山脇秀樹氏の戦略の創造学: ドラッカーで気づき、デザイン思考で創造し、ポーターで戦略を実行するの書評

戦略の創造学: ドラッカーで気づき、デザイン思考で創造し、ポーターで戦略を実行する
著者:山脇秀樹
出版社:東洋経済新報社

本書の要約

「ドラッカーで気づき、デザイン思考で創造し、ポーターで戦略を実行する」ことでイノベーションを起こし、熱狂的な顧客を獲得できるようになります。トップ・マネジメントはデザイン思考を戦略に組み入れ、組織と企業のカルチャーに埋め込むことで、顧客から支持されるようになります。

ドラッカーとデザイン思考、競争戦略を組み合わせよう!

デザイン思考、ピーター・ドラッカーのマネジメント、そして競争戦略。 この3つは、時と分野を隔てて構築されたものですが、そのそれぞれの本質を紡ぐと、糸になり、その糸を織ると普遍的な戦略モデルのキャンバスとなるのです。そして、3つの思考を組み合わせたキャンバスの上に、新しい世界観と意味を創り、それに基づいた目的とビジョンを達成するための戦略を構築していきます。(山脇秀樹)

ピーター・F・ドラッカー経営大学院の学長だった山脇秀樹氏は、デザイン思考とドラッカーのマネジメント、ポーターの競争戦略の3つの本質を組み合わせることで、イノベーションを起こせると言います。

ピーター・ドラッカーの「既に起こった未来」を予知し、新たな行動を起こさなければ、負け組に転落します。アメリカでは白人人口が減少に転じ、彼らを相手にしていたレストランチェーンは衰退しています。マジョリティになりつつあるアジア系やヒスパニック系のレストランが成長していますが、既存チェーンが人口の推移を事前に予測・行動していれば、ビジネスをシフトすることが可能でした。

イノベーションにつながる変化が起きているにもかかわらず、それを見過ごすことで、あっという間に産業構造や市場構造は変化してしまいます。アメリカでiPhoneが売れ始めている現実を無視したことで、多くの日本のガラケーメーカーが変化できずに、シェアを急落させました。すでに起こった変化を観察すること、そして将来に向けたビジョンを構築することが、経営者の重要な仕事になっています。

「市場あるいは産業構造の変化はイノベーションを起こす大きな機会である」とドラッカーは指摘しましたが、テクノロジーが進化し続ける中、変化は短期間に起こるようになり、備えがない企業は大企業といえどもあっという間に消滅してしまいます。もし、変化を先延ばししたくなったら、デジカメに乗り遅れたコダックの例を思い出しましょう。

テスラの株価がこの半年で急激に上がり、トヨタの時価総額を超えてきました。年間わずか40万台しか生産できないテスラの時価総額が、世界ナンバー1の自動車メーカーのそれを抜いています。テスラはイーロン・マスクがビジョンを示し、デザイン思考を戦略に組み入れ、組織と企業のカルチャーを作り出すことで、顧客と投資家からの支持を一気に得たのです。彼らは過去の自動車メーカーとは全く異なるアプローチで、ブランドを確立し、競争力を高めていきました。

テスラはなぜ短期間で参入障壁の高い自動車業界で成功できたのか?

テスラはシリコンバレーにルーツを持っており、デトロイトの自動車会社とは違う。(イーロン・マスク)

テスラはモデルSを市場に導入した2012年の時点では、10億ドルの資金しか持ち合わせてなかったため、伝統的な参入障壁を正面から乗り越える戦略を取れませんでした。彼らは、障壁の隙間を横から素通りする戦略をとることで、巨大な自動車産業に新規参入できたのです。
■新たなコンセプトとビジョンの提示
■動力装置と電池に関する新技術
■クールでシンプルなデザイン
■環境に配慮
■最新のソフトウェアに絶えずアップデート
■ディーラーの販売・サービスに頼らない直接販売方式
■既存の各種メーカーとのアライアンス
■あえて高級車セグメントへ参入

電気自動車で徹底的なイノベーションを起こし、デザイン力のある高額車のみで当初は勝負し、テスラはブランド力を高めていきました。テスラはこの戦略によって、短期間でもっとも参入障壁の高い自動車産業で確固たるポジションを確立することに成功します。イーロン・マスクは、技術革新とビジネスモデルの革新によって、既存産業の構造を大きく変えてしまったのです。

テスラSが市場に出た2012年からの数年は、電気自動車に対する消費者の通念・認識はまだ低く、歴史的に環境・公害問題に関心の高いカリフォルニアの消費者でさえも、電気自動車についての関心はあるものの、懐疑的でした。

しかし、テスラを街中で多く見かけるようになると、ブランドへの理解が深まり、電気自動車に対する拒絶反応が少しずつ薄れました。2016年3月に次期主力車種のモデル3の注文をオンラインで開始したところ、ひと月で40万台の受注に成功します。

2018年、第2四半期から第3四半期の間にテスラの出荷台数は100%増加しました。テスラのファンになった顧客は口コミを行い、テスラのマーケットを拡大するサポートを行ったのです。イノベーターやネオフィリアが、「既に起こった未来」を先取りする一方で、多くの自動車メーカーは、変化に対応できずにいました。ほんの数年で電気自動車=テスラが主流になり、あのトヨタも時価総額を逆転されてしまったのです。イーロン・マスクは独特のビジョンと世界観を顧客に示し、それを短期間で実現することで、競争優位性を高めたのです。

著者の目的、価値、未来、共感、世界観、ビジョン、戦略をまとめた新しいフレームワークは秀逸です。

トップ・マネジメントはデザイン思考を戦略に組み入れ、組織と企業のカルチャーに埋め込むことで、顧客から支持されるようになります。人間の共感を重視し、新しい世界観と意味を創り、ビジョンを示すことが、経営者のもっとも重要な仕事になったのです。

「新しい意味」と「新しい世界観」は少なくとも2つの結果を生みます。この2つから経営者は戦略を創るべきです。
1、新しいベネフィットを潜在的な消費者あるいはユーザーにもたらします。
2、創られた意味と世界観が人々の感動を引き起こすのであれば、それは「共感」を生むことになります。

ドラッカーで「気づき」、デザイン思考で「創造し」、目的達成のための戦略を「実行する」ことで、企業は強くなります。ドラッカーの言葉をデザイン思考で、再解釈し、勝ち組の成功事例に落とし込むことで、イノベーションを起こすヒントをもらえます。

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