出口治明氏の自分の頭で考える日本の論点の書評


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自分の頭で考える日本の論点
著者:出口治明
出版社:幻冬舎

本書の要約

歴史と現代の世界の動きを知り、ファクトと事実で目の前の課題を考えると解決の糸口が見えてきます。過去の歴史を遡れば、人口減少も見過ごすことができない問題であることがわかります。日本は今こそ成功国フランスの政策を見習い、現状の人口問題と真剣に向き合うべきです。

「タテ・ヨコ・算数」の3つで物事を考えよう!

物事を考えるとき、僕がいつも大切にしているのは、「タテ・ヨコ・算数」の3つです。タテ、すなわち昔の歴史を知り、ヨコ、すなわち世界がどうなっているかを知り、それを算数すなわち数字・ファクト(事実)・ロジック(論理)で裏づけていく。そうすることで、メディアやSNSを追いかけているだけではわからないことが見えてきます。日頃からそのような訓練を積み重ねることが、想定外のことが起きたときに生き残る力につながります。(出口治明)

多くの課題は「タテ・ヨコ・算数」の視点で考えることで解決できるようになると出口治明氏は指摘します。もちろん、正解がーつとはかぎらない問題もたくさんあり、自分が導き出した答えが正しくないこともあります。また、時間軸を変えるだけで、短期的には正しい政策が中長期的には間違っていたりすることもよくあります。

しかし、課題を前にしたときに、グーグルやSNSに頼って短絡的に答えを出すのをやめ、腹落ちするまで自分の頭で考え、自分なりの答えを出すことで、人生をより楽しめるようになります。正しい選択を一人一人が行うことで、社会全体をよりよくできるのです。

今日は本書の論点の中から、日本経済にとって大きな課題となっている少子化問題を取り上げます。2019年9月1日現在の日本の総人口は、前の年より28万5000人少ない1億2613万1000人でした。日本の人口は2008年に1億2808万4000人でピークを迎えて以降、確実に減少を続けているという事実があります。そして、今回のコロナ禍は人口にもネガティブな影響を与え、今年生まれる新生児も確実に減少します。

少子化は経済成長を阻害します。子どもや若者を対象としたビジネスが成り立たなくなり、イノベーションが起きづらくなり、社会に活気がなくなります。年金をはじめ、現役世代の拠出によって成り立っている社会保障制度を根本的な見直さなければなりません。

一方で、通勤ラッシュが緩和したり、子世代の多くが親の持ち家を相続し、ローンなしで家を持てる人が増えるというメリットも生まれます。マーケットが大きくなる単身者や高齢者向けのビジネスが伸びる可能性もあります。また、人手不足により女性や高齢者が生産活動に進出しやすくなり、労働環境も女性や高齢者が働きやすいものに変化することも考えられます。

歴史人口学者の速水融氏は、「人口減少は社会の近代化の自然な流れであり、悪いことではない」「社会が成熟し、文化・芸術が花開くのは、人口が減少し経済が停滞する時代」「そもそも日本の理想的な人口規模は7000万~8000万人、終戦直後くらいの人口」と持論を展開します。

ただ、長期的には後期高齢者が増加することで、日本の消費は確実に落ち込み、経済に悪影響を及ぼすはずです。著書は過去の歴史から、少子化によって人口が減少した国や地域はすべて衰退したことを明らかにしています。文明が栄えると都市が発達し、さまざまな選択肢が増えることで、人は子どもをつくらなくなります。

女性と男性の両方で子育てをすることを常識にしよう!

人口減少社会のメリットといわれるものは、個人的な暮らしの質の向上を意味しているものが多い。これに対して、デメリットは社会全体、国全体の質の低下を意味するものが大半だ。メリットは人によって享受できたりできなかったりするが、デメリットのほうはほぼ確実に実現する。したがって、現実的には、少子化は先進国に共通の解決すべき課題であり、どの国も対策にあの手この手を尽くしている。

先進国の中でフランスが、人口を増加させることに成功しています。家族給付の手厚さ(しかも子どもの数が多いほど有利になる)、2週間の「男性の産休」(有給)、充実した保育などの制度をととのえ、1994年には1.66まで下がった出生率を、2010年には2.01まで引き上げました。2019年は1.87に数字が低下していますが、EUの中ではもっとも高く、日本が「希望出生率」として掲げる1.8より高くなっています。

