Alはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機は計算しかできない。それを知っていれば、ロボットが人間の仕事をすべて引き受けてくれたり、人工知能が意思を持ち、自己生存のために人類を攻撃したりするといった考えが、妄想に過ぎないことは明らかです。Alがコンピューター上で実現されるソフトウエアである限り、人間の知的活動のすべてが数式で表現できなければ、Alが人間に取って代わることはありません。(新井紀子)
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AIの普及で予測される未来
AIが人間を追い越すという議論が盛んですが、AIは神にも征服者にはならないと数学者の新井紀子氏はAI vs. 教科書が読めない子どもたちで指摘します。しかし、AIは神にならなくとも、私たち人間の人間の強力なライバルになる可能性が高いのです「東ロボくん」は東大には合格できませんでしたが、MARCHレベルの有名私大には合格できる偏差値に達しています。今後、人間の仕事がAIに代替されると予測されていますが、未来の私たちの労働環境はどうなるのでしょうか?
AIには得意分野と苦手分野があります。そこを明らかにして、私たちはAIと共存するシナリオを描くべきです。 AI楽観論者の人たちは、 AIに多くの仕事が代替されても、AIには置き換えられない新たな労働需要が生まれるはずだから、余剰労働力はそちらに吸収され、生産性が向上し経済は成長すると主張します。しかし、その意見を鵜呑みにしないほうがよいと著者は言います。東ロボくんの実験と同時に行なわれた全国2万5000人を対象にした読解力調査では恐るべき実態が明らかになったからです。
そこでわかったのは驚愕すべき実態です。日本の中高校生の多くは、詰め込み教育の成果で英語の単語や世界史の年表、数学の計算などの表層的な知識は豊富かもしれませんが、中学校の歴史や理科の教科書一程度の文章を正確に理解できないということがわかったのです。
この結果から、AIの代替を人間が行うことは難しいのでは?という疑問が生まれています。AIによって、新たな仕事が生まれたとしても、その仕事がAlで仕事を失った勤労者の新たな仕事になるとは限らないのです。Alでは対処できない新しい仕事は、読解力が低い人間にとっても苦手な仕事である可能性が非常に高いのです。Alに多くの仕事が代替された社会では労働市場が深刻な人手不足に陥っているのに、失業者や最低賃金で働く人たちが溢れるというミスマッチが起こります。新井氏はAIの普及によって、悲惨な未来が訪れると主張します。
AI vs. 教科書が読めない子どもたち [ 新井 紀子 ] |
AIによって、迫り来る危機とは何か?
「真の意味でのAl」とは、人間と同じような知能を持ったAIのことでした。ただし、Alは計算機ですから、数式、つまり数学の言葉に置き換えることのできないことは計算できません。では、私たちの知能の営みは、すべて論理と確率、統計に置き換えることができるでしょうか。残念ですが、そうはならないでしょう。
人間の能力を数学に置き換えることは限界があると言います。人間なら簡単に理解できる、「私はあなたが好きだ」と「私はカレーライスが好きだ」との本質的な意味の違いを、数学で表現することは難しいのです。数学者の著者は人間を超えるAIは今しばらくは現れないと指摘します。迫ってきている本当のリスクはAIとの共存です。AIに仕事を奪われた人ちが、 AIにはできないけれども人間にはできる新たな仕事に、実際に転職できるかどうかが問題なのです。能力のない人たちが多くなれば、失業が社会問題になるはずです。失業が増えれば、可処分所得が減り、消費を前提とした多くの企業の経営は立ちいかなくなります。
再度、AIの弱点を整理します。この弱点を補完できる人たちでなければ、失業のリスクは免れません。
AIの弱点は、万個教えられてようやく一を学ぶこと、応用が利かないこと、柔軟性がないこと、決められた(限定された)フレーム(枠組み)の中でしか計算処理ができないことなどです。繰り返し述べてきたとおり、AIには「意味がわからない」ということです。ですから、その反対の、一を聞いて十を知る能力や応用力、柔軟性、フレームに囚われない発想力などを備えていれば、AI恐るるに足らず、ということになります。
読解力や常識、あるいは柔軟性や発想力を十分に備えている人たちが、AI時代も生き残れる人たちなのです。しかし、著者は若者の読解力やコミュニケーション能力の低下が危機的状態だと指摘します。
本書の大学生数学調査や人間の読解力を判断するRSTのテスト結果などを見ると暗澹たる気持ちになります。確かに論理的思考ができていない学生が多いようです。高校生の半分がなんと教科書の記述の意味を理解していないというのです。首相や東西などの簡単な漢字が読めなかったり、板書を書き写せない生徒が増加しているという教師の話にも驚きました。この数字が事実だとすると多くの若者が失業の危機に晒されると著者は指摘します。
多くの人が成人するまでに教科書を正確に理解する読解力を獲得していないこの状況をなんとかしなければ、AIと共存せざるを得ないこれからの社会に、明るい未来予想図を描くことはできません。それは、個人にとっても、社会全体にとっても同じです。
本書を読んで、AIがもっとも苦手な分野が読解力であり、それを鍛えることが重要だということがわかりました。自分の子供達がAIに代替されないように、彼らの読解力、コミュニケーション能力、課題解決能力を鍛えることが親には求められます。AIに負けない、柔軟な思考ができる子供を育てるために、子供達に様々な体験をさせたいと思いました。企業は人手不足で困っているのに、社会には失業者だらけという未来にならないために、親や学校が子供達に教えるべきことが多々あるようです。
なお、本書の印税の全額は前述のRSTを実施している「教育のための科学研究所」に寄付されるとのことです。
まとめ
AI時代に生き残れる人材を数多く作るために、柔軟に思考できる若者を増やすべきです。そのためには、読解力だけでなく、コミュニケーション能力や課題解決能力が求められます。人間にしかできないことを考え、実行に移せる子供達を増やすことを大人は真剣に考えなければなりません。
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