではなく、より充実した生活を送るために意識的な選択をすることが重要です。我々は、自身と他者の欲望にどのように影響を与えるかに責任があります。日々の出会いは、欲望を高め、減少させ、または変える力を持っています。

重要なのは、「自分は何を欲しているか」「他人の欲望をどのように形成しているか」を自問自答することです。今日の答えに満足できなくても、明日には何を欲しいと思うかが最も重要です。

模倣は競争を加速させる!セレブの国と一年生の国とは?

他者が何を欲しがっているかを気遣う子供の自然で健全な関心は、大人になると他者が欲しがるものに対する不健全な関心になる。模倣となるのである。大人は子供がぎこちなくやっていることを巧妙に行なう。要するに、私たちは高度に発達した赤ちゃんなのだ。

子供の頃には、他人が何を欲しがっているかに対する純粋な関心がありますが、大人になるにつれて、この関心はしばしば不健全な形、つまり他者が欲しがるものを手に入れようとする競争心へと変わります。

私たちは本質的に、他者の行動を模倣することで学ぶ生き物ですが、大人になると、この模倣行動はより複雑で計算高いものになります。言い換えれば、私たちは進化した赤ちゃんのようなもので、模倣の行動は自然な能力ですが、それにはしばしば自己中心的なエゴが絡んできます。

ソーシャルメディアの普及により、私たちは他人の欲望により一層影響を受けやすくなりました。これは、レネ・ジラールが発見した「模倣の欲望」という概念に密接に関連しています。ソーシャルメディアは、「ソーシャル・メディエーション」として機能し、私たちが日常生活で接するほぼすべての人々の欲望を前面に出しています。

この現象は個人的なレベルを超え、より大きな社会的な影響を及ぼしています。ソーシャルメディアを通じて、私たちは他人の成功、持ち物、経験などを常に目にすることになり、その結果、自分もそれを欲しがるようになります。しかし、この種の模倣はしばしば満たされない欲望を生み出し、不必要な競争を引き起こします。

このような状況に対処するためには、自分自身の本当の欲望に焦点を当て、他人の影響に流されず、自分の価値観や目標に基づいて行動することが重要です。真の満足とは、他人を模倣することではなく、自分自身の内面から湧き出る欲望に基づいて生活することから生まれます。

ソーシャルメディアがもたらすこの問題点を明らかにすることは、私たちが自己の価値観や欲望を見つめ直し、冷静な判断を保つために重要です。模倣心に振り回されず、自分を見失わないように行動することが、現代社会において求められています。自らの内面と向き合い、真に求めるものを見極めることで、ソーシャルメディアの影響下でも自己の価値観を堅持し、より意味のある選択をすることが可能になります。

模倣の欲望はきわめて人間的なものであり、常に私たちとともにある。手の届くところにあって操作できるものでも、ライフハックでどうにかなるものでもない。それは私たちのなかで騒いでいるが、近すぎて自分の目では見えないものだ。

著者は、高い地位や成功を象徴する「セレブの国」と、直接競争している状態を「一年生の国」と呼んでいます。もともとトラクター製造者だったランボルギーニは、趣味でフェラーリの改造を楽しんでいましたが、フェラーリの創業者に馬鹿にされたことをきっかけに、「セレブの国」から「一年生の国」へと立場を変えます。 ランボルギーニはやがてフェラーリと直接競争するようになったのです。

クリスティアーノ・ロナウドとリオネル・メッシのようなセレブ同士も直接対決を行います。彼らは一般に高い地位(セレブ)を享受していますが、実際には一年生の国で互いに競争しています。

幸福になりたければ、「濃い欲望」を探求しよう!

共感力があれば、私たちは宝石である内なる自分を犠牲にすることも、海にのみこまれることもなく、他者と交流できる。濃い欲望を見つけて育むのに役立てることができるだろう。それは模倣的ではない欲望であり、良い人生の基盤をつくる欲望である。

集団や社会において、人々はしばしば他者の欲望を模倣します。これは時にネガティブな方向に進み、競争や暴力といった問題を引き起こすことがあります。この模倣の負のスパイラルから抜け出すためには、共感力を発揮し、自分自身の「濃い欲望」を探求することが重要です。

「濃い欲望」とは、個人の真の求めるもの、自分の核心的な欲求や価値観を指し、この欲望に基づいて行動することで、自己をしっかりと確立し、他者の影響から自由になることができます。

一方、「薄い欲望」とは他者からの影響によって生じる極めて模倣的な欲望で、これに支配されると自分の本当の望みから遠ざかる可能性があります。薄い欲望に満たされる幸福感は一時的であり、本質的な満足感には欠けます。対照的に、「濃い欲望」は自己本位のもので、満たされた時には深い満足感をもたらします。