日本の出生率低下の最大の原因は晩婚と非婚の増加ですが、婚外子率(出生数に占める婚外子の割合)の低さが人口増加の障壁になっています。フランスの59.8%を筆頭に、ヨーロッパの多くの国で生まれる子どもの半数以上が婚外子ですが、日本はわずか2.3%程度にとどまっています。日本は婚外子を不道徳とする規範が強いため、子供を増やす空気をつくれずにいます。

日本は出生数が86万4000人と少ないにも関わらず、人工妊娠中絶が16万件もあり、出生数の20%を占めています。この中絶問題を解決することで、人口を増加させることが可能だと著者の出口氏は指摘します。母親だけが子育てをするという旧態依然の価値観を転換し、フランスのように子育てを男女等しくシェアするという考え方を取り入れるべきです。

フランスはシラク3原則で子育てをしやすくし、人口問題の解決の糸口を見つけます。
1、産みたいときがベストなタイミングなので、出産や子育て費用を自治体が給付する。
2、保育園は無料で待機児童ゼロ
3、育児休業を理由とした降格や異動を法律で禁止する
また、事実婚を法律婚と同じとみなし、子供が保護されるようになり、出生率を2.0前後まで戻すことに成功します。

わが国の少子化は人災、すなわち政治の無策によるものであることがわかります。少子化に一番効くのは、急がば回れで、男女差別を本気になってなくすことです。

子育てだけでなく、家事や介護まで女性が担うべきだと常識と道徳観がある限り、日本の人口問題は解決できません。30年前から人口減少に大きな危機感を抱いていたにも関わらず、日本はいまだに抜本的解決策をつくれずにいます。

少子化問題は国の行く末を左右するきわめて大きなテーマで、この問題を解決しない限り、日本の人口は減り続けます。著者は人口が1億人程度いないと市町村が消滅し、日本が成り立たなくなると言います。

生産年齢人口を増やすことだけを掲げても、少子化対策に活路は見えてこない。いま求められているのは、個人の多様な生き方の選択を認めたうえでの少子化対策だろう。と同時に、どんな策を講じたとしても、日本社会の人口減少を食い止めるのは相当に困難であるのが現実だ。税制や社会保障など、人口が減少しても持続できる社会への転換も、求められていくだろう。

政府は幼児教育・保育を無償化し、待機児童ゼロを目標に掲げ、保育の拡充を進めていますが、やるべきことはまだまだたくさんあります。今こそ成功国フランスを見習い、子育てをしやすい社会をつくるべきです。子どもや孫の時代になっても豊かな暮らしが日本で維持されることを願うのであれば、少子化対策は先送りできません。コロナで人口が減る中、少子化問題は待ったなしの課題です。今こそ社会構造を変え、男性と女性の両方で子育てをすることを常識にすべきです。

本書には「日本の新型コロナウイルス対応は適切だったか」、「地球温暖化は本当に進んでいるのか」など日本が抱える22の論点と解決策が紹介されています。著者のアドバイスが全て正しいわけではないと考えることが重要です。様々な視点を持ちながら、自分の頭で考え、その上で解決策を見つけるようにしましょう。「タテ・ヨコ・算数」の思考を身につけることで、ビジネスの課題も解決できるようになります。

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この記事を書いた人
徳本

■複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立。
特にベンチャーのマーケティング戦略に強みがあり、多くの実績を残している。現在、IPO支援やM&Aのアドバイザー、ベンチャー企業の取締役や顧問として活動中。

■多様な講師をゲストに迎えるサードプレイス・ラボのアドバイザーとして、勉強会を実施。ビジネス書籍の書評をブログにて毎日更新。

■マイナビニュース、マックファンでベンチャー・スタートアップの記事を連載。

■インバウンド、海外進出のEwilジャパン取締役COO
みらいチャレンジ ファウンダー
他ベンチャー・スタートアップの顧問先多数
iU 情報経営イノベーション専門職大学 特任教授 

■著書
「最強Appleフレームワーク」(時事通信)
「ソーシャルおじさんのiPhoneアプリ習慣術」(ラトルズ)
「図解 ソーシャルメディア早わかり」(中経出版)
「ソーシャルメディアを使っていきなり成功した人の4つの習慣」(扶桑社)
「ソーシャルメディアを武器にするための10ヵ条」(マイナビ)
など多数。
 
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