共感は模倣のネガティブなサイクルを破壊する。共感する能力がある人は、他者の経験に入りこんでその人の欲望を共有することなく、その人の考えや感情を共有できる。共感力のある人は、自分が欲しくないものをなぜ欲しがる人がいるのか理解できる。つまり、共感できれば、ほかの人のようにならなくてもほかの人と深くつながれる。

自分の欲望を「濃い欲望」へと深化させるためには、内省を通じて自己探求を行うことが効果的です。行動し、自分でもうまくやれたと思うこと、充足感を得られたことを他者に共有することが大事だと著者は指摘します。

前述のサイクル2は、欲望のポジティブな流れを描くもので、これは誰かが新しい関係性の形を提示することから始まります。競争ではなく、相互に良いものを分かち合うことを目的とした欲望の模倣が特徴です。このサイクルでは、偉大なリーダーが重要な役割を果たします。

彼らは、ポジティブな欲望のサイクルを構築し、維持することによって、共感や理解を深める文化を育てます。 リーダーは、他者の弱さに対して共感を示し、組織内の人々が互いに深く理解し合えるように努めます。彼らは、相手をより深く知り、自分自身を知ってもらうことに価値を置き、豊かな欲望を育むことに専念します。

これにより、組織全体で互いに支え合い、協力し合う環境が生まれ、ポジティブな変化が促進されます。 このサイクルは、個人や組織にとって、成長と発展のための新たな可能性を開くものです。リーダーによるこのような取り組みは、人々がそれまで考えもしなかったような新しい目標や夢を追求する勇気を与え、相互に良い影響を与え合う文化を築きます。

自分自身の探求を深めることで、他者の模倣から脱却し、より充実した人間関係や社会を築いていくことが重要です。自分自身の「濃い欲望」に基づいて行動することで、他者に流されることなく、より充実した人生を送ることができます。

希望が重要な理由

今の社会が退廃して停滞しているのは、希望が欠けているからだ。希望とは何かを欲することで、その何かは(1)未来にあり(2)良いもので(3)達成が難しく(4)実現可能なものだ。4つ目は特に大切だ。欲望を満たすのが可能だと確信できなければ、希望はない。従って欲望もない。希望は濃い欲望が育つ土壌である。展望を持てなければ人は堕落する。この模倣のサイクルを破壊するためには、希望に値する何かを見つけなければならない。

今の社会が進歩せず、低迷している主な理由は、人々が希望を持っていないからです。希望とは、望むものを持つことです。しかし、単に何かを望むだけではなく、その望むものは未来にあり、良いものであり、達成するのが難しくても、実現可能でなければなりません。特に「実現可能」であることが重要です。

もしも実現可能だと信じることができなければ、希望を持つことはできません。そして、希望がなければ、欲望も生まれません。希望は強い欲望が育つ土壌です。希望がなければ、人は堕落しやすくなります。だから、私たちは希望に値する何かを見つけ出す必要があります。

人々はよく、他人と比べるのではなく、昨日の自分と比較するべきだと言います。これは、比較と測定の罠から逃れる一つの方法です。しかし、これだけでは十分ではありません。昨日の自分は模範としては不十分です。ただ振り返るだけでは、多くの場合、自己不満につながります。

必要なのは、未来にある理想のモデルです。この理想のモデルは、矛盾や否定を乗り越え、絶えず困難に直面することのないようなものであるべきです。このようなモデルは、私たち全員に必要です。矛盾する要素の共存は、しばしば正しい方向へ導く標識となります。それは私たちが現在地を超えてさらに前進し、再評価し、深く掘り下げる必要があることを示します。

本当に賢明な行動とは、他人との比較ではなく、自分の過去と比較し、より高い目標を設定することにあります。実際の成長を実現するためには、昨日の自分を超える理想の自分像を描くことが大切です。

濃い欲望を見極め、そこに時間を投資することで、より充実した時間を過ごすことができます。欲望とは、自分が本当に望むもの、心から求めるものを指します。その欲望を見極めることは、自己探求の一環であり、自己成長に繋が他人を支援することは、薄い欲望から抜け出すために不可欠な行為です。

他人を支援することで、自分の視野が広がり、薄い欲望に囚われることなく、より濃い欲望に向かって進むことができます。他人を支援することは、自己成長や人間関係の構築において欠かせない要素であり、相互に豊かな関係を築く基盤となります。

濃い欲望を見極め、他人を支援することで、自己成長や充実した時間を過ごすことができるのです。自分自身の欲望を理解し、それに向かって努力することは大切ですが、同時に他人をサポートし、共に成長していくことも重要です。欲望を追求する過程で、他人とのつながりや共感を大切にし、より豊かな人生を築いていきましょう。


この記事を書いた人
徳本昌大

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
IoT、システム開発のビズライトテクノロジー 取締役
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数 

■著書
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